ロリっ子と狼おじさん 作:俺のシェービングクリームどこ?
「なんだお前たち、ここにいたのか。……どうした?」
ㅤ俺たちのカズマパーティー正式加入が決まった、その翌日のこと。
ㅤ湯浴みを済ませた俺が冒険者ギルドに足を運ぶと、めぐみんとアクアがテーブル席で落ち込んでいた。
ㅤ二人とも心ここに有らずといった様子で、めぐみんはボソボソと独り言を呟いてるし、すぐ隣のアクアにしても、なぜか頭の上になみなみと水が注がれたコップを載せている。
ㅤ可愛らしい女性冒険者が男も連れずにいるということもあり目立っているが、整った容姿よりも奇っ怪さが勝り、ちょっかいを掛けられるなんてことにはなっていないようだ。
ㅤ……なんだか嫌な予感がするのは気の所為だろうか。
ㅤ俺に気づくとめぐみんは顔を上げ、ガタンッ──と勢いよく立ち上がった。
ㅤそれはもう、椅子の上に立つ勢いで。
「こらめぐみん、行儀が悪い──」
「私はロリっ子ですか?」
「……なんだと?」
ㅤ聞き慣れない言葉に首を傾げる。
ㅤろり……なんだって?
ㅤ俺の反応が気に入らなかったのか、めぐみんはそのままローブの襟に両手をかけ、力強く引っ張った。
「違いますよね、違うって言ってください、違うって、早く、言え!」
「ああ、まあ……。お前がそこまで必死になって否定するんなら、違うんだろうよ。その、なんとかってのは」
ㅤ宥めるように背中を叩きながら、わからないなりの答えを返す。
ㅤめぐみんは興奮して気づいていない様子だったが、俺たちは今、互いの鼻先が触れるほどに顔が近い。
ㅤそれが人の目にどう映るかはさておき、年頃の女の子が気安くしていいことじゃないはずだ。
「当然です。私は、紅魔族随一の魔法の使い手。もう立派な大人なんですから」
ㅤ立派な大人ね。……大人に成長期はないぞ。
ㅤそれに立派な大人は人の胸ぐらを掴んだりもしない。
「それで、アクアはどうしたんだ?」
「アクアですか?ㅤえっと、最初にカズマがスキルのことを話しはじめて……」
ㅤ俺から離れためぐみんが、事の顛末を話してくれた。
ㅤどうやらカズマがスキルを覚えたいと言い、なんやかんやあったらしい。
ㅤ爆裂魔法はさておき、アクアが教えようとしたスキルも嫌だとばっさり切り捨てたのだと。
ㅤめぐみんから話を聞いているうちに、知らぬ間に元気を取り戻していたアクアが相槌を入れ、
「酷いと思わない!!?」
「いや、そこで俺に同意を求められても困るんだが……。ちなみにどんなスキルを教えようとしたんだ?」
「なによ、気になるの?」
ㅤ思えば、これがアクアとした初めての会話らしい会話だったか。
ㅤ俺の素朴な疑問に、小さく鼻を鳴らし立ち上がる。
「しょーがないわね。いーい、このコップをよーく見てなさいよ。私のスキルはね、本来なら人に請われてやるようなものじゃないんだから」
ㅤそう言って、アクアはテーブルの上に散らかっていた花の種を一粒手に取り、自分の頭の上にあるコップを指差した。
「さあご覧あれ、この種を指で弾いてコップに一発で入れるわよ。すると、あら不思議!ㅤコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」
ㅤ興味深げに眺めている俺の目の前で、アクアが指で種を弾き、頭の上のコップに入れる。
ㅤ沈む種をじっと見ていると、あっという間に芽が出て成長し、瞬きをする暇もなく花をつけた。
「おお、大したものだ」
「でしょでしょ?ㅤ頭でっかちなカズマにはわからない良さなんだから!」
ㅤ素直に感心していると、ニマニマと笑いながらアクアが腰に手を当てる。
ㅤたしかに凄いと思うが……。
ㅤスキルポイントに余裕のない駆け出し冒険者に勧めるようなスキルじゃないな、もっと利便性に長けたものじゃないと。
ㅤだが、凄いのはたしかだ。うん。
「そのスキルはどんな種でも育つのか」
「ええ、もちろん。けどなんでそんなこと聞くの?」
「そりゃますます大したものだ。試しに……ほら、こいつなんかどうだろう?」
ㅤ胸元のポケットから小瓶を抜き取り、細長い小瓶から種を幾らか出してアクアに渡す。
「これは?」
「あー、綺麗な花の種だな。青く透き通った花弁の──」
「あら、この水の女神たる私に相応しい花ってわけね!ㅤ気が利くじゃない!」
「いや別にそこまで言っちゃないが……」
ㅤ怪訝そうな顔で種を見ていたアクアだったが、俺の話を聞いて目の色を変えた。
ㅤ図らずもその気にさせてしまったようだ。
ㅤしかしまたそれ、女神か。
ㅤそういえば例の悪名高いアクシズ教の女神も、名前はアクアといったか……。
ㅤ可哀想に、それで自分を本気で女神だと思い込んでしまってるんだな。
「さあさあ、ほら!ㅤどんどん咲かせるわよ!」
ㅤ調子づいたアクアが、初級水魔法と先のスキルを織り交ぜながら、次々と青い花を咲かせる。
ㅤそれはそれは見事な手際で、次第に動きが大きくなりはじめ、他の冒険者が足を止めて見ていくほどだ。
ㅤちなみに俺が渡したのは花弁が薬の原料になる花の種で、育てるのが難しい上に美しい花を咲かせるということもあり、種はもちろん花そのものもかなり値が張る。
ㅤなるべく倹約をしたい俺は、これで材料の足しになれば、と思っただけなんだが。
ㅤああしてずらりと並べると圧巻だな……。
「どう?ㅤ凄いでしょ!ㅤこれが私のとっておき、『花鳥風月よ!』」
「「「わ──っ!」」」
「うぴっ!?」
ㅤ足を止めていた冒険者が一様に沸き、声にアクアが驚く。
「アクア様、もう一度!ㅤ金なら払うので、どうかもう一度『花鳥風月』を!」
「ばっか野郎、アクアさんには金より食い物だ!ㅤですよね、アクアさん?!ㅤ奢りますから、是非もう一度『花鳥風月』を!」
ㅤいや、見事だったとは思うが、そこまでするか?
