ぱらルカさんのくえっぽい世界の冒険   作:両生金魚

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光と闇の腹ペコたち

 正午、大神官様の前で跪くルカ。額に聖水を付けられ、目を閉じた後に待つ。じっと待つ。更に待つ。まだまだ待つ。もっともーっと待つ。しかし、何も起こらない。この異常事態に大神官を始めとして周りの人々も騒ぎ始める。待てども待てども女神イリアスはとうとう降臨せず――ルカも含めて1時間もすれば皆が諦めてしまった。

 

「(向こうでは、ずっと現れなかったはずのイリアス様が降臨されて……こちらでは僕一人の前に現れず……変な運命だなぁ)」

 

 辛辣な神官の言葉を聞き流しつつ、やれやれと家へ帰る。まあ、洗礼を正式に受けられず向こうと違い様々な勇者特典は受けられないが、何とかなるだろう。こちらの僕の財布には幾ら入っているのかなと、これからの旅の算段を考えながら家に帰ると、魔王が堂々と居座っていた。

 

「ふんっ。遅かったな」

 

「イリアス様の洗礼を受けられなくてね。一時間も待ったけど現れないなんて前代未聞だそうだよ」

 

「くくく……やはりか。余にここまでの手傷を負わせたのだ、奴も相応に喰らっていなければ沽券に関わるわ」

 

 実に悪い顔をするアリス。いかにも人々の考える魔王らしい表情だ。

 

「それにしても、よくこの家が分かったね」

 

「貴様の香りを辿ったからな――とそれはまあいい。……余はこれまで、殆ど魔王城から出ることもなく過ごしてきた。なのに、何故こんなド田舎の人間のお前が余の事を知っている? それに、見習いの癖に何故余の攻撃を避けることが出来た……?」

 

 アリスの疑念は一々尤もだろう。ルカは苦笑しながら頷くと茶菓子でも出そうと棚に向かい――

 

「話せば長いことになるしお茶でも飲みながら……飲みながら……」

 

 ガラリと開けて固まってしまった。そういえば、今日は旅立ちの日。何もかもをも殆ど処分し、茶菓子どころかお茶っ葉すら無いのだった。この棚にはネズミさえ寄り付かないだろう。

 

「…………」

 

 家を見渡せど、食べれそうな物も出せそうな飲み物も何も無い。そして、こころなしかアリスの視線が辛い。ついでに、腹の音が怖い。

 

「…………どうぞ、つまらない水ですが…………」

 

「つまらない物と言われて本当につまらないものを出されたのは余も初めてだぞ。白湯ですら無いのか……」

 

「薪すら無くて……」

 

 恐ろしく不満そうに鼻を鳴らすアリスは、くん、と旅の荷物の方に顔を向けた。

 

「スパイスと肉の香り……おい、何も無いよりはマシだ。そこの干し肉をよこせ」

 

「……まあ、良いけど……って、カップまで食うなよ!?」

 

「やかましい、余は腹が減ったのだ。早くせねば次はこの花瓶を食うぞ」

 

 よほど腹が減っていたのか、水を飲み干すとバリバリとカップを噛み砕いて腹に入れるアリス。そういえば、こいつは食器はおろか石ころですら齧るやつだった……! このままでは、家の生活用品が根こそぎ食べられてしまう。それを阻止するべく、急いで荷物の中から引っ張り出す。

 

「止めろよ! せめて食べられるものを食えよ!」

 

 とりあえず、こっちの僕が作った干し肉が美味しくありますようにと祈りつつ、叩きつけるようにアリスの眼前に置くと、すぐに口に入れてしまった。

 

「ん……美味いではないか。絶妙なスパイスの味付けが、肉の香ばしさを引き立てている」

 

「そうだろうそうだろう。旅の訓練として、料理の腕も磨いてきたんだ」

 

 とりあえずこっちの世界の自分の料理も目の前の腹ペコ魔王を満足させられたようで一安心だ。不味かったらどんな災厄が起きるか分かったものじゃない。

 

「ふむ、まあいい。このほしにくは前菜のつもりだったが、とりあえず今はこれでいい。喜べ、メインディッシュは必要無い」

 

「……」

 

 当然の如く、こちらの世界のアリスにとっても自分は捕食対象の様だった。向こうでもしょっちゅう騙されて部屋に誘われては絞られて、時には他の魔物との仁義なき争奪戦も……って、それは置いておこう。本題を話すために、改めて椅子に座り向き直ると、アリスもふむ、と空気を変えた。ほしにくを噛みながら。

 

「で、納得行く説明をしてもらえるのだろうな?」

 

