新機動戦記ガンダムW~scarred Leo-   作:元ゴリラ

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青い鳥とスフィンクス

 長い廊下を、レイナは歩き、曲がり角を一つ曲がったすぐ先に、台所があった。お茶の缶を見つけて、エリザはお茶の支度を始めている。特にすることもないので、レイナは手持ち無沙汰。台所を眺めるくらいしかすることがなかった。

 

「…………もう、真っ暗」

 

 時間は、すっかり夜になっている。いつもなら、ネメアのトレーラー……「アイアス」の中で料理を作っている頃だろうか。それとも、もうネメアと2人で夕食にしているだろうか。もしかしたら「アイアス」を停めて2人、星空を眺めていたかもしれない。

或いは、敵に見つかって戦っている時間か。

 

「…………ネメア」

 

 ロンドンを発った日の夜、その後にも敵は何度かネメアとレイナを襲った。

 いずれも、リーオー。モビルドールは、あの日の夜以降は来なかった。

「たぶん、敵は私たちの動きに気付いてる」とネメアは言っていたが、こちらは敵がどうしてこっちを追えているのかもわからないでいる。

 もしかしたら、自分たちがここにいることも敵に知られているのかもしれない。

 だけど、ここが襲撃される可能性は低い。そうネメアは言っていた。

 今まで襲われたのは、全て人気のない郊外や人通りの少ない道でのことだった。その証拠に、襲われれば逃げ道のない海峡トンネル内で敵は襲撃していない。

 だから、ロームフェラ系列の貴族の本家であるここを敵が直接襲撃する可能性は低い。それがネメアの推理だった。

 それにレイナも納得した。した、はずだった。

 

「……………………」

 

 なのに、どうしてこんなに不安なのかわからない。胸騒ぎ、とでも言うのだろうか。今までネメアと出会ってからずっと一緒だったのに、短い時間とはいえ離れているこの時間が、不安なのだろうか。

 まだ、書斎を出て10分も経っていない。しかし、不安は募るばかり。

 この不安の正体は、不明。ただ、不安なままでいるのは嫌でレイナは、少しでもそれを紛らわせようと考える。考えて、思いついた。

 

「…………ねえ、エリザさん」

 

「はい、なんですかレイナちゃん」

 

 ネメアの使用人だったというエリザは今、ポットを温めている。それまでの、時間つぶしでもできれば。そう思って、レイナから話を振る。

 

「…………」

 

 振ろうとして、思いつかない。

 

「レイナちゃん?」

 

 気まずい沈黙が流れる中、なんとか話題を探そうと頭を回転させるレイナ。エリザはネメアの使用人で、昔からの付き合いで。と、エリザに関する情報を頭の中で整理することで「あっ」と閃いた。

 

「昔のネメアって、どんな人だったんですか?」

 

 思えば、レイナはネメアのことをほとんど知らない。フリーの運び屋で、昔軍隊でモビルスーツを操縦してた。煙草と自由が好きで、ライトレード警部のお世話になったことがある。そのくらいだ。この屋敷で暮らしていた時のことは、ほとんど知らないと言ってもいい。

 ネメアのことを、もっと知りたい。

 それは、純粋な気持ちだった。

 

「…………気になるんですか?」

 

 エリザは、何やらニヤニヤしている。それがどういう笑みなのか、レイナには理解できない。

 

「……?」

 

 小首をかしげるレイナ。その仕草にエリザは何やらわなわなとしており、若干の危機感をレイナは感じて身じろぎする。しかし、エリザはその様子を眺めるとくすくすと笑いだした。

 

「ふふ、失礼しました。レイナちゃんがかわいくて……」

 

 そう言うと、エリザは呼吸を整えて話しはじめる。ゆっくりと、宝物を懐かしむように。

 

「……ネメアお嬢様は、そうですね。はじめてお会いした時は、少し臆病な方でした。いつもスピンお嬢様の影に隠れていて、おどおどしてて。一目見た時から、可愛い。と思いました。ええ、そう……孔雀草みたいな女の子。そんな印象でした」

 

 孔雀草、と聞いてもレイナにはピンとこない。それが顔に出ていたのか、エリザが続ける。

 

「孔雀草は、小さな花です。ですが一つの茎にたくさん咲くので不思議な華やかさを持つ、薄桃色の花。そんな可愛い花ですよ」

 

「可愛い、花……」

 

 まだ、ピンと来ない。しかし、楽しそうに話すエリザは、それこそ花のように笑っている。とすれば、人を笑顔にさせてくれるような女の子だったのかもしれない。

 

「ネメアお嬢様は、大人しくて人懐こい方でした。外で遊ぶよりも、本を読んで過ごす方が好きな方……特に童話が好きで、スピンお嬢様から読み聞かせてもらうのが好きな……甘えん坊さんでした」

 

「エリザさんの花壇でよく、してもらったって……言ってました」

 

 たしか、青い鳥。チルチルとミチルの幼いきょうだいが、幸せを呼ぶ青い鳥を探す物語。それが、お気に入りだったとネメアは言っていた気がする。

 

「ええ、そう。だけど……本当は頑張り屋さんなのも、私は知っています。スピンお嬢様がお勉強を頑張っているように、ネメアお嬢様も頑張っていました。例えば、お料理。私もここに来て日が浅く、当時住んでいた他の使用人の先輩たちから学びながらでしたが……その時にはいつも、ネメアお嬢様が隣にいて。一緒に学んだんです。お姉様……スピンお嬢様が喜んでくれるのが嬉しいからって。ですが、それを表に出そうとせず、スピンお嬢様の自慢の妹で、旦那様と奥様の娘として誇れるようにいようとひたむきに」

 

「そうなんだ……」

 

 ネメアが意外と料理上手なのはレイナも知っている。でも、「野戦料理で鍛えられた」と言っていた。実はそれより前から頑張ってたというのは、今のネメアを知っていると可愛くて、なんだか可笑しくなってしまう。

 

「それに、ネメアお嬢様は誰よりも優しかった。この屋敷に来て、私にはじめて声をかけてくだったのがネメアお嬢様でした」

 

「そうなの?」

 

 ネメアの方から、エリザに。少しだけ何かがざわついた気がして、レイナは聞き返す。

 

「はい。私が、花壇の手入れをしていた時です。ネメアお嬢様は、興味深そうに私に声をかけてくださいました。そして、使用人の私を……友達と呼んでくださいました」

 

 エリザの表情に、どことなく恍惚としたものが見える。それがなぜだか、レイナの心をざわつかせた。

「……ネメア、言ってた。エリザさんは最初のお友達だって」

 

「……まぁ!」

 

 エリザは恥ずかしそうに頰を朱に染めた。それからも、楽しそうに、嬉しそうに、エリザは話す。レイナの知らないネメアを。エリザの話すネメアは、レイナの知らないネメアだ。自分の知らないネメアを、知りたくてレイナは聞いた。なのに、

 

「……ネメアのこと、たくさん知ってるんだ」

 

 それが羨ましい。こんな気持ちは、理不尽だとレイナは思う。だけど、思わずにはいられない。

 

「……ええ。でも、」

 

 エリザは、膝を屈ませてレイナに視線を合わせる。その動きは、はじめてネメアと会話した時に、ネメアがしてくれた仕草だ。それが、ネメアもエリザにそうしてもらっていたのだろうとレイナに確信させる。そういう、優しさのある仕草だった。

