ありふれてない黒と器 作:銀煌
あれ?これオリ主勝てる??無理じゃね?
少し、いや、かなり時を戻そう。
亜墨が奈落に落ちた時、同時にハジメも落ちていた。ハジメは最初こそ絶望していたが、亜墨を探すために勇気を出して迷宮を探索していた。
しかし───
「あぁぁぁぁ!!!うっぐぅぅ!!」
無くなった左腕の痛み、もう傷も塞がっているはずなのだが、幻肢痛による痛みに耐えていた。
痛い、苦しい、なんで、死にたい。色々な感情がぐちゃぐちゃになっているのにハジメは心が折れていなかった。
「国路が、奈落のどこかで、心配、してるはず、だから」
ハジメは自分を勇気づけるように言葉紡ぐ。そう、ハジメが未だに心が折れていなかったのは国路亜墨が自分と同じように生きていると思ったから。
幻肢痛で痛む左肩を力強く握りながら〝錬成〟で空けた穴から軽く顔を出した。
「きゅきゅ!」
「ッ!?!?」
(見つかった見つかった見つかった見つかった!?やばいやばいやばい!!?)
顔を出した瞬間、すぐ横に蹴りウサギがいたのでバレたのかと思ってダラダラと汗を流す。しかしいつになっても来ないのでバレでないと思ってもう一度顔を出す。
「なっ...あっ...」
ハジメの視線の先、先程の蹴りウサギを見ると蹴りウサギはある物を引きずっていた。
引きずっていた物。それは血がべっとりついた黒いローブだった。それは、自分を助けてくれた親友が使っていたのものだった。
その、血のべっとりついたローブは────
「なん、なん...で。あっ、あぁぁぁ...」
ボキッ、と
ハジメの心が折れる音が聴こえた。
そこからハジメは、丸まって、幼児のように眠りについた。空腹で目覚め、幻肢痛で目覚めても、何度も眠りについた。
まるで、何も考えないように、何も思い出さないように、全てを忘れかのように。
この日、ハジメの中で国路亜墨という少年は死んだ。心の中で自分のせいだと責め、多大なる精神的ショックで国路亜墨との記憶を完全に封印した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「誰だ、お前」
時は戻り。ドンナーの引き金を引いて繰り出された銃弾を亜墨は横に転がって避けた。
「南雲...?なんで、俺だ!国路亜墨だ!覚えてないのか!?」
「そんな奴は知らん。お前は俺の敵か? 敵なら...容赦しない」
ドパン!ドパン!
「クソっ!〝黒壁〟!!!」
纏雷によって電磁加速されたドンナーが火を噴いたと同時に〝黒壁〟を展開。しかし、動揺によって魔力が安定してなかったのか一発は防ぎもう一度は〝黒壁〟を貫通して左肩を撃ち抜いた。
「チッ、奇妙な魔法を使いやがる」
「くっ.........南雲...」
本当に忘れたのかと思わせる程、容赦なく、確実に殺しにきている。それからもハジメの猛攻は続き、亜墨はひたすらに耐えた。
「埒が明かねぇな。ユエ! お前も手伝え!」
「えっ?で、でも」
普段はクールなユエがハジメの顔をみて困惑した声をだす。それにハジメは若干イラつきつつも、亜墨を攻撃する手を緩めずに言う。
「あいつは、敵だ。敵は殺さなきゃならない。分かるよな?」
「そう...だけど...」
「だったら手伝ってくれ。なんであいつが攻撃してこないか知らないが、今の内に殺しておく」
「...............分かった」
ユエは決心したように腕を亜墨に向けて魔法を行使した。
「......〝緋槍〟」
その一言で、円錐状の炎の槍が亜墨を襲う。
「クソがったれ!二対一かよ!?」
悪態をついた亜墨は〝黒剣〟を生成して、飛んできた〝緋槍〟を真っ二つにした。
そのことにユエは少し驚いたが、すぐに切り替えて違う魔法を行使する。
炎の槍、水のカッター、氷の塊、石の礫。様々な魔法が飛んでくるので避けながら捌いていると。
「よそ見してんじゃねぇぞ」
いつの間にか懐に入ったハジメが脚を振り上げていた。[+豪脚]、それが使われた蹴りは亜墨を一瞬だけ浮かせるとそのまま後ろに勢いよく吹っ飛ばした。
「カッ──!?」
弾丸の様に吹っ飛んだ亜墨はそのまま壁に激突し、ズルズルと地面へ落ちた。血を吐き、蹴られた腹を抑えながらも、必死にその場から動こうとする亜墨。
「ゴホッ、カハッ! くっ......助骨が何本か逝っちまってる...うへぇ...こりぁ、肺にも刺さってんぞ」
立ち上がろうとしても、上手く体が動かない。苦悶の表情を浮かべつつ、〝黒剣〟を杖代わりにして立ち上がろうとする。
カチャ
すると、額に何かが当たる。見上げると、何の感情も抱いていないハジメの表情と、額に当たっているドンナーが見えた。
「......最後に聞く、お前は何もんだ?」
「くっ、だから言ってるだろ。 国路亜墨。 お前の親友、だ」
「嘘をつくな。 俺に親友なんぞ......いない」
「おいおい、ベヒモスから守ってやった親友のこと忘れるなんて...そりゃ泣いちまうぞ?」
「知らねぇな。 そもそもこの奈落にいる時点で怪しんだ。 ここで、今、殺す」
亜墨を軽く睨みつけているハジメ、ゆっくりとその引き金を引こうとする。ここまでか、と亜墨は心の中で呟いた。
亜墨は静かに目を閉じる。 しかし、いつまで経っても銃弾は発射されなかった。
(なんだ? ゆっくり引き金を引くにしても遅すぎやしないか?)
ゆっくりと目を開くとそこには──
「ハジメ、もうやめよう?」
優しく、ハジメの手を握っているユエの姿が映った。
「何すんだ。ユエ」
「ホントにいいの? この人を殺してしまって」
「敵は殺す。 何度もそう言ってるだろ?」
「ハジメがそれでいいなら、私は構わない」
「ああ、だからさっさと手をはな─「だけど──」あ?」
「ハジメ...
その言葉にハジメは、ドンナーを構えている腕を力無く下げ、一歩二歩と後ろへ下がると、困惑したように涙を拭いた。
「は? な、なんで。俺、泣いて...」
「この前、ハジメの寝言を聞いたことがあった。 その時、言ってた。〝国路〟って」
ハジメは目を見開いて驚愕していた。そのままドンナーをゴトリと落とし、力無く呟いた。
「こ...くろ? 俺は...なんで今まで、忘れて...」
「やっと、思い出したか」
「わ、悪い...俺、忘れてて」
「いや、いい。 ひとまず生きていてよかった。 お前の姿を見るに、他のことが考えられない程の事があったことも分かる」
「だけど!」
亜墨はゆっくりと立ち上がり、フラフラしながらハジメへと近づいていく。ハジメは慌てて亜墨の元に行くと、その体を片腕で支える。
「とりあず.........疲れたから寝ていいか?」
その一言を最後に、亜墨の意識は落ちた。
無事、思い出せてよかったね