※2024/05/09改訂
「こうして勇者ハインリヒは魔王を打ち倒し、世界に平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし……ってのが人間に伝わってる話だね。まあ、当然といえば当然だけど黒のアリスと一緒に旅をしていたなんて話は伝わってないけど」
「当然だろう。魔族の側にもそんな話は伝わっていないからな。――しかし、支配欲のままに力を振るい、多大なる破壊と混乱をもたらした魔王が、まさかそんな事を……」
夜、イリアス―ポートへ向かう道で、二人は野営をしていた。お腹いっぱいになったが寝るまでまだ時間は有るので、焚き火を囲み星を眺めて様々な話をするのが日課のようになっていた。
「当時の魔物たちも大体真っ二つに割れてたね。人間を支配したい側は黒のアリスに大賛成。でも、仲良くしたい側は本当に迷惑してたみたいで、魔王城でも反乱の相談とかしてたよ。8世の妹の9世の側にそういう人間に友好的な魔物が集まって――ハインリヒにも何度も手を貸していたみたい。勿論人間の側も黒のアリスを凄く恐れていたよ」
「……9世は8世に反旗を翻そうとする魔物を集め反乱を起こそうとしたが既の所で止められ幽閉されてしまった。そのせいで過激派の魔物の歯止めが効かなくなり大きな混乱が起きたと聞く。8世が討たれてからも、統治の殆どは尻拭いに奔走したそうで……そして最後は魔王で初の過労死と。あまりにもお労しい最期であった……」
「ハインリヒも相当苦労してたみたいだね。とりあえず叩きのめせば頭が冷えるなんて言ってた事もあったし……ただアリストロメリアは一緒に旅をして側で楽しそうに見ていた様だし、本当に何がしたかったのか……ただ楽しみたかったのかな?」
世界の滅びの目前ですら、いやだからこそうさぎとの追いかけっこでとてもとても楽しそうにしていた黒のアリス。傍から見れば余りにも迷惑な存在なのだろう。一体、その真意はどこにあるのだろうか。
「奴のせいで、魔物の側も大きく変わることになった。8世以後のフェイタルベルン家の子供には幼い頃から狐が教育係に付くことになってな。私も母様もお祖母様も曾祖母様も、皆腹黒きつねの教育を受けることになってしまったのだ。全く、あのきつねめ……」
きつねの部分を語るアリスは妙に憎々しげだ。たまも憎けりゃきつねまで憎いの理論でその辺のきつねも大嫌いになってしまったのか。
「(そういえば、たまもって六祖の一人だったけどアリスは知らなかったみたいだし……多分たまも本人が知らせないなら僕も言わないほうがいいよね)」
グランゴルドで見たたまもと玉藻の力は本当に圧倒的だったなあと思い起こしていると、退屈しているアリスが更に話題を振ってくる。
「そういえば、貴様の剣はどこで習ったのだ? 少々余の知っている動きも混じっていたが」
「ああ、旅に出るまではずっと独学で、旅をしてからはアリスと……イリアス様に習ったんだ」
イリアスの名前が出て顔をしかめるが、とりあえず話は先へ進む。
「ふむ。余が知らない余が教えたのか……」
何だか複雑そうだ。
「しかし独学とは、師匠がいなかったのか?」
「うん、知り合いに元剣士のおじさんがいたんだけど……そのおじさんは冒険で相当無茶な剣の使い方をしたせいで、右手を悪くしちゃったんだ。骨格も歪んで殆どまともに剣を振れなくなる位に。だからそんな剣術は教えられないって言われて……」
「当然だな。そんな危なっかしい物は他人に教えられん」
「おじさんからもそう言われたよ。だから、強くなったのは旅に出てからかなぁ。世界中で、色々な魔物と戦って色々な技や魔法や種族の技を見てきたからね。すっごく参考になった」
えへんと胸を張って語るルカを、少し羨ましそうに見るアリス。そんな様子にルカははてなと首を傾げた。
「……む、いや、何だ。随分と楽しげに語るのだなと。――それに、余が貴様に何もしてやれてないのも何だか癪だ」
楽しいそうな旅路に、一緒に戦い更に技を教える関係。別の世界の自分に嫉妬してしまうとは……と自嘲するアリス。
「僕としては、一緒に旅をしてくれる仲間がいるだけでありがたいんだけどね。……一人旅はやっぱり寂しいだろうし」
「――貴様が満足でも、余は不満なのだ」
ぷぅ、と頬を膨らませてどうやらご機嫌斜めのようだ。流石に連日のタダ飯食らいの旅は微妙な後ろめたさも生んでしまうのか。しかし教えてもらうにしても魔剣士や魔物の武術の技はそれなりに知っているし魔法も結構な数を覚えている。他に有るとしたら……と、ふと思いつく。
「あ、じゃあ新しい魔眼を覚えてみたいなあ。向こうのアリスも得意だったけど、弱体化してかなり忘れちゃってたし……」
「ふむ、仕方ないなら。そういう事なら余自ら教えてやろう」
尊大そうだが、尻尾を振って嬉しそうなのは見ないようにするのが優しさである。
「それじゃあ、お願いします!」
「うむ、そうやって魔力で相手の体内の物質を変質させ、体中に毒を巡らせるのだ」
「こ、こうかな?」
ルカは毒の魔眼を習得した!