 

「私は、今のネメアお嬢様を知りません」

 

 なのに、エリザはどこか悲しげにそう、囁いた。

 

「エリザ、さん……?」

 

 先ほどまでの、幸せそうにネメアの話をするエリザとは違う。同じようにネメアの話をしているはずなのに、エリザは悲しそう。それが、レイナを混乱させる。

 

「旦那様が亡くなられて、お嬢様は軍へ行くことを決めました。私もお供したい。そう懇願しても、それは聞き入れられませんでした」

 

 父の死。ネメアが変わってしまったきっかけらしい事件。それからの戦いに、エリザはついていけなかった。

 そして、今。

 

「レイナちゃんは、ネメアお嬢様と一緒に旅をしているんですよね」

 

 ネメアは、レイナと共にいる。

 

「…………はい」

 

 それが奇妙な縁だとしても。ネメアは復讐と自由を、レイナは自らの過去を。それぞれに求めるための、誰かが引き合わせ、なにかをさせようとしている仕組まれたものだとしても。この旅の果てにあるのが、別れだとしても。

 

「私は、ネメアのパートナーです」

 

 今だけは、そう在りたい。だから、レイナは強く言い切った。

 そう口にした時、不思議と先ほどまでの不安や、焦りは消えていた。

 

「…………そうですか。レイナちゃんは、ネメアお嬢様のことが好きなんですね」

 

 エリザの顔からも、あの悲しげなものは消えている。

 

「…………うん」

 

 だから、レイナの顔も自然と笑みが溢れていた。

 

「わたしは、ネメアが好き」

 

 そう、言葉にすると不思議と身体が熱くなる。だけど、その熱さはモビルスーツに乗った時や難しい数学の問題を解いている時に感じるような、身体を蝕む不快な熱ではなかった。

 敢えていうのならば、ぽかぽかする。そんな感じかもしれない。と、レイナは思う。

 レイナは、こんな暖かさをはじめて感じていた。

 

「そうですか。ふふ、ネメアお嬢様も困ったものですね……」

 

 レイナの告白を聞き、エリザはなぜか嬉しそうに笑っている。

 

「レイナちゃん、お嬢様のことを……」

 

 そう、エリザが何かを言いかけた時だった。何かを言おうとしていたその言葉をやめ一瞬で、エリザから表情が消える。そして、レイナを抱き寄せると、その体勢のままキッチンの壁に寄りかかる。

 

「え、え…………?」

 

 慌ててあたふたしそうになった瞬間、エリザはレイナの口を塞ぐ。

 

「……曲者です。何者かが屋敷に忍び込んでいます」

 

「!?」

 

 その時だった。お湯を沸かすために温めていたポットが、音を立てる。

 夜は、まだはじまったばかりだった。

 

 

…………

…………

…………

 

 それと同じ頃、ネメアの後頭部には銃口が突き付けられていた。

 銃を向けているのは、ネメアと同じ色素の薄いブロンドを伸ばした、長身の女。

 名前を、スピン・ノーリ。ノーリ家の現当主であると同時に、ネメアの実の姉。

「ネメア、今見たものを全て忘れろ」

 

 冷徹な、低い声が響く。ネメアは両手を上げながら慎重に言葉を考える。

 

「お姉様……お姉様は、どこまでご存知だったのですか」

 

  “ロワゾ・ブルー”“ロームフェラと共に人の伝統を格式を守るもの”そんなもの、ネメアは知らなかった。或いは、知らされていなかった。

 それが何を意味しているのか、ネメアにはわからない。しかし、このタイミングで父がそれを隠していたという事実は、少なくともネメアの求める真実と無関係とは思えなかった。

 

「知ってどうする?」

 

 対するスピンの声は、冷たい。

 

「私は、真実が知りたいのです。お姉様が真実を知っていながら、それを黙していたと言うのならば、私はお姉様を軽蔑します」

 

 言い放つ。ネメアにとって、スピンは尊敬する姉だ。しかし、それとこれとは話が別だった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 静かな沈黙が、姉妹の間を通り過ぎた。それがどれだけの時間、2人の間を漂っていたのかネメアにはわからなかった。一瞬だったのかもしれないし、もしかしたら10分は過ぎているのかもしれない。それから、溜息が漏れる。それが姉から出たものか、妹から出たのもわからなかった。そして、カチ、とスピンの持つ拳銃がその引き金を引く音が、その沈黙を打ち破る。

 しかし、それだけだった。

 弾丸が破裂する音も、ネメアの脳髄が弾ける音も、硝煙と火薬の匂いもしなかった。

 空砲。それをネメアが理解するのに、数秒かかった。

 

「お姉様……?」

 

 ネメアが振り向くと、そこには憮然とした態度の姉がそっぽを向いている。

 右手に持っていたのは青白い輝きを放つ拳銃。ネメアが見たところ44オートマグ。歴史の中に埋もれた年代物。

 もしマグナム弾が入っていたとしても、スピンの細腕で使いこなせるとは思えない。従軍経験のあるネメアでも、もう少し聞き分けのいい銃を選ぶだろう代物。おそらく展示、鑑賞用のものだろう。

 

「…………茶番だったな。ネメア、3枚目の紙を開いてみろ」

 

 スピンにそう言われておそるおそる、ネメアは父の煙草缶に仕舞われている3枚目の紙巻きを紐解く。するすると紐を解くと、そこにはたしかに記されていた。

 

「何、これ……?」

 

 人類の安寧。それは支配によってもたらされる。“ロワゾ・ブルー”は支配者を選定する者なり”

 

 支配者の選定。ロームフェラと共に在るもの。ロワゾ・ブルー。

 それを繋ぎ合わせていくと、ネメアの脳には一つの図が浮かび上がった。

 

「ロームフェラ財団を支配者に選んだのが、“ロワゾ・ブルー”……?」

 

 その呟きを、スピンは首肯する。

 

 「ロームフェラ財団は1954年、ウィーンで発足した。その後、多くの財閥貴族を吸収合併し、ロームフェラは拡大。旧世紀の末期から、ロームフェラ財団は世界の支配者として頭角を表した。その後、宇宙コロニーが建造されても地球は民族紛争を解決できず、ついに地球圏統一連合は武力による支配を決行した。その間、人が文化を保持していたことこそロームフェラ財団の最大の功績だと、お父様は言っていたな」

 

「ええ。だけど……」

 

 まだ、納得ができない。いや、理解が及ばない。ロームフェラ財団が守ってきたもの。人の伝統と格式。そこには多くの文化や民族、イデオロギーに宗教。そういったものが含まれている。

 

「“ロワゾ・ブルー”は、それらを守るための支配者を選んでいる……?」

 

 それが、理解できなかった。もしそうだとしたら、OZの台頭から分裂、そして解散といった昨年の出来事の全てが“ロワゾ・ブルー”なる組織の掌で起きていたことになる。

 それは、冒涜だ。誇りとともに戦い、平和の礎として死した多くの命への。10万に及ぶ戦死者への。

 

「……そう、“ロワゾ・ブルー”はOZによる支配を望んだ。それこそが人がよりよく支配される世界であると。しかし、現実としてOZは滅んだ。なぜだと思う?」

 

「…………」

 

 しばらくの間、ネメアは考える。そして、一つの答えに行き着く。

 

