河童に紛れた磯女   作:銀ちゃんというもの

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シャンフロ編である。
それにしてもディプスロさんの口調くそ難くないですかねぇ!?


番外編
あの日の踊りをもう一度


 サンラクはある目的地へ向けて歩いていた。

 

 もちろん、そこはゲームの中であり、ここは孤島(鯖癌)とは遠く、しかしかつての仲間もいる、そんなシャングリラ・フロンティアというタイトルを掲げる一大ゲームである。

 

 かつての孤島ではプレイヤーの良心の呵責を利用するために愛らしい幼女のアバターを用いていたが、この五世紀は先を行くゲームクオリティを誇るゲームでは鳥面を被り、上半身全裸に刺青のような傷を刻み、リアル寄りの可愛らしい喋る兎を連れた男という特徴的すぎる変態、もとい奇人のアバターを操る。

 

 そんな彼の歩く土地は旧大陸。

 数日前のこと、何故か変態(ディープスローター)から呼び出し状(手紙)を貰ったために、本来なら無視したくてたまらないが無視したらしたであとが面倒だと勘が叫ぶので、少し前にたまたま会いそのまま同行する流れとなったサイガ-0(ゼロ)を連れて向かっているのだ。

 

 正直、あの変態の元へサイガ-0(レイ氏)を連れていくのは忍びないという感情が浮かんでくるのも仕方ないことである。

 

 呼び出しの先は、新大陸へ行く前のこと、レイ氏のリアルの実の姉サイガ-100らと闘った闘技場だ。もうこの時点で嫌な予感しかしないと今すぐ回れ右を決めたくなったサンラクだが、それを考えている間に辿り着いてしまった。

 

 ひょこっと闘技場を覗き込めば、サンラクも貪る大赤依の時に嫌という程に記憶させられたこのゲームにおける変態(ディープスローター)の姿。今一瞬、彼女とサンラクの目が合った気もしたが、そんなことは無かったと頭を誤魔化す。

 

 誤魔化し、少し正常になった頭で認識したディープスローターの隣に佇む少女……いや、幼女の姿を見て一瞬動きが止まる。

 

「……どうかしたんですか?」

 

「ああ、いや、なんでもないよ」

 

 突然動きを止めたサンラクは心配そうなサイガ-0の言葉に再び動きを取り戻した。

 

 その幼女は、髪先にかけて黄色く変色していく長い緑髪を揺らして興奮したようにディープスローターへ話しかけている。

 声を聞く限り、ディープスローターのようなリアル技能で声色を変えていない限り、本当に(リアルでも)女性、それもまだサンラクより年下のようで、その子供がディープスローターと共にいるということに不安を怯える。

 主に、奴のせいで妙な影響を受けていないかと、さすがにそこまでしないと信じたくはあるが、ディープスローターは下ネタで一個のゲーム(スペル・クリエイション・オンライン)を滅ぼした元凶である。ディープスローターという人物を知った上で、ミリ単位でも不安を覚えないのは相当な変態か、スペクリのディープスローター側の人間(変態)か、どちらにせよ変態である。

 

 何はともあれ、あの二人の元へと行かなければことは始まらないと思考を切り上げた。

 

 

 

「遅いぜサンラクくぅん。焦らしプレイもいいけどおねーさんは、もっと求め合うのがいいかなぁ?」

 

 サンラクは理性を総動員で、文句を垂れようとする口を抑える。

 こいつに言葉を返していては切りがない、一体この下ネタ知識はどこから湧いて溢れ出てくるのかなどという疑問はもうスペクリ(閉鎖されたサーバー)に置いてきている。

 

「……で、なんの用だ?」

 

「まぁ待ち給えよサンラクくぅん、久しぶりの再会だろぅ? いきなりじゃなくて前座から始めようぜぇ?」

 

「……帰る」

 

「ちょいと待ってくれよ、今回君に用があるのは私じゃないんだぜ?」

 

 怒涛の下ネタによるサイガ-0への申し訳ないさと、サンラクの気分により、割と本気で帰還を宣言し、振り返ろうとしたサンラクが止まる。

 

「さぁ、ハギちゃん……感動の再会だろう? きっと飛びついたって許してくれるさ」

 

「いやいや、ディプスロさん……もう数年前だよ? 私は一片たりとも忘れちゃないが、覚えてくれてるかどうかが問題でしょう?」

 

 すると、ハギと呼ばれたその幼女はくるっと緑の髪を揺らしてサンラクを凝視した。

 

「覚えてるかなぁ……なぁ、サンラク()()()? 昔、あの場所で激しく踊りあった私を。どうかなぁ、ねぇねぇ、どう? 思い出せるかな? 