「流石に飲み込みが早いな。魔技にはあまり頼っていないようだし、この調子で難易度の低いものから教えていくので覚悟しておけ」
「うん、宜しくおねがいします!」
新しい技を覚えて強くなっていくのは戦士としての喜び。また戦略が広がりそうでウキウキするルカであった。
「うむ、では報酬を貰うとするか」
「へ?」
そう言うと同時に、しゅるしゅるとルカに尾を巻きつけるアリス。ルカも本気なら逃げられる筈だが、なぜだか体が動かずそのまま巻き付かれる。
「ア、アリス……ここは外だよ……もし他の魔物に聞かれちゃったら……」
「くくく……羞恥心に悶える姿と言うのもまた唆るものだな。存分に聞かせてやるといい」
向こうでは大勢でキャンプをしていたから襲われなかったが、こちらでは二人旅なのだ。遠慮は無いのだろう。
「も、もし僕を奪おうと他の魔物が襲いかかって来たら戦うことになってまずいんじゃ……」
「獲物を横取りしようとする不埒者を叩きのめすのは魔王でも問題は無い。安心しろ、私が食事中の時は絶対に他の奴に一滴たりとも渡さんからな。――ハーピー共に絞られた分薄くなっていたら許さんぞ」
あっ、これはもうダメな奴だ。
「や、優しくして……?」
上目遣いでそう言ったのがいけなかった。
「無・理・だ♪」
速攻でズボンを下ろされそして……
「あひぃいいいいいいいいいいいいいっ!」
翌日、昼前にげっそりした顔でイリアスポートに辿り着いたルカ。この辺りから人食いの魔物も増えてきたので、そういう輩はエンジェルハイロウで容赦なく強力な技で叩きのめして恐怖を刻み込んだ。その姿にやりすぎただろうかと少々反省しつつ、すぐに頭を次の食べ物へ切り替えるアリス。一体どんな珍しい物が有るかと楽しみにしてきたのだが……。
「随分活気がないな」
「――ああ、こっちもか」
「何だ、貴様にも心当たりがあるのか?」
「まあね。情報を集めればすぐに分かるよ」
ルカの怒った表情に嫌な予感がしつつも、一緒に話を聞いていくと、この事態は魔物が起こした嵐が原因だそうだ。屋台で売っていた焼き魚を両手に持ってあぐあぐさせつつも、アリスの表情はあまり良くない。
「……他国の名産の物も沢山有ると書いてあったのだがな……」
「船が止まっちゃったら、そりゃ他国の物も手に入らないよ。去年からイリアスヴィルに巡礼に来る人もイリアスヴィルにやってくる人も殆どいなくなったって話もこういう理由だったんだ……」
目につく通りに通行人は少なく、戸締まりをされた店も多い。雨がしのげる場所には浮浪者が座り込み、港では屈強な船乗り達が揃って釣り糸を垂らしている有様だ。とても貧しくて危険な街という印象を見るものに与えてしまう。
「こんな事をしているのは……やっぱりアルマエルマ?」
向こうではイリアス様がそんな予測をしていたので、恐らくモリガンがいないこちら側では……。
「うむ。勇者と名乗る輩共が魔物に危害を加えると言うので、その勇者を生み出さないために阻止していると言うのが奴の主張だが……」
人間に与えている被害をアリスは初めてこの目で見たのだろう。腕を組んで唸っている。
「――こっちの世界の勇者って、そんなに魔物に被害を与えてるの?」
「イリアスの威光を傘に来て、魔物を虐げている、被害が無視出来ぬと言うのがアルマエルマやらグランベリアの主張だな」
「そっか……」
自分は、人と魔物が共存する世界から来た。魔物を虐げている奴などいたら人からも魔物からも総スカンを食らうので、そんな事をする奴らはそれこそ賊か狂信的なイリアス教信者程度しか居なかったのだが……こちらは、魔物を傷つけ、更に人にまで迷惑をかけているのだろうか。
