聖杯戦争始めました~Fate/end war~   作:げげるげ

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リアルの天気にやられていました。
地球には、逆らえない。


第5話 呉越同舟はどこまで?

「羽咋 美津留(はくい みつる)。一応、貴様の学校の生徒会長をやっている。無論、一学生ならば、生徒会長の顔ぐらいは覚えているだろう?」

「…………ええと」

「なんだ、そんなことも覚えていないのか。貴様ら凡愚が投票をした結果だというのに。大体、貴様らはいつもそうだ。自分たちが上にやる人間のことを何も知らず――」

「やー、御主人。生徒会長ってぶっちゃけ、ただの雑用係じゃないっすかぁ?」

「余計なことは言わなくていい、ミズチ」

 

 それは異様な光景だった。

 現在、健吾の前に居るのは、三人。

 一人は、銀縁眼鏡をかけた、オールバックの髪の、神経質そうな顔をしたイケメン。乙女ゲームだと、大抵ツンデレだったり、拗らせ系の属性を持っていそうな男、羽咋美津留。

 そして、その隣に侍っているのが、銀の髪を持つメイド服の少女だ。

 もっとも、ミズチと呼ばれた少女は、主である美津留に対して、敬意が欠片も無い態度で、背中を叩いている。

 

「…………これが、魔術師?」

「お気になさらず。この二人はセットで存在すると、いつまでも漫才を繰り返すので」

「誰が漫才師だ。使い魔風情が、偉そうに」

 

 二人の背後には、長髪の女性――ライダーが静かに正座で座っていた。対面している部屋が和室ということもあるのだが、妙に姿勢が良く、明らかに外人のような容姿だというのに、奇妙な馴染み具合だった。

 

「いやいや、御主人! べっつに、偉そうじゃなかったっすよー? そもそも、ライダーが本気になったら、御主人なんて一瞬でぶちっ! なんっすから! もっと発言に気を遣うべきだと思うっす!」

「令呪があるだろうが」

「や、令呪を発動させる前に殺すぐらい、割とどの英霊も出来るんじゃないっすか? 実際。ただ、各自の願いがあるからやらないってだけで」

「…………ぐぐぐ」

「ふぅー、これに懲りたら、身の程を弁えて、もうちょっと考えて発言するっすよ!」

「身の程を弁えるという言葉を、貴様の口から聞くとは思わなかったぞ、この横暴メイドめ」

「私は御主人の数百倍強いっすから!」

「くそっ、反論できない我が身が忌々しい」

 

 健吾は言い争う二人を眺めて、奇妙な感覚に襲われていた。

 先ほどまで……具体的に言えば、ほんの数分前までは、一触即発の空気だったはずだ。それが、たった一人のメイドが乱入して来るだけで、ここまで空気が和らぐ物なのだろうか? と。

 いや、そもそも、メイドってなんだよ、わけわかんねー! と。

 

「あ、その顔は『このメイドは一体なんだよ? 意味わかんねぇ!』って顔っすね!」

「え? あ、まぁ……」

 

 などと健吾が考えていると、内心を見透かされたのか、話題がシフトしてきた。

 

「私の名前はミズチ! この偏屈マウントマンである御主人の専属メイドっす! あ、専属メイドって聞いて、エッチなことを想像しちゃったっすかぁー? 困るなぁ! 青少年だなぁ! おさわりは厳禁っすけど、夢の中までは規制しないので、ご自由に!」

「…………えっと、その」

「助けを求めるような目でこちらを見るな、下郎が」

 

 最近、下郎呼びされる機会が増えた健吾であった。

 

「健吾に対して、いちいち険のある態度ですね、ライダーのマスター。その態度、改めぬ限りは、いつまでもその首が胴体の上にあるとは限りませんよ?」

「ちっ、狂戦士が。狂っている分際で、人間の会話に口を出すんじゃあ――ごふっ」

「あー! ごめんなさいっす! うちの御主人! 常にマウントを取っていないと、精神的に参っちゃう人で! まぁ、マウントを取れても、そのことに自己嫌悪して、またストレスが溜まってしまうんで、生きている限り自滅みたいな駄目人間っすけどね!」

