何分経ったか、私はもう横っ腹に大きな切り口が開いているし、足の指の数も数本減っている。……いや、今ちょうど左腕を飛ばされたから左腕欠損も追加か。
指という、無ければそれだけで歩行が困難になるものに、普段はあるはずの左腕も消えてバランスが悪すぎる。結果、普段無意識にバランスをとるものを、意識的にしなければ今にも倒れてしまいそうだ。
対してサンラクちゃんはさっき胸を殴られただけ。ほぼ無傷である。
このゲームの上位陣というものはこういうものだ。
そもそも、私以外変人揃いのギリシャ文字サーバー民の中でもダントツにわけがわからない存在が彼ら。
このゲームにかける熱が違いすぎる。
彼女は依然として余裕を持って行動をしており、煽りもしっかりと飛ばしてくる。きっといつでも私を仕留められるのだろう、煽りを混じえてナイフと拳銃で少しずつ嬲ってくる。そういう趣味なのか、なにか目的があるのかは甚だ疑問ではあるが、なんかこう、愛しい相手にそういう扱いを受けるとゾクゾク来るものがある。痛めつけられる度、つま先から脳天へ駆け抜ける何かが……いや、まてまて、待て、ウェイトプリーズ。妙な扉を
四十人の盗賊の財宝達が被虐趣味とはアリババも困惑案件である。
兎にも角にも彼女は余裕を持っているのに対して、私の勝ち筋はあまりにも少ない。
水も、武器も、地形も、何もかもがこの森林では私の味方をしていない。
土地が味方していないのなら如何にすればよろしいか、簡単だ、別の土地へ移動すればいい。
だからこそ私は彼女を誘導しなければならないのだ、バレないように、気付かれぬように、気取られぬように。
接近戦が不利になるというのに彼女に近付いて、自分が少し後退していると錯覚させながら、ナイフと銃身で打ち合って撃ち合って殴りあって。
さながら仲良く踊る男女の様に、いやこの場合は女同士での踊りだろうか、いや、サンラクちゃんのリアル性別は恐らく男だ。じゃあ、男女で合っているか。そしてついでに、リアルのサンラクちゃんを認めるならば、私は百合では無いという免罪符になろう、例え惚れたのが目の前の
以上自己正当化完了。
「ほらもっと、もっと踊り狂おうよ……銃なんか捨ててさぁ! いっぱいいーっぱい、あつくあつーく朝まで激しく、踊ろうぜ!」
「朝までって現在時刻まだ午後七時にもなってないことに気付いた方がいいんじゃないか
「ああ、そっかまだ踊りを受けてくれてなかったのか!! その割には楽しく踊り合っててくれてたけどねぇ……会えてここは外見年齢が年上として、相応の態度をとってあげるよ……」
そう言って私は一歩下がり、そっと、さながらエスコートするように手を差し出す。
「
「
「……?」
私の手に手を重ねた彼女は、銃を構えることも無く聞いてくる。
一体私は何を忘れているのだろうかと、少し首を傾げた。
「華々しいダンスパーティーに参加する暗殺者には、必ず標的がいるものだろ? そして
その言葉と共にあわせた手の平に小さな痛みとそこを起点に痺れが回る。
「……っ!」
思わず一気に身を引いて手を覗くとそこには、奥深くに刺さった一本の針があった。痛みは大して感じない所を見るに。
「……ははっ麻痺毒か! 物騒で素敵なサプライズプレゼントをありがとう、お返しに私も麻痺をプレゼントしてあげる、よっ!」
私の血液が付着した毒針を引き抜いて投擲、しかし麻痺で鈍った体で避けられて、かすりもせずに、彼女の後ろへ消えていくだけだ。
「……もー女の子からのプレゼントを受け取らないとかいけず、でもまあ、小夜曲をBGMに踊ってくれてるからいいよ!!」
「どちらかってっと、これは激しいポップスじゃねぇかな!」
本当によく言う、手加減してると言うのに激しいポップスと表現するとはなんともこちらの決死さを理解していらっしゃる。愛しい人のそんなところも好きではあるが、切り刻む前にこちらが料理されてしまいそうだ。
しかしまた、ハンデが増えてしまった。明らかに相手のが強いのに、弱い方がハンデを背負うとはこれ如何に。
仕方ない、バレることを覚悟で一気に後退するしかないかと、足に力を入れて一気に後退しつつ拳銃を乱射。
カチンカチンと引き金が虚しい音を響かせるまで放って、回転式の薬室事交換、再度放つ。