「でも……それを言うならアルマエルマだってやりすぎだよ。ほとんどの人は平和に暮らしたいだけで、悪いことをしているのは一部だけなんだ。これじゃあ魔物には悪い奴がいるから、一切関わるななんて言う人達と同じだよ……」
ルカとアリスは、奇しくも同じ話を思い出す。先程情報を集めていた時、一人の子供が魔物に向けた憎悪。船がずっと入港出来なく、彼の父親の店は潰れてしまい貧しい暮らしを強いられている。幼い頃からこんな体験をすれば、大きくなった時はまた四天王の二人が言う魔物を襲う勇者を生み出してしまうのでは無いだろうか。そして、そんな事をやって行き着く先は――
「余は、本来ならば貴様を止めねばならぬのだろうが……」
「……僕だって、本来はアリスと戦わなきゃいけないんだろうけど……」
そんなのは嫌だというのは共通の思いだろう。
「とにかく、僕はこの人達を救うよ、アリス。……少なくとも、こんなのは絶対に間違ってる」
「……余も、魔物に暴虐を働く人間が居たら止めるぞ」
「そんな奴は僕にとっても敵さ。その時は、手伝うよ」
「…………裏切り者扱いされても知らんぞ、ドアホめ」
問題は山積みで、答えなんて出せないけれど、それでも目の前に困ってる人がいる。今動く理由はそれだけで十分だと、ルカはいつの間にやらアミラから場所を聞いた秘宝の洞窟へ向かうのだった。
「む……やけに狐の匂いがするな」
朝一番で洞窟に踏み込むなり、アリスが鼻を鳴らす。
「あいかわらず狐のことになると敏感だね……」
向こうでもよくイジメていたなぁと呆れてしまう。
「向こうと違って結構整ってるなあ。おまけに罠も結構有るみたいだし」
色々と細かい違いに感心してしまうと同時に、向こうの知識に頼りすぎてもいけないと気を引き締める。
「しかし、これだけ人が死んでるとなると幽霊とか出そうだな」
「ゆ、幽霊……!?」
向こうだと幽霊まで仲間になったけどと思っていると、アリスがピッタリくっついてきた。どうやらおばけが怖いのも一緒らしい。
「だ、大丈夫だよ。多分ここに幽霊は居ないから……って、なんか横切った」
「ひぃっ!?」
ついに尻尾まで巻きつけてきた――動けないなら逆に幽霊に対処できない気がしないでもないと思ったが、幽霊でないと分かると途端に離れた。
「い、いいか、さっさと片付けろよ! 絶対だぞ!」
やれやれと見送ると、曲がり角からこっそり伺ってる姿が見えた。耳が出てバレバレである。
「ど、どうしよう……たまも様とはぐれちゃうし、人間まで来ちゃってるし……」
そういえば向こうの世界でも七尾と一緒に来たのだったか。それではぐれちゃうとはやっぱり向こうと同じで抜けちゃってるところが有る様だ。じーと見ると、一度全部引っ込めた後、恐る恐る出てきた。
「えーと、どうしたの?」
「こ、ここから先に何の用!?」
「お宝探しだね」
海神の鈴も勿論欲しいのだが、この先の旅の資金も欲しい。何せ既に旅の資金がカツカツなのだ。途中途中寄って行く街やら村やらで珍しい薬草を売っても追いつかないというか稼いだ端から食べ物に変わってアリスの胃に直行するのである。
「だ、ダメだよ! 人間に海神の鈴は渡すなって言われてるんだから! ここは通さないよ!」
「言われてる、って……誰に?」
分かってるけど一応聞いてみる。
「ひ、ひみつ!」
「さっき言ってた、たまも様っていう奴?」
「あうう……」
涙目でうずくまって頭を抱えたのでどうやら間違いないらしい。自分が最初に出会ったたまもは何やら平行世界のコピーだかなんだかと訳のわからない存在の様だったが、こちらは本物だろう。
「まあ、戦うつもりは無いし話し合いで済むならそっちの方がいいし通してほしいんだけど……」
「ダメだよ! どうしても通りたいならあたしと勝負だぁ!」
妖狐が現れた!