「……トレーズ・クシュリナーダを支配できなかった?」

 

 OZ総帥トレーズ。彼がもし、モビルドールを受け入れていたら。ロームフェラ財団の不興を買い幽閉されなければ。もし今でもトレーズがロームフェラの傀儡として、OZの総帥として君臨し続けていたら、どうなっていたのか。

 もしかしたら、トレーズは地球とコロニーを本当に支配により統一したかもしれない。それは、武力という脅威の足下にある平和な世界だ。

 しかし、そうはなっていない。現実にトレーズは死に、地球圏は平和によって統一された。支配ではない、民主主義による統一国家運営こそが、あの戦争で得たものだ。新たなる支配者など、どこにもいない。

 

「トレーズの心を、“ロワゾ・ブルー”が御せなかったのは事実だ。それが元々彼らがトレーズを見誤っていたのか、或いはトレーズが変わったのかはわからないが。しかし、彼がOZの総帥となったことにも、指導者ヒイロ・ユイの暗殺にも、“ロワゾ・ブルー”は関わっている」

 

 淡々と、スピンは告げる。

 

「…………当然、支配を望まなかった父上の暗殺にもだ」

 

 それは、ネメアの求めていた真実だった。それを、スピンは淡々と。

 まるで、ずっとそのことを知っていたかのように。

 じわり、とネメアの額を汗が通り抜けた。

 

「……お姉様は、それを」

 

「知っていたさ。いや、知ったというべきか。私がノーリ家の当主となった時に」

 

 淡々としているが、スピンの声色からは様々なものが伺えた。諦念、怒気、失望、絶望、恥辱、それに慈悲。ノーリ家の当主となった時から、スピンはネメアにも冷たい態度を取るようになったことを思い出す。父の死を契機にした、孤高な獅子の生き方。まだ幼かったスピンがその生き方を選んだことも、もしかしたらこの真実と関係があるのかもしれない。ふと、そんな思考がネメアの中で過ぎった。

 だが、それでも。疑問が残る。

 

「……どういうこと?」

 

 なぜ、スピンはそんな真実を知らされたのか。当主だから、そう言えばそれで済む話ではある。しかし、どうにもネメアの中でその答えでは釈然としない。

 なぜ、スピンがこの事実を知ったのか。それこそがネメアにとって最も重要で、恐ろしい真実が隠されている気がした。

 

「つまり……我々、ノーリ家も“ロワゾ・ブルー”の一員だったというわけさ」

 

 吐き捨てるように、スピンはそう言った。

 

「そんな……」

 

「ノーリ家がロームフェラ財団に加盟したのは21世紀。その頃、世界中が混乱の時代にあった。当然、ヨーロッパもその影響を受けていた‘。そんな中でノーリ家が財を蓄え、貴族の一員として認められた。そこには“ロワゾ・ブルー”の思惑という絡繰があったわけさ。我が一族は、ロームフェラ財団の中で“ロワゾ・ブルー”の意思を反映させるための駒に過ぎなかった」

 

 まるで、陰謀論だ。しかし、ネメアが尊敬していた姉はそれをさも真実のように話す。

 

「パパの死に“ロワゾ・ブルー”が関わっている、というのは……?」

 

「父上の理想は、支配者の存在しない世界だった。それはロームフェラだけでなく、“ロワゾ・ブルー”の考えにも大きく反している。支配者を選定し、よりよい世界の実現と監視を目的とする“ロワゾ・ブルー”において、ヒイロ・ユイが提唱した宇宙の心は、父上の目指した社会は……禁忌だった」

 

 スピンは語る。ネメアが求めていた真実を。しかしそれは、本当にネメアが求めていたものなのだろうか。ネメアの敵。父の仇。“ロワゾ・ブルー”。支配者を選定するもの。そこにはまだ、現実感がない。唐突すぎて、受け入れられない。

 しかし、スピンが嘘を言っているようにはみえない。

 

「だから、パパは殺されたの?」

 

「ああ」

 

「そして、お姉様は“ロワゾ・ブルー”であることを受け入れた」

 

「ああ」

 

「それが、ノーリ家のためだから」

 

「ああ」

 

「だとしたら、私は……」

 

 どうすればいいのか、わからない。考えれば考えるほど、思考が闇の奥へと吸い込まれていく気がする。その坩堝から逃げるように、 ネメアは窓の外に目をやった。外はもう暗く、いつもならレイナと夕食にしている頃だろうか。と思った。そして、レイナのことを考えた時に……紅茶を淹れに行ったにしてはレイナもエリザも遅いことに気がついた。

 そして、目の前にいるのは“ロワゾ・ブルー”の構成員であるスピン・ノーリ。

 

「お姉様……」

 

 嫌な、予感がした。

 

「エリザとレイナの帰りが遅いわ」

 

 姉は、スピン・ノーリは。

 幼いネメアを守ってくれた気高い獅子は。

 

「…………ネメア。このまま全てを忘れ、羊の生き方に戻ってはくれないか?」

 

 ネメアは、理解した。

 誰よりも優しく、気高かった姉は、獅子の生き方を選んだのだと思っていた。

 だから、ネメアも獅子の生き方で在ろうと思った。

 だけど、そうではなかったのだと。

 

「お姉様……」

 

 尊敬する姉は。スピン・ノーリは。獅子であろうとした女には。

 ネメアには見えなかったが、そこには首輪がついていたのだと。

 

 

…………

…………

…………

 

 

 沸騰するお湯を知らせる音をエリザは咄嗟に消した。しかし、その甲高い音は長い廊下にも響いてしまっていた。

 

「……………………レイナちゃん、身を屈めていてください」

 

 静かに、エリザは告げる。そして、壁に張り付くようにして台所から廊下を見た。

 長い廊下を、屈強な男が2人歩いている。そのうち1人は門番のリカルドだ。しかし、もう1人には見覚えがない。

 特徴があるとすれば、青い帽子を被っていた。リカルドも、腕に青いバンダナを巻いている。それが何を意味するものなのか、エリザには理解できない。しかし、そこにある青という共通点は、2人に何か繋がりがあることを意味しているのだろう。そう、エリザは判断する。

 

「…………お嬢様」

 

 ネメアと再会する前に、エリザはスピンから言付かっていた。

 『決まった時間になったら、ネメアとレイナを引き離せ』と。

 それが何を意味するかエリザにはわからなかった。しかし、「久しぶりに姉妹水入らずの話がしたい」と言われてしまえば逆らう理由もなかった。

 だけど、そう話すスピンの瞳にはどこか思いつめたものがあったのを見逃すほど、エリザは使用人として、スピンの友人として鈍っていない。

 スピンが何かを隠していることは、最初からわかっていた。しかし、何を隠しているのかまではわからなかった。

 その答えが、向こうから近づいている。

 エリザは、思い切ってその身体を廊下へと投げ出した。

 

「あらリカルド。門番のお仕事は休憩中ですか」

 

 努めて冷静に。いつも通りの柔和な表情を崩さずに。

 

「エリザ、スピンお嬢様の言付けは守ったな。ここからは俺たちの仕事だ」

 

 リカルドの方も、いつも通りの表情だ。しかし、隣に覚えのない男を連れていては怪しさは消しきれない。それに、

 

「例の少女だが、どうも家出娘みたいでな。こちらで警察に引き渡す。いいな?」

 

