Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第8話

「お疲れ様です、小鳥遊くん」

「響、この人知り合い?」

 ギルドに無事にたどり着くと加藤が出迎えてくれる。光樹は加藤のことを知らない。

「あー、加藤さん」

「どうも加藤泰治です。そこの貴方も野菜ジュース要りませんか?」

 そう言って彼はカバンから紙パックの野菜ジュースを二本取り出した。

「え、えと、どうも?」

 光樹の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるような気がする。

 ただ、これに関しては気にするだけ無駄だ。

「ありがとうございます」

「いえいえ、ビタミンは大事ですからね。ビタミンは健康への一歩です」

「響、何この人?」

 小声で小鳥遊に質問を投げかける。

「ビタミンの使者だよ」

「何ですかその雑な紹介は……。しかし、ビタミンではなく野菜ジュースの使者と言ってもらいたいところですね」

 彼自体、野菜をそこまで摂取できていないから野菜ジュースに頼っている。

 だから、加藤は野菜ジュースは栄養バランス的にとても重宝しているのだ。そんな彼は野菜ジュースの素晴らしさを布教しようと常備している。

「今日はパンはないんですか?」

「残念ですがね。もうすぐ買いに行きますよ」

「あ、はい。さようなら」

 そう言って加藤との話を打ち切って、二人は帰ろうとするが、加藤が止める。

「いや、少し待ってください。やはりパンも渡さなければ私では無いといいますか……」

「いや、大丈夫ですよ」

 別にパンを求めてはいないから。

 断って自室に戻ろうとする。

「あ、そうではなくてですね。ーー大丈夫でしたか、小鳥遊くん」

「見ての通りです」

「武器が無いようですが……」

「破損しました」

 小鳥遊は事実を伝える。

「えと、そちらの彼のも?」

 光樹はその質問に頷きで返す。

「何があったんですか?」

「手負いのエルフと遭遇したんですよ。黒羽さんに助けてもらいました」

 光樹が答えると、

「ああ、そういう事ですね」

 加藤は顎に手を当てて呟く。彼も納得したようだ。

「いえ、武器は壊れてしまったようですが無事で何よりです。今日一日お疲れ様でした」

 加藤は背中を向けて歩いて行ってしまった。心配してくれていたのだろう。

「あの人がパン買ってくるの待ってる?」

 そんな背中を見て、光樹は冗談半分で提案してみる。

「いや、来るのか?」

 そう言いつつも、加藤はしばらく待ってみることにした。

 そんなこんなで十分ほど待つと、パンを購入した加藤がやってきて、二人にパンを渡して行ってしまった。

「何だ、あの人の執念……」

 パンを渡してまた去って行った加藤の背中を眺めながら、光樹がそう呟いた。

 パンと野菜ジュースを持って、彼らは自分たちの部屋に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 翌日、光樹と小鳥遊は再びシェルターの外に出る。その手には新調した武器が握られている。

 光樹は相変わらずの槍。小鳥遊はその力のせいでほぼ全ての武器は壊れることが前提になるため、最低限のものを複数だ。

「響、レベルが上がれば給料も増えるんだ」

「嘘の報告したら得じゃないか、それ?」

 システムとして大丈夫なのだろうか。

「時々、ギルドから依頼されることがあるから、その時に死ぬだけだよ、そういう奴らは」

 だから、戦士は増えて減ってを繰り返している。それ故にレベルが高い人間がいい装備を持つのも当然と言える。

「だから、今日もゴブリンとかを狩っていればいいんだ」

 それもそうだ。

「多分、響はもうとっくに強いからレベル上げは必要ないだろ?」

「どうなんだろう……」

 レベルがわからない。強さの指標がわからない。どの程度の相手に通用するかも。

「大丈夫。響はそこらの戦士には負けないくらい強いから」

 そう言って光樹が笑う。

 その言葉を信じていいのか。

「流石に黒羽さんには勝てるかわからないけどさ。あのエルフと戦える、寧ろ圧倒してたくらいだし」

 カミュの強さは中級戦士以上。ならばそれを凌駕する小鳥遊の力はどれほど低く見積もっても、トップレベルと言える。

 それでも、レベルエラーを隠さなければならないのは、小鳥遊の身を守るためであった。

「俺が強くなるまで待っててくれよ」

「危なくなったら俺も戦うからな」

 どれだけ力がなくても、きっと小鳥遊は、たった一人残された友達の光樹を守るためであればその体を盾にする。

「うん、ありがとな」

 それから、彼らは歩き始めて、今日の敵を探す。失いたくない、守りたい、生きたい、そう願うから、強くならなければならない。

 目の前で、知らない場所で、大切なものを失いたくないから。

「ーー見つけた」

 目に飛び込んできたのは人間よりも背丈の低いドワーフ。着ているのは布切れである。

「どうするんだ?」

 人型に近く、ドワーフなのだからきっとゴブリンやオークなどよりも理性的で厄介なはずだ。それにゴブリンやオークよりもレベルが求められる。

 それでも、基本的にどんな生物も不意を突けば殺せるのだ。

 だから、これはチャンスだった。

「あんまりさ、こう言うのって良くないかもだけど。殺すよ」

 良くないというのはレベルに見合っていないから、と言うことだろう。それでも、光樹は強くなりたい。それに強い仲間がいる多少の無茶は大丈夫だろう。

 真剣な表情で光樹が告げる。

「本当に危なくなったら助けるから」

 その言葉を小鳥遊は否定するつもりはない。異種族は何であれ、人間にとって害悪な存在だ。

 それはエルフのことで分かった。

「うん、頼むよ」

 強さを知っているから、一言そう言って光樹はグレーのパーカーのフードを揺らしながら、飛び出していき、ドワーフの心臓を背後から手に持つ槍で突き刺して殺そうとした。

 その瞬間に溢れ出るのは赤い液体のはずだった。

 

 ーーガキン!

 

 そんな金属がぶつかり合うような音が響いて、ドワーフはゆっくりと振り返る。

 小鳥遊はその光景を見て、すぐに陰から飛び出した。

 ドワーフの腕から光樹の命を奪い取らんと振るわれた棍棒を弾く。

 目の前で起こるそれを光樹は黙って見ていることしかできなかった。

「響……!」

 バクンバクンと光樹の心臓がうるさいほどに鼓動する。それは小鳥遊も同じだ。

 今、目の前には、二体のドワーフが立っている。片方は先ほどまでいたドワーフ。

 もう一体のドワーフは、最初からいたドワーフとは違い鎧を身に纏い、立派な顎髭を蓄えている。

「人間風情が、オレの息子に手を出そうとするなんてなァ……」

 渋い声、鋭い目つき。恐ろしいほどの殺意が空間に漂う。空は曇り模様。体が普段より重たく感じる。

 彼ら以外は誰もいない住宅街、異種族と人間の争いが一つ。起きようとしていた。

「ガドル、準備は良いか?」

「おう、親父……」

 親の言葉に頷き、ガドルと呼ばれた息子ドワーフも棍棒を構える。

 

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