「あんまり乱暴にしたくないんだけど……」
ルカの攻撃。剣の鞘でペチンと頭を叩いた
「ふぎゃんっ!? や、やったなぁ……! なら、分身の術だぁ!」
途端に分身を2体出現させ、3つの全く同じ姿が同時に並ぶが――
「ふっふっふ、すごいでしょ! どれが本物か分かるかな……?」
表情が1匹しか変わってないのでバレバレである。このまま偽物を叩いてもいいのだが……。
「うわー、分からないなぁ。じゃあ全部叩けばいいよね?」
「へ?」
ルカは烈風剣を(手加減して)放った! 妖狐に53のダメージ!
「ふぎゃんっ!?」
妖狐をやっつけた! 280ポイントの経験値を得た!
「ふ、ふぇぇぇぇ……」
頭を抑えて泣いてしまった妖狐。ミミックやらクモ娘やらがいるこの洞窟で封印するのも危険だし……と思って手加減したけどそれでもやっぱり痛いらしい。
「ほ、ほらこれあげるから泣き止んで……?」
とおもむろに予め用意しておいたいなりずしをあげると、ぱぁぁっと表情が明るくなってしっぽを振りつつ食べ出した。「こ、こんなに美味しいの初めてかも!」と言ってもらえると料理人冥利に尽きる。
「あ、ありがとう……あんた、いい奴なんだね!」
「まあ、うん。僕は魔物と積極的に戦いたいわけじゃないからね」
「ほかのきつねを見てもイジメない?」
「イジメないイジメない」
「そっか……じゃあ通してあげる!」
いや僕が勝ったんだから好きにするけどとか突っ込まないのは優しさである。それじゃあと先へ進むと、後ろからぴょこぴょこ付いてきた。どうやら懐かれてしまったようだ。先人がトラップを潰した道を楽々通って暫くすると……
「……獲物……人と狐……」
メーダ娘が現れた!
捕食するつもり100%の魔物が現れた。
「ひゃあああっ!? 食べないでえっ!?」
「……お腹減った……」
どうやら交渉の余地は無いらしい。
「風のように……突くっ!」
ルカの疾風突き! メーダ娘に85322のダメージ!
メーダ娘をやっつけた! 320ポイントの経験値を得た!
「やれやれ……魔物同士でも殺し合ったり捕食したりは当然同じか……大丈夫?」
「う、うん。ありがと……あんた、とっても強いんだね? し、死んでない?」
ルカの体に隠れつつ、恐る恐るフナムシに姿を変えたメーダ娘を覗き込んでいる。
「大丈夫、封印しただけだよ。その内元の姿に戻れるさ」
「そ、そうなんだ……そんなおっかない剣だから、呪われて苦しみながら死んじゃうんじゃないかって……」
「……」
いやまあ確かに、そう思われても仕方ない見た目だが。
「ともかく、危険な魔物も多そうだから気をつけて「きゃああああああっ!?」っ!?」
「こ、この声は……かむろちゃんっ!?」
ルカにも聞き覚えのある声が洞窟に響くと、妖狐は危険も顧みずにダダダダダッと声のした方向に走り……「ふぇえええええっ!?」とまた一つ悲鳴が増えた。
慌ててルカが追いつくと、奥ではかむろ二尾が蜘蛛の巣に引っかかり、その手前で妖狐が同じ様に引っかかっていた。
「あははははっ、今日は獲物が2匹もと思ったら人間まで♪ ついてる~♪ 精液を搾り取ってじっくりいたぶってあげるわ……」
クモ娘が現れた!
虫系の魔物は肉食が多いが、蜘蛛族は中でも特に凶暴な魔物が多い。何せ同族内や友人ですら捕食する事も有る程だ。
「た、助けてぇ……!」「い、いやぁ、七尾様、たまも様助けて下さい……!」
弱肉強食は間違いなく一種の世の理。むやみに破るのも――と思いつつ、流石に目の前で少女が食い殺されるのは見たくない。
「ねえ、ソーセージあげるから見逃してくれない?」
一応好物の肉類を代価に交渉を試みるが……
「嫌よ。あんたの方がよっぽど美味しそうだし。まあ、おやつ代わりにはなりそうだし、あんたを食べた後にでも頂くわ♪」
獲物が増えた程度にしか思ってもらえなかった様だ。はぁ、とため息をつくと、そのままおもむろにエンジェルハイロウを抜いた。
「散るは桜花、舞うは夢幻……」
ルカは闇の刀舞奥義を繰り出した! クモ娘や蜘蛛の巣に闇の斬撃が押し寄せる!