「主の脇腹を、カスタネットよりも気軽に叩くメイドよりはマシだ……っ!」

「……ええと、母さん……じゃなくて、バーサーカーも、俺のことを想ってくれるのは分かるが、そこまでにしてくれ」

「母さんのままで結構ですよ?」

「母さん、太刀の柄から手を離そう」

「ええ、分かりました。我が抜刀術ならば、瞬きよりも早く首を落とせますからね」

「やっぱり、狂化の影響出てるな、これ」

 

 話が進まない。

 なんとか、メイドであるミズチが度々ツッコミをいれるおかげで、美津留の舌禍はなんとか収まっているが、健吾の後ろには頼光が居る。

 そう、バーサーカーというクラスで顕現したにしては、会話が可能で、理性的に見えるかもしれないが、その実、違う。狂っている。ただ、会話が出来るだけで、まともな意思疎通を交わしている時などは、限られた時しか存在しないのだ。

 健吾も薄々は理解しているのだが、頼光の敵意は明らかに過剰だった。

 少なくとも、同盟を交わそうとしている面々の間で取る態度ではない。無論、それは美津留にも言えることだが、頼光には実行力がある。怒りのまま、相手のマスターの首を、次の瞬間、言葉の通りに斬っても違和感が無い。

 ここに来て、健吾は己自身の不徳を自覚した。

 元一般人。

 多少、変わった過去があろうとも、戦場に身を置いたことのない未成年。

 故に、健吾は完全に、頼光というサーヴァントの存在を持て余し、マスターという立場で動けていないという自覚があった。

 

「おっと、皆さん、お揃いで。いやぁ、同盟の提案者である僕が最後とは、申し訳ない限りです。あ、これはおやつなので、どうぞ、皆さんで食べてください」

 

 そんな奇妙な停滞が破られたのは、宗次がのんびりとした声と共に部屋に入って来た時だった。

 

「…………ふん。同盟者とは言え、潜在的敵対者からの差し入れなど受け取れるか」

「ああ、そうですよね、すみません。では、僕が先に味見をしましょう……うん! 美味しい!」

「………………予め解毒剤を飲んでおけば、毒を盛っていても貴様はだけは大丈夫だろう?」

「おお、その考えもありましたか! いやぁ、羽咋君には教えてもらうことばっかりです」

「…………ちっ」

 

 その毒気の無さと言ったら、何事にも悪態を吐く美津留でさえ、大人しく差し入れのカントリーマァムを食べてしまうほど。

 また、そんな毒気が無く、朗らかな雰囲気を纏っているというのに、宗次の背後には、従者のようにセイバーが静かに控えていた。

 田代宗次とセイバー。

 不思議なことに、聖杯戦争におけるマスターとサーヴァントの定義を真っ当に満たしているのは、三陣営の中で、神父服に修験者の組み合わせだった。

 

「さて、折角三陣営が揃い踏みしたのですから、互いに簡単な自己紹介でもしましょう!」

「…………ふん。貴様らのデータはこちらで取ってある。必要以上に慣れ合うつもりはない」

「や、でもでも、御主人。いざという時に、背後から刺されないために、警戒しつつも表面上の馴れ合いはやっぱり必要っすよ!」

「そういう貴様には、オブラートが必要なようだな?」

「オブラートに包んでも、隠し切れない魅力が持ち味っす!」

「ふふふ、お二人はやはり仲がよろしいですね。確かな絆を感じます。お二人ほどの絆があれば、聖杯戦争においても不安は無いのでしょうが、僕たちは何分、魔術闘争に関しては素人なもので。よろしければ、我々に合わせて歩調を緩めて貰っても?」

「………………代行者が、良く言う」

 

 はんっ、と不機嫌そうに美津留が鼻を鳴らすと、ムッツリと腕を組む。

 どうやら、好きにするがいい、という態度らしい。

 

「では、改めまして。私の名前は田代宗次。セイバーのマスターであり、聖堂教会から派遣された監督役でもあります。監督役は本来、脱落者の保護や、神秘の隠匿、周辺住民に対する配慮を行う中立的立場ですが、今回は一参加者としても行動しておりますので、余り信用しすぎないようにお願いしますね?」

