Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第10話

 思いの外、すぐにオークは見つかった。住宅街を出てすぐの場所だった。少し広い道路の真ん中にそれはいた。

 距離は目測で四十メートル。数は五匹。

 駆け出したのは二人同時。

 速いのは、小鳥遊。

 グシャリとひしゃげるような音が響いて、オーク二匹の頭が木っ端微塵に弾けた。

 恐れをなしたオークが逃げようとするが、そこに槍が飛来し、心臓が貫かれる。

「ちょ、響!俺のレベル上げだからな!」

 突き刺した槍を抜くために、今し方倒れたオークに近づく。

 そして、槍を引き抜くと、オークの体からは血が溢れる。

 恐怖を掻き立てられたのか、生き残ったオークは逃げるかのように走りだした。

「……悪い」

 オークを見て湧き上がる殺意を抑えることができずに殺してしまった。

「あ、いや、仕方ない、よな……」

 光樹も小夜の死んだ理由を思い出す。小鳥遊の気持ちは理解できる。それを否定するつもりもない。

「……いや。俺のせいでお前がレベル上げれないで死んだら嫌だから。我慢するよ」

 オークという相手に執着するのは良しとしても、それで光樹のレベルが満足に上がらず、死なせるようなことになってしまっては元も子もない。

 折れた剣をしまって、新しく別の武器を手に取った。新しく取り出されたのは斧。右手に一つ、左手に一つ、斧が握られる。

「悪かったな……」

「あ、いや、お前が良いなら良いけど」

 何となく。そう、何となくだ。

 この話題に触れるのは気が引ける。それでも、気遣うのは当然だ。壊れて欲しくはないから。

「けど、オーク逃げちまったな」

 逃げ出したオークの背中は見えなくなってしまった。

 新しい異種族を探すかと構えを解こうとしたとき、前方から何かの集団がこちらに近づいてくるのを見た。

 その数、おおよそ十。

 先ほどのオークよりも多い。

「アイツらダ!アイツらガ、メグ達を殺した!」

 その中心にはオークの中でもきっと強力であろう、巨大な身体の持ち主がいた。

「ーーお前が、メグ達を殺しタのカ?」

 メグが誰かは分からないが、きっと先ほどの三体のオークのうちの一匹だ。

「光樹」

 小鳥遊は笑顔を浮かべ、斧を構えた。

「オークが来たぞ。来たぞ、経験値が」

 武器を入れていた大きなリュックはもう殆ど何も入っていない。今日はこれまで。

 このオークを狩り尽くして終わり。

「でっかいのは俺がやるから」

「んま、そうだよな」

 強さを考えてもオークのリーダーであろう巨体の持ち主を相手取るにはまだ光樹では足りない。

 

 ーー殺してやる。

 

