Q.こんな俺でも世界は救えますか?   作:山田ヘイタロウ

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第9話

 初めに動いたのは親のドワーフだった。棍棒を振りかぶって小鳥遊ではなく光樹に襲いかかる。

 しかし、小鳥遊はその間に入って粗悪な剣でドワーフの一撃を受け止める。

「チッ。ガドル!そっちは任せた」

 親ドワーフが背後にいるガドルに叫べば、ガドルは棍棒を構えて、

「おうよ!」

 と、返答し光樹を殺そうと襲い掛かる。

 光樹は槍を構えて、迎え撃とうとするが、明らかにドワーフを倒すほどの実力は足りていない。

 シェルター外に出る前に購入した短剣をガドルに向かって小鳥遊は勢いよく投げた。

「チッ!」

 そのせいでガドルは攻撃ができずに後ろに退く。

「ーー余所見してていいのか、よっ!」

 親ドワーフが、大きく振り上げていた棍棒を、小鳥遊を叩き潰すために勢いよく振り下げた。

 それをガドル同様に後ろに飛ぶことで回避する。

 先ほどまで小鳥遊が立っていたアスファルトの地面はパラパラと砕ける。

 レベル一ではまず、勝つことのできない実力だ。

「すまねぇ、親父……」

「気にすんな。どうせ雑魚だ」

 それで親子の会話は終わったのか、二人を睨みつけてくる。

「小鳥遊、悪い。俺のせいで」

「いや、大丈夫だ」

「どうする、逃げる?」

 光樹がいる今、彼は自分が足手纏いになると言うことを自覚していた。ならば、逃げてしまった方がいい。

「ーーいや、逃げる必要はねぇ」

 光樹の質問にカミュと戦った時のような真剣で鋭利な気配を立てて答える。

「ここで殺す」

 満ち溢れる殺意と決意。

 小鳥遊は再び、戦闘態勢を取る。

「光樹」

「うん?」

「槍構えとけ」

 正面を向きながら、小鳥遊がそう言う。光樹はその背中を見て、尋ねる。

「でも、俺は足手纏いだろ……」

「良いから。レベル、上げたいだろ?」

 その言葉に光樹が答えを返す間もなく、戦闘は始まった。

 カミュとの戦いと同じだ。高レベルの戦闘が行われる。ただ、今回は二対一の形になる。

 ガドルは親ドワーフと小鳥遊の戦闘に関わる気もなく、最初に光樹を殺し、そのあとで助太刀に入ろうとしていた。

「ぐっ!」

 しかし、その度に邪魔をするように入ってくる短剣の投擲により、光樹に近づけない。

 ならば、先に小鳥遊を協力して殺してしまおう。そう思って、親ドワーフが相手をしていた小鳥遊に標的を定め棍棒で殴りつけようとする。

 小鳥遊は親ドワーフとの戦いに集中している。なら、背中は隙だらけだ。

「ガドルッ!止めろ!」

 それに気がついた親ドワーフは叫ぶ。

 ガドルでは勝てない。

 しかし、その叫びも、背後に迫るガドルにも気がついていた小鳥遊はその瞬間の全てを見逃さない。

 凄まじい膂力で親ドワーフを棍棒ごと蹴り飛ばし、背後に迫るガドルの棍棒を持つ手と、両足を切りつける。

 振るわれた剣はガドルの手と足を切ると共に持ち手だけになってしまう。そうなることはわかっていた。

 そうして、また粗悪な剣を取り出す。

「光樹。その若いドワーフに止めをさせ」

 そう言われて、光樹は槍を持ってガドルの近くに駆け寄った。

 苦痛に喘ぐ顔を浮かべるガドルの姿。

 それを見て、動き出したものが一人。

「ガドルゥウウウ!!」

 憤怒の形相を浮かべ、我を失い彼は棍棒を振りかざしてガドルの目の前に立つ光樹を叩き潰そうとする。

 しかし、彼は忘れていた。自身の目の前には小鳥遊という脅威がいることを。

 小鳥遊は勢いよく、粗悪な剣を怒り狂うドワーフの腕にぶつける。

 その瞬間、ドワーフの腕が爆ぜた。

「ぐぬぅうううーーっ!」

 痛みに叫ぶドワーフの足に、小鳥遊は短剣を二本突き刺して、アスファルトの地面に縫い付ける。

「親父!」