 そんなに殺気を漏らした状態で何を言っても、エリザの目は誤魔化せなかった。

 

「…………レイナちゃんは、お嬢様の旅のパートナーです。お嬢様に無断で引き渡すわけにはいかないわ」

 

 エリザがそういうと、リカルドは困ったように頭を掻く仕草をする。しかし、その目は全く困っているような雰囲気はなく、むしろ予定調和といった感じだった。

 

「そんなことを言われてもな……これはスピンお嬢様の命令なんだ」

 

 そう言って、リカルドが背中に手を回す。それが、エリザにとっては合図だった。そしてそこに隠されていた黒くて冷たい鉄の塊をリカルドが取り出した瞬間に、それは起きる。

 

「っ!?」

 

 突如、リカルドはその鉄の塊を床に落とす。そして、手の甲が赤く染まっているのを見てエリザを睨んだ。

 

「たとえスピンお嬢様の命令でも、ダメなものはダメですよ」

 

 一瞬の間に、リカルドの手の甲にナイフが突き刺さっていたのだ。刃渡り8センチはあるだろうバタフライナイフがリカルドの白い手袋の上から肉を抉り、骨を貫く。そして、赤いものがドクドクと流れている。

 

「え、エリザ!?」

 

 エリザがガーターベルトの中に隠していたナイフを投げる方が、リカルドが拳銃を構えるよりも早かったのだ。激痛にリカルドが拳銃を落としたのを見た隣にいた男が腰のホルスターから拳銃を取り出す。しかし、遅い。既にエリザは2人の目の前まで迫っていた。

 

「遅い!」

 

 リカルドの手の甲に刺さったナイフを引き抜くと、噴水のように赤い液体が吹き出す。そしてリカルドの腹を蹴り上げ、その勢いのままナイフで隣の男の首元を切りつけた。

 エリザが的確に狙ったのは頸動脈。鮮血が吹き上がり、男はたちまち絶命する。どこからともなく取り出した日傘で血の雨から身を守ると、そこで呻いているリカルドの落とした拳銃を持ち主の前でエリザは取り上げ、安全装置を外しリカルドに向かって構えた。

 激痛でおそらく、リカルドは反撃できないだろう。銃をもし持っていたとしても、それを構えて打てるほどの握力が出せると思えない。なので、今構えたのは単なる脅しと、もしもに備えて。

 ジリ、ジリとエリザはそのままの体勢でリカルドから一歩、また一歩と離れていく。そして、台所の扉の前まで戻った。

 

「エリザ、お前は……裏切るのか」

 

「違いますよリカルド。私は、スピンお嬢様のメイドであると同時にネメアお嬢様のメイドなのです。ネメアお嬢様を裏切るわけにはいきません。そして……」

 

 スピンお嬢様もまた、迷っている。もし、その迷いがこの事態を引き起こしているのならば。スピンとネメア、2人の使用人であり、2人の友人であり、そして何より2人を心から愛しているエリザの成すべきことは、決まっていた。

 

「レイナちゃん、こっちへ!」

 

 銃をエプロンドレスの中にしまうとレイナを呼び、促す。恐る恐る出てきたレイナの手を掴むと、駆け足でその場を後にした。

 

 

 

 そして今、長い廊下を2人は走っている。ネメアがいるはずの、オルトの書斎を目指して。おそらく、そこにはスピンもいる。

 

「お嬢様……」

 

 エリザの手の先で、レイナは不安そうな顔をしながら走っていた。当然だろう、とエリザは思う。エリザは、この少女にどんな事情があるのか知らない。もしかしたら本当に、家出娘なのかもしれない。しかし、その家出娘の引き渡しのためにリカルドは見知らぬ者を屋敷に招き入れて、その上銃を抜いた。たとえレイナが家出娘だったとしても、それは只事ではない。

 何より、レイナはネメアの連れてきた女の子だ。ネメアが、エリザの大好きなお嬢様が心を許した存在だ。それを、勝手に渡すわけにはいかない。

 それは忠義として、正しく主人に仕える者として。何より、愛するネメアお嬢様の戦いに連れて行ってもらえなかったエリザの意地だった。

 

 暴動の激しいコロニーで生まれたエリザは、生まれつきそういうものに敏感だった。そういうもの。つまりは争いと諍いの匂い。侵略者の気配。それはエリザが物心ついた頃から共にあったものだ。

 そして、それはこのノーリ家に来てから久しく感じなかった……否、平和ボケして忘れていた感覚だ。

 この感覚を思い出したのは、旦那様……オルト・ノーリが殺害された時。銃弾の音を聞いて思い出した。思い出した時には、間に合わなかった。

 恩人である旦那様は冷たくなり、愛するネメアお嬢様から笑顔が失われた。

 だから、エリザはこの感覚を鍛えた。人一倍敏感に感じられるように研ぎ澄ませた。それが、愛するお嬢様を守るための手段だと思ったから。

 もし、ネメアが自分を連れて行ってくれたのなら、この才能を十分に発揮し助けとなろう。そう思っていた。だけど、ネメアは連れて行ってくれなかった。

 だから、今日までほとんど役に立たなかった才能。

 今、エリザが暮らすパリという街は文化保護圏だったため、戦争においても不可侵の条約が結ばれていた。これはロームフェラの本拠があるウィーンにすらなかった例外だった。街の外に出れば銃弾とモビルスーツが飛び交っていても、パリだけは少なくとも表向きは、平和だった。

 平和な街でエリザは人知れず、戦う力を身につけていた。

 それが、今こんな形で役に立つとはエリザも思っていなかったが。

 そんなエリザの第六感が、告げている。

 

「……また、賊ですね。外に3人、中に2人」

 

 リカルドが呼んだのだろうか。古い付き合いのよしみで命は取らなかったが、やはり殺しておくべきだったかもしれない。エリザは歯噛みする。

「いたぞ! ターゲットだ!」

 

 今度は、知らない男2人。よかった、と思う。今この屋敷はスピンお嬢様と門番のリカルド、それに自分しかいない。門番に関しては他に何人か雇ってはいるが、住み込みはリカルドだけだ。知っている人間だったら、殺すのに躊躇ってしまったかもしれないが、見た感じその雇われ門番もいない。なので、問題ない。

 右手には日傘。左手にはレイナ。今、両手が塞がっているエリザだが、それで戦えないとあらばメイド失格というもの。日傘の柄についているスイッチをポチと押すと、傘の形をしていたそれは完全に縦に伸びる。そしてもう一度スイッチを押すと傘の骨達は、ものすごい勢いで飛んでいく。所謂ロケット弾というやつだ。もしものために作った甲斐があった。6本の骨は、綺麗に3本ずつ男たちの身体を貫き、肉をズタズタにし、骨を砕く。この世のものとも思えぬ絶叫がして、すぐに止まった。もはや傘ではなく、ただの棒になったものをひょいと捨てて、敵の断末魔など見向きもせずにエリザは走る。レイナが小さく悲鳴を上げた。少々刺激が強すぎたかもしれない。とその時になってエリザは思う。

 

「ごめんねレイナちゃん、怖かった?」

 

「…………うん、でも、大丈夫」

 

 気丈に振舞うレイナは、強い子だと思う。きっとネメアお嬢様も、レイナのそういうところに惹かれたのだろう。とエリザは感じた。

 エリザは、走る。愛するお嬢様の宝物を守りながら。

 もう少しで、書斎へ辿り着く。その時だった。

 

