東方〜もう一人の巫女〜   作:ルミナス

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第百三十九話

もう一度言っておくが、此処の幻想郷の季節は冬である。

 

文明が発達し、除雪機と言ったもので雪を退かす事が出来る外の世界とは違い、文明の発達が途絶えた幻想郷は、人が労働して雪を退かすか、炎の能力を扱える者が雪を溶かす他ない。

 

神無月神社にも雪は積もっていたが、お題を出すことを考えると、人が雪掻きをするのは非効率であった。

 

その為、今回に限り鬼灯に雪を溶かしてもらったのだ。

 

ならば、火の能力も持たぬ『人間』が住む里である『人里』の現状はどうなのか?

 

考えるまでもないだろう。

 

「雪が積もってるな……たった一日でこんなに積もるものなんだな」

 

人里には雪が積もっていた。

 

***

 

人里にある寺子屋。如月は其処に来ていた。

 

理由は、途中出会った慧音から呼び止められ、お題を出されることとなっているのだ。

 

「それで?慧音からのお題は何なんだ?」

 

如月は首を傾げながら聞くと、慧音は笑顔を浮かべて子供達を呼んだ。

 

そして、寺子屋で学んでいる全生徒が集まったのを確認すると、慧音は如月の顔を見て告げた。

 

「私からのお題。それは、『子供達と隠れんぼをする』事だ」

 

「か、隠れんぼ?」

 

隠れんぼという遊びは皆さん、一度くらいはやったことがあるでしょう。慧音は子供達と一緒に隠れんぼを如月にやらせようとしているのだ。

 

しかも、こんな冬にである。

 

「ルールは至って単純だ。隠れている子供達を全員探す事だ。但し、制限を設ける」

 

「どんな制限だ?」

 

「能力を使ってはいけない。スペルカードを使ってはいけない。空を飛んではいけない。時空を斬って移動しながら探してはいけない。詰まる所、自力で探せ」

 

「自分の体力と気配察知だけが頼りか……」

 

「遊びをしているのに簡単に終わってはつまらないだろ?隠れんぼのルールを違反する事は許さないからな」

 

慧音はそう言いながら、とても嬉しそうな顔をしていた。

 

子供達が遊ぶその姿を見るのも、慧音にとっては楽しみの様だ。

 

如月はそれに気付くと、笑みを浮かべた。

 

「……分かった。隠れんぼ、始めようか」

 

「あ、範囲は人里内だけだ。それから、人里の人達も協力してくれる事になっているから、子供達は家屋の中にも隠れるだろうから、探してみると良い」

 

「分かった。じゃあ、今度こそ始めるぞ」

 

如月はそう言うと、子供の頃やった様に自分の目を隠し、十秒数え始めた。

 

「1、2、3…………8、9、10‼︎よし、探し切ってやる‼︎」

 

如月はそう言いながら子供達を探し始めた。

 

因みに、子供が全員見つけられた場合は、慧音がちゃんと言うので心配はない。

 

***

 

如月が探し始めて数分経った。

 

如月が見付けた子供達の数はまだ五人。

 

「他に何処にいるんだ?」

 

如月はそう言いながらも探していると、背中に何かが当たった。

 

「冷たッ⁉︎な、雪玉か‼︎」

 

如月の背中に当たった物体は雪玉だった。

 

直ぐに後ろを振り向くが、姿は見えなかった。

 

しかし、子供の足である。直ぐに移動は出来ない。その上、今は雪も積もっているのだ。余計に身動きが取れないだろう。

 

如月は余裕を持って雪玉が投げられた方向に行くと、女の子が二人、男の子が三人居た。

 

「見付けたぞ」

 

「あ〜あ、見つかっちゃった‼︎」

 

「雪玉を投げたらダメじゃないか」

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

女の子がそう謝ると、男の子が一人、雪を掻き集め、固め始めた。

 

「ん?何をして((ドシャ‼︎……」

 

「あはは!お兄さん、引っ掛かった‼︎引っ掛かった‼︎」

 

男の子は固めていた雪玉を、如月の顔目掛けてそのまま投げると、直撃。

 

周りの子供達もその様子が面白かったのか、笑い始めた。

 

「……はぁ、まあ、子供のやる事だしな」

 

如月はその様子を見て怒る気を無くし、その子供達を寺子屋へと連れて行った。

 

***

 

先程の子供達を寺子屋へと連れて行った後、如月はまた探し始め、一通り見て回ったが、何処にも居なかった。

 

