聖杯戦争始めました~Fate/end war~   作:げげるげ

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独自解釈が色々含まれる部分があるので、適当に流す感じの心持で読むとよろし。


第2話 突然の母

 欠けた夢を見た。

 

「■■よ、今日からお前は男子として生きよ。そして、源氏の棟梁となるのだ」

 

 願われるまま、生きてきた。

 武士であれ。

 何よりも武士らしい、武士であれ。

 まつろわぬ者どもを討ち滅ぼせ。

 怪異を殺せ。

 鬼の首を掲げよ。

 全部、願われるまま、生きてきた。

 腰に佩いた太刀は、いつの間にか重さに馴染んで。

 血煙の生臭さにはもう、眉すら顰めない。

 殺して、殺して、殺して。

 戦って、戦って、戦って。

 ああ、けれど、その果てに何があったのだろうか?

 

「どうしてだ、どうしてだよ、大将!?」

 

 愛しい者の声がする。

 ああ、愛する息子よ、何故、そんなに泣くのですか?

 

「――――――どうして、人間の子供を殺したァ!!?」

 

 胸を裂く痛みがあった。

 愛しい者からの糾弾。

 それは、辛く苦しい。

 けれど、仕方ないではないですか。

 だって、『髪の色』がおかしいですもの。ええ、そうですとも、『例え、一切の神秘すら感じられず、混じりけの無い人間種』だったとしても、我らと違うのならば、ええ。

 まつろわぬ者は、殺さねば。

 だって、私は、私は――――――あぁ、私は、何だっけ?

 

 欠けた夢を見た。

 屍の山に背を預け。

 血の河を眺めながら、一人で朽ちる夢を。

 

 

●●●

 

 

 鈍い目覚めだった。

 体中が泥に浸かったような、最低の目覚め。

 かつて、健吾はこれほどに辛い目覚めは経験した時は無かった。何せ、生まれてこの方、病気の類にかかったことのない健康優良児である。これが、風邪やら、極度の疲労に似た症状であることを察することは難しい。

 されど、健吾は尋常ならざる肉体を持った英雄候補。

 自覚は無くとも、目を瞑ったまま、大きく深呼吸を数回。たったそれだけで、体中の疲れやよどみを追い出し、活力をゆっくりと体中に巡らせていた。

 

「…………うん?」

 

 その途中で、ふと、健吾は違和感に気づく。

 だが、それは体の異常を知らせる物ではない。むしろ、異常が無いのが違和感なのだ。

 足の感覚がある。

 昨夜、不覚を取ったことにより、大槍によって貫かれた足の感触が。

 一晩では到底治るはずの無い大怪我を負ったのかと思っていた健吾としては、その回復は違和感であり、また、それを始めとして体中の痛みが少ないことに気づいていく。

 おかしい。

 昨夜、己は尋常ならざる戦いに巻き込まれ、結果、敗北寸前まで行ったはず。それとも、あれほど鮮烈な出来事が夢だったのだろうか?

 疑問と共に目を開くと、そこには昨日の出来事が事実であるという証拠があった。

 具体的に言うのであれば、

 

「ふふふっ、おはようございます、母ですよ」

「?????」

 

 昨夜、健吾を助けた、美しき女武者が、覗き込むようにして見つめていたのである。瞼を開いた健吾は、そのまま、無邪気な笑みを浮かべる美女と目が合い、たくさんの疑問符が頭の中に生まれた。

 いや、母って何? と。

 

「…………は、は?」

「はい、母ですよ」

「…………えぇ」

 

 ご飯ですよ、みたいなノリで言われても、と健吾は困惑する。

 そもそも、おかしい。いくら疲労がたまっていたとは言え、深呼吸までして体を整えたというのに、その気配に気づかないのはおかしい。

 昨夜の記憶では、眼前の美女は、雷光の如く太刀を振るい、怪物を退けていたではないか。そんな強者の気配を、自分が見落とすだろうか?

