普通に超能力とか異能とかで良いじゃん、と思ったりする『個性』と呼ばれる超常的な力が世界に現れてからワリとそれなり。
世界人口の約8割が『個性』を有する超人社会なったりして、俺個人としては楽しく楽するために『個性』を使えばいいのにと思う一方で力を持て余しているのか、差別されて鬱憤が溜まっているのか、それとも悪へ傾くのが人間の本質ということなのか、超人社会は『個性』を悪用する
社会を崩壊させたところで食うもんに困ったりと生活が不便になるのは目に見えているのに(どうして暴れるんだろーなー)、と思いつつ俺は生活を守り老後を自堕落に生きるためにヒーローになることを保育園の頃に決意したりしていた。
「
今やっているのは習慣である個性のトレーニング。
本当はもっと大規模に個性を使いたいという気持ちがあるのだが、外で無闇に個性を使うワケにはいかないし使える場所も住んでいるところがそれなりの都会ということもあって使える場所もなかったりする。
だから今は友人Aの有り難いお言葉に従い規模と形状と強度の増強を図っているところだ。
セリフからも分かる通り作っているのは泥団子。
鏡面仕上げのように輝いていることを除けば大きさも素材も何ら変哲のないただの泥団子。
だが『有り難い』と言った通りこれはこれで鍛えるには中々良い。
まず規模。
手元にはノギスと呼ばれるかなり精密に測れる挟んで使う物差しがある。
それによるとサイズは意図通りの『9.815センチ』。
更には『個性』を使って作られた限りなく真球に近い球を入れる特注ケースにもジャストフィット。
最後に握るは釘と鉄製ハンマー。
結構ぶっとい釘を泥団子に対して全力で打ち込む……が当然のように泥団子は光り輝き釘は鋭利な先端を丸めていた。
だから俺はこの個性『形成安定』における規模の精密操作と形状操作、強度操作を極めていると自負している。
「よっしッ! 友人Hに『最早ただの岩だろ常考』と言わしめた泥団子(?)の
形成に成功っと」
両親からの遺伝と複合によって生まれた『個性』で作った泥団子は友人Hにそう言われた2年前と比べると岩を超え鋼と化しているハズだ。
父の『形成』と母の『安定』。
正確には父方の祖父母の『操作』『解析』から複合変異した『形成』と自然発生の『安定』の2つは合わせて使うとかなり使いやすかったりする。
「
「はいは〜い。今行きますよーっと」
もう一回くらい形成する時間があると思っていたが気づけば8時を過ぎていた。
準備を始めていた分それが中断となってやる気を持て余した俺は仕方なく使おうと思っていた大量の砂鉄をそれなりに凝ったデザインのウェイトに形成して夕食に向かった。
匂いからして恐らく明日の雄英高校入試のゲン担ぎのカツ丼だろう。
さらに言えば性格から言って明日も同じのハズだ。
「え〜実技試験の内容は入試要項通り、え〜10分間の『模擬市街地演習』を行ってもらう。演習場には得点の異なる3種の仮想
それまでマイクがあっても聞き取りづらいボソボソ声で話していた無気力な男が唐突に叫んだせいでその場にいた多くの者たちが驚愕に目を見開きながら耳を押さえる。
(お、おお……イカンイカン。オッサンがボソボソ話すせいで思いっきり寝てた……)
だが創咫は前日の勉強の疲労の影響で眠りこけていた。
「あ〜会場はここだな」
ウトウトしていたうえに寝起きで鈍重な動きをしていたせいで会場前にたどり着いたときには既に多くの受験生が集まっていた。
「うわぁマジで『人がゴミのようだ』じゃんよ。メンドクセェ」
数えるのが億劫になりほどの人間がそこには溢れている。
行動が制限され荷物が盗まれるかもしれないという理由で人混みが嫌いな創咫は人混みから少し離れた位置で開始の合図を待っていた。
『え〜スタート』
「よし……」
「「「「「「「「え?」」」」」」」」
スタートの合図が出た瞬間、創咫は『個性』を使って宙に足場を生み出しその上を移動することで人混みを無視して先頭に立つ。
そして反応は出来なかったが確かに下された合図の言葉と突如として『個性』を使って会場内に一早く入った創咫の姿に少しの間を置いてから他の受験生たちも走り始めた。
「
会場内で最も早く仮想
それも5体いたロボットの群れを全て何もせず走るよりも少しの遅くなった程度の速度で走り抜けながら倒していった。
「「「う、うおぉぉぉ?!」」」
背後から聞こえてくる声を当然のように無視して創咫は直進し次の標的を探す。
それもそのハズ、創咫がやったのは創咫の認識としてはただ『個性』を使い直進しながら一回転しただけ。
実際、その認識はおかしいモノではない。
流れとしては『個性』で一体目を行動不能なるように装甲を剥ぎ取り、その装甲を利用し博物館などに展示されている実用的な名刀を再現し、その武器を両手に持って残る4体を切り裂いただけ。
説明すればすごく単純。
だがその流れの速度が他の受験生たちからすれば異常な程に速い。
そしてその速度の差の理由は『個性』の性質にある。
他の受験生たちの多くが攻撃向きの個性。
それはヒーローの性質として当然だ。
けれども創咫の『個性』は本来攻撃向きではない。
あくまで適正は生産であり攻撃とは縁遠いもの。
だがその危険性の低さゆえの利点というのも大きい。
