Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第7話

 切りかかってきたエルフの女を小鳥遊は蹴り飛ばす。

 木々の生茂る中、四人が対面する。

「お前らが人間を殺す理由は?」

 意思疎通が取れるのなら、聞いておいて損はないだろう。

「さっきも言ったでしょう?人間のわがままにはウンザリなんですよ」

「……それは、元々、支配してたお前らがいたから人類の反乱が起きただけだ。なら、人間が力をつける前から人間を殺していたって考えられる」

 先ほどの事から、彼女は支配していたような口ぶりであった。見下しているような考え方だった。

 しかし、人間は、人類はそれを認められなかったのだ。

 反乱が起きたのは支配に問題があった。彼らの支配は、法による支配ではなく、力による重圧的な支配であったから。つまり、異種族の存在は人間にとって極めて不都合な存在であったはずだ。

「ーーまあ、どうせ知ったところで無意味ですから、教えてあげますか」

「ミラ」

 口元を薄い布で隠した、黄緑色のショートヘアーの少女が名前を呼んで確認をとる。

「大丈夫です、カミュ」

 ミラは諭すように優しい口ぶりで彼女の名前を口にした。

「ーー私たちの体には、人間《下位種》の体には流れていない青血が流れています」

「青血……」

 それはレベルアップシステムと経験値システムの恩恵を得るための鍵となるもの。

「これにより私たちは力を得ています。青血が濃ければ濃いほどに私たちは強くなる」

 まさか。

 そう思った。

 何せ、そうであれば人間を殺す理由として合理的だから。

 その青血の濃度を増すものは。

「ええ、貴方の想像通り」

 その瞬間にカミュは光樹に迫る。

 それを再び間に入って止める。はっきり言ってレベル一ではエルフは相手にならない。ゴブリン二体を倒したからと言ってレベルが上がる訳でもないのだ。

「青血の流れない生物を殺すことによって私たちは強くなるのです!」

 そう叫び、彼女は三連続で矢を放つ。それは恐ろしいスピードでカミュの背中に迫る。

 

 ーー仲間ごと……!

 

 そう思ったが、身軽な動きでカミュは跳ね上がり、その矢を躱した。

「ぐっ」

 矢が刺さると思い身構える。

 三つの矢が盾にした腕に突き刺さった。

「そして、世界は弱肉強食で成り立ちます。ならば、人間が食われるのも支配されるのも仕方ありませんよねぇ?」

 ミラは獰猛に笑う。

 そこには先ほどまでのような愛らしさはなく、人間の中にある支配へ対する反逆心をくすぐる。

 小鳥遊は刺さった矢を腕から引き抜く。

「さて、カミュ……」

「ミラ、これは一人で十分。帰ってもいい」

「……成る程、そうですか。では任せますね」

 クスリとミラは笑ってその場を後にする。

「良いのかよ。二対一だぞ」

 小鳥遊がそう言うと、先ほどまで座り込んだままであった光樹も槍を構えてゆっくりと立ち上がる。

「貴方達ではどうせ勝てない」

「……言ってろよ」

 使い物にならない斧の持ち手を捨てて、適当に小鳥遊は構えた。腕は顔の前。ボクシングの構えだ。

「ずっと見ていた。たかだかレベル一の貴方は反応もできずに死ぬ」

 静かにカミュは斬りかかる。

 反応ができないと思っていた。しかし、それは違う。レベルエラーの特異性。それは戦いの中で花開いていく。

「何っ!」

 信じられないことが起こる。

 カミュの想像を超える能力で、迫りくる斬撃を尽く小鳥遊は避ける。

「すげぇ……」

 その戦いに手を出すことができない。自分では足手纏いになる。そう理解する。

 なら、武器を持っていても意味がない。

「ーー響、使え!」

 そう言って槍を投げると、投げられた方向を見向きもせずにキャッチする。

 光樹は無防備となるが、その分、小鳥遊が守るだけだ。

 戦いの中の超集中。

 迫る剣撃を全て弾き、最低限の動きで避け続ける。

「くそっ!人間程度が!」

 本来、エルフと戦うのに求められるレベルは三十以上である。個体差により差があり、もしかすればレベル七十を超えても敵わない存在もいるかもしれない。

 目の前にいるカミュは人間にしてレベル六十はある程の強さ。

 洗練された剣技は様々に変化をつけ、フェイントを交えて小鳥遊の命を奪いにくる。

 ただ、そのどれもが小鳥遊には通じない。技量は足りていないものの小鳥遊の体は最適解を反射的に導き出していく。

「ふっーー!」

 一瞬の隙を見つけて、小鳥遊は攻撃に転じる。槍は凄まじい速度で、剣を握るカミュの手に衝突。

 その瞬間、ゴブリンの頭が弾けた時と同じようにカミュの腕が、

 

 弾けた。

 

 

「ぐあああああああっ!!!」

 

 