ㅤここには暇人しか居ないのか、口々に今のをもう一度見たいと言って押し寄せてくる。
ㅤ最初は冒険者たちの圧に押され気味だったアクアも、彼らの目的がはっきりするにつれ、その表情は怯えよりもはっきり迷惑そうなものに変化していった。
「なんだか大変なことになってきましたね」
「ああ、そうだな。……昼過ぎの軽食にするか?」
「食べます」
ㅤ近くにいた店員を呼び止め、手頃な軽食を頼む。
ㅤあとで花の回収もしておかないとな……。
「──あっ!ㅤちょっとカズマ、やっと戻ってきたわね、元はと言えばあんたが……。って、その人どうしたの?」
ㅤアクアの声に興味を引かれてそちらを向くと、カズマとその隣に二人の女性冒険者が立っていた。
ㅤ銀髪の少女と、金髪の少女。
ㅤそのうち銀髪の娘はなぜか目に涙を浮かべ、酷く落ち込んだ様子でいる。
ㅤなんだかデジャブ……。
「うむ。クリスはカズマにぱんつを剥がれた上に有り金を毟られて、それで落ち込んでいるだけだ」
「あんたなんてこと口走ってんだ!ㅤ待てよ、おい待て。間違ってないけど、ほんと。……いやいや、バーゲストもめぐみんの手を離して、座ってくれ頼むから」
ㅤ弁解しようとするカズマを、俺とめぐみんは白い目で見つめる。
ㅤなにが違うって言うんだ。
ㅤ見損なったぞ、リーダー。
ㅤあまりにも必死に引き止めるもんだから、つい言われた通りに座ってしまったが……。
ㅤ少女から下着を剥いだ?ㅤ有り金を毟り取った?
「公の場でいきなりぱんつ脱がされたからって、いつまでもめそめそしてちゃいけないよね!ㅤよし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!ㅤ下着を人質にされて有り金失っちゃったしね!」
ㅤクリスという少女の証言に目眩がして、俺は思わず頭を抱えた。
ㅤ今の話が真実なのだとしたら、仮にも俺が参加しているパーティーのリーダーがだ、よもや下着泥棒を働いた上にゆすりにまで手を出すとは。
ㅤこのバーゲスト、一生の不覚だ……。
「おい、待てよ。なんかすでに、アクアたち以外の冒険者──特に女性冒険者達の目が厳しい物になってるからほんとに待って」
ㅤよしわかった。
ㅤこのパーティーに居続けるのは、めぐみんの道徳教育によくない。
ㅤそう判断し、俺が再び彼女の手を取り席を立とうとした瞬間、クリスがくすくすと笑いはじめた。
「このくらいの逆襲はさせてね。それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス!ㅤじゃ、いってみようかな!」
ㅤ最初の印象とは打って変わって、クリスは冒険仲間募集の掲示板へと、清々しい笑顔を浮かべて行ってしまった。
ㅤあー、つまり今までの話は彼女が大袈裟に言ってただけなのか、そうか。
ㅤ苦々しい顔をしているカズマに向き直り、俺は頭を深く下げる。
「先日から重ね重ね、非礼を詫びる。うちのリーダーはゲスなんじゃないかと疑ってすまなかった」
「いや……まあ、いいんだそれは。えっと、それよりもダクネスさんは行かないの?」
ㅤなんだか歯に物が挟まったような物言いで謝罪を流されてしまった……。
ㅤなるほど、カズマは心が広い。
ㅤ俺がした無礼を、すっかり水に流してくれるのか。
ㅤいや、しかしだな。
ㅤ昨日の今日だぞ、本当にそれでいいのか?
「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。だが、盗賊はダンジョン探索に必須な割に、地味だから成り手があまり多くない職業だ。私と違い、クリスの需要なら幾らでもある」
ㅤ我々のテーブルに同席した金髪の少女、ダクネスの話を聞きながら、俺は静かに思案を続ける。
ㅤちなみに、レンジャーも一部盗賊のスキルを習得することができる。
ㅤ他にも初級魔法や片手剣スキル、細々とした職人スキルがいくらか……。
「もうすぐ夕方なのに、クリスたちはこれからダンジョン探索に向かうのか?」
「ダンジョン探索は、できることなら朝一で突入するのが望ましいのです。なので、ああやって前の日にダンジョンに出発して、朝までダンジョン前でキャンプするのが定石なのですよ」
ㅤ臨時のパーティーが成立し、ギルドを出ていく面々をテーブルから見送り、カズマたちがそんな話をする。
「ダンジョン前には、そういった冒険者を相手にしている商売すら成り立っていますしね。……それで? カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」
ㅤめぐみんの何気ないひと言で、俺は閃いた。
「そうだ、スキルだ。よしカズマ、今から君にスキルを教えよう!」
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