危険性が低いために普段から使用が可能性、つまりは日常生活レベルで『個性』の練度を鍛えられるということだ。
「
もちろん創咫は適正外の攻撃だけでなく自分および相手取った仮想
「大丈夫か? 戦えるなら続けてもいいし無理なら逃げとけ」
「お、おう……じゃねぇ! 行けるぜ俺は! 俺は行けるぜ!」
相手取っていた仮想
「ありがとな! 受かってたらまた会おうぜ!」
皮肉の1つでも言ってやろうと思っていた創咫だったが、それよりも早く青髪の少年は「ウオォォォォオオオオオ!!」と言いながら全力で駆けて行く。
有り余る元気に少し気圧された創咫は戸惑うように首筋を掻きながら最早走るのすら面倒になったと言わんばかりに歩き、相手を見つけた瞬間地面に触れ仮想
「今ので何体目だ? …………ダメだ、50超えたあたりから遡れん。強さが同じ過ぎて記憶にすら残らんぞ」
ロボット相手ということで実力を遺憾なく発揮出来る創咫にとってこの試験は作業のようなモノ。
わざわざ数えない限り潰した蚊の数など覚えないのだ。
「にしても……どいつもこいつも街破壊するだけ破壊しやがって。金出すのは雄英だぞ? お前らのせいで出費が酷くなって学校の設備が悪くなったら被害出るのはこっちだぞ!?」
確かに戦う上では破壊は避けて通れないだろう。
だが戦う上では不必要に思えるほどに破壊されている。
「建物壊すな。金が掛かるだろうが、リアルを想定して人命を危ぶめよ」
明らかに仮想
「こちとら『個性』使うと頭を痛くなんだよッ!!」
ヒーローとして活動しようとする以上、発言はともかく行動はヒーローらしくしようと心掛けている創咫は頭痛に叫びながらそれでも市街の修復を止めない。
そうやって破壊の多い状況に歯をギリギリと鳴らしていると突然遠くから複数の悲鳴が聞こえてくる。
その悲鳴は常に聞こえていた対処ミスによるまばらな悲鳴ではない。
集中した一方向から聞こえてくるものだ。
「んだぁ? 誰かが『個性』暴発させたかぁ?」
被害として真っ先に思い浮かぶのは火災や爆発。
だがどこからも黒煙は立ち昇っていない。
ならば何か。
それを考えるよりも早く答えの方から姿を表した。
「ああ、妨害用のヤツね。ハイハイ……点にならんから誰も立ち向かわないし助けません、と」
妨害用の巨大な仮想
我先にと逃げ出し、他者を引っ張って退路を開き逃げている姿は創咫からすれば滑稽の一言。
「ふっざっけんなぁぁぁあああああ!!」
その光景を見た創咫は自分がいっそ滑稽に思えた。
正規のヒーロー志望が逃げ、我欲のためのヒーロー志望がヒーローを心掛けている。
あんな姿でさえ我欲を満たせるならばこれまでの自分の費やした労力が報われない。
創咫は無駄な努力が大嫌いだ。
「ヒーローが逃げてんじゃねぇ!」
怒り7力の開放欲2疲労による理性の摩耗1によって
大通りには大量の仮想
「
技名を叫んだ瞬間、道路が一気にうねり出し、ダメージを負って動けず倒れ伏している者たちだけが安全な場へと運ばれた。
「俺の感情抑制に付き合えクソッタレ!!」
その叫びとともに創咫は道路に両手を着き、それとともに周囲から大量の残骸が無くなる。
「テメエら全員……ヒーローなる気あんのかゴラァァアアア!!」
「
地面に接した左手から長い金属棒が伸び、それは巨大な妨害用仮想
そして『個性』で生み出した足場に乗ると同時に相手を両断するほど巨大な刀が生まれ、実際に両断した。
『終了〜!!!!』
「ふぅッ! ……って、もう終わりか!?」
巨大な刀を生み出すと同時に足場から飛び降り刀を地面と平行に握っていた創咫は刀が仮想
「ま、生まれて初めて大規模に『個性』行使出来たからいっか!」
激しい頭痛を頭を降ることで強制的に吹き飛ばし、なんてことないように笑顔で胸を張って笑う創咫。
「あ、そうだ……誰か怪我してるぅ? 応急手当程度なら出来るけどぉ!」
怪我人を移動させたことを思い出した創咫は勢い良く後ろに向き、雄英の職員が治療している姿を見て恥ずかしそうに顔を赤くしながら誤魔化すように仮想
「少年、君は怪我してないのかい?」
「む? わぁデカイおっぱい……じゃなかった、怪我はないですハイ。頭痛はありますケドただのブドウ糖切れなんで、ハイ」
唐突に声を掛けられ、振り向いた先にいたのは巨乳美女。
格好的に考えて雄英職員だろう。
そしてそんな姿を見て疲労と『個性』行使で低下した思考力で思春期男子が反応せずに居られるハズがなく、低い思考力は思ったことを素直に口にするようになっていた。
「ほう? ならばこれをくれてやろう……口を開けたまえ」
現状どうしても隠したい根本を尋ねられるか、敵意を感じない限り反抗を考えない創咫は従順に口を大きく開く。
すると口の中に白いキューブが5、6個放り込まれる。
突然のことに驚きながら女が見せつけるように手に持つ袋に目を向けるとそこには『ぶどう糖100%』と書かれていた。
「……セクハラしてスイマセンでした」
「ふむ? 君は事実を言っただけだ、私は気にしない。私は豊満な胸を有し、そしてなによりも美しい。私は事実を言われて怒るほどおかしな女ではないさ」
主に『美しい』を強調して豊満な胸を張るその姿に創咫はさっきまでの申し訳なさを投げ捨てて「羞恥心ェ」と呆れた表情を作る。
続けば良いな(やる気が)