Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第5話

 小鳥遊が開発室を出ると、天星も外まで付いてきた。

「帰り方は分かるかな?」

「エスカレーターですよね?」

「まあ、来た道を戻ればいいだけだからね」

 じゃあ、気をつけてー。

 そう言って少女は開発室に戻って行き、扉を閉めた。

「ーー小鳥遊くん」

 若干暗い地下、小鳥遊が扉の前に突っ立っていると、名前を呼びかけながら近づいてくる一つの影があった。

 痩せ身の男、加藤である。

 その手には紙パックのジュースが握られている。

「あ、加藤さん」

「お疲れ様でした」

「あ、ども」

「三日は安静と聞きましたね?」

「はい」

「気を付けてくださいね」

「はあ」

 そう言って彼は持っていた紙パックを潰して挿していたストローを奥の方へと入るように突っ込んだ。

「上まで案内します」

「ありがとうございます」

 小鳥遊は時折、胸を撫でながらその背中を追いかけて上りのエスカレーターに足を乗せた。

「気になりますよね。分かります。私も貧血検査で針を打たれた場所は気になりますから」

「それは分かりませんけど」

「あ、そうですか。ベタベタ触りすぎると血が出ますよ」

「え!」

 ピタリと小鳥遊は動きを止めて、腕を太腿の横につけた。それを見て加藤はクスクスと笑う。

「冗談ですよ」

 そうして、エスカレーターは上昇していき、地上階に着く。

「そうだ、小鳥遊くん。野菜ジュースとパンは要りますか?」

 まるで献血が終わったかのような感覚に思えるが、それ以上の事があったはずだ。

「貰っておきます……」

 金が財布にある以上にあるのか、それがよく分からない現状、貰えるものは貰っておくべきだろう。

「ではこちらを……」

 そう言って彼は黒のビジネスバッグからスッと二百ミリリットルの紙パック野菜ジュースと、あんぱんを差し出してきた。

「いつも持ってるんですか?」

「はい。野菜は健康のために必要ですから」

 それだけ告げて加藤は回れ右をして去っていった。

 ギルドの地上階はそれなりに騒がしく、人も意外なほどいる。

「ーーあ、響!」

 小鳥遊は自らを呼ぶ声に振り返った。走り寄ってくるのは月のような髪の、黒いジャージを着た少年だ。

「光樹……」

 小鳥遊はその名前を呟く。

「もう、手術は受けた?」

「ああ」

「そっか、なら丁度いいや。武器買わない?」

「武器?」

「何だよ、まさか響は武器なしで異種族と戦うつもりなの?」

 そんなわけはない。けれど、小鳥遊にはどこで装備を整えるべきなのか分からない。

「もしかして武器屋のこと知らないのか?」

「何だよ、武器屋って……」

 加藤からも天星からも説明は受けていない。加藤はそれも含めて天星が説明するのではないかと思っていたし、天星は天星で説明しなくとも分かるだろうと思っていたのだ。

 これは天星の怠慢であった。

 だが、その常識が響には存在しない。

「二階に武器屋があるんだよ。一般開放されてないから、噂程度だったから、無理もないかな」

 そうだったのか。ただ一つ不安な点があった。

 それは金が足りるとは思えないということだ。

「大丈夫なのか、金とか……」

「俺たちはレベル一、手術受けたばっかの初回利用ってことで大幅に値引きがされるんだってさ」

「なるほどな……」

 一先ずはどれほど値引きされるかはわからないが。

「オリハルコンの武器もあるのか?」

「オリハルコン?」

 オリハルコンという言葉を繰り返して、直ぐに首を振った。

「いやいや、無理だよ。オリハルコンは高すぎるから。値引きもされないし、まず手が出ないと思うよ」

「そうなのか?」

「と言っても、どれくらい高いかは分かんないけどさ」

 一先ずは話もこれで終わり。

 光樹が歩き始める。道がわからない為、光樹の後ろを付いて歩く。

 光樹は上りのエスカレーターに乗る。小鳥遊もそれに続く。

「武器は何がいいと思う?」

「弓とか銃は?」