「……空」

 

 レイナが、呟いた。

 

「空から、何か来る!」

 

「え……?」

 

 立ち止まり、エリザが窓を見上げる。そこには、夜闇に浮かぶ満月。その月の光に照らされて、巨大な青い翼が羽ばたいていた。

 青い鳥。そんな言葉が思い浮かぶ。しかし童話に語られる青い鳥は、小さなキジバトだ。今エリザの目に見えるそれは違う。

 巨大な青い鳥。キジバトどころか鷲ですらない。そして、鳥は上空で静止すると、身を屈め腰を曲げる。それは、一瞬の挙動だった。

 一瞬。一瞬で青い鳥は、青い翼を携えた人型の巨人になる。

 その翼を、その二つの眼を、その巨体をエリザはニュースで見たことがある。それは、昨年世界中を賑わせた存在とよく似ていた。

 

「あれは……ガンダム……?」

 

 地球圏統一連合の支配に反目する宇宙コロニーの抵抗勢力が生み出したモビルスーツ・ガンダム。クリスマスイヴの激戦で失われたはずのそれが、目の前に降り立った。

 

 

…………

…………

…………

 

 その変形音と着地の衝撃は、屋敷の中にいて尚ネメアに伝わっていた。コードネーム・ガンダム01。記録映像で見たものとは細部と機体色に違いがあるが、その特徴的な翼を持つ機体を見間違えようもない。

 

「どうして、ガンダムが……?」

 

 ガンダムは、「EVE WARS」の後全てが忽然と姿を消したという。いや、それだけではない。ガンダムは反抗の象徴だったはずだ。それが、何故。

 一方で、スピンは露骨に不機嫌そうに顔を歪めていた。

 

「トワリめ、話が違う……!」

 

「お姉様、あれも……?」

 

 薄々はわかっていた。しかし、そんなことがあってはいけない。ネメアは、否定の言葉を求めて姉に問う。

 

「…………我々はあのガンダムを“スターダスト”と呼んでいる。衛星軌道上で、朽ちていたものを回収したのが名前の由来だ」

 

 しかし、得られたのは肯定の言葉。

 

「なら、あれも“ロワゾ・ブルー”の……」

 

 それはネメアにとって、絶望的な通告だった。ネメアはOZ時代、ガンダムに手も足も出ずに敗北しているのだ。そのガンダムが、敵の手の中にある。

 

「お嬢様!」

 

 書斎の扉が開かれた。そこにはエリザと、レイナがいる。

 

「レイナ、エリザ!」

 

 2人は無事だった。そのことに安堵するがしかし、脅威は目の前にいる。だけどレイナはエリザから手を離すと、一目散にネメアへと駆け寄った。

 

「ネメア!」

 

 ネメアはその身体でレイナを抱き締める。その華奢な身体は震えていた。それに、少し熱い。

 

「レイナ……ごめんなさい。私もついて行くべきだった」

 

「ううん、いいの。それよりも……」

 

 レイナも、不安そうに窓の外に君臨するガンダムを見やる。

 

「エリザ、まだ戻っていいと命じてはいないが?」

 

 そう、スピン。エリザはそれに対し首を横に降ると、静かに言い放った。

 

「スピンお嬢様、申し訳ありません。ですが……お嬢様自身が迷っている命令を、エリザは聞けません」

 

「そうか……」

 

 スピンは、きっぱりと言い切られると静かに笑う。その時だった。スピンの持っていた携帯端末が着信を知らせる音を鳴らす。それをスピンはスピーカーモードにして受ける。

 

「トワリ、どういうことだこれは」

 

 努めて冷徹な声をスピンは上げた。トワリ。恐らくはそれがあの“スターダスト”と呼ばれたガンダムのパイロットなのだろう。とネメアは判断する。とすれば、これはあのガンダムからの通信。

 

「どうもこうもないでしょ、もう引き渡しの時間よ」

 

 スピーカーから声が響く。それは、高い声だった。恐らくは少女。レイナの同じくらいかもしれない。

 

「スピン、私の寄越した部下からの通信が途絶えたのはどういうことかしら。説明してもらえる?」

 

 トワリと呼ばれたその声は、露骨に不機嫌そうにスピンへ詰め寄る。スピン・ノーリを相手に、そんな言葉で話せる人間はそうはいない。

 少なくとも、このトワリという少女の声の主は、“ロワゾ・ブルー”においてはそういう地位にあるということだろうか。と一連のやり取りからネメアは推測した。しかし、今の会話で大事なのはそこではない。

 

「お姉様、レイナを売るつもりだったの……?」

 

 ネメアは、今のやり取りの意味をスピンに問い質す。自然と、レイナを抱く腕の力が強くなった。

 

「…………エリザに頼んでいた。姉妹の時間を作りたいので、所定の時間にレイナをネメアから引き離すようにと。そしてお前が私と問答している間に、レイナを“ロワゾ・ブルー”に引き渡す。それはリカルドの仕事だったのだが、どうやらエリザが裏切ったらしい」

 

 そう言って、スピンは深い溜息をついた。

 

「あはは、スピンってば裏切られたんだ。おかしい!」

 

 端末から、少女の笑い声が響く。そこには露骨な嘲笑の色が見て取れる。

 

「だけど、約束は約束。早く『システム』をこっちに寄越して。じゃないと……」

 

 そう言った時、ガンダムの肩部に装備されていたマシンキャノンが開かれる。

 

「あんたも、パパさんと同じ目に遭わせるから」

 

 その声は、氷のように冷たかった。ネメアの背筋に、嫌なものが走る。それと同時に、記憶の蓋が堰を切って雪崩れ込んだ。

 パパと同じように。あの日に聞いた銃声。倒れる父。駆け寄る自分。熱くてぬめぬめした液体。冷たい父親。何が何だかわからない自分自身。

 

『パパ! パパ!』

 

 幼い自分が泣き叫ぶ声。

 

『ね、ネメア…………』

 

 あの時、父が。オルト・ノーリが耳元で囁いた言葉。

 

『ロワ、ゾ……ブル……』

 

  “ロワゾ・ブルー”“青い鳥”。幸運を呼ぶそれを捕まえる冒険の物語。そして幸せはいつも、すぐ側にある。そんな御伽噺。幸せの側に在るもの。支配者の傍らに佇むもの。即ち、支配者を選定し、次なる支配者を求めて飛び立つ青い鳥。

 

「あ、ああ…………」

 

 全てが、繋がった。

 ネメアの、倒すべき敵。“ロワゾ・ブルー”。それが今、ネメアの一番大事なものをまた奪おうとしている。

 それを理解した瞬間、全ての思考がクリアになった。

 

「レイナ、行くよ」

 

 レイナを守れるのは、自分だけだ。レイナの手を握り、ネメアは歩き出す。

 

「どこへ行く気だ?」

 

 スピンが言う。しかしスピンは、姉は“ロワゾ・ブルー”に自らの首を差し出した飼い猫だ。ネメアが頼り、憧れた獅子ではない。故に、ネメアを止める言葉は持たなかった。

 

「お嬢様……」

 

 エリザが案じるようにネメアを見ていた。レイナを無事に連れ戻してくれたことに感謝しつつ、ネメアはその視線から眼を背ける。

 