「な、なんなのこの強さ……!?」
クモ娘をやっつけた! 350ポイントの経験値を得た!
「やれやれ……大丈夫?」
「あ、ありがと……」「ありがとうございます」
怖かったのか、怯えながらお礼を言う妖狐と、震えつつも深々とお辞儀をしてくるかむろ二尾。二人共向こうの世界では長い付き合いだ。どうしても情は移っていてよかったと安堵してしまう。とりあえず二人を元気づけるために油揚げを渡すと、二人四本の尻尾がフリフリ振られて喜んで食べ始めた。他にも危険な魔物もいそうだしという事で後ろに二人従えつつ洞窟を探索していくと小部屋の行き止まりにどう考えても怪しい宝箱。
「あれは……」「多分……」
罠だろうなあと警戒している二人だが、ルカは何の躊躇も見せずに宝箱を開ける。すると中身はミミック娘で、襲いかかってきたと思ったらすぐに引っ込んでしまった。
「ああ、ごめんね。邪魔しないからすぐに帰るよ」
「ダメよ……私を開けたんだからちゃんと食べられていきなさい……」
どうやら背中を見せたら一飲みに、攻撃してきたらカウンターを仕掛けるようだ。普通の戦士相手ならばそれで何とかなるのだろうが残念眼の前の勇者はとんでもない見習い詐欺勇者である。
「それじゃあ仕方ない……」
侍の刀技の居合の要領でおもむろにエンジェルハイロウを一瞬で抜刀し振り下ろすと、そのあまりの速さにミミック娘は抵抗どころか反応すらできず封印されてしまう。雑に抜いたのに全く視認できない速度に目を丸くする後ろの二人。
「ひ、ひどい……」
といいつつ小さい宝箱な姿に封印されてしまうミミック娘。
「な、何で開けたんですか?」
あんな見え見えの罠を何故? とかむろが聞くと
「えっ、結構ああいう宝箱にお宝入ってたよ?」
「え、ええっ……?」「??????」
と予想もつかない答えが帰ってきた。二人からは怪しさ満点でも、向こうの世界のダンジョンにはお宝も多く有ったので、感覚が完全にズレてしまっている様だ。だが実際幾つか宝箱を開けるとお宝も入っていたのだから二人にとっては軽くカルチャーショックであった。無論外れであるミミック娘は全て叩きのめされたが。
そして最奥へ近付くと、自分もよく知った気配がした。後ろの二人は、恐る恐ると言った様子で気配の先を見る。
「どうも。私は七尾と申します……ところで一つお尋ねしたいのですが、その後ろの子たちは?」
「他の魔物に食べられそうだったんで助けてあげました」
「す、すみません……」「あぶらあげといなりずしも貰えたよ! 七尾様! とっても美味しかったよ!」
「……私達の教え子がお世話になった様で助かりましたが、主命によりお通しする事が出来ません。どうかお引取りを」
助けたからか、友好的な様だがそれでも譲れないものは有るようだ。
「僕は僕で手に入れなきゃならない理由が有るからさ……通してくれないかな? 通してくれたらあぶらあげといなりずしをあげるからさ」
「……………………ダメです。通せません。どうしても通るなら私を倒してからいきなさい!」
たっぷり10秒は悩んでからこちらへ襲いかかってくる七尾。初めて出会った時は仲間たちと総掛かりでも、とても太刀打ちできなかった相手だが――
「こっちもあんまり手荒なことはしたくないんだけど……ね!」
今は違う。自分一人でも圧倒できる程に成長したのだ。迫ってくる7本の尾による、間断のない同時攻撃。だが、それはもうルカには届かない。
「仰ぎて見るは七極の星……天地に瞬け、聖刃七星天!」
カスタムソードと、エンジェルハイロウ。その2本の剣による7つの斬撃が7本の尾を全て叩き伏せる。表情が驚愕に染まり、隙が出来たその一瞬に、エンジェルハイロウで瞬剣・疾風迅雷を叩き込む。
「バカな、私がただの一撃で……」
封印までは行かないまでも、戦闘不能に追い込まれてしまった。
「は、はわわわわわわっ、七尾様、大丈夫っ!?」「そんな、七尾様があっという間に……」
後ろで慌てる二人と、ダメージを受け横に退く七尾。暫くは戦えないだろう。さて、次はとルカが思考を巡らせる前に、後ろの扉き、九本の尾を持つ狐が姿を表した。