 二人は目の前のオークを見て笑う。様々な感情が混ざった、混沌とした笑みにリーダー以外のオークは身体を震わせた。

 小鳥遊達の目の前にいるのは豚鼻の巨体。

 オークはその手に剣であったり、槍であったり、棍棒であったりとそれぞれの武器を持っている。

 最も巨大な四メートルは有りそうな大きさのオークのリーダーは、大きさ二メートルもあろうメイスを片手で軽々と持っている。

「貴様ラは我が同胞ヲ殺しタ。覚悟は良いカ……」

 ひょうと空気が変わる。

 乾いた風が頬を撫でる。この場にいる全員が共通の感情を持った。

 それは殺意である。

 黒く、暗い感情。塗り潰されていくような、埋め尽くされていくような感覚。しかし、研ぎ澄まされていく五感。

 それは戦場の超集中。

 空間は殺意によって満たされていき、突如として生存競争が始まった。

 狩る者、狩られる者。

 どちらがどちらか。

 人がオークを狩るのか、オークが人を狩るのか。

 本来であれば人は狩られる存在でしかないはずだった。

 しかし、この戦いではどうだろうか。

「死ネ!」

 そう言って一匹のオークが先頭を走り、その後に続く形で三匹のオークが光樹に向かって駆け出す。

 それを冷静に冷めた表情で光樹は見ている。

「……こいよ、お前がリーダーだろ?」

 小鳥遊は二つの斧を構えて、目の前に立つボスオークを睨みつける。

「調子に乗ルなヨ、人間風情ガ」

 ボスオークはズシリとその大きな体を揺らしながら、小鳥遊に近づきメイスを振り下ろした。

 オークの視界の横で飛んでいく腕が見えた。

 もう、終わったのだと思った。

 人間に手こずるわけが無いのだと考えた。

 下らないと溜息を吐きそうになった。

 しかし、飛んでいくその腕を見て目を見開く。

「ーーあっ?」

 切り飛んでいくのは仲間の腕。

 小鳥遊との戦いがまだ終わっていないと言うのに、その視線は自らの部下に向けられる。

 それが隙に見えるのは当然。

「余所見してんなよ」

 その言葉が聞こえた瞬間に、オークは自らの命の危機を本能的に感じ取り、顔を後ろに引いた。

 ブゥン、と斧が顎先すれすれを通り過ぎていき、風が撫でる。

「な、何故、生きてイル!」

 先ほどの一撃で終わったのでは無いか。メイスの一撃の前で木っ端微塵の肉片へとなった筈だ。そんな思い込みがオークの脳内を支配する。

「よく躱せたな……」

 オークの質問に答える事はない。

 そして、光樹の槍に撥ねられてオークの頭が飛ぶ。転がり落ちていく。

「ーーよ、よくもォオオ!」

 一匹のオークが死んだのを見ていた別のオークは激昂したのか、攻撃が激しくなる。

 そして光樹の元に全てのオークが向かう。仲間の仇を取らねばならない。この男を許すことができない。

 そして、それは小鳥遊の目の前にいるボスオークも同じであった。

「グオオオオオオオォオオオオ!!!!」

 咆哮。

 獣のような雄叫びが響く。

「殺セぇ!その男を、人間を殺せエ!」

 それに答えるようにオークは雄叫びを上げる。もはやその目には、小鳥遊など微塵も興味がないようだ。

 単純でわかりやすい。

「俺を忘れてんじゃねぇぞ、と!」

 勢いよく小鳥遊が斧を振るうが、その一撃はオークに避けられてしまう。

 何故。怒りに呑まれているのに。

 どうにもそれは人間にはないであろう獣の直感、本能であるのだと理解する。

「ウォオオオ!」

 理性を失ったような充血した白い目。

 メイスは力強く振り下ろされて、アスファルトの地面を砕く。その威力はまるでドワーフの一撃。

 ただ、それだけだ。

 斬り込んで、切り裂いて腕が飛び、突き殺して血飛沫が舞う。

 鉄の匂いが充満する。

 悲しくも切り飛ばされる腕は全てオークの腕であった。レベル八はレベル一とは比べ物にならない程の強さだった。そこらのオークでは幾ら集まろうと相手にならない程に。

 そのオークの青血はそこまで濃くなかったのかもしれない。

「どうしたどうした!もっと青血を流せよ!」

 まるで狂った戦士。

 それは人間もオークも変わりなく。理性の壁はなく、ただ目の前の敵を殺すことに全てが洗練されていく。

「ガアァァアアアッ!」

 臆することなく、傷を気にすることなく血だらけで腕がなくとも暴れ回る。

「ハハハッ!オラオラァッ!」

 槍は心臓をブチ抜いていく。

 そして屍は積み重なる、一つ、二つと。赤い液を垂れ流しながら。

「残りはボス含めて六匹か……」

 そう呟いている間にも、順調にオークの数は光樹によって削られていく。

 小鳥遊の目の前にはメイスが迫る。

 それを迎撃するように左腕で斧を振るうと、小鳥遊の武器である斧もオークの持つメイスも同様に砕け散る。

 オークにはもう武器がない。

 もう片方の腕に握っていた斧を超高速でオークの顔面に叩きつける。

 そうすれば、いつも通り

 オークの顔が赤い花を咲かせるように弾け飛ぶ。

「ギャペッーー」

 そんなふざけたような声を出して一際巨大であったオークはゆっくりと後ろ向きに倒れていく。

「終わりっと」

 そう呟いて小鳥遊が光樹の方へ振り向けば、返り血をビッチョリと浴びた光樹と、理性を取り戻し、目の前の惨状を見て固まってしまった一匹のオークが立っていた。

 直ぐに行動に移ろうとするが遅い。

 首元に槍が突き刺さった。

「カフュッ……」

 そして、その突き刺さった槍を引き抜き、脳天に再度突き刺す。

「こっちも終わりー」

 オークに刺さった槍を引きぬけば血が吹き出る。

「今日はここまでだな」

 小鳥遊がそう言うと、どうしてと言いたげな顔をして光樹が小鳥遊の顔を見る。

 トントンとリュックを叩いて示す。

「もう、殆ど武器がないんだよ」

 それで光樹も納得したようだ。

「あー、なるほどね。よし、じゃあ帰ろ」

 特に文句はない。

 一人で無理をして死ぬのなんてバカバカしすぎる。

 何より、早く体に付着した血を洗い流したいから。

 

 

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