 血と肉の花が咲いた。

 カミュは目を見開き、痛みを訴えるために叫ぶ。その叫びは緑の覆う世界でこだまする。先の無くなった腕からはボトボトと血が滴る。

 弾けた腕は、断面と言えないほどグロテスクに崩れている。そして、彼女の持っていた剣も、小鳥遊が渡された槍も壊れてしまっている。

「俺の槍があ……」

 せっかく購入したと言うのに、貸すだけのつもりが壊されてしまった。

 カミュに戦闘続行は不可能である。そして、武器のない小鳥遊もまた戦闘を続ける意味がない。

「くそっ、人間なんかに……。私が、私が負ける?」

 信じられない。

 信じたくない。

 心ここにあらずと言った様子で、現実を必死に否定する。

「あり得ない!あり得ない!ありえ、な……」

 ザクン。

 叫ぶ彼女の胸を一つの剣が貫いた。

「ーー大丈夫?」

 確かめる声がエルフの背後からした。

 金色の剣が生えている。それはオリハルコン。血に染まった剣はそれでも美しい黄金だ。

 その剣をカミュの胸に突き刺したのは武器屋で出会った黒羽ユカリという少女であった。

「黒羽さん……」

 見知った顔に手に握っていた今や先の折れたただの棒切れを地面に落とす。

「ん、ああ。小鳥遊くんと斎藤くん?」

「黒羽さん、何でこんなところに?」

 小鳥遊がそう尋ねる。

「うん?何処にいても自由でしょ?」

 そう言って彼女はエルフの背中から刺さったオリハルコンの金色の剣を引き抜いて、血を払ってからゆっくりと鞘に収める。

「それにしても、災難だったね。戦士になってすぐにエルフに会うなんて……」

「はあ」

 なかなか実感が湧かないが、戦士として実力者である彼女が言うのだから今回は本当に不幸なんだろう。

「だってエルフは中堅戦士でも苦戦するんだからね」

 その言葉を聞いて小鳥遊は光樹にアイコンタクトを取る。こちらでも長年の付き合いであったからか、言いたいことは伝わったようだ。

「それにしてもこのエルフ、随分弱ってたみたいだけど、どうして?」

「ーー高レベルの戦士が戦ってたんだと思います。腕もありませんし」

 光樹がそう答えると、

「成る程ね」

 黒羽も先のないカミュの腕を見て納得の表情を浮かべる。

「ところで君たち武器は?」

 光樹に渡された槍も今となってはただの棒切れ。見る影もない。

「ええと、壊れちゃいました」

 苦笑いを浮かべながら小鳥遊がそう答えると、黒羽はそっかと呟く。

「まあ、エルフだからね。腕がなくてもレベル一には負けないか……。取り敢えず、本当に良かったよ。知り合いが死んでたら、私、引き摺るかもしれないから」

 そうして再びニッコリと笑顔を浮かべる。

「じゃあ、私はもう少し異種族を倒しにいくけど、君たちはもう武器も壊れちゃったみたいだし帰った方が良いんじゃない?」

 その言葉に二人は頷く。

 一先ず、三人で林を出て、そこで彼らは別れることにした。

 異種族はそこらを跋扈しているため、見つからないように慎重に移動している。

「ーーなあ、響」

 黒羽と分かれてしばらく帰り道を歩いていると光樹が質問してくる。

「…………」

 それはわかり切っていたはずだ。気にならないわけがない。それに光樹なら信頼しても良いだろう。

「何で、お前はエルフと戦えてたんだ?」

 光樹という小鳥遊が知っている、現状、誰よりも信頼できる人間には話しても大丈夫だろう。

「分からない」

「レベルは?」

「それも分からない」

「は?」

「光樹、レベルは?」

 逆に小鳥遊が光樹に質問を返せば、少しだけ確認の時間をとってから彼は素直に答えた。

「まだ一だけど」

「……俺はレベルエラーなんだよ」

「うん?」

 言葉の意味を理解できなかったのか、光樹は問い返す。無理もない。前例もないのだから。

「レベルが分からないんだ」

 そういうとポカンとした顔をする。

「マジで?」

 マジで。

 小鳥遊が光樹の言葉を繰り返すように、そう返せば光樹は驚愕の表情を浮かべそうになるが、すぐにその顔を潜めた。

「……大丈夫なのか、それ?」

 そして、心配そうな表情を浮かべる。

「分からない」

「バレたら、マズいかもな……」

「だから黙っててくれ」

「……分かったよ。でもレベルは報告の義務があるけどもそれはどうする?」

「お前と同じレベルで出しておくよ」

 天星には誤魔化すなと言われたが、仕方がないだろう。レベルをエラーですと出すなんて、あまりにも馬鹿すぎる。

 原因不明のレベルエラー。

 今回のことによって光樹の協力を得ることができ、レベルを誤魔化す方法も手に入れた。

 これで一先ずは小鳥遊の異常な強さに光樹は納得が言ったようだ。

「あのさ、俺、今回のことでよく分かったんだ」

 話題が変わる。

「うん?」

「異種族は信頼しちゃいけないんだよな」

「みたいだな」

 人間と友好的な異種族など居ないと考えた方がいい。知能ある異種族は狡猾に人を殺し、知能がなければ力で制圧する。

 結局のところ人間にとって異種族は害悪でしかない。

「ーー俺、もっと強くなりたいよ。響に守られなくても良いくらいにさ」

 光樹が小さな声で言った。

「……無理しないでくれよ」

 もう二度と、あんな事を繰り返したくない。小夜の時のように失うのは嫌なのだ。

「心配はさせたくないからな……。お互いの為にも」

 互いが互いに生きていることが、心の安全を保っている。頼ることができる人間、頼ってくれる人間、そんな持ちつ持たれつの友人関係が家族のいない今は何よりもの精神安定剤なのだ。

 太陽が少しだけ西の方角に沈み始めていた。二人はゆっくりとアスファルトの地面を歩いて行く。

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