Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第3話

「戦士に?」

 尋ね返せば、加藤は笑う。

「君が今日であった彼らが嫌いなら、それを反面教師にして君の求める戦士になればいい」

「それは……」

「幻想合金があれば君は戦える」

 加藤の言葉に思うような答えが出せない。求める正解がわからない。

 それは小鳥遊にとって何が最良であるか、考えてもわからないから。

「……」

「君は、また目の前で人が死ぬのを黙ってみていたいのですか?誰かの助けを、願っているだけですか?」

「そんなわけ……ない」

 ギリギリと歯を噛み合わせ、右腕には力が入る。死んでしまった小夜の姿を思い浮かべて、自分の非力を痛感する。

 あの時、自分が戦えたら。

「力があれば高月《たかつき》小夜の悲劇を繰り返す必要はありません」

 あのような悲劇は二度とあってはならない。誰かが自分を守って死ぬ。そんなのは耐えられない。

「俺はーー」

 この答えが正しいかどうかなんてわからず、ただ加藤の言葉に上手く乗せられただけかもしれない。

 それでも、この決断を下したのは他でもない小鳥遊自身なのだ。

「ーー戦うよ」

 その言葉には迷いなどない。

 守られるのではない。自分が誰かを守るのだと。救うのだと。その思いが、戦うという答えを導き出した。

 その答えに、加藤はにっこりと笑った。

「そうですか。では、そうですね、今日は休みましょう。明日の午前十時にまたここに来てください」

 そう言って車の方へと彼は戻って行った。

 自分の常識が当てはまらない世界で、突然に彼は選択を迫られ、そして、戦う事を選んだ。

 望まれていた英雄のように。

 

 

 

 

「幻想合金か……」

 確かにインターネット上には幻想合金について記載されているものがあった。

 その全てが加藤の話した通りに、空島の出現と共に現れ、賢者を名乗る男がその使い方を伝授した。

 それにより生み出された二つのシステム。何のためにこのようなシステムが必要になったのか。

 異種族と戦うために必要だったのだろう。では、どうしてこのシステムを賢者は作り上げたのか。そんなものは情報として載っているわけがない。

「これのおかげで人類は異種族と戦えている、らしいな。じゃあ、レベルアップの原理ってのは何なんだ?」

 経験値システムの作動要素。それもまた幻想合金の項目に記されていた。

 

『幻想合金は人の体に埋め込まれ、心臓と癒着し、その体を強化する。異種族の体に流れる青血《ディープ》を浴びる事で経験値システムとレベルアップシステムが機能する』

 

 乗っているのはこの程度。異種族を倒す事でレベルが上がる原理は理解したが、その経験値には差があるはずだ。

 しかし、青血について調べるのも面倒だと思ってか、小鳥遊はスマートフォンをベッドの上に投げ捨てた。

 そして、彼も背中からベッドに倒れ込む。

「…………」

 目を閉じれば、思い出すのは、目の前で悲惨に死んでいった小夜の姿。

 現実とは思えない光景。

 そんな光景が浮かんで、目を開いた。

 これが今となってはオークもゴブリンもいる現実にいるのだ。

 そうして、小夜の死を思い出して彼は涙を流す。

 動くことも億劫で今日はもうこのまま眠りについてしまおうと目を閉じようとした時、扉が叩かれた。

「…………」

 誰が訪ねてきたのか、それは気になったが動く気力もなくそのまま眠りに着こうとした。

「ーーあー、響」

 しかし、扉の向こうから聞こえてきた、その声に小鳥遊は閉じかけの目を開き、ベッドから起き上がった。

 その声には聞き覚えがあったのだ。

 当たり前だ。

 その声の主はーー、

「……大丈夫か?」

 小鳥遊の友人の声だったのだから。

 扉を開ければ、月のような薄い黄色の髪を首の辺りまで伸ばした少年がいた。白いぶかぶかのパーカーを着ていて、小柄。

 それでも年齢は小鳥遊と同じ。

「大丈夫、じゃないよな……」

「光樹《みつき》……」

 とりあえず、小鳥遊は彼を自分の部屋の中に入れた。

「悪い、迷惑だった?」

「そんなことない」

 寧ろ安心感を覚えた。目の前で自分の知っている人間が死んでいって、この世界の事を少しでも知って、それで友達が生きているかなんてわからなかったから。

「あのさ、こんな事お前に言うのもおかしいと思うけど、さ……」

 どこか言葉に迷っているような、申し訳ないような顔をして、彼は続きを吐いた。

「俺、戦士になるよ」

「そっか」

「もう、誰も頼れなくてさ……。働かなきゃ食ってけないから。……響もどうだ?」

「俺も?」

「こんな事言うのも悪いけど。お前も家族居ないだろ……」

 この瞬間に自分の家族が全員、既にこの世にいない事を理解してしまった。

「そう、だな」

 そんな小さな呟きを漏らす。

 この世界では、もう誰もいない。家族がいない。その喪失に胸にぽっかりと穴が空いたような空虚を感じる。

 唯一、目の前に残った光樹を失うわけにはいかない。

「俺も戦うよ」

 それは決まっていた答え。

 だとしても、覚悟は固まった。

「……ありがとな」

 その礼は筋違い。

 これは光樹のためなんかではない。小鳥遊が死なせたくないと願っただけ。

「なあ、光樹。お前は死ぬなよ」

 それは願い。

 もう誰も失いたくない。必ず守ると。彼は、そう誓う。

 

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