 

「…………ああん、そんなに見つめられると、母は恥ずかしいですよ?」

「…………申し訳ない」

 

 じろじろと無遠慮に観察しても、駄目だった。

 佇まいが只者ではないということはなんとなくわかるのだが、昨夜の戦いの圧は感じられない。それは、体を起こして改めて観察しても同じだった。

 鴉濡れ羽色の長髪に、豊満な肉体。それらを隠すように、セーターとジーンズという露出の少ない服装なのだろうけれども、それでもなお、彼女のスタイルは服越しに強調されていて、非常に思春期の男子にとっては目に毒だった。

 それは、他に比べて己の制御に長けた健吾も同じであり、動揺を隠すように、そっと視線を周囲にさ迷わせた。

 そこで、ようやく周囲の状況を確認する。

 木目調の天井。畳。襖。

 即ち、典型的な和室。

 奇妙な懐かしさを感じる場所であるが、健吾の自室ではない。

 

「やぁ、目が覚めましたか? 少年」

 

 そんな時だった、襖の外に人影が現れたのは。

 

「え、あ、はい」

「よかった。それじゃあ、もし良ければ、開けて挨拶をしてもいいかい?」

 

 襖の外からの声に、しばらく考え、己の今の服装を眺める。

 下着に和装。多少乱れているが、見苦しいほどではない。

 

「…………」

「ええ、とりあえず、敵意は無いのでご安心を。何があっても、貴方は母が守ります」

 

 ちらりと、健吾が隣に居る黒髪の美女へ視線を向けると、自信に裏打ちされた声が返って来た。恐らく、冗談でも虚勢でもなく、本当にそれが可能なのだろう。

 何より、実際に一度、命を救われている。

 現状では、何を考えようとも、それしか選択肢は無い。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 やや身構えながら、健吾がそう答えると、直ぐに襖が開けられた。

 そして、開かれた襖の先に居たのは、神父だった。

 

「…………は?」

 

 十代後半から、二十代前半ぐらいに見える若い男が、カソック姿で佇んでいた。

 その背後には、控えるようにして烏帽子を被った和装姿の美女――セイバーが。

 

「初めまして、坂田健吾君。僕は田代 宗次(たしろ そうじ)。この第七次模造聖杯戦争の監督役にして、セイバーのサーヴァントを有する参加者だよ。どうぞ、お見知りおきを」

 

 呆ける健吾が、聖杯戦争についてのあらましを教えられたのは、それから三十分ほど経った後の出来事だった。

 

 

●●●

 

 

 七人のマスターと、七人のサーヴァントが、万能の願望機を手に入れるため、殺し合う魔術儀式。

 聖杯戦争。

 神秘を扱う、魔術師と呼ばれる人種。

 歴史に刻まれし、英雄たちの影。

 そして、いつの間にか、健吾の手の甲に刻まれた三画の刺青こそ、聖杯戦争のマスターたる証。令呪である。

 そのことを宗次から聞き終えた健吾は、未だ、事態を飲み込み切れていなかった。

 

「…………正直、信じがたいな」

「うん。その反応が普通だと思うよ。何せ、君はつい最近まで高校生として暮らしていたみたいだからね。そんな君が、突然、世界の裏側の事情に巻き込まれたんだ、中々納得できないのは仕方ないと思う。だけどね、健吾君」

 

 説明を終えた後、宗次は目を細めて、健吾へと告げた。

 

「君はもう、聖杯戦争の参加者として認められてしまったんだよ。この土地に存在する、聖杯戦争を管轄するシステムに。だからこそ、僕は君に言わなければならない」

 

 健吾の隣に座る、黒髪の美女へと視線を向けた後、表情から笑みを消して。

 

「君がこの聖杯戦争という儀式から避難するためには、マスターとしての権利を放棄しなければならない。そのための方法は二つ。一つは、令呪と呼ばれる命令権を行使して、自らのサーヴァントを自害させること。もう一つは、こちらの指示に従い、サーヴァントとの繋がりを断ち、令呪を放棄すること。少なくとも、僕が考える限りでは、これしか方法は無い」

 

 告げられた言葉は、健吾にとって命の選択をする、ということだった。

 仮に、宗次の言葉が全て真実だったとして、聖杯戦争という尋常ならざる戦いから逃れるためには、己のサーヴァントと思わしき人物、黒髪の美女の命を犠牲にしなければならない。