「ふむ、よもや七尾が負ける程の相手がこんな所にいるとはのう」
体の大きさは妖狐とどっこいどっこいなのに、身に纏う魔力はまさしく桁違い。
「すみません、たまも様……私では力が及ばず……」
「よいよい、こんな所にお主が敵わぬ相手がいるほうが計算違いなのじゃ。気に病むでない。それにしてもお主が例のルカか。七尾を手加減した上で一蹴するとは、確かにグランベリアが気に入るだけはあるわい」
「グランベリアが? もう話しちゃってるの?」
「おう、それはそれは嬉しそうにな! まあ、アルマエルマの奴には話しておらんかったが……余程お主を取られたくないのかのう?」
とクスクス笑いながらちょこちょことルカに近付いて、周囲をくるくると周りくんかくんかと匂いを嗅いできた。
「おおお、これは美味そうなあぶらあげといなりずしの匂いじゃ! 辛抱たまらぬぞ!」
「ちょっ!?」
そして好物の香りを感じとるやルカに抱きついて体を弄ってきた。触り方が妙にエロい。
「きつねとかむろにも渡したのじゃろう? ほれほれ、ケチケチするでない! もしくれたのならそれ相応の礼をしてやるのじゃが……」と言いつつわさわさとルカの感じやすい所を触ってくる。正直尻尾のもふもふも合わせて相当気持ちよくて堕ちちゃいそうなので慌てて飛び退いた。
「わ、分かった! じゃあその手に持ってる海神の鈴と交換で!?」
流石は六祖、このままでは堕とされてしまいそうだと慌てて交換条件を出すと、ぷぅと頬を膨らませるたまも。
「むぅ、閨でじっくり可愛がっても良かったのに……欲が無い奴じゃのう。まあよい、ほれ、これをやるからとっととよこすのじゃ!」
と、ルカに海神の鈴を放り投げてきた。それでいいのか四天王と突っ込みたかったが、ごそごそと沢山のあぶらあげといなりずしを渡すと、五人で輪になって早速食べ始めて……って、五人?
「こりゃ! 魔王様! いきなりやってきてうちの分のいなりずしを奪うでない!」
「やかましい! さっきからいい香りを漂わせ続けられて余ももう限界なのだ! お預けされた分はたっぷりと頂くぞ!」
「それなら交換条件じゃ! ルカを一晩うちに貸すのじゃ!」
「それもダメだ! あんな美味い精を他に渡せるか! 余に男を絞る楽しみを教えなかったんだぞ!24時間365日毎食あの精は余の物だ!」
うーん醜い争いだ。というかナチュラルに僕を景品にするのを止めてくれというかそんなに絞られたら僕死ぬよねと突っ込みたかったが、多分というか確実に聞いてはくれないだろう。
「は、はわわわわ……」「こ、これが魔王様……?」「ああ、なんと情けない……」
そしてちゃっかり安全圏であむあむ食べてる狐集団。まあ平和だからいいだろうとついでにお茶も淹れて魔物三匹と勇者一人、のんびり昼食タイムを堪能する。魔王と四天王の殴り合いは中々に戦闘の参考になったのだが流石に洞窟も崩れそうなのでおかわりを作り出すルカ。いい香りを漂わせたら喧嘩は止まったのだが取り分の分配でまた殴り合いが始まりかけたのは御愛嬌と言ったところか。
「うむ、実に美味しかったのじゃ。うちの子たちも世話になった様だし、これはその内礼をせねばのう」
「うん、どうせまた会うだろうしその時で良いよ。……それは別として、ちょっと二人だけで話せる?」
何だか後ろのアリスの視線が凄く怖いが、スルースルー。目の前の相手からも色々と話を聞いておかねばなるまい。
「なんじゃ? やっぱり儂といいことがしたいのか? それなら特別に相手をしてやっても「ち、違うよっ!?」なんじゃ、つれないのう……」
と言いつつも、二人で宝物庫に入る。扉も閉めると、すかさずたまもが結界を張った。
「それで、うちと二人っきりで話したいこととは何じゃ? 天使殿?」
すぅ、と目が細くなる。まるい空気から一転、獣の放つ鋭い視線がルカを射抜く。
「まあ、少し話すと長くなるんだけど――」
「平行世界から来たルシフィナの息子……!?」
流石にあまりにも予想外過ぎてびっくりの様だ。ガビーン!と擬音が付きそうな表情で本気で驚いているのが伝わってくる。そして幾らかの冷や汗も。――母さん、一体聖魔大戦時代に何をしたのさ……