 

 ……ねぇ、μ-sky?」

 

「はっ激しく!?」

 

 妙な勘違いをしたのだろう声が裏返ったサイガ-0の誤解は後でとかねばならないと、彼がμ-sky(サイレント・キル・幼女)と呼ばれたことよりもそちらの思考を優先したのは、あまりに衝撃が大きすぎたため。

 

 ハギ、そう名の付いたプレイヤーは、記憶に強く刻み着いている。孤島で幾度も衝突してその全てで打ち勝った(サンラク)が、いや彼女(サンラク)がその少女に抱いた感想は二つ、一つ目は『跳弾の化け物』。ファンタジーかのような性格無比な跳弾による狩りを、物理的になんの矛盾もなくこなす、何故γ(ガンマ)鯖にいなかったのかが分からない彼女。κ(カッパ)鯖の水陸の境界を自分の居場所として、その場所に限定して、各鯖の実力で有名になった有名人にすら打ち勝てる技能を持っていた人物。

 

『磯女』ハギ。

 

 磯女の名が使われすぎて、最終的にハギ本人さえ、自分のことをプレイヤーネームを忘れて磯女と名乗ったというお話はさておき、彼女の存在にサンラクが驚いた理由はもうひとつにある。

 

「……お前、今まででよく捕まらなかったな……いやほんとなんで」

 

「はははっ久しぶりだと言うのに初めがそれったーなんとも、酷くないかいサンラクちゃん! 私は擬態する技能もピカイチなのだよ!」

 

 磯女は、感情をロールプレイ(誤魔化している)しているだけで、その実、内心は()()にテンション有頂天なのだ。恒常的に、いつなんどきも。

 如何様な場面であろうとノリに乗ったサンラク並のテンションを内心維持し続けている。

 腕が吹き飛ぼうと眼球ぶち抜かれようとなんだろうと笑顔で楽しむのは鯖癌プレイヤー、とくにギリシャ文字鯖の民全員に共通することだが、こいつは、このプレイヤーは、器用にも閉鎖される鯖癌すらテンション最高潮で嘆いて見せた。それはもう心底楽しそうに心底嘆くという矛盾を体現したそのあり方にはさすがの鯖癌プレイヤーも理解が出来なかった。

 それこそ、常に頭がハイになる物でも飲んでいるのではないだろうか、多くが割とそのように考えてしまった故に、まじで合法のままあのテンション素で構築し続けていたのかという驚愕。

 

「いやはや、ひっどいなぁ……鯖癌プレイヤーはほぼ同じだろう? ゲームで日常化してるからね! 現実でなにかするのもなぁって」

 

 違う、そうじゃない。

 そんな心の言葉は届くはずもなく、磯女の言葉はヒートアップをしていく。

 

「一応聞くけど、そのテンションは高低しねえの?」

 

「絵描きソフトのレイヤーと一緒さ! より上のレイヤーで誤魔化せるし不可視にもできる! レイヤーの可視不可視はVR装置のon/offで切り替わる素敵仕様という! すごいだろう? 羨ましかろう? 

 ねぇ、ねぇねぇ、そんなことより早くっ早く私の要件を始めたいなぁって」

 

 すっ、と構えられた歪な短刀を見て、闘技場(この場所)といいこいつといい、何が目的かは確定した。

 

「この戦い、勝ったら私自己流のライオットブラッドの即効性と増幅効果がある飲み方……複数伝授してあげるよ! こちとら、顔隠し(かおかくし)くんの幼女式強制間隙生成術を見てから、あれにログインしてもスイッチがオンのままなんだ! ゲームでpkに走るのは好きだが、現実のpkは戴けねぇからなぁ……っ! 