「ん〜、コレだけ探していないなら、後は全員家屋内か」

 

如月はそう言いながら家屋内を探し始めた。

 

その結果。お団子屋さんを経営しているお婆さんの家の襖の中に女の子が二人。布団の中に寝ていた男の子が一人。魚屋さんの卓の下に男の子が一人。お肉屋さんのお風呂場に男の子が一人。医者のお爺さんと何故か食事をしている男の子が一人と女の子が二人。蕎麦屋を経営している所の机の下に男の子が二人と女の子二人。

 

如月は他の所も探してみたが、何処にもいなかった。

 

しかし、慧音からはお題の合格を貰っていない。

 

つまりは、まだ居るのだ。

 

「なあ?後何人なんだ?」

 

「後二人だ」

 

如月はそれを聞くと、再び探し始めた。

 

すると、如月は直ぐに二人のうちの一人を見付けたが、その女の子は木の上に居た。

 

「おい‼︎何をしてるんだ‼︎」

 

「冬なのに猫ちゃんが木の上に居て、凍えてて……寒そうだし……怖がってた…グスッ…から、たすけ、グスッ、ようと、グスッ、して……」

 

「降りられなくなったわけか……よし」

 

その女の子から話を聞いた如月は、木を登り始めた。

 

そして、その女の子の元へと辿り着くと、恐怖を和らげる為か優しく抱き締めた。

 

「よしよし。お兄ちゃんが直ぐに降ろしてやる。けど、ちょっと危ないから、お兄ちゃんにしっかりと捕まるんだ。出来る?」

 

如月がそう聞くと、まだ少し震えながらも如月にしっかりと捕まった。

 

「よし、なら、降りるよ‼︎」

 

如月は其処から飛び降りると、制限を破った。

 

能力を使って風を操り、衝撃を無くし、地面へと降り立った。

 

「……よし、大丈夫か?」

 

「お兄さん……私の所為で……」

 

「ああ、気にするな。君の所為じゃないから。それから、怖かっただろ?ほら、もう大丈夫だから、安心して良いよ」

 

「……ぅぅ」

 

女の子はまた涙を貯めると、如月に勢い良く抱き付き、泣き始めた。

 

「うわ〜ん‼︎怖かったよ〜‼︎うぇ〜ん‼︎」

 

「よしよし、もう大丈夫だから」

 

如月は泣き始めてしまった女の子を宥めるのだった。

 

***

 

その後、慧音に能力を使ってしまった事を話す事に決めた如月。

 

「あ〜、慧音。俺「どうした?後一人だぞ」あ、いや、それが「ほら、探して来たらどうだ?」……ああ、分かった」

 

しかし、慧音に自分の言葉を区切られ、結局は探し始めた如月。

 

しかし、如月はある程度の場所はもう付いている。

 

寺子屋の直ぐ近くの物置小屋。如月はその扉を開いた。

 

すると、幸多が隠れていた。

 

「ほら、見付けたぞ」

 

「見つかっちゃった⁉︎自信あったのにな〜」

 

幸多は残念そうにそう言うと、直ぐに顔を上げ、楽しそうな顔をなった。

 

「楽しかったね‼︎お兄ちゃん‼︎」

 

「ああ、そうだな」

 

如月はそう言うと、幸多を慧音の元まで連れて来た。

 

「よし、全員見付けたな。私からのお題は合格だ。さあ、次に行くと良い」

 

「……なあ、慧音。俺」

 

「お兄ちゃん‼︎次のお題も頑張ってね‼︎」

 

「僕達、応援してるから‼︎」

 

如月は再び伝えようとしたが、今度は助けた女の子と幸多が間に入って来た。

 

「ほら、子供達からも応援されているんだ。全てちゃんとこなさないと子供達から怒られるぞ?」

 

「……そうだな。分かった。それじゃあ、お兄ちゃん、頑張ってくるな!」

 

『頑張ってね‼︎お兄ちゃん‼︎』

 

如月はそんな子供達の言葉を聞くと、妖怪の山方面へと走り始めた。

 

***

 

如月が居なくなった後の人里。

 

如月の後ろ姿を見送った後、子供達は自分達の家へと帰って行った。

 

慧音は既に寺子屋の自室に居た。

 

すると、扉をノックする音がその場に響いた。

 

「ん?」

 

慧音はその音を聞くと、玄関の扉を開いた。

 

すると、其処にはレティシアが立っていた。

 

「何だ?もう私の仕事はないだろ?」

 

「クスクス、ええ、もう無いわ。けれど、お話をしたかったのよ」

 