「……相当に突拍子もない話だけど……」

 

 

 

「平行世界……そこで、小さくなった余や他の魔物たちと一緒に旅をしていたぁ!?」

 

「まあ、普通信じられないような話だよね……」

 

 簡潔に話した内容だが、自分でも突拍子の無さ過ぎる話だと言うのは分かっているのかルカも乾いた笑いが出る。しかしアリスの方はと言うと笑い飛ばすことも全否定もせずに深く考え込んでいる。

 

「……確かに、どんな夢物語だと笑い飛ばす様な話――にしては、貴様の出す単語に看過できない、貴様の立場で有れば知り得ない物が多過ぎる。こんなド田舎の少年が知る筈の無い話ばかり……おまけに、確かに今日イリアスの洗礼を受けに行った見習いが、余の傷を治し人には習得すらが困難な時魔法を苦もなく操る。それ自体が、貴様の話と同レベルのおかしさだ」

 

 ルカの居た世界では魔導革命(ルネッサンス)が起きてそのへんの子供すら単純な魔法が使えるようになったが、こちらの世界では魔術自体が既に取得難易度が高いのだ。そもそもからしてあの女神様は魔法を好かない事でもあるしルーン文字の様な魔法技術を封印したりもしている。

 

「まあ、いい。貴様が嘘を言っているようにも思えぬし、話はいくら捏造出来ても実力は偽れん。何より貴様自身が混乱しているようだし、まずは言っていることが正しいと仮定しておこう。それで、貴様はこれからどうするのだ?」

 

「当然、旅に出るよ。元の世界に戻らないといけないし、世界を救わないといけない。それに、こっちの世界では人が魔物を恐れているみたいだ。向こうとは起きている問題は違うだろうけど……それでも、同じ様に助けたいと思ってる」

 

「そうか……。薄甘い理想論では無く貴様は然と未来を見据えているのだな。――そして魔物と人間が共存しつつ有る世界も知る、か」

 

 キラキラと憧れる少年の顔などではない、使命感に満ちた見習いとは似ても似つかぬ勇者の顔。それを見ると、夢物語だと貶す言葉も浮かんでこない。何せ目の前の少年が居た所はこのイリアス大陸ですら人と魔物が共存していたようなのだ。しばらくじっとルカを見つめるアリス。

 

「……余も、その旅に同行してみるとしよう。貴様と一緒に旅をするならよもや退屈もしまい」

 

「うん、それは良いんだけど……魔王の仕事とかは大丈夫?」

 

「うむ、そんな物は喧しい狐共に丸投げすればよい。そんな事より、全ての魔物を統べる魔王が世間のことを知らずに引きこもるほうが問題だろう。だから、見聞を広めるために世界を一度見てみる事にする」

 

「なるほど」

 

 確かに、さっきはずっと住居から……つまり魔王城から出ることも無かったと言っていた。ひょっとしたら向こうのアリスよりも更に世間知らずだったりするのだろうか。

 

「僕も仲間ができて嬉しいよ。それじゃあ……これからよろしく」

 

「うむ、しかと余の世話をするのだぞ」

 

「……」

 

 そういえば、向こうでもやることは味見と食事位だった。ひょっとして、穀潰しを連れ回すことになるのか……?などと遠い目をするルカ。まあ、話す時間は幾らでも有る。この家でずっと話すことも無いだろう。

 

「それじゃあ、僕は村の挨拶回りと、食材の買い込みをしてくるからアリスは村の北で待っててよ。出る時は、裏口からこっそりでお願いね」

 

「うむ、余も無駄な騒ぎは好まんからな。食材をどしどし買ってくるのだぞ。余がどしどし食ってやろう」

 

 そう言うと、音も立てず気配も出さずに家を出ていくアリスと、苦笑して見送るルカ。そして、家の戸締まりをきちっとして知らない我が家を見渡すと、何だか久々の寂しさを感じてしまう。村を回り、食材を買い込み、最後は……お墓の前に。こちらの自分も欠かさず掃除をしているのか、周りの墓と比べてもより一層綺麗だった。

 

「母さん。僕は母さんの知ってるルカじゃないけど……それでも、僕、父さんと母さんに誇れるように頑張るよ!」

 

 知っているようで知らない、別の世界。向こうでの世界より更に少ない人数での旅立ち。これから待ち受けるであろう未知と既知が入り交じるであろう冒険に思いを馳せ、ルカは万感の想いを込めて村を出ていくのだった。

 

 

 