 突然の質問に、小鳥遊は安全と思える物を提案してみるが光樹は難しげな顔を見せた。

「弓はレベルシステムで引き上げられた力を生かせるけど、銃はなぁ。それに弓だって近付かれたらお終いだし……」

 様々な要因もあってか、遠距離武器の強みは大してないようだ。

「ここは無難に剣か槍かな……」

 エスカレーターが上り二階に着くまでの間、どの武器が良いかと二人は話し合う。

「おお……」

 小鳥遊の隣から感嘆の声が聞こえた。それは初めて来る武器屋という場所に感動を覚えたためだろうか。

 武器屋には剣や槍が並べられている。どうにも弓は人気がないのか売れ残っているようだ。

 それも、矢を購入しなければならないというマイナスがあるからだろう。

「君たち、見ない顔だね」

 黒いセーターを着た髪も目も黒の、夜のような少女が二人に声をかけた。

「今日、戦士になったばかりで……」

 光樹が受け答えする。

「そっか。気をつけてね」

「心配していただきありがとうございます」

「同じ戦士だし。人に死んで欲しくないのは当然だよ」

 少女はそう言って笑う。

 成る程、加藤の言った通りだ。必ずしも戦士が屑であるという訳ではない。

「武器は命を預けるものだから慎重に選んだ方がいいよ」

 命を預けるものに金をかける事は悪いことではない。タダの命綱と、金のかかった命綱、どちらが安心できるかは決まりきっている。

「時々、武器としては最悪な粗悪品もあるんだよ」

「見分け方とかは?」

 小鳥遊はそんな粗悪品をつかまされたくはないために、彼女に尋ねると、

「まあ、初心者じゃわからないよね。かく言う私も感覚で選んじゃってるけどね」

 たははと、小さく笑う。

「それにオリハルコンを使うようになってからは、あまり武器も買い足さなくなったし。でも初心者よりは見る目あると思うよ?」

「い、オリハルコン!?」

 彼女の言葉に光樹はオーバーにも思えるような驚き方をした。

「どこからそんなお金が?」

 オリハルコン製の武器というのは高級でなかなか手が出さないものだと聞いたが。

「あはは、こう見えてアタシ、ベテランなんだよ」

 どこか自慢げにも聞こえるが、嫌味を感じさせない。彼女の人柄の良さが滲み出ているからだ。

「そういえば自己紹介してなかったね。黒羽《くろばね》ユカリだよ、宜しくね」

 ニコッ。

 そんな擬音が聞こえてきそうなほどの完璧な、アイドルのような微笑みを彼女は浮かべる。

「小鳥遊響です」

「あ、斎藤《さいとう》光樹です」

 黒羽ユカリ。

 そのような名前には小鳥遊には聞き覚えというものがないが、どうやら光樹には聞き覚えがあるようだった。

「ええええ!黒羽ユカリ!?」

 そう言って光樹は黒羽の姿を凝視する。すると黒羽は若干恥ずかしげに視線を逸らす。

「有名なのか?」

「有名も何もトップランクの戦士だよ!」

「成る程ね」

「それに一般からの人気もある。助けてもらったって人も多いんだよ」

 彼女の性質はきっと人に好かれるものである事は出会って短いが、何となく理解できる。

「あはは、ちょっと恥ずかしいね」

 ポリポリと彼女は頬を掻く。

「ほ、ほら、そんなことよりも君たちの武器でしょ?」

 パンパンと手を叩いて話を元に戻した。

「あ、お願いします!」

「お願いします」

 光樹に続く形で小鳥遊は頭を下げる。彼女に武器の選び方を教わった方が生存確率を上げられると小鳥遊は考えたのだ。

「剣は頑丈なものの方がいいんだよ。レベルシステムで力は上がってるからそれに耐えられるようなものが必要なの」

 そう言って、彼女は親身になって武器選びを手伝ってくれた。最終的に二人の装備は予想以上に安く購入することもできた。

「がんばってねー!」

 そう言って黒羽は武器屋を出て行ってしまった。既に用事を終えた後だったのだろう。

「よかったな、いい武器が選べて」

「おう!」

 三日後、彼らは初めて異種族と戦うことになる。

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