「……今回の如月のルール違反の事か」

 

慧音は如月が自分が制限したルールを破った事に既に気付いていた。

 

気付いていながら、合格を出したのだ。

 

「クスクス、何故かしらと思ってね」

 

「話さなくても、お前には分かってるだろ?」

 

「クスクス、本人から直接聞きたいのよ」

 

レティシアがそう言うと、慧音は肩を竦めた。

 

「簡単な事だ。如月がルール違反をしてまであの子を助けてくれたからだ。だから、今回のルール違反に目を瞑ったんだ」

 

慧音は笑みを浮かべてそう話すと、レティシアはその答えに満足した様に笑った。

 

「クスクス、貴女は本当に良い先生ね。きっと、貴女が育てているあの子供達も、良い子に育つでしょうね」

 

「そうだと良いがな」

 

慧音はその言葉を聞くと、嬉しそうな顔をしながらもそう言った。

 

「クスクス、それじゃあ、私はまた如月の様子見に戻るわ」

 

「ああ、またな」

 

レティシアは慧音からのその言葉を聞くと、後ろ手ではあるが振り、開けたスキマの中を潜って行ってしまった。

 

慧音はそれを見届けると、また自室へと戻って行ったのだった。

 

***

 

妖怪の山に辿り着いた如月を最初に出迎えたのは、椛と見知ってる天狗一名と見知らぬ天狗二名だった。

 

「はたてもやるのか……何れだけの協力者がいるんだ?この持久走」

 

如月が見知ってる鴉天狗『姫海棠 はたて』の名前を呼んでから肩を落とすと、はたては口を開いた。

 

「さあね?何れだけかしら?それにしても、あんたの世界の私とも会った事があるのね」

 

「まあな……それで、其処の二人は誰なんだ?」

 

如月が視線を動かして見た二人は両方男性の天狗である。

 

一人は白長髪に狼耳。そして長柄の薙を持っている。

 

もう一人は少し逆立った茶髪に烏天狗の羽が生えている。

 

「俺は白狼天狗の『戌亥 楓』と言います」

 

「俺は『鹿鳴館 キリク』だ。よろしくな‼︎如月‼︎」

 

「ああ、よろしくな」

 

如月にそう言うと、椛が本題を話しだした。

 

「さて、私達から……というよりも、天狗全員からのお題ですが」

 

「天狗全員?」

 

「水蓮様からの提案です」

 

楓のその言葉の後に、椛は再度話し始めた。

 

「そのお題は『私達からの追跡から逃れながら、小唄さんを探すこと』、つまりは『鬼ごっこ』です」

 

「制限を言うと、私達から逃れる為とはいえ弾幕とかで攻撃しないこと。あんたが出来るのは逃げる事だけ。あ、飛んでの移動とか、あんたがよく使うっていう剣を使っての移動も禁止。良い?分かった?」

 

「……それ難易度高過ぎないか?」

 

如月に出来ることを此処で上げると、能力やスペルを使っての移動だけである。

 

「何処がよ」

 

「そっちには椛の能力があるじゃないか」

 

椛の能力『千里先まで見通す程度の能力』は、その名前の通り、遠くにあるものを見ることが出来る能力である。

 

この能力の上位版を水蓮も持っているが、しかし如月は知らない。

 

その上、その如月の目の前にいるキリクの能力『情報を収集する程度の能力』もあるので、如月の難易度は更に上がっている。

 

「それに、妖怪の山には他にもいるだろ?静葉達や雛達。多分、その全員が俺にお題を出すはずだろ?その時はどうなるんだ?お題を解決してる間に追い付かれるじゃないか」

 

如月がそう問うと、楓が答えた。

 

「その心配はありません。貴方がにとり達のお題を解決してる間、俺達はその場を動きませんから」

 

「あ、そうなのか。なら良かった」

 

如月はホッとした様子で溜息を吐いた。

 

「それから、小唄の居場所は『守矢神社の境内』だからな」

 

キリクがそう言うと、如月は驚いた顏をした。

 

「え?それ言って良いのか?それ言うとそこへ向けて行くぞ?俺」

 

如月がそう言うと、キリクは笑顔で答えた。

 

「大丈夫だ!そう簡単には通さないからな‼︎(笑)」

 

その言葉が本当の事だと何と無くだが察した如月は気を引き締めることにした。

 

「説明は以上です。質問はありませんか?」

 

「ない」

 

「分かりました。それでは、私が合図をします。その一分後に、私達は貴方を探し始めます」

 