「ネメア……」

 

 レイナの、か細い声でネメアは立ち止まった。

 

「わたしも、戦う」

 

 それは、毅然とした声。いつもの小さく、細い声ではなく、しっかりとネメアの耳に響く声。

 

「レイナ……?」

 

 しかし、それはつまり。あの時と同じ。

 たしかに、モビルスーツのコクピットの中でレイナは、超人的な計算能力と未来予測を行うことができる。しかし、それはレイナも多大な負担を背負うことになる。現に、一度やった時レイナはうわ言のように何かを叫んだ後、高熱を出して倒れてしまったのだ。

 

「わたし、自分の本当のことが知りたい。そう思ってネメアと一緒に旅をした。だけど……」

 

 一拍置いて、レイナは続ける。

 

「今は、それだけじゃない。ネメアと一緒にいたいから……だから、わたしも戦いたいの」

 

 真っ直ぐと、ネメアの瞳を見つめて。そう言ってレイナは、ネメアの手を強く握った。

 

「…………そっか」

 

 レイナが、そんな風に思ってくれていたなんて。ネメアは天を仰ぐ。それから、レイナの黒くて、艶やかな黒髪を優しく撫でた。

 

「……くすぐったいよ、ネメア」

 

「ごめん」

 

 そんな2人を、スピンとエリザは……ネメア・ノーリという女性の歴史は見つめている。そして……「フフ、フハハハハ」と声を上げてスピンが笑いだした。

 

「……お姉様?」

 

「……お嬢様?」

 

 不思議そうに、そこにいた全員がスピンを見やる。携帯端末から「何、何がおかしいの?」とトワリの声が聞こえてきた。その端末を掴み上げて、スピンが語り出す。

 

「ああトワリ、すまんな。たとえ司祭様の命であったとしても、私は従えんらしい」

 

 そう言って、スピン・ノーリは不敵に笑う。

 

「は?」

 

 端末から、トワリの不機嫌そうな声が聞こえる。しかし、構わずスピンは続ける。

 

「どうにもな、我儘な妹を持つと苦労するものだ」

 

「…………“ロワゾ・ブルー”を裏切る気?」

 

「元々、気に入らなかったのだ。まあ、潮時というやつだろう。“ロワゾ・ブルー”は、お前達が選んだトレーズ・クシュリナーダが自ら支配者の座を退いだ時既に、この世界に不要となったのだ」

 

 吐き捨てるように、スピンはそう宣言した。

 

「……お姉様」

 

 その様子を、ネメアはただ見ているしかできなかった。しかし、理解はできる。スピン・ノーリが気高い獅子の魂までは失っていなかったことを。

 

「行くなら早くしなさい。外にも工作員がいる。エリザ、2人を守ってやれ」

 

「スピンお嬢様……」

 

 エリザはスピンの目の前まできて、その腰を抱き寄せる。そして、「失礼」の一言の後、スピンの薄い唇に自分のそれを重ね合わせる。

 

「エッ……!?」

 

 ギョッとしたような声をあげながら即座に自分の腕でレイナの目を塞ぐネメア。それから、数秒。ようやく唇を離したエリザはスピンに傅いた。

 

「承りました。私の愛する御主人様」

 

 やや大仰にエプロンドレスの裾を掴んで上げると、エリザは振り返りネメアとレイナの前に出る。

 

「ネメアお嬢様、レイナちゃん。こっちです」

 

 そう言って、駆け出すエリザ。それを追おうとネメアも駆け出そうとするが、レイナはまだスピンの方を見ていた。

 

「…………いいんですか?」

 

 レイナにそう言われ、スピンは薄く笑う。

 

「感情で行動することは正しい。私は君からそれを学んだんだ。小さなお姫様」

 

 その笑顔は、ネメアにとてもよく似ていて。

 ああ、この人はやはりネメアのお姉さんなんだ。そう、レイナは思った。

 

「……ありがとう」

 

「さあ、急ぎなさい……。それと、ネメア」

 

 気高き獅子は、今度はネメアに。

 

「…………何かしら、お姉様」

 

「忘れ物だ」

 

 そう言うと、スピンは紙巻きが一つ残っている煙草の缶を投げ、ネメアはそれを受け取った。

 

「…………ありがとう、お姉様」

 

 缶をポケットにねじ込んんで、ネメアはそれだけ伝えると走り出し、レイナもそれに続く。そして残されたのは、スピンと携帯端末から何かを喚いているトワリ。

 

「ねえ、スピン!本当にどういうつもり!?」

 

 そんな、甲高い声が端末から響く。

 

「…………なあ、トワリ。ほんとうのしあわせとはなんだと思う?」

 

 スピンは、端末の向こうにいる少女にそう投げかけた。

 

「はぁ? 知らないわよそんなの」

 

 しかし少女の返事はつれないもので、スピンは苦笑する。

 

「だろうな、お前はそれを知らずに今日まで生きてきたのだものな」

 

「…………何が言いたいわけ?」

 

 不機嫌を隠そうともしない声が、スピンに突き刺さる。

 

「いや、別に。私はそれに目を背け続けていたのだと、思い知らされたのだ」

 

「…………本当に、撃つよ?」

 

 書斎の窓越しに、ガンダムのマシンキャノンが輝いているのをスピンは確かに認め、それでも言葉を続ける。

 

「……無垢なるものは無軌道ではない、自由なのだ。心が。そう言った人がいた。そしてそれは、正しかったらしい」

 

 しかしそれはトワリの心を宥めるものではなく、むしろその心を煽る言葉で。

 

「あんたさ、やっぱ甘いよね!」

 

 青いガンダムの肩から、モビルスーツの装甲すら吹き飛ばす弾丸が放たれる理由として、トワリにとっては十分だった。

 

「当主としてはな、だが、人としては厳しく生きたつもりだ……」

 

 弾丸の雨が、窓ガラスを吹き飛ばす。 その渦中の中でスピンは最期にそう、呟いた。

 

『だが、そうだな……姉としてはもう少し、優しく生きたかったものだ』

 

 それだけが、スピンの心残りだった。

 

…………

…………

…………

 

 マシンキャノンの弾丸が弾け燃え上がる屋敷をガンダムのコクピットの中で睨みながら、トワリは苛立たしげに舌打ちを打った。

 

「何よ……何なのよ!」

 

 まさか本当に撃つつもりなんてなかった。なのに、スピンはあろうことか、トワリに問うたのだ。

 

「ほんとうのしあわせなんて、知るわけないじゃない!」

 

 幸福という言葉と無縁に13年を過ごしたトワリが、答えられるわけもない。そもそも、トワリには幸せを選ぶ権利も与えられていなかったというのに。

 ほんの少しだけ幸せだった数日間の記憶だけが、トワリにとって幸福と呼べるものの全てであり、それ以外の全てを殺してこの翼を手に入れたというのに。

 どうして、そんなことを言われなければいけないのか。

 スピンのことは、少しだけだが気に入っていたのだ。父の仇である“ロワゾ・ブルー”に恭順していたことも。それが意志のある人間ではなく、意志を殺して人形になった故のものに感じたから。人形は裏切らないから好きなのに。それを。

 

「……大丈夫、だよね。一応、生体反応はひとつしかなかったし。「システム」もお姉ちゃんも生きてるよね?」

 