彼女は一瞬今までとは違った稚拙な動きに一瞬戸惑いを見せて、納得したように私の策略に乗ってきた。
深い笑みを浮かべて、その策で殺せるものなら殺してみろ、誘導しきれるならして見せろと。
その挑戦、受けて立つ。
「ははっ……!」
幸い彼女は私の目標の場所が水辺の岩場かそれに準ずる所だと思ってることだろう。
だが、違う、違うのだ。
実はもう目前の森の中だ。
脚に力を入れて脚力のままに弾けて勢いよく後退。
背後の少し窪んだ土地に、予想する所定の位置に私は立てた。
彼女が銃を構えるが意に返さず私は適当な場所にナイフを投げる。
すると、ツタにカモフラージュされていた縄が切れて彼女の上から石の礫が降り注ぐ。
「なっ……チィ!!」
少し驚きはしたが、直ぐに銃を下ろして前進したあたり見事である。勘が冴え渡っていると言うべきか、なにも石礫だけがトラップではないことに、ここが目的の場所だということに素早く気付いてからの反応が素晴らしい。
彼女が前後左右どこへ逃れても罠は仕掛けられている。だからこそ見えていない方に行くのは悪手だ。故に前に来る。もっと危険な罠があると勘が叫んでいても。
……もしかしたら、前に来たのは、策で殺して見せろといった手前、それを前に下がるのはという矜持もあるのかもしれない。
何はともあれ、発火寸前の焚き火に虫が飛び込んできてくれたのだ。嬉しい限りである。
そうして私はある一つの紐を切った。
鳴り響く破裂音。
それはサンラクちゃんのちょうど真下から発生したもので、仕掛けられた石と共に土砂が飛ぶ。
つまり、罠の起動先は爆弾である。
即座に下がってに後退した彼女は一体どんな反射神経をしているのか理解できないが、やっとこさで傷を付けられたのだ。しかも足に。この程度で彼女が止まるとは微塵も思わないが、少しは行動が阻害されるはずである。
「ん? これだけか? いやもっとあんだろ、顔が喜色よりも、まだ楽しみを待つ子供の顔をしてるぜ?」
「ははっ分かっちゃう? 分かっちゃうかぁ……ねーえ、これ、どうやって逃げる?」
どのように逃げるのか、私は彼女がこれから
どどどど、と轟音を立てて傾斜が上の方、山の方から轟音が迫ってきた。
「…………は?」
さすがの彼女も動きが止まる。
そうだ、そりゃそうだ。
まさかこの地面の窪み凹みが人工的にできたもので、しかもそれが濁流を、決壊した湖の鉄砲水に指揮性を持たせるものだなんて、さっきの爆発が、湖の壁を壊す爆弾の音を誤魔化すためのものだなんてさすがに思いもよらなかっただろう。
「はははっ!」
予定される川幅は広い、だが、彼女は、やっぱりいつも予想外の楽しいことをしてくれる。
彼女も同じく取り出したのは爆弾だ。何の変哲もない、ただ爆風を巻き起こすことを目的としたような。
「てやぁぁあああああ……っ!!」
勢いよく投擲されたそれが私との間で破裂する。
強力な強さのそれに思わず目を閉じる。そして私は指揮性を持たない全方位へ広がる爆風に吹き飛ばされて幸いにも川の岸となる予定の……いや、もう濁流が流れているから、ここは正しく岸だ、に吹き飛ばされる。
「うっせやろ?」
爆風に乗って逃げる。
それを正しくそのままの意味で実行する人間なんてそうそういやしないだろう。かくいう私も、こんなことは流石の彼女もしやしないだろうという予想の上に立てた作戦が無数に存在する。
それが一気に瓦解した……だと言うのに嬉しいのは、何故かはわかりきっている。
だが、まあ、こんな回避手段、彼女も一生でもう使う機会など滅多にないだろう。何故なら、あれは、前、どっかのサーバーの有名人と彼女が戦っていた時に見た異常な判断能力。一回しか見た事がないが、恐らく、アクション映画とかのゾーンとかいうやつである。思考の超加速とでも言おうか。そこから最適解を瞬間的に導き出して意図的に行動している絶技。
私の総被害の確認だ。
爆風で吹き飛ばされて、残っていた右腕には確実にヒビが入った。傷もまた増えている今度は深いものも沢山だ。だが、それだけだ。それだけである。
損壊は異様に少ないが、受け身と運が味方してくれたのか。
まあいいか、関係無い。
決着を、彼岸にいる彼女へ決着を付けに行かねば。