 令呪という命令権利が本物だったとすれば、自害を命じなくとも、その『命令権利』を放棄するということは、責任を放棄するということ。

 放棄された命令権が、何処に渡るのか。

 それに対して悪い予想をせず、ただ、思考を停止して保身に走るのは、健吾としては認められないことだった。

 正しくないことだと、健吾の本能が判断していた。

 

「母は、息子が健やかに生きていければ、それでよいのです。息子が望むのならば、私の身柄はどのようにしてくれても構いません」

 

 そして、何より、昨晩、自らを助けてくれた命の恩人に対して、その恩を返さずに、尻尾を巻いて逃げ出すということは恥だ。生き恥だ。耐えがたいことである。

 故に、答えは定まった。

 

「…………生憎、戦わずに逃げ出せるほど、賢い生き物じゃないんでね、男の子ってのはさ」

「なるほど、そうかい。なら、仕方ないね」

 

 健吾の答えを聞くと、宗次はすっとその場で立ち上がった。

 その動きに、まず、黒髪の美女が構え、次に、健吾が掛布団を掴む。いつ何時、戦闘が始まったとしても、不覚を取らないために。

 

「それなら、朝ご飯にしようか!」

「…………は?」

 

 だが、その警戒は無駄になった。

 何故ならば、宗次の表情には朗らかを通り越して、能天気な笑みが浮かんでいて。その背後に控えるセイバーも、『また悪い癖が始まった』とばかりに額に手をやっていたからである。

 

「戦うと決めたのなら、ご飯だよ! 腹が減っては、戦は出来ぬ! ああ、その前にお風呂場に案内しよう。汗を流すといい。着替えは、新品を用意してあるからね。あ、申し訳ありません、セイバー。貴方には食事の配膳を頼んでも?」

「…………やれ、仕方ありませんね、マスター」

 

 さぁさぁさぁ! と手を引かれて、健吾は呆然としたまま、お風呂場へと連れていかれる。

 

「母が背中を流してあげましょう!」

 

 途中、黒髪の美女が中々に狂ったことを言い出したが、健吾は鋼鉄の理性でそれを拒絶。手早く体の洗浄を済ませ、着替えを済ませた。

 着替えは、安物であるが、この季節に会った上下一式揃っており、不備はない。

 

「簡単な物で悪いけれど、朝食だよ。君は昨夜、たっぷりと『魔力』を消費したと思うから、ここで少しでも回復させるといい」

「…………魔力?」

「あははは、その辺の説明もしてあげないとだね」

 

 着替えを済ませた健吾が、今に案内されると、そこには食欲をそそる匂いを漂わせる品々が用意されていた。

 一夜干しの魚を焼いた主菜に、綺麗に巻かれた出汁巻き卵。

 一粒、一粒が瑞々しく炊きあげられた白米に、煮干しの出汁をベースとしたワカメとジャガイモの味噌汁。それと、白菜ときゅうりの浅漬け。

 どれも、豪勢とは呼び難い料理であるが、一つ一つの工程が丁寧に施されたことがわかる、理想的な朝食だった。

 

「これは、その、田代……さんが?」

「宗次でいいよ。僕の君のことを、健吾君と呼ぶから。まぁ、これから敵対するにせよ、協調するにせよ、浅からぬ付き合いになるだろうからね。気楽に行こうじゃないか。あ、心配せずとも、毒なんて持ってないよ。でも、一応気になるなら、自分で食器を選んだりするかい?」

「…………いや、多分、アンタはそういうことをしないだろう?」

「しないとも。だって、せっかく作ったご飯が勿体ない」

 

 あっけからんと言う宗次の姿に、健吾の警戒は穴の開いた風船のように抜けていった。

 どうやら、この田代宗次という男は、聖杯戦争という血生臭い戦いの参加者であると明言している癖に、底抜けのお人よしらしい。

 少なくとも、気絶していた健吾をここに運んだのも宗次であると推測できるし、何より、そこで殺されていなかった時点で、健吾としては僥倖なのだ。

 

