ありふれてない黒と器   作:銀煌

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VSヒュドラ


百層

「なぁ〜る程なぁ〜」

 

 神水が入った試験管を口にくわえながら亜墨は呟いた。現在亜墨はお互いのこれまでのことを話していた。

 

「それにしても、()()()。 いや、見た目から大体想像ついていたが、だいぶ壮絶だったな」

 

「ああ、そうだな。 だけど俺も、()()が神水も無かったのに魔物を喰らって生きていることに驚きだ」

 

「ん、普通は死ぬ」

 

「それに関しては俺にも分からん。 意識が無くなった時は正直死んだと思ったけど。 なんか大丈夫だった 」

 

 肩を竦めて苦笑する亜墨。〝黒〟が関係しているのは確実だと思うが、自分を包み込んだ時を亜墨自身も知らないため、本人は何も分かっていない。

 それと、亜墨とハジメがお互いことを名前で呼ぶようになった。まぁ、それ自体に深い理由はないのだが、ユエがハジメのことを名前で呼んでいたので亜墨が「これからハジメって呼ぶわ」となんの脈絡のなしに言い始めたのだ。

 

「さて、話は聞いたが、自己紹介はまだだったな」

 

 そう言って、亜墨はユエに向き直る、ユエもじっとこちらを見ていた。

 

「俺の名は国路亜墨。 よろしく」

 

「ん、私はユエ。 よろしく」

 

 今はこうして、普通に挨拶する二人、実は迷宮攻略後、反逆者の住処で大喧嘩をすることになるのをまだ知らない。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 難なく百層に辿り着いた亜墨達。百層という事で、三人とも警戒しながら道を進むと、全長十メートルはある巨大な両開きの扉があった。

 

「......これはまた凄いな。 もしかして......」

 

「......反逆者の住処?」

 

「いや、どう見てもラスボス出ますよって雰囲気じゃねぇか?」

 

 如何にもな雰囲気を出してる部屋。 実際、感知系技能の反応がなくても、亜墨達の本能がヤバイと警鐘を鳴らしていた。

 嫌な汗が頬を伝って落ちる。

 

「はあ、埒が明かない。 何があっても殺るしかないんだ」

 

「そうだな。 それで住処だったら最高じゃねぇか。 ようやくゴールに辿り着いたってことだろ?」

 

 首の骨を鳴らしながら言う亜墨。ハジメも本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。

 

「.....んっ!」

 

 ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱を越えた、その瞬間。

 扉と亜墨達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」 

 

 体長三十メートル、それぞれ色違いの紋様が額に刻まれてたむっつの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。これを例えるなら、そう。神話の怪物──ヒュドラだった。

 

「ユエ!亜墨! あの白頭を狙うぞ! キリがない!」

 

「んっ!」

 

「了解!!」

 

 ハジメが速攻でドンナーを放って赤紋様の頭をぶち抜いたが、白紋様の頭の能力で頭が元に戻っていた。

 その後は、白紋様の頭を狙いつつ動いていたが、他の頭がそれを邪魔する。ハジメは〝焼夷手榴弾〟を投げて破裂させ、白紋様の頭に攻撃するチャンスを作る。

 

「いやぁあああああ!!!」

 

「!? ユエっ」

 

 しかし、ヒュドラの絶叫ではなく、響いたのはユエの声だった。

 

「チッ、ハジメ!! お前はユエの方に行け!」

 

「分かってる!!」

 

 亜墨は〝黒剣〟を数本作りだして自身の周りへと浮遊させる。そのまま、地面を勢いよく蹴り、[+空力]を駆使してヒュドラに近づく。

 

「らぁっ!!」

 

 〝黒剣〟を赤紋様の頭に投げつけると浮かんでいる〝黒剣〟を掴み、目の前の黒紋様に斬り掛かる。だが、そこに黄色模様の頭が間に入り、平然と攻撃を防いでしまう。

 舌打ちをして後ろに下がろうとすると、左から青紋様の頭、右から緑紋様の頭が亜墨に噛み付こうとしてきた。

 

「しまっ──」

 

 顔を歪めながらやらかしたことを認識する亜墨。身を捻って回避しようとするも、間に合わない。

 その時─

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

 ユエが矢継ぎ早に放った魔法がヒュドラに直撃した。亜墨はその隙に[+空力]でその場から離れる。

 

「助かった。 ありがとな」

 

「んっ、仲間だから当たり前」

 

 ユエの隣に着地した亜墨はそのまま感謝を伝え、前にいるハジメを見る。

 ハジメは背中に背負っていた対物ライフル──シュラーゲンを空中で脇に挟んで構えていた。

 

「まとめて砕く!」

 

 ドガンッ!!