「セイバーのクラスで顕現した者です。マスターの意向に従いますが、私も聖杯に願うことはあります。呉越同舟という奴ですが、その時までは仲良くやりましょう」

 

 明らかに年下である美津留の態度に、けれど、まったく気分を害した様子もなく、宗次たちセイバー陣営はさらりと自己紹介を終えた。

 相変わらず、妙に人が良すぎる紹介であるが、聖杯戦争の参加者であることには変わりない。健吾は信用しつつも、信頼しないように心を引き締める。

 

「バーサーカーのマスター、坂田健吾だ。その、一般人だが、多少なりとも腕に覚えがある。あの怪物相手でも、三十秒ぐらいなら足止めは出来るだろう。これ以上、誰かが犠牲になる前に、盾でもいいから、有効に使ってくれ」

「バーサーカーで顕現しました、健吾の母です。健吾を使い捨てるような真似をしたならば、霊核が砕かれようとも、皆殺しにしてから消滅しましょう」

「母さん?」

「本質的には全て敵なのです。一時的同盟であるのならば、互いにこれぐらいは言っても差し支えはありません。特に、信用ならぬ者が混じっている時は」

 

 頼光は微笑みながらも、美津留たちライダー陣営に向けて、鋭い殺気を向けていた。

 今現在、なんとか健吾の制止と同盟関係の構築のおかげで殺し合ってはいないが、理由があれば即座に刃を振るってもおかしくない精神状態である。

 

「自称一般人に、バーサーカーか。馬鹿に刃物だな、まったく」

「そうっすね! 魔術師にサーヴァントっす!」

「貴様はナチュラルに魔術師を馬鹿にしてくるなぁ、駄メイドが…………はぁ。ライダーのマスターであり、セカンドオーナーの羽咋美津留だ。貴様らはどうか知らんが、僕はランサーを討ったならば、即座に敵対的立場に戻らせてもらう。故に、馴れ合いは好まない」

「そんなことを言いつつ、実際に背後から撃たれたら『裏切ったな!?』とか結構ショックを受けそうな御主人の忠実なるメイド、ミズチっす! どうぞ、よしなに!」

「ライダーです。速さには自信はありますが、それだけなので、余り期待はせずに」

 

 悪態を吐きまくって、三下の如きマウント台詞を量産する美津留と、元気で喧しいメイドのミズチ。そんな二人をどこか微笑ましく眺める、やる気を感じないサーヴァント、ライダー。

 奇妙な組み合わせの三者であるが、不協和音は聞こえてこない。

 むしろ、頼光という強力なサーヴァントに睨まれても、平然と悪態を吐くマスターと、それをフォローする従者の組み合わせは宗次が語ったように、確かな絆を感じるだろう。また、やる気のないライダーも、謙遜してはいるが、聖杯戦争に召喚されたサーヴァントである。決して油断できる存在ではなかった。

 少なくとも、健吾は冷静に考えて、あの時、そのまま戦っていて勝てたとは思えないほどに、脅威に感じている。

 どれだけ頼光が強力なサーヴァントでも、マスターを狙われたならばひとたまりもない。健吾としては、多少なりとも頑丈な自信はあるが、今はそれだけだ。

 

 ――――なんだ、俺って奴ァ、結構雑魚じゃねーか。

 

 安定したセイバー陣営。

 不安定ながらも、噛み合っているライダー陣営。

 どちらも、現時点ではバーサーカー陣営の上を行くであろう者たち。

 健吾はこの両陣営との同盟を、今更ながらありがたさを噛みしめていた。

 冷静に考えれば考える程、今の健吾たちが戦っても、勝機が薄い相手。その両者と同盟を組み、一時的であったとしても戦いぶりを学べる機会があるのだから、一般人でノウハウが少ない健吾にとって、かなり有益な同盟だ。

 加えて、健吾自身にとって、この同盟――いや、聖杯戦争は望ましい物だった。

 大義名分を与えられて。

 巻き込まれのように、理不尽に与えられた参加券。

 されど、満たされていた日常の中で感じていた退屈。それを、今は感じなくなっていたのだから。

 