「うお、普通にうめぇ。俺、自炊しているんですけど、中々こうはいかないんですが、何かコツでも?」

「一つ一つ、丁寧に作業することだね。料理は真心!」

「マスターが態々作らなくとも、この私が……」

「いやいや、セイバーを主体として戦っていくんだから、雑事は僕に任せてください」

「うう……私の料理とは比べ物にならないほど…………息子よ、母は頑張ります」

「あ、はい…………ずっと疑問に思っていたんだが、母って何?」

「母は、母ですよ?」

「やべぇ、目がマジだ」

 

 それは、聖杯戦争を知る者にとっては異様な光景に見えたかもしれない。

 参加者二人と、サーヴァントが二騎。

 揃ってテーブルを囲み、食事を取っているのだから。

 

「ええと、つまり、サーヴァントは魔力というエネルギーを供給されなければ、動けない、と?」

「そうだね。基本的に、強力なサーヴァントほど、多くの魔力を必要とするよ。戦闘手段を持たないマスターならば、サーヴァントに戦闘を任せて安全地帯に引き籠っているぐらいがちょうどいい。でも、どうやら健吾君には、サーヴァントと戦えるぐらいの手段があるみたいだからね。そこら辺の魔力の配分は、君のサーヴァントと一緒に考えるといいよ」

「…………はぁ、ありがとうございます。それで、その、俺自身もこの力が良く分からないというか、昨日、突然、覚醒した……みたいな感じなんですが、俺自身を詳しく調べることは出来ますかね?」

「うーん、それは僕には難しいね。それが出来る人物にも心当たりがあるけど、その人物もまた、聖杯戦争の参加者だ。出来れば、安易に情報は渡さず、自分たちで解決した方が良い」

 

 加えて、参加者である宗次が、同じく参加者の健吾に対して、惜しむことなくアドバイスをしているのだから、目を疑う光景だろう。

 現に、宗次のサーヴァントであるセイバーなどは、これ見よがしにため息を吐いている。

 もっとも、抗議の言葉を発さないところを見ると、サーヴァントとして自らのマスターの行動を認めているようだが。あるいは、呆れているのかもしれないが。

 

「さて、簡単に説明するとこんな感じなんだけど、大丈夫かな?」

「はい。ありがとうございました、宗次さん」

「いやいや、このぐらいしかできることは無いからね、僕は。そんなに畏まらなくいいよ」

 

 十数分後、食事を終え、宗次からの説明を受けた健吾は、すっかりと礼儀正しく佇まいを治していた。

 何せ、先ほどまでは謎の神父だった相手が、今では、敵対者である立場の健吾に対して、惜しみなくアドバイスを与える頼もしい存在になったのだから、当然だろう。

 普通であれば、健吾もこんな短時間で人を信用などはしないのだが、この神父ばかりは例外だった。

 田代宗次というマスターは、聖杯戦争という血みどろの戦いの参加者にしては、優しすぎる程に善人だったのである。

 ただ、宗次本人だけは、そうとは思っておらず、畏まる健吾に対して困ったような表情を浮かべていた。

 

「や、何も打算もなくお世話しているわけじゃないんだよ? 僕だって」

「そりゃそうだと思いますが、宗次さんの場合、無理難題は言わないでしょう?」

「…………うーん。それは、君次第かな。とりあえず、僕たちセイバー陣営からの提案が一つあるんだけどね?」

 

 短期間で、ただならぬ信用を獲得した宗次は、一度、確認するようにセイバーに視線を向けた後、大きく息を吐いて心のわだかまりを吐き出した。

 そして、健吾の目を見据えて、言う。

 

「目下、殺人鬼をマスターとする怪物、ランサーの討伐に協力して欲しい。彼女たちを野放しにしていた場合、最悪、この街が消されるかもしれない」

 

 聖杯戦争という、数多の修羅、英傑すら、ゴミの如く命を散らす、血みどろの戦いへと招き入れるための言葉を。




●田代宗次
・セイバーのマスター
・二十代後半。
・若々しい。
・聖堂教会所属の代行者。
・サーヴァントの足止めぐらいはできるが、真正面から戦えば死ぬ。
・クソ真面目。
・どうしようもないほどのお人よし。
・恐らく、代行者の中でも上位のお人よし。
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