 村を出て北へ向かう道中、道の横の林やら草むらやらで、ちょっとしたハーブやベリーや野草やら薬草やらを採取する。アリスも全く見たことの無い食べ物が珍しいのか、同じものを見つけてはとりあえず齧っている有様……って

 

「生で食べるのか……」

 

「とりあえず、食わねば味が分からんだろう。しかし、よく集めるな」

 

 一杯になった袋を見つめて、感心したように言うアリス。微塵も遠慮を見せずに手を伸ばしてくるが、ペシッと払うと不満そうに睨んでくる。だが無視。

 

「洗礼を受けられなかったからね……勇者特典が無い以上、少しでも節約したりお金を稼がないと。……一人食いしん坊の同行者が居るし」

 

「……何だ、その勇者特典とやらはそんなに便利なのか?」

 

 顔と話題を一緒に逸してきた。まあいいけど。

 

「うん。宿屋は格安の勇者料金で泊まれるし、お店では各種割引も有るし、一般民家を家探しする権利も与えられるし――」

 

「家探しの権利……? 勇者というのは、盗賊なのか?」

 

「いや、勇者の支援策の一環だよ。勇者は世界を回って悪い魔物を退治しないといけないからね。ハインリヒの時代以来、教会がずっと推し進めてきたんだ。それにそういう壺とかに入れておくアイテムは税から外れるし、勇者が取っていったら教会が補填してくれるから、別に民家の人たちも困らないよ。と言うか古いものでも税が控除されし保証も出るからむしろ喜ばれるし僕も先輩の勇者から、樽や箪笥はしっかりチェックしなさいってアドバイスされたんだ」

 

「何だそのシステムは!? 色々とおかしいだろう!? ……しかし、そんなそこらの民家から押収するアイテムなぞ役に立つのか?」

 

 ドヤ顔で説明すると、またも衝撃を受けるアリス。今日一日で随分とカルチャーショックを受けまくった様である。

 

「まあ時代と共に色々と有って変わってきたシステムだからね――まあそれはそれとして薬草や毒消し草はもちろんその地方の特産の食材とかも結構貰えるよ。アリスは小さい姿だったからよくお菓子もおまけしてもらえてたし……」

 

「よしルカ、民家があったら欠かさず入り、美味そうな食材を根こそぎ徴収してくるのだ」

 

「今の僕は勇者じゃないから無理だよ……」

 

「――役に立たん奴だ」

 

 喜びの顔から一転、ものすごい不満そうに吐き捨てられた。酷い。

 

「洗礼出来なくしたのはお前だろ!? 後はまあ、イリアス様の洗礼を受けると加護が貰えるらしいんだけど……」

 

「うむ。洗礼を受けた者はその精が極めて不味くなるのだ。だから、モンスターに襲われることは少なくなるのだろうな」

 

「そ、そんな理由が……ああ、だから向こうの世界では普通にみんな魔物に絞られていたんだね……」

 

 納得するルカ。加護も無い上に鍛えた人間の精は、魔物たちにとってはさぞ美味しかろう。

 

「そういうわけで……洗礼を受けていない貴様は、非常に美味そうだ……」

 

 じゅるりと舌なめずりするアリス。うん、そうだよね、みんな美味しい美味しい言いながら襲いかかってきてたからね……!獲物を狙うその表情に寒気と期待を綯い交ぜに感じてしまう。もうすっかりポケット魔王城の魔物たちに調教された様だ。果たして何日無事で居られるのやらと予想してみるがまあ、3日持ったら奇跡だろう。ルカとしても絞り殺されたり正気を失わされたりしない限りは正直断る理由が無い事でもある――

 

「ところで、目的地はどこだ? さっそく魔王城にでも向かうのか?」

 

「500年前ならともかく、今は無理でしょ……。まさか直通の航路が有るわけでも無いし。ひとまずの大目標としては移動手段を手に入れることかなぁ? ……でも、オーブは元の世界の場所にあるとも限らないだろうし」

 

 実際、魔王の居る大陸にはまだ行けてないし、険しい山脈に囲まれた未踏の島も元の世界には有った。なので、空を飛ぶ手段は入手しておきたいのだ。

 

「……貴様、オーブも知っているのか」

 

「うん、6つ集めたよ。もっとも、まだ復活させる前にこっちの世界に飛ばされちゃったんだけど」

 

「……つくづく規格外だな貴様は。まあいい、ところで今日の夕食は……むっ」

 

 突然、気配を消すアリス。その原因は恐らく――

 

ナメクジ娘が現れた!