「はい、皆さん、お付き合いいただきありがとうございました。この三陣営で、殺人鬼陣営であるランサーたちの討伐を目指していきたいと思います。ただし、ランサー討伐後、互いに疲れ切った状態のまま、互いに潰し合うという事態を避けるため、我々の同盟が完全に解消されるのは『ランサー討伐後、丸一日……二十四時間が経過したら』という条件にしたいのですが……何か、御意見のある方はいらっしゃいますか?」

「ふん、貴様らに配慮して、それで納得してやる。もちろん、口約束などという何の保証も無い物で協調は生まれないからな。魂に食い込むほどではないが、キャスターのサーヴァントでも無ければ解除不可能なギアススクロールを用意してやる。ありがたく思うがいい」

「ギアススクロール?」

「簡単に言えば、『絶対に約束を守らせるための契約書』みたいな物だ。もっとも、文面を利用した詐欺は絶えないがな。精々、自分の利益を守るために、必死に足りない頭で文面を読み込むんだな」

「お、おう……ありがとう?」

 

 自己紹介の後、宗次が取り仕切る形で、三陣営はランサー対策会議を開くことになった。

 どうやら、セイバーとライダーは健吾が頼光を召喚する結構前から、ランサー陣営を追っていたらしく、少なくない情報が集まっているらしい。

 

「本来であれば、一般人にはこのような魔術の説明など…………というか、貴様は一般人には戻れんだろう? 敗退しようが、奇跡が起きて勝利しようが、相応の手続きは必要だ。聖杯戦争が終わった後、互いに生きていたら手続きを教えてやる」

 

 対策会議中、健吾にとって意外だったのが、美津留が悪態を吐きながらもきっちりと、元一般人である健吾に対して配慮していたことだった。

 口が悪い。

 尊大。

 常にマウントを取ろうとする。

 このような性格的に難点のある美津留であったが、対策会議中は難点を含めても、有能と評価されても、おかしくない言動へと変わっていた。

 

「いいか、貴様ら? 勘違いするなよ? 今回の戦いで一番厄介なのは、ランサーではなく、あのマスターだ。一応、対策の礼装は作っておいたが、過信するな。単独で接敵した場合、時間稼ぎに徹して合流を待て。ただ、ランサーのマスターは動きの良さの割には、妙に魔術に疎い印象がある。科学を用いた連絡手段よりも、魔術の連絡手段の方が、情報が漏れる可能性が少ないだろう。各自、僕が用意した連絡用の礼装を常に持ち歩くように」

 

 そう、有能である。

 宗次も、美津留も、極めて有能だ。

 故に、健吾はありがたさを噛みしめて――――同時に、悔しさと不甲斐なさも噛みしめていた。かつて、ランサー陣営に敗北した時のように。

 

「大丈夫ですよ、健吾。母がついています」

「…………はは、ありがとう、母さん」

 

 対策会議中、己の無力を思い知らされた健吾は、頼光に触れられてようやく緊張から解放された。

 そうとも、己の無力は思い知った。

 ならば、どうする? 嘆くか? 諦めるか?

 ――――ようやく面白くなって来たのに、それではあまりに不甲斐ない。

 

「二人とも。ちょっといいか? …………試したいことがあるんだ」

 

 かつて、力を持て余していた少年は無力を知って。

 そして、無力だとしても足掻くことを学んだ。

 

「上手く行けば、奴の居場所を探れるかもしれない」

 

 けれども、健吾自身は未だ知らない。

 無力からの足掻きこそが、古今東西、英雄が次なる段階へと成長するための、過程の一つであるということを。




●ライダー陣営の戦闘力

第一位:ライダー。モチベーションそこそこ。魔力もたっぷり。映画最終章ぐらいには動く。

第二位:メイド。下位の幻想種なら素手で殴り殺せる。

第三位:マウント魔術師。支援担当。接近戦はゴミ。でも、接近戦ゴミであることを理解している。
     足手纏いにはなりにくい。
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