 だからさ、久しぶり踊ろうぜ! あの頃みたく、血も肉も骨も出やしねぇけどよ!!」

 

 あのころの弾丸のように放たれたマシンガントーク。それは最後に響いたダッ、と鳴る強く地面を蹴る音(銃声)と共に戦いの火蓋が落とされる合図でもあった。

 

 

 

 

 

「右方の血肉は其を阻む」

 

 駆け出した私は、短刀、いや、()()()()()()を振るって魔法を発動、MPとHPが削れると共に、狭い闘技場に数枚の石の壁が乱立する。

 相変わらずこの魔法はコストが見合わない、しかも新大陸では『右方』を『左方』に、『血肉』を『血羽』に変えないといけないのが非常に面倒臭い。

 

「さぁさぁ! 今ステージに立ってていいのは二人だけだ、師匠もそこの子も下がっときなぁ!」

 

「え? 師匠??」と本気の疑問を漏らした彼女(サンラク)……いや(サンラク)か、は私の技能を覚えているからこそ、とっとと叩き潰さんと、壁を避けてやってきた。

 そして、剣を投げてくる。

 軌道予測の上で、一歩下がることで当たり判定から逃れる。続けてリヴァイアサンで手に入れた実弾を発砲。

 

 放たれた三発の鉛玉は床、壁を跳ねて跳躍したサンラクちゃんに追尾するように迫る。

 しかしそのたまの全てを避けた反射のまま彼は右手を左胸に叩き付けて黒い稲妻を纏う。

 

「ちょっ早……っ!!」

 

 存在は知ってはいたが、体験すると驚くほどの速さでとんでも挙動を繰り返す彼。

 私の短杖は、斬ることで斬撃ダメージを発生させる代わりに耐久が紙だからとてもあの加速度から繰り出される思い一撃など受けられやしない。そもそもステータスが足りない。こちとら純魔である。

 そう判断して自己バフ起動、多重に重ねまくる。

 そうして瞬間的にあげた俊敏で回避に専念する。

 だが、二刀流を避け切るステータスも技能もありはしないので、持てる手札で補うとしよう。

 乱立した壁の位置角度は全て把握している。なので死角へ銃を撃って、サンラクの剣が私に当たりそうになったタイミングで弾丸が剣を弾く。

 

「ああもうっ、楽しいなぁ……!!」

 

 最近はこんな戦いが足りてなかったんだ。

 やはり、現実味はなくても鯖癌プレイヤーとの踊りは、とりわけサンラクちゃんとの踊りは心が踊る。

 

 しかし、このままでは押し切られてしまうので私は切り札を一つ切る。

 今構えている短刀型短杖を投擲、カスダメも避けたいのか後ろに下がった彼を追撃するようにもう一つ、短刀型短杖を投げる。

 

「二本目……!?」

 

 サンラクの連れの子が叫んでいる通り、何もメイン武器の一つ、短刀型の短杖……『吸血牙の短杖』は複数存在する。

 何故か? 

 簡単な事だ、素材になったユニークシナリオ限定の吸血蝙蝠が巨大だったのだ。

 巨躯の持つ牙もこれまた大きく、投擲武器にできるほどに大量生産ができてしまった。

 

 そして、思わぬ一撃、二本目の短杖で少し回避体制がおかしくなったサンラクへ魔法をぶち込む。

 

 使うのは私だが、この魔法を保有しているのはこの吸血牙の短杖。

 左に構えた杖を右腕に突き刺して、腕の上を鞘のように走らせながら切り裂いて刃が腕の先から抜けた(抜刀した)タイミングで赤い刃が前へ飛翔する。

 

「チィッ!」

 

 だが届かない、彼はその状態ですら掠っただけで済んで見せる。

 相変わらずの回避性能だ。本当に楽しくて仕方ない。

 

 だがせっかくの機会だ、存分に活用させてもらう。

 避けてダメージエフェクトの発生する腕の指先を地面へ叩き付けて叫ぶ。

 

「血潮は炸裂する!」

 

 破裂、同時に魔法の効果で地面に付けられてダメージエフェクトが周囲に飛び、赤いポリゴン片をまばらに落とす。

 即席の地雷原完成である。

 

「へいへーい!! いらっしゃいませ近づいてこいよう!! ダンスはもーっと近くでするものだろう?」

 

 飛び散ったポリゴンが消えないことに警戒したのか私の近くに来れないサンラクちゃん。近付かれたら私が圧倒的不利になるので避けるべきだから致し方ないのだが、もっと近寄って踊りたかった。

 

 どんどん私に有利な舞台は出来上がりつつあるのだ。さぁ無様に踊ってくれるなよサンラクちゃ……っ!? 