 

「……旅人ね。しかも洗礼を受けていない、美味しそうな少年……」

 

 動きの遅いナメクジ娘だ。正直、戦うどころか走って逃げるだけでもどうにかなるだろうが、放置して他の旅人が襲われるのもいただけない。

 

「ねえ、大人しく引いてくれないかな? 僕は魔物とは戦いたくないんだ」

 

 一応説得から入るが、まあ精に飢えている魔物たちだ。当然

 

「嫌よ。あなたは、この私に餌食にされるの……。ナメクジのニュルニュル、ネバネバをたっぷり味わいながら、いっぱい射精しなさい……」

 

説得なんて無視してにじり寄ってくるのだ。ため息を一つつくと、またおもむろに近くの木に歩み寄って一発殴る。すると例によってドバゴンッ!と激しく音を立てて木が粉々に砕け散った。

 

「ひっ!?」

 

「どうしても戦うなら、キミもこうなるけど……」

 

「お、覚えておきなさい……!」

 

 効果は抜群で、怯えて捨て台詞を残してそのままずりずりと逃げ去ってしまった。

 

ナメクジ娘を追い払った!

10ポイントの経験値を得た!

 

「やれやれ……」

 

 逃げるのを見送ってため息を一つ。これからまた長い旅路になりそうだが、果たして説得で引いてくれる魔物はどれくらい居る事か。

 

「魔物を脅して追い払うとは……勇者として正しい振る舞いかそれは?」

 

 やや呆れつつアリスが出てくるが、酷い言い草だ。

 

「そんな事言ったって、ここまで実力差が有ると手加減も難しいんだよ。迂闊に鉄の剣で斬ったら真っ二つになりかねないよ」

 

「……まあ、そうだな。幾ら魔物が頑丈とはいえ限度は有るからな」

 

「それより、アリスが隠れたのはやっぱり魔物とは顔を合わせられないから?」

 

 向こうでは共に戦っていただけに、一人での戦いは妙な寂しさを感じる。

 

「うむ。魔王たる余が加勢は勿論魔物が人間にやられている所をただ側で見ているだけ――という真似は出来ぬからな。今後も手助けをすることは無いと思え」

 

「そっか……そうだよね。うん、分かった」

 

 一人の戦いに少々の心細さと物悲しさを感じるが仕方がないだろう。世界が違えば、立場も常識も違ってしまう。自分も、こちらの世界では勇者ですら無いのだ。

 

「ところで、夕食は何なのだ」

 

 そしておもむろに感慨をぶち壊してくる魔王であった。

 

 

 

「ごちそうさま~!」

 

「……余は、今感動で震えている……。まさか、この様なありきたりな食材からここまでの味を引き出すとは……おい、旅が終わったら魔王城で総料理長をやらぬか?」

 

「あ、有り難いけど僕は帰らなきゃいけないから……」

 

「…………しょんぼり」

 

 トリプルコックを超えて味皇すらマスターした腕である。一発でアリスはその味と腕の虜になったようだ。勧誘に失敗して割と本気でしょんぼりしている。

 

「さて、食後のデザートなんだけど……」

 

「何!? デザートもだと!? 勿論食べるぞ、さあ早く作れ!」

 

「作るけど、ちょっと時間がかかるからアリスは鍋をお願い。これで、ゆっくり丁寧にかき混ぜて焦げ付かせないだけでいいから」

 

「う……む……中身は、道中で採取していたローズベリーか。煮詰めるのか?」

 

「うん、それでソースを作るんだ。焦げ付いたら台無しになるからしっかりかき混ぜてね」

 

「……責任重大だ……まさかこの様な試練が降りかかるとは……邪神様、どうぞ余をお導き下さい……」

 

 ただ鍋をかき混ぜるだけでなんて大げさな奴なんだ……って、そういえばアリスって料理ができたっけ? と少々不安になりつつ、氷魔法で筒を作ると、その中に牛乳や卵やら砂糖やらを入れて、氷でまた蓋を作り、よくかき混ぜる。急速に冷やされ、また匠の技でかき混ぜられた材料は、空気を含みフワフワと口で蕩けるアイスクリームへと姿を変えていく。

 

「どれどれ、こっちは……?」

 

 ペロッと味見すると、いい具合に酸っぱく煮詰められていた。

 

「ありがとう、アリス。いい感じだよ」

 

「うむ! これからもソースは余に任せると良い!」

 

 満面の笑みで尻尾を振っているアリス。何やら自信をつけたようだ。まあ、これから料理を手伝ってくれるようになるなら助かるので良いことだろう。

 

「それじゃ、こっちも冷やして……」

 

