【ラグドス村】には、1人の英雄がいる。
曰く、新たな地の開拓者。
曰く、赤龍を討伐。
曰く、【ラグドス村】の創始者。
そんな彼女でさえ、あの山の頂上からは帰らなかった。あの山は、深部へ入り込む者は決して誰も帰さないのだ。
小さい頃から聞かされてきたお話。
*
心優しい村人がいない。代わりに、ハンターがいる。優しい奴もいれば、野蛮な奴もいる。
…俺は小さい頃、この村に預けられた。俺の親は山の開拓に行き、帰らぬ人となった。
俺を一人前のハンターにまで育てあげてくれた、この村には感謝している。だからこそ、部外者のハンター共には申し訳ないが、出ていって欲しい。
…しかし、村を救うためなので仕方なく受け入れている。
…それでもどこか冷たいところがあるのか、今日まで俺に寄ってくるハンターはいなかった。
別に何とも思っていない。
俺は、この優しい村に恩返しがしたい。
この優しい村を作った英雄のようになりたい。
ただ、それだけだ。
*
翌日、ギルドの召集を受けたハンター達によって編隊が組まれ、山の調査に赴くことになった。どうやら、山頂までくまなく調べあげるらしい。
村人たちがそれだけはやめてくれとギルドに押しかけていたが、追い返されていた。
山頂まで登ろうとした者は、皆帰っていない。だから、山頂まで登るのは観光地といえども、禁止されていた。それを解禁するのだ。死者が出ると言って村人が止めるのも頷ける。
俺の編隊は山に入って少し登った後、歪なティガレックスと出くわした。
顎から牙がいくつも生えており、イビルジョーのようだ。また、前足がとんでもなくでかい。元のティガレックスの二倍はあるだろうか。
俺は歪なナルガクルガにも既に出くわしていたので、今更あまり驚きはしなかった。尤も、俺以外のメンバーは驚いていたが。
そいつを協力して狩ると、またもやナルガクルガのように黄土色の煙を上げて、骨だけになった。今度は、ナルガクルガより耐久力があったのでそれなりに時間がかかった。
*
「なんだ、こいつ…!」
歪なティガレックスを倒した俺の編隊は、既に壊滅。現在、俺は追われている。
*
その数分前。歪なティガレックスの骨を乗り越えて、更に進む。今度は、中腹まできた辺りだろうか。
本来森には居ないはずの、オドガロン通常種と出くわしたのだ。
そして、当然のごとく歪な姿をしていた。こいつがとんでもなく強かった。ナルガクルガ以上の速さ…音速の域に足を踏み入れたかと思うほどの動きでハンター達を凶爪で切り刻んでゆく。
ハンター達は一撃も入れられず、倒れる。
次はお前だ。
真紅の目に睨まれ、身体がすくむ。
全身が尖った鱗になっており、一度触れたら最後、生命を散らすだろう。
勝てないと本能が悟っている。
そうして、俺は逃げた。山を必死に登り、草木の間を進む。しかし、歪なオドガロンは草木を薙ぎ倒しながら追いかけてくる。
*
…どれくらい、走っただろうか。いつの間にか、辺りは真っ白になっており、何も見えない。
背後から追いかけてくる気配は、消えた。
前も後ろも分からぬまま、無闇に歩くのは良くない。だが、ここでじっとしていてはまたさっきの奴に襲われて死ぬだけだ。
「ハァ…ハァ…」
自分の呼吸がうるさい。
とりあえず霧から抜けるために、坂道の上の方へ歩くことにした。
「俺以外の編隊はどうなったのだろうか…。」
恐らく、全滅。
分かりきった答えの返ってこない独り言を呟きながら、歩く。
疲れた。きっと、ここで死ぬのだろう。
「イ、イイエ。ソン、ナ、コトナイ、ワ。」