 そう、気に入らないといえばあんなことでつい咄嗟に撃ってしまった自分自身も気に入らない。自分は、組織の人形のはずなのに。自分の意思を介入させてしまった。お姉ちゃん以外の相手に。

 

「一応、外の工作員に捜索させないと……」

 

 外には3人、工作員がいる。うち1人はお姉ちゃんのトレーラーを張っていて、2人はいつでも中に入れるように待機していた。その2人に指示を出そうと通信機を合わせるが、反応がない。

 

「…………まさかね」

 

 こういう細かい支持を人間にするのは苦手だ。だって死ぬから。歩兵もモビルドールにするべきだとトワリは常々感じている。トワリは、2人を見限るとお姉ちゃんのトレーラー……「アイアス」にカメラを向けた。そこには、青いハンチング帽を被った男が待機しているはずだった。しかし、その青い帽子は赤く濡れている。

 

「……え?」

 

 カメラをクローズアップすると、その頭部が破裂しているのをガンダム越しにも確認できる。まさか、とガンダムをトレーラーへと歩み進める。その時だった。

 突如、トレーラーが動き出し、その倉庫から黒いリーオーが姿を現わす。脚部にローラーを取り付けた特殊な改造が施されたリーオー。間違いなかった。

 

「お姉ちゃん……!」

 

 ネメア・ノーリ。さっき殺したスピン・ノーリの妹で、トワリに唯一幸せな数日間をくれたお姉ちゃんだった。

 

…………

…………

…………

 

「お嬢様、御武運を」

 

 リカルドから奪った拳銃……M500リボルバーで華麗なヘッドショットを3度決めた後、エリザは「アイアス」の運転席を任されていた。エリザは残念ながらモビルスーツの訓練は受けていない。対モビルスーツ用装備でもあれば話が別だが、そんなもののない「アイアス」からではネメアの勝利と帰還を祈るくらいしかできない。そして、今まさにネメアとレイナは、黒い車付きリーオーでガンダムと対峙していた。

 

 

 

「……レイナ、大丈夫?」

 

「……うん、平気」

 

 黒いリーオー……スカードのコクピットに今、ネメアとレイナはいる。レイナは後部に取り付けた予備座席に座りながら、瞳を閉じて呼吸を整えている。そして、ネメアは後ろのレイナに声をかけつつも、正面の青いガンダムを見据えていた。

「敵はガンダム。ガンダムの武装のどれもが、リーオーなんて一撃で破壊しかねないくらい強い。特にガンダム01が右手に持ってるバスターライフルは、パリごと焦土にしかねない」

 

 他にも、装甲の当たりどころが悪ければチタニュウム合金を吹き飛ばせるマシンキャノンと頭部のバルカン砲。それに、リーオーのそれとは比べ物にならない高出力のビームサーベル。何よりも厄介なのが、ガンダムの装甲に使われているガンダニュウム合金。それを単純破壊できるような武器は、スカードには存在しない。

 

(あるとすれば……)

 

 ビームサーベル。問題は、頭部と肩に砲撃武器を備えた白兵戦用モビルスーツ相手に近づけるかだ。スカードは今、左手にビームライフルを装備している。右手は徒手。背中に取り付けているマシンガンか、シールドの裏に隠しているビームサーベルと手斧。それと腰にトリモチ弾を携帯している。マシンガンに入れて使うものだが、弾数を用意できていないため使用は慎重に。ともかく、敵がどう来るのかわからないため、片手は開けておきたかった。

 

「ネメア、来る!」

 

 レイナがそう叫んだと同時。青いガンダムはスカードめがけて飛び出していた。

 

「っ!?」

 

 咄嗟にビームライフルで応戦するが、巨大なシールドに阻まれて本体にうまく当てることができない。ガンダムは、頭部のバルカンとマシンキャノンを撃ちまくりながら近づいてくる。当たればひとたまりもないスカードは、ローラーダッシュを全力で使い距離を取りながらビームライフルで応戦するしかできなかった。

 しかし、敵はガンダム。

 

「あははっ! お姉ちゃんだ。本当にお姉ちゃんなんだ!」

 

 ガンダムから、そんな声が通信回線越しに聞こえる。その声は、たしかにスピンの携帯端末に聞こえた声と同じ。

 

「お姉ちゃん……?」

 

 しかし、敵にそんな風に言われる覚えはネメアにない。

 

「そうだよ。忘れちゃったのお姉ちゃん? 私、バルベルデでお姉ちゃんと会って、お姉ちゃんがいなくなって寂しかったんだよ。だから、また会えて嬉しいの!」

 

 ビームライフルを物ともせずに距離を詰め。ついにスカードのローラーに追い付いたガンダムは、シールドの中に格納されていたビームサーベルを振り上げる。スカードはそれをビームサーベルでなんとか受けるが、ビームとビームが干渉し火花が散る。それだけでもスカードには辛いが、ガンダムのバルカンとマシンキャノンを肩のラウンドシールドで受けながらパワー負けする相手に唾競り合うのは、あまりにも辛かった。

「ネメア、そこっ!」

 

「どこっ!?」

 

 レイナがなにかを見出したらしい。しかし、ネメアにはそれが何かわからない。

 

「このまま押し込んで、アイアスに衝突させるの!」

 

「バカっ、そんなことしたら私もエリザも、レイナまで爆発に巻き込まれるでしょ!」

 

「あっ……そっか……。でもそれなら敵を倒せる!」

 

「それでみんな死んだらダメなの!?」

 

 レイナも高速で計算をして、その結果出た答えがそれなのだろう。しかし、それは戦術戦略両方の面で見て落第の内容だった。そんなやりとりをしている間にも、スカードはガンダムに押し込まれていく。マシンキャノンの雨で、ラウンドシールドが吹き飛んだ。

 

「ネメア!?」

 

「南無三!」

 

 ローラーの位置を可変させ、横に逃げる。マシンキャノンをもろに受けるわけには行かない。ガンダムの重量が乗っているので相当な過負荷になっていたが、それでもスカードはそれをやりとげた。そして、ガンダムは目の前の敵がすり抜けたせいで重心がずれる。

 

「ネメア、あれを!」

 

 レイナが指差した先には、バスターライフルが転がっている。ガンダム01はあの巨大なバスターライフルを収納せずに、捨てては機動力で取りに行く設計になっているらしい。また、カートリッジ式で3発までしか撃てない切り札でもある。

 たしかに、この隙にあれを奪って撃てば、ガンダムといえどひとたまりもないだろう。しかし、周辺環境に電磁障害と空気のイオン化が発生するほどの大出力だ。撃ったスカードがその反動で溶けかねない。

 

「っ!」

 

 それでも、この好機を逃すわけにはいかなかった。スカードは、ローラーを全開にすると破壊される直前にシールドから取り出したビームサーベルを両手に構えガンダム相手に突撃する。しかし、ガンダムのパイロット……トワリもすぐに機体を復帰させて応戦体勢に移る。

 マシンキャノンをローラーで掻い潜りながら、ガンダムの周辺を弧を描くように回り込む。次第にマシンキャノンから空砲が鳴ったのをネメアは、見逃さなかった。

 

「弾切れ!?」

 

「今だっ!」

 