 ソースは凍りつかない程度に冷やしてから、木皿に移したアイスに乗せる。大自然の中、即席で作ったアイスの完成である……が、何故か3人分有る。

 

「それでは頂くとするぞ♪」

 

 あむっと口に含むと、見る見る表情が蕩けていくアリス。どうやらお気に召したようだ。

 

「それじゃあ、と」

 

 アイスの皿に木の匙を添えて、天界に向けてお祈りをすr「おい、ルカ。何をやっている。食わんのなら貰うぞ!」「食べるよ! お祈りしてから!」「お祈りだと! まさか、其の3皿目はイリアスへの捧げものだとでも言うのか!?!?!?」「そのまさかだよ!」「なっ、巫山戯るな、巫山戯るなよ貴様……! こんな素晴らしいものを、イリアスに下げ渡すとでも言うのか!」

 

 魔王様、激おこである。初対面で剣を持っていた時よりも更に酷いご様子で尻尾も怒りにガラガラと震えている。このままでは2皿目も奪われてしまう。

 

「あんまりわがまま言うと、次からアリスはおやつ抜きだよ!」

 

「ぬっ!? がっ!? ぐっ!? ぎっ!? ひ、卑怯だぞ、貴様……!」

 

「戦はね、兵糧を握ったほうが勝つんだよ……」

 

 だが、食い意地の張った魔王を操ることなど簡単なのだ。ギギギギギとものすごい歯ぎしりを周囲に響き渡らせた後、ぷいっと拗ねてしまった。そして、アイスの安全を改めて確認してから、イリアス様にお祈りを捧げるルカ。

 

「(イリアス様……聞こえますか……これから、イリアス様にアイスクリームの捧げものをします……どうぞご賞味下さい……)」

 

「(えっ、ル、ルカ……あなたなのですか!? それより、何故私に念話を……い、いえ、それよりアイスクリームを捧げられても困ります……)」

 

「(ツララの砂糖がけじゃなくて、ちゃんとしたアイスクリームです。とっても、美味しいですよ?)」

 

「(えっ、ど、何処でその情報を……いえ……正しいアイスクリームですか……しかし地上の……いえ、でもルカの好意を無にするわけにも……)」

 

 何やらぶつぶつと悩んでいる様子なイリアス様。どうやら、こちらのイリアス様も同じく食いしん坊の様だ。

 

「(分かりました。あなたの献身、嬉しく思います。これからもよく私に尽くすのですよ)」

 

「(はい、イリアス様。溶ける前に、是非お召し上がり下さい)」

 

 そう念話を飛ばすと、繋がった方向へ向けて祈りを捧げてついでに時魔法を発動させる。今なら、天界へ物を送る程度は出来る気がした。目の前で、スッとアイスが消える。

 

「これで良し……さて、僕の分も……って、ああっ!?」

 

 振り返って自分の分の皿を見れば、雫一滴残さず綺麗に平らげられていた。

 

「ア、アリス……」

 

「……いや違うのだ」

 

「何が違うのさ」

 

 険しい目でじーと睨みつけると、気まずいのか目を逸らされた。

 

「……初めはほんの一口だけのつもりだったのだ」

 

「……で?」

 

 そもそも一口でも悪い。

 

「それがやはり美味くてな。ついつい手が止まらず……気がついたら皿が空になり、勿体なくて全部舐めてしまったのだ……つまり、このアイスが美味すぎたのが悪いのだと余は思うのだ」

 

「じゃあ今度から不味く作ろうか」

 

「……反省するのでそれだけは許してくれ」

 

 やれやれ、とため息をつく。新鮮な内に使い切るつもりだったので余りの材料なんて無い。仕方ないので、もう寝ようかと火を消そうとすると――

 

ピカーッ!

 

 と、空が光り輝き、一瞬真昼の様に世界中を照らし尽くした。

 

「うわっ!?」「ぬおっ!?な、なんだこの聖なる光と波動は!? 不愉快なっ!?」

 

 アリスは何やら混乱している様だが……

 

「(ふ、ふぁああああああああっ♪)」

 

「(イリアス様……そんなに美味しかったですか……)」

 

 ルカの脳内には、ばっちり溢れ出た心の声が受信されているのだった。なお、この光は当然のごとく世界中の人間が目撃し――イリアス様の祝福に照らされた日として記念日になったとか祭りが開かれることになったとか何とか。

 




とりあえず、天使たちのほぼ全てに好評な甘いものから攻めてみるルカさんでありました
イリアス様、割と美味しいもので籠絡できそうな気がしないでもないが、ルカを巡って聖魔大戦が起きそうな気もする……
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