椛のその言葉に頷くだけの返事をした如月。

 

「それでは……始め‼︎」

 

その合図と同時に木に登り、其処からまるでターザンの様に枝から枝へと移動する如月。

 

「……まるで猿ね」

 

「はたてさん、それは言っては駄目だと思います」

 

はたての一言に椛はそう言うのだった。

 

***

 

如月がターザンの様に移動している理由。それはやはり積雪の所為である。

 

妖怪の山も他の場所と同じ様に雪が積もっている為、走るのは困難どころか無理である。

 

その為、如月はこの移動方法を取ったのだ。

 

木から木へと移動すれば、手を痛めるのは当然だが、今は霊力で手をコーティングしている為、怪我をすることは早々無い。

 

「……‼︎もう見つかったか」

 

如月はそんな移動方法をしていると、何かの気配を後ろから感じた。

 

その気配はドンドン自分に近付いて来ている為、天狗の誰かだと推測出来る。

 

そして、その推測は当たる事となった。

 

「見付けたぞ‼︎」

 

その鴉天狗は如月も見覚えの無い奴だった。

 

その天狗は愚かにも声を上げて仲間を呼んだ。

 

今は如月が姿を見る為に後ろを向いたが、これだと姿を見なくても何処にいるのかが分かってしまう。

 

如月はその天狗から逃げ切る為、風を操り、移動速度を上げた。

 

文の能力を参考にした移動方法である。

 

そのお陰で、如月はその天狗を撒く事が出来た。

 

(これからまだ出て来るんだよな……憂鬱過ぎる)

 

如月がそんな事を考え、溜息を吐くと、その前に静葉と穣子が出てきた。

 

「あ、やっぱり参戦するのか……秋じゃなくて冬だけど」

 

「私達だってこんな季節に参戦したくなかったわよ‼︎」

 

「早く秋になって欲しいよ‼︎」

 

二人は寒さからか若干震えながらもそう言った。

 

と、その時、凛華が如月の中から出て来た。

 

それを見ると、穣子が震え出した。

 

「ひぇぇえ!私を食べないでぇぇぇぇぇえ‼︎」

 

「おい、トラウマになってるようだが?凛華」

 

「む、食べるわけがなかろう」

 

「前科者だろお前‼︎」

 

如月のそんな言葉を聞くと、残念そうな顔をしながら戻って行った。

 

どうやら、穣子から出る甘い匂いに釣られて出て来た様だ。

 

「それで?穣子達からもお題を出すんだろ?」

 

如月のその言葉を肯定した静葉。

 

「私達からのお題は『しりとり』よ」

 

「いや、何でしりとりなんだよ」

 

「お題が無かったんだから仕方ないでしょ⁉︎」

 

実際、レティシアはお題が無かったら参加しなくても良いと二人にちゃんと言っていたのだが、二人は省かれるのが嫌だったのか、参加したのだ。

 

「はい!始めるわよ‼︎『しりとり』!」

 

「『リンゴ』!」

 

「本当にやるのかよ……『ゴリラ』」

 

静葉、穣子、如月の順に始まるしりとり。

 

これが家の中ならまだ良かったのだが、山の中でのこの光景はあまりにもシュールである。

 

「『落羽松』!」

 

「『梅干し』!」

 

「『四国』」

 

「『山梔子』!」

 

「『四季』!」

 

「『清水寺』」

 

「『羅生門蔓』!」

 

「『落花生』!」

 

「『糸屑』」

 

「『菫』!」

 

「『レモン』……あ」

 

「穣子が終わらせたか……じゃあ、この課題はクリアだな」

 

如月の言葉にガックリと肩を落とす静葉と穣子だった。

 

***

 

静葉達と別れた後、また鴉天狗達から逃げ始めた如月。

 

その途中、滝が流れる音が聞こえてくると、如月はその方面へと移動した。

 

「あ、やっぱりな」

 

其処にはにとりと雛が居た。その上、そこにはまた見知らぬ者も居た。

 

一人は青っぽい髪で水色のツナギを着ている。

 

もう一人は赤いブレザーを着ている。そして、何故か雛に膝枕をして貰っている。

 

「……あら?貴方、秋に会った人間ね」

 

雛は如月の気配を感じると、顔を上げた。

 

「あ!本当だ‼︎となると、あの吸血鬼が言っていた挑戦者ってのは盟友の事だったんだね‼︎」

 

にとりのそんな声も聞こえてきた。

 