爆破したのは小さな湖、もう鉄砲水も収まって勢いを弱めてきている。これくらいなら、私でも、
ほぼ両腕使い物にならないレベルだが行けるという確信を持って川を渡る。膝まで届く強めの流れに逆らわず、斜め移動で、ゆっくりゆっくり向こうの攻撃を警戒しながら。
何も無く無事に渡り切ってしまった。
彼女が自分の回避で死んだなどとは考えられないが何かあったのだろうか。
とにかく早く事実を確認せねば。
ブレる重心を制御して前へ前へ、彼女が降り立ったであろうで、それを見た。
「……百舌の早贄……?」
「うん」
見つけた、見つけてしまったのは、
比較的低い、私が手を伸ばせば銃口を額に当てられそうな高さだ。
私は勝ち誇った笑みを浮かべる。彼女は悔しそうに顔を歪めている。
これは、もしや。
「これは……もしかして? どうだった? 私の踊りは……」
「踊りの相手のミスを狙って足技してくるのを評価しろというのは酷だと思わない? ……まあ、それでも評価しろって言うなら……そうだな」
すっと先程までの悔しそうな表情を、飛びっきりの笑みに変えて彼女は、サンラクちゃんは言った。
「
その言葉と共に本日三度目の大きな破裂音。
背後からの爆風と激痛。
ああ、ああ、なるほどなるほど。
そうだ、確かにそうだ。なぜ私は、あの場面、あの時、回避に爆風を使った彼女が、まだ爆弾を所持しているという可能性を考えなかったのか。
金属片を含んだ、殺生性の高いものを所持している可能性を考えなかったのか。
「盾役ありがとう!」
にっこり笑顔で彼女は笑う。
皮肉にも、彼女を仕留めるため、相当近くまで迫っていた私は、私の背後の爆弾の盾となり、おかげで彼女には一切被害が及んでいない。
枝に刺された状態の彼女は爆弾を投げる仕草をしていなかったから恐らく遅延を含んだ爆弾だろうか、いやいつ設置したのか、そんな推測も最早意味を成さない。
例の爆発で足も腕もやられた。生えていても動かせやしない。つまりただの無用の産物である。
対して彼女はわざと枝に刺さっていたのか、もちろん左腕は使い物にならないが、枝からはいとも容易く抜け出て見せる。
これはもう、なんというべきか。
「あーあ、完敗だなぁ……」
欲をいえばもっと踊りたかったが、もう無理だ。この戦いは諦めるしかないだろう。
だが、これはゲームである。リスポーンすればまた何度でも争える。その時を楽しみに、また腕を磨こう。今度こそ、殺せるように。
手加減なしの彼女との闘争ができるように。
「楽しい踊りももう終わりかぁ……うー殺せー……」
「ん? いや、踊りは終わったけどまだ用事が残ってるだろ?」
「え?」
どういうことだろうか。一個一個思考を巡らせて過去を振り返る。
なにか、なにかあっただろうか。
「初めにさ……マグロ解体ショーって言ったじゃん」
「あっ……え?」
そっと、正座をした彼女が私の頭を膝に載せる。
うん……これって。
「膝、膝まく……ら!?」
そんな私の同様も無視して、彼女はゆるりと口を開いた。
どういうことなのか。わけがわからないよという白い生物が目に浮かぶ。
子守唄を、眠れ、眠れと、男性特有の変声期の高い声で、なんとも言えない可愛らしい声で、幼い少女が歌う。唄う。
これはこれはこれはバイノーラルというやつであるのでは。しかも、生声である。ではなぜ。
答えは簡単。
彼女が取り出したナイフにある。
同時に彼女が私に手加減を加えていた理由も理解した。
全てはこれのためだけであった。
うーん……なんだろうか。
生で子守唄を聞きながら解体されるこの状況はどう形容すべきか。
各所が激痛に叫びながらも、しかし幸せボイスに癒される。
どうしてくれようぞ。
まあ、心から彼女が楽しそうであるから良いか。
これはなんとも、なんか……変な扉を開いて……。
しばらくして、やっと体力を全損した私がリスポーン後、目覚めた感情と性癖に困惑する。
あっれぇ……私はマゾではなかったと思うんだけどなぁ……と。
一応この話はこれで完結です。
四話で完結です。だってこれ以上、本編を思いつかないんだもん。
多分番外編は書きます。
最後の最後でマゾ属性付与されたサディストリアル幼女主人公ェ……。