歩き始めて、どれくらい経っただろうか。
霧…いや、正確には雲を抜けても、歩き続けた。何故だか、疲れは歩く度に消えていった。
*
山頂で見たのは、辺り一面の雲海。とうとう辿り着いてしまった。
あるのは恐怖だけ。そして、誰も助けに来ないかもしれないという絶望感。
(俺に優しくしてくれた村…村人達…)
「ごめんなさい…」
口から溢れるのは、不甲斐ない自分であることの謝罪。そして、号泣する。
「ナラ、イッ、ショ堕、チ、マショ、ウ。」
ガァァァァァ!!!
ばっと振り返ると、さっきの歪なオドガロンが居た。
それは、飛びかかってくる。このまま食べられてしまおうか。
仁王立ちで、全てを受け入れようとする。
一筋の凶爪が胸に刻まれる。
そして、俺は山頂から転げ落ちていった。
*
目覚めたのは、深く暗い、谷だった。陽の光は辛うじて差してくるが、辺りに立ち篭める黄土色の煙のせいで、視界がぼやける。
あんなに高いところから転げ落ちても助かったのは、地面が柔らかったかららしい。
…地面?
痛みで起き上がれないので、手触りで確認する。
それから、手を空にかざして、手についたものを見る。
腐った肉。
見てはいけないものを見てしまったような気がして、吐き気を催す。
ヒタッ…ヒタッ…
足音がする。またモンスターか。今度こそ一思いに殺してくれよと思いながら、目を閉じる。
ペチッ!
頬を叩かれた。目を開くと、そこには裸の女性がいた。
「アナタ、ワタ、シ、イッ、ショ」
片言で上手く聞き取れず、怪訝な顔をする。すると、その女性は困った顔をした後、何かを閃く。
女性が馬乗りになると同時に、胸の痛みが引き、脳が覚醒してゆく。
…裸の女性?
「うわああああああああああ」
もう何もかも見えている。胸は結構出てるし、細いし、髪の毛長いし、って観察している場合じゃない!!
「ウフ、フフフフ、オイ、デ」
…おいで?
こっちに来いということなのだろうか?でも馬乗りされてるしどういうことだ?
思考を巡らしていると、いきなりハグをされた。頭が混乱する。
「アナタ、ワタ、シ、イッ、ショ」
あなた、わたし、一緒。そう言ったのか?
女性の言わんとすることを解釈しようと思考を再び巡らす。
突然キスをされ、舌を絡められる。ふと、意識がプツリと絶たれた。
「ウフフフ、フフフ、ワタ、シノモ、ノ」
*
再び目覚め、体が動かないことを確認した。今度は壁に腐肉で縛られているらしい。異臭は感じなかった。
*
山を歩く度に疲れが取れる。あの時から、彼は既に体が壊れつつあったのだ。
*
腐肉の山の向こうから、意識が絶たれる前に出会った銀髪の女性が歩いてくるのが見えた。
「ここはどこだ。」
問いかけるも、返事はなし。
どんどん向かってくる。
目の前まで来る。思わず顔を逸らすと、突然胸に触られた。
そういえば、胸に凶爪の傷跡があったはずだが…
胸を見る。…傷跡は見るも惨たらしい、腐った肉のようになっていた。
再び吐き気を催す。すると、銀髪の女性は、私の胸に置いた手で傷跡をなぞり始めた。
「ぐっ、うがあ、ああああ」
痛みは何故かなかったものの、体の内部を弄り回されるという耐え難い気持ち悪さに身を捩り、呻く。
「ウフ、フフフフフフ」
狂気を孕んだ笑い声に、恐れ戦く。
そうしてしばらく経ち、彼女の手が止まる。そして、またも舌を絡めた熱いキスをされる。
状況が状況だけに、俺の気持ちは全く盛り上がらない。
…と思っていた。
身体がじんわり熱くなり、俺は朦朧とするのだった。