「ああ、そうだ。それで、其処にいる人達は誰なんだ?」

 

如月は頭を傾げながら聞くと、自己紹介が始まった。

 

「俺は『河野 ひとり』だ」

 

「一人?」

 

「『ひとり』だ」

 

「ああ、あの芸人か」

 

「それが誰だか分からないけど違うぞ」

 

如月のボケにそんな風にツッコむひとり。

 

「ふわぁ〜……真、それだけ……眠い……」

 

真はそう言うと、目をゆったりと擦った。

 

「真、眠いのか?」

 

「ふわぁ……眠……い……」

 

「これなら真のお題からやるべきね。真が寝る前に」

 

雛からのその提案に如月は賛成すると、真のお題を受けることにした。

 

「それで、真のお題は何なんだ?」

 

「僕のお題、は……ふわぁ……『十分間、僕を見て眠る事を耐えて』……それだけ……」

 

如月はそのお題に頭を傾げる。まあ、無理も無いだろう。

 

普通、誰かを見て眠りそうになることは、それこそ睡眠不足過ぎる人だけだろう。

 

しかし、如月は至って健康体。そんな事が起こり得ることは無い。

 

如月はそれを考えると、結論が出た。

 

(真の能力か……眠りを誘う系の能力か……)

 

如月はそう答えを出すと、了承した。

 

そして、如月は暫く真を見ていると、眠気が襲い始めた。

 

(想像通りか……)

 

如月は眠らない様に耐えるが、ドンドンと眠りの淵へと落とされそうになる。

 

が、如月は有る事を思い出した。

 

それは、凛華との修行の光景。

 

それを思い出すと一気に眠気が吹き飛び、逆に寒気が襲ってきた。

 

(一つでも失敗したら、凛華の修行量が増えるかもしれない……そんな事になったら俺死ぬかも……)

 

別に修行量が増えればその分、如月は強くなる。が、死に掛ける量も増えるのだ。

 

普通の修行方法ならそんな事も無いだろう。

 

しかし、凛華との修行の際、如月は凛華に何十回、何百回と投げ飛ばされている。

 

如月はそれと今のこの状況を比べ、何方の方がキツイのかは体と精神が分かっている様だ。

 

結果として、如月は十分間、眠る事は無かった。凛華との修行の方が勝ったのである。

 

「あら?真を長時間見てたのに寝なかったのね。貴方、凄いわね」

 

「……それ以上にキツイ事を俺はやらされてきたんだよ」

 

「……何をやらされてきたのかは分からないけど、ご愁傷様」

 

雛は如月に同情してしまった。

 

「それで?雛のお題は何だ?」

 

「私のお題は、そうね……真のお題で一回も眠らなかった事に敬意を評して無しにしてあげるわ」

 

「そうか、それじゃあ、にとりは?」

 

如月がにとりの方を向くと、にとりは少しムッとした。

 

「私一人じゃなくて、私とひとりのお題だよ‼︎」

 

「す、すまない。それで、二人のお題は?」

 

「俺達からのお題は……はい、これ」

 

そう言ってひとりが出したのは、テレビなどでよく見かける水をジェット噴射して飛ぶやつだった。

 

「……まさか、これを乗りこなせと?」

 

「お!正解だよ盟友‼︎」

 

「これ乗りこなすの大変だからな⁉︎」

 

如月はそう言いながらもお題だからと準備をしたのだった。

 

「じゃあ、行くよ‼︎」

 

ひとりのその声掛けと共にスイッチを押すと、水が噴射した。

 

「うわぁぁぁあ‼︎」

 

如月はそう叫びながらも何とかコントロールしようと四苦八苦する。

 

右へと行こうとしたり、左へと行こうとしたり……大変ではあるが、なんとかコントロールしようとする。

 

「うん!お題クリアだよ‼︎」

 

にとりからのその言葉を最後に、ジェット噴射が止まった。

 

そして、如月はそのまま落下し、幸いにも湖の中に落ちた。

 

「く、空中でスイッチを切るな‼︎」

 

「ご、ごめん……」

 

「これは俺の不注意だからにとりは謝らなくて良い。ごめんな」

 

「いや、今後は気を付けてくれたら良いさ。それに、俺も楽しめたしな」

 

「!なら、また今度機会があったら乗ってくれる⁉︎」

 

「ああ、乗らせてもらうよ」

 

如月はそれを言うと、雛達にも挨拶をして、その場を去って行った。

 

***

 

如月が守矢神社へと向かって、石段が見えてきた頃に、如月はある気配を感じた