 

「ぶべら……っ!?」

 

 視界が勢いよく移り変わる。

 

 あまりにも油断しすぎてぶん殴られたのだ。つか、地雷原を飛び越えられたのだ。

 

「糞なんだその跳躍、仮面の通り鳥人ってか……。琵琶湖も易々と飛び越えられそうな性能してんなぁ!!」

 

 ブラインドタッチのユーザーインターフェース操作を使った多数の武器の乱舞を短剣数本でしのぎながら一気に後退する。

 

 あーれれー? さっきまで私に有利な舞台が云々と語ってたのはどこのどいつだろうか。ふぁっきゅー過去の私。

 

 もはや、鳥仮面の奥から聞こえる彼の煽りすら気にする暇のない極度の集中を必須とする状態。

 

 ……切り札を切るか……早すぎるか? いや、切らずして負けたら格好がつかなすぎる。

 

「あぁぁあああっ!! おお……っ!? サンラクちゃん勝っちゃうのか!! あー楽しみだなーバイノーラル解体(あの時の解体ショー)!!」

 

 わざと作ったニチャァとした笑みで高らかに叫ぶ、これになんの意味があるのか、簡単だ。

 

「ぬ゜っ」

 

 サンラクちゃんが奇妙な声を上げて停止する。そう、あの解体は、あの後バイノーラル解体を求めて他鯖からも人が押寄せるような状態になった彼の黒歴史だ。

 黒歴史を刺激されて生まれた一瞬の隙間、これが狙いで、ここで一気に準備を整えなければならない。

 

 純魔の私は接近戦はバフ頼りである。

 だからこそ、この一瞬の隙に大量のバフをかけていく。

 サンラクちゃんの硬直が抜けたあとも、斬り結びながら、畳み掛けるのに足りていなかったバフをかける、かけるかける。

 

 視界にこのままでは衝突は避けられない刃を映した時、最後のバフをかけ終えた。

 

「っ……ぁあ!! ……波は荒波、沼は津を孕んで……」

 

 ようやっと、剣戟の中で詠唱できる程のバフをかけ終え、刃を避けて別種の杖を取り出しながら詠唱開始する。

 この魔法が私の数少ない勝ち筋なので、準備が整って安心……う゛ぇ!? 

 

「晴天流……」

 

「あ、いや待ってその明らかな大わ……」

 

「轟風っ!」

 

「にぃぎゃぁぁああああっ!!」

 

 抜刀術とか羨までしかないそれを解き放ったサンラクちゃん、こっちは詠唱は捨てて全力防御and回避である。一気に地面を蹴って後退、自分の杖を腕に刺して刃を飛ばそうとしたところで……。

 

「杖持ち替えたの忘れてたぁぁああああ!!」

 

 杖の尖った先っぽを突っ指すガバをした私は再走したくてたまらない。タイムマシンはどこだろうか。

 

「らぁっ!」

 

 彼の身に付ける水晶の篭手が迫る。持っていた杖で……ダメだ折れる。咄嗟にはねて回避した私は完璧に無防備な空中にある訳で、要するに絶体絶命の大ピンチだ。

 

 飛びかかってきたサンラクちゃんの剣を身を捻って躱す。正直無理な体制すぎて切っ先が掠った。

 ひねった勢いで杖を振り抜いてぶん殴ろうとすると空中を足場に跳ねて避けられる。もちろん私は空中ジャンプできるスキルなぞ持っておらず、対応できやしないのだ。

 

 振り向いた勢いで仰向けになったまま、背から地面に落下した私は上空から投げられた剣を腕でバネように転がることで避けて………………聴覚が着地の音を捉え、触覚が私の首に剣が添えられた事実を伝えてくる。

 

「あー……うん、ステータス的にも無理があったわ……楽しかったよ」

 

「ライオットブラットの件忘れなんなよー」

 

 一気に体力を削られ……私は、砕けた。

 やはり届かないものは届かないらしい、少し悔しいがまた鍛え直しだ。

 

 リスポーン後、僅かに見えたサンラクへ話しかける前にフレンド申請を送る。

 

「次は例のTSを見せてね、色々教えてあげるよ!」と言うメッセージを添えて。

 

 二回くらい却下された。違うんです、ディープスローター(師匠)の下ネタに感化されただけで私は何も悪くは……。




尚、1分後に主人公ちゃんは「辻斬り・狂想曲:オンライン」という和気藹々としたゲームをおすすめされる模様。

文字書き力の不足で書きたかった部分をかけないという盛大なやらかし。

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