 ガンダムの懐に飛び込み、二刀のビームサーベルのスイッチを交互に入れて振り上げる。機体のサイズが違うので、ここまで近づけばガンダムのバルカンを受ける心配はない。マシンキャノンさえなければ、ここはスカードの距離。

 

「っ! お姉ちゃん……!?」

 

「私は、あんたのお姉ちゃんじゃない!」

 

 傷だらけの獅子が吠える。ビームサーベルは、確実にガンダムの肩の関節に食い込んでいた。あとは、精密機器を守るガンダニュウム合金を破壊すれば……。

 

「ネメア……逃げて!?」

 

「えっ……っ!?」

 

 しかし、途中レイナの叫びがそれを阻む。なにを言いたいのかはわからないが、レイナがそういうのなら絶対に何かある。そう直感したネメアが機体をガンダムから離して全力で距離を取った時だ。

 放置されていたバスターライフルが、ひとりでに動き出していた。そして、その銃口から巨大な熱の刃を吹き出しながら、先ほどまでスカードのいた位置目掛けて飛び込んでいた。

 

「…………どういうこと?」

 

 データにあるガンダム01に、そんな装備はない。バスターライフルは、まるで自分の意思があるかのようにガンダムの手の中に戻っている。

 

「これ、すごいでしょ。私が操ってるの。それとも刃の方? あっちはね、エピオンって機体のビームソードを参考にして、このバスターライフルを改造したんだって。難しくてよくわかんないけど」

 

 トワリは、無邪気に笑う。そして、バスターライフルを構える。

 

「…………まだ、負けてない」

 

「本当に? お姉ちゃんの後ろにはトレーラーがあるよ?」

 

「……………………」

 

 スカードの全力なら、バスターライフルを避けることもできるだろう。無論、レイナの先読みとネメアの操縦テクがあってはじめてだが。しかし、それをしたら「アイアス」と、エリザは……。

 完全な、詰みの形だった。

 

「…………わ、わたし」

 

 後部座席で、レイナが何かを呻いている。

 

「わたしの、敵は…………わたしの命を狙う全部。わたしから自由を奪う全部。わたしの、わたしの本当の敵は……」

 

「レイナ……!?」

 

 ネメアの恐れていたことが起きている。レイナは高速計算の代償として時折こうして心神喪失状態になる。それが、よりによって今。

 ゆっくり、ガンダムが引き金を弾くそぶりをする。

 

(私は、ここで死ぬの?)

 

 ようやく敵の正体を掴んで。その敵と対面して。

 なのに、死ぬ。

 

(死んだら……どうなるんだろう)

 

 パパや、お姉様と同じところへ行けるのだろうか。それは、自由な世界かもしれない。それはそれで、いいか。そんな思考が一瞬過る。だけど、大切なことが終わっていない。

 

(レイナ……?)

 

 後ろで苦しんでいる少女。もし今あのバスターライフルに巻き込まれて死ねば、レイナは最後に苦しみながら死ぬことになる。

 

(それは……嫌だな)

 

 そう思ったら、自然とモビルスーツを歩かせ始めていた。

 

…………

…………

…………

 

「どうして…………?」

 

 司祭様から言付かったのは、「システム」の回収だった。だから、本当はここでバスターライフルを撃つわけにはいかない。これでお姉ちゃんが降参してくれれば、「システム」もお姉ちゃんも手に入る。そう思っての行動だった。しかし、お姉ちゃんの車リーオーは歩きながら、スターダストへ向かっている。

 トワリは、焦っていた。

 

「来ないで、お姉ちゃん!」

 

 マシンキャノンは弾切れ。バスターライフルはブラフ。この状況でできることは、すぐにバスターライフルをロング・ビームソードへ変換することだが、ネメアの動きが不可解でその判断力をトワリは、奪われていた。一歩、また一歩とスカードはスターダストに近づき、そして。

 モニター越しにコクピットから、ネメアお姉ちゃんが女の子を抱き抱えながら降りたのが見える。その時ようやく、ネメアの目的を察した。しかし、遅かった。

 突如、ローラーを全開にしてスカードは突撃し、トワリの乗るガンダム……スターダストに組み付いた。

 

「このっ、離れなさいよ!」

 

 しかし、離れない。咄嗟にガンダムをバード形態へ変形させて上空に逃げるも、車リーオーはなかなか離れない。よく見れば、手にトリモチがついている。

 

「こんなっ!?」

 

 トリモチ弾を握った状態で、組み付かれたことにトワリはそこではじめて気づいた。結果、青い鳥に組みつくリーオーが上空でぶらぶらしている。なんとか振り落そうと高度を上げ、速度を上げる。

 

「お姉ちゃん…………」

 

 バルベルデのことを、トワリは思い出していた。10にも満たない自分は物心つく前に両親と死別し、物乞い同然の生活をして、政府軍に捕まって、そこで身寄りのない子供たちを集めた施設に入れられて、新しいお薬の実験と言われて身体を散々弄られて……それから連合軍が来て、解放してくれたのだ。

 あの時来てくれた薄い金髪の特尉のお姉ちゃん。お姉ちゃんが連合政府の人に自分たちを引き渡すまでの数日間だけが、トワリの中で唯一人間らしい時間だった。

 なのに、どうしてお姉ちゃんは私を殺そうとするんだろう。

 そんなことを思った直後、スターダストに組み付いていた車リーオーが閃光となって弾けた。

 

 

…………

…………

…………

 

 

「じゃあね、スカード」

 

 上空で何かが光った。それが、相棒の自爆により起こった閃光だとネメアは知っている。それからしばらくして、セーヌ川に無数のモビルスーツの残骸が燃え落ちてきた。できれば、人や街に落下しないでほしいな。と、そんなことをネメアは思いながら、レイナを抱き抱えて「アイアス」の中へと戻っていった。

 

「ネメ、ア……?」

 

 腕の中で、レイナが意識を取り戻す。

 弱々しいその顔は、可愛らしい。これを守るためなら、スカードも惜しくはない。そう、心から思えるほどに。

 

「わ、たしたち……生きてるの?」

 

「ええ。そろそろ夕飯にしましょう?」

 

 無理な演算を続けて、支離滅裂な言葉を放つほどにレイナも疲労していた。今日は疲れたからインスタントにしようか。そんな極めて日常的なことを考えている自分に苦笑する。

 

「うん……わたし、作るよ……?」

 

 だけど、そう言って笑うレイナは甲斐甲斐しくて、可愛かった。




TIPS
ウイングガンダム・スターダスト
OZに反目する科学者が開発したガンダムの一機、「ウイングガンダム 」を戦後“ロワゾ・ブルー”が回収、復元した機体。
組織の象徴でもある“青い鳥”へと変形することが可能。
通常のウイングガンダムの機能を一通り揃えている他、バスターライフルをバスターソード状のロング・ビームソードに変換することが可能。しかし、この場合にもカートリッジの装弾数を消費する。また、バスターソードを遠隔操作することも可能である。


バルベルデ動乱
ネメア・ノーリが初陣を経験した小国の制圧作戦。非連合加盟国のバルベルデ政府は、倫理的、社会的な国際法違反を行なっており、その行動が連合加盟国にも経済的な影響を与えかねなかったため、連合の武力介入が起きた。
トワリと名乗る少女はこの国の難民として生を受け、政府軍の人体実験モルモットとなっていたところを、ネメア・ノーリに救出され、連合の難民救済組織に引き渡された。

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