どれほどの時間が経っただろうか。
いつの間にか、気絶していたようだ。銀髪の女性は、俺の胸で眠りこけている。
よく見たら、綺麗な顔をしている。細くて、壊れそうに見えるけれど、意外と強そうな…不思議なオーラを感じる。
「………起き、タノ?」
銀髪の女性が目を覚ますと同時に、問いかけてきた。
そして、答える暇もなく彼女はキスをした。今度は短く、すぐに開放された。
そして、首筋を指でなぞられる。次に、舐められる。そして、噛まれる。痛みは感じなかったが、生温さから血が出たのだと分かった。
血を飲んでいるのか、飲み込む音が聞こえた。
「お前は、一体何者なんだ。」
銀髪の女性は飲むのを辞め、少しの間考えたあと、言った。
「コ、龍。」
こりゅう…古龍?
「古龍?」
「ウ、ん」
古龍…ギルドにはクエストがいくつも出ているので、存在は知っている。しかし、人型の古龍なんて見た事も聞いた事もない。
「こコ、最近、人、落ちてクる。た、食べル。人、なレタ。」
古龍は規格外の力を持つというので、そんなこともあるのかと無理やり自分を納得させる。
銀髪の女性はいつの間にか血を飲むのを再開していた。
…もう、考えるのをやめた。
徐々に絆され、身体が溶けていくようだ。
*
…また、眠っていた。
「逃がさナイわ。」
目が覚めるなり、銀髪の女性から訳の分からない宣告をされた。
だいぶ落ち着いてきたので、思考を整理する。
まず、俺は縛られている。
武器は?恐らく、山を転げ落ちた時に落とした。
装備は?一応着ているが、ボロボロだ。
帰る方法は?どうやらここは深い谷のようで、多分自力では帰れない。
銀髪の女性は?人に成った古龍らしい。
…まずは銀髪の女性について謎を解かなければ。
「お前は、誰なんだ。」
「ヴァルハザク…よ。アナタの前に落チタ人が私を見てソウ言ったわ。」
「何故、言葉を喋れる?」
「その人から色々聞イタから。言葉が上手くなッタのは、アナタの血を頂イタからよ。」
「いつからここにいる?」
「ここで生マレて1500年は経ったカシら。」
…もう少し踏み込んでみるか。
「何故、俺は縛られている?」
「アナタを逃がさないタメ。」
「どうして、そこまで俺に執着する?」
これは個人的に一番聞きたい事だ。
「アナタに興味がアルから。」
…言ってることが滅茶苦茶だ。
「何故そう思っているんだ?」
突然、銀髪の女性は黙った。そして、キスをされた。前のよりも激しく、堕とされる様な感覚さえ覚えた。
「アナタはワタシのモノ。」
……気持ちイイ。美しい。
妖艶な彼女は、俺から全てを奪うには、十分過ぎた。
「アナタの未練は、滅ぼしテアげる。」
つっかえていた嫌悪感はいつの間にかなくなり、何のために生きていたのかも、わからなくなってきた。
身体中を噛まれ、血が吹き出す。それは、一滴残らず舐め取られる。痛みはなく、快楽があるだけ。
そこには、ただ、一人の男を貪る異形がいるだけだった。正確には、異形ではなく、屍肉に映える美しい女性。
*
全ては、歪なナルガクルガとの邂逅から始まった。
彼女は、ナルガクルガに瘴気を流し込み、使役していた。フィニシを見つけると、戦闘を経て少しずつ瘴気を流し込み、その男の身体を瘴気に適応した身体に作り替えた。
その事を知らないフィニシは、黄土色の煙の中でも生きられることに違和感を感じず、冷静でいられた。冷静でいられたことこそが、すでに策略の内だったのだ。
そして、彼女に思考までも作り替えられ、堕ちていった。