 

 〝纏雷〟を使い紅いスパークを起こしたシュラーゲンは、大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に赤い弾丸が発射された。

 その弾丸は〝金剛〟を使って防御していた黄紋様の頭をだからどうしたと言いたげにぶち抜き、背後にいる白紋様の頭も、何事も無かったかのように貫通した。

 

「〝天灼〟」

 

 その威力に敵も忘れてハジメを見ていたユエは、ハッとして魔法を発動させる。十秒以上続いた最上級魔法により、ヒュドラにはもう胴体部分しか残ってなかった。

 

「終わったな」

 

 シュラーゲンを担ぎ直したハジメの言葉に全員の気が緩んだ。だが、亜墨とユエは信じられないものを見るように目を見開いて。

 

「「ハジメ!!」」

 

 と、同時に叫んだ。

 次の瞬間、ハジメは極光に呑み込まれた。

 

「............」

 

 グラリと揺れると、ハジメは前のめりに倒れ込んだ。

 

「ハ、ハジメ? ハジメ!!」

 

 

 焦燥に駆られたユエがハジメの元へ駆け込む、痛々しく血を流しているハジメに唖然とするユエに、ヒュドラが光弾を放とうとしていた。

 

「バカ! 落ち着け!!」

 

 亜墨はハジメとユエを掴んで後退する。そしてその場から離脱して柱の陰に隠れる。

 

「いいか? ユエ、まずは神水を飲ませろ。 治している時の時間は俺が稼ぐ」

 

 ユエに神水を持たせると、柱の陰から勢いよく飛び出す。

 光弾が亜墨を貫かんとばかりに注ぎ込んでくるが、亜墨は集中して避ける。

 

「〝黒剣〟複数展開」

 

 片手を横に振るうと、数本の〝黒剣〟が姿を現す、その剣は、主を守るかのように囲う。

 それらの〝黒剣〟は亜墨の周囲に攻撃が加わりそうになると、自動で迎撃、又は反撃する。使い勝手は良いが、魔力がゴリゴリと削られていくのでまだまだ改良の余地がある、今作り出した、〝黒〟の魔法。

 

「さぁ、剣舞(ブレイドダンス)の時間だ」

 

 降り注ぐ光弾を亜墨の周りをクルクルと回っていた複数の〝黒剣〟が、光弾を斬り、弾いていく。

 

(まだだ、まだ)

 

 捌ききれなかった光弾が亜墨の頬を掠める。一段階、スピードが上がる。

 

(もっと上手く、最小限に避けろ)

 

 一本、もう一本と光弾に耐えられなかった〝黒剣〟が壊れいく。残りの〝黒剣〟は手に持っているのと亜墨を守っている一本のみ。

 亜墨は目の前に飛んでくる光弾を弾こうとする。光弾が〝黒剣〟に触れた瞬間。

 

 バキッ

 

〝黒剣〟が折れた。

 そこで、亜墨は不敵に笑い、呟いた。

 

「きた...」

 

〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、〝天歩〟の各技能を格段に上昇させる。

 亜墨は〝壁を越えた〟。

 

「ははっ」

 

 亜墨はその場でクルっと回ると浮かんでいる〝黒剣〟を掴むと──

 

「らぁっ!」

 

 光弾を真っ二つにした。

 と、そこで、復活したハジメが隣にやってきた。

 

「悪い、待たせた」

 

「本当だよ。 自分の好きな子泣かせんなよ」

 

「.........ああ」

 

 ニヤっとして口にした言葉に、ハジメはバツの悪そうに顔を背ける。

 

「んで? 準備は出来てんのか?」

 

「出来てる、これで仕上げだ」

 

 言葉と共にリロードしたドンナーを天井の六箇所に狙い撃った。

 すると、突如天井に強烈な爆発と衝撃が発生し、一気に崩落を始めて、数十トンある重さがヒュドラを押しつぶす。

 身動きが取れない銀紋様の頭に〝縮地〟で一気に接近したハジメは錬成を行い岩盤を拘束具に変える。

 同時に、銀紋様の頭の周囲を囲み即席の溶鉱炉を作り出すと、離脱しながら〝焼夷手榴弾〟などが入っているポーチを丸ごと中に放り込んで叫んだ。

 

「ユエ!」

 

「んっ!──〝蒼天〟!」

 

 蒼く燃え盛る太陽が銀紋様の頭を煉獄の中に叩き込む。

 銀紋様の頭は断末魔の絶叫を上げながら、高熱に溶かされて消滅していった。

 ヒュドラの死を確信した亜墨はドサッと座り込み、ほぼ死にかけのハジメは後ろにぶっ倒れて意識を手放した。




複数の剣を浮かばせるのってカッコイイですよね
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