 涙を流しながらガドルが叫ぶ。

 ただ、小鳥遊が、光樹が、異種族に与える慈悲など一つもない。

 自らの親を守ろうと必死に残った左手を使って、アスファルトに血をべったりと塗りたくりながら匍匐する。

 そんなガドルの背中を一本の槍が貫いた。

「あ、が……」

 そして槍は一度引き抜かれ、最後に後頭部を刺し貫く。頭からは赤い血が溢れる。

 それを見て男が叫んだ。

「あ、ああ……、貴様らああああああ!!!」

 怒りが、憎しみが、恨みが。様々なマイナスな感情が湧き上がる。子を殺された。目の前で我が子を殺された。

 脳内は殺意一色に塗りつぶされる。

「俺の子を、よくも、よくも!」

 家族のために彼らが怒るならーー。

「随分、都合のいい考え方だな」

 奪われ続けてきた人間の家族のことを、彼らは少しでも考えたのだろうか。

 縫い止められた足では動くこともできない。だから、死は避けられない。目の前に迫った光樹の槍がゆっくりとドワーフの目には見えてしまう。

 ドプリと沈み込むように槍の穂先が、ドワーフの脳天に吸い込まれた。

「レベル、アップ」

 光樹は自らのレベルを確かめて、小さくそう呟いた。

 レベルアップという言葉を聞いたが、小鳥遊が光樹の方へと視線を向けることはない。

「レベル何になった?」

 倒れたドワーフの死体を見ながらそう尋ねる。

 それに、

「八レベ。一気に上がったよ」

 突き刺さった槍を引き抜きながら、光樹はすぐに答えた。

「そっか」

 小鳥遊は蹲み込んで、ドワーフの体から流れ出ている血に目を凝らす。

「ーーなあ、青血ってさ」

 地べたに塗りたくられた赤色。

「青くないんだな」

 どこにも青色など見当たらない。青血とは言われているが、それに大した意味はないのかもしれない。赤よりも青の方が異物のような気がするとか、そんなものなのかもしれない。

「まあ、青血は目に見えないからね」

「……こいつらも赤い血が流れてんだよな」

 人間とは違う生き物。

 見た目が人間と大差がないから、どこか油断してしまうのかもしれない。信じてもいいかもしれないと。流れる血だって赤色と変わりない。

 ただ、目に見えない青血と呼ばれるものが流れているかどうかの違いだ。

「お前はさ、何か感じることはないのか?」

 蹲み込んだまま小鳥遊が尋ねれば、頭上から声が聞こえてくる。

「奪われたくないから」

 彼らを放置していれば、誰かが奪われるかもしれない。それが怖い。

 家族を奪われて異種族は憤りを見せる。

 それは人間も同じだ。

「そうだな」

 それだけで戦う理由としては十分だ。

 納得に、理解。その質問をする必要はなかったのかもしれない。小鳥遊も光樹もお互いに奪われてきたのだから。特に光樹はきっと、小鳥遊以上にそれを実感している。

 強くなって、守りたい。迷う必要などない。異種族は人にとって害悪種でしかないのだから。

「よし、次に行くか」

 小鳥遊はドワーフの死体から目を離し、立ち上がった。

 幸い、買いたての粗悪品はまだまだある。短剣と、鉄の直剣。

「流石にドワーフレベルは俺、無理だよ、もう」

 ガッチガチに緊張してしまい、結局のところ止めを差すことしかできなかったのだから、それは仕方ないのかもしれない。

 それも無理はないだろう。

「仕方ないか、んじゃゴブリンにするか?」

 小鳥遊が顔を上げてそう提案するが、光樹は悩ましげな表情を浮かべる。

「どうした?」

 何か問題でもあっただろうか。

「いや、ゴブリンはレベル五までは上がるけどさ、八レベなったし効率悪いかな」

 青血が薄いゴブリンではレベリングにははっきり言って向かない。

 ならどうするんだ。

 そう思って小鳥遊が光樹に視線を向けた。

「オークとか、どうかな?」

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