「ええと、それじゃあ急に住民全てが失踪した村とか、伝説の三淫魔とか、たまもの知らない熾天使とか、太古の大妖魔たちとか、アリスフィーズ17世なんかはたまもも知らないんだね?」
「うむ、狐の情報網に何一つ引っかかっておらんのう。黒のアリスを名乗る不届き者の噂は幾らか入っておるのじゃが」
「……それ、多分本物だよ」
「……道理でウチらも察知出来ない訳じゃの」
厄介な問題が出来たとため息をつく二人。こちらの世界でも問題は山積みだ。
「それで、お主はこれからどうするのじゃ?」
「世界を巡って人や魔物の問題を解決しつつ、元の世界に帰る方法を探して、ついでにイリアス様を説得できれば良いなって」
その言葉に、またすっと目が細まり、敵意にも近い感情を感じる。
「……ルカよ、貴様、あのイリアスをどうにか出来るとでも?」
だが、そんな圧にもルカは全く動じることは無い。
「人だって魔物だって、それに……神様だってきっと変われるよ。まず、そもそもそれを言い出したらたまもからしてどうなのさ?」
「うぐぅ!?」
「いやあ一度並行世界の大きい玉藻と戦ったことが有るけど前口上が凄かったね……」
「そ、そんなにかのぅ?」
確かに自分も今は相当のまんまるもふもふだが、六祖時代はそれはもう……
腕を組み、上を見たり下を見たり、くるくる回って暫く考え込み――
「……分かった。お主はお主の信じる通りにやってみるがいい。どの道、口惜しい事に今の儂らが総力を結集したところでイリアスには敵わんしのう……。それと、魔王様を頼む。大事に育てた分、箱入りの世間知らずになってしまったのじゃ」
「任せといて。旅の仲間だし、絶対に悪いようにはしないよ」
昔は自分も中々の田舎者だった分、アリスの優位に立てるのか嬉しそうにドヤ顔で答えるルカ。
「うむうむ、頼もしいのう。それじゃあ、うちの子たちを助けてもらった分も含めてご褒美をあげるのじゃ! ほれ、うちの尻尾は極上じゃぞ?」
と、つやつやもふもふふさふさの尻尾をルカに差し出す。エッチな目的では無いのだ。ルカもその誘惑に抗えず「じゃ、じゃあちょっとだけ……」と、尻尾に埋もれてしまった。
「ふ、ふぁぁああああああああああああああああああ……」
もふもふふさふさの尻尾を手に取り、掴み、抱きつき、尻尾の中で転がってたっぷり堪能する。流石は九尾の狐の尻尾。あっという間にルカもそのもふもふの虜になってしまった。
「ふふふ、かーいーのぅ♪ 魔王様の手前我慢するつもりじゃったが、流石に辛抱たまらなくなってきたのじゃ。それじゃあ、今度はうちも楽しむのじゃ♪」
「へ?」
と、いつの間にかしゅるしゅると四肢を尻尾に巻き取られた。どうやら脱出できそうに無さそうだ。となればルカに出来ることは唯一つ。
「や、優しくして?」
とお願いする事だけであった。
「にょほほほほほほほ♪ 勿論なのじゃ♪」
結果はもはや言うまでもないのだが散々にアヒらされてしまうルカさんであった。あひぃぃぃぃ!と何時もの悲鳴を上げつつも結界のお陰で声は漏れない。なお、話が長いと我慢ができず結界を殴り壊して突入してきたアリスと久々の先ほどとは比べ物にならないガチンコの殴り合いに発展して洞窟が崩れそうになったのはご愛嬌である。
好きで二次創作を書いているので好きなキャラは優先的に出して書いていきたいと思っています。おさかな海賊団とかがっつり絡ませてもいいよね!
そしてこのルカさんはぱらルカさんなのでアリス以外にもアヒらされてしまうのです……
1話の文字数は
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3000-5000字でいいや
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長くても良いよ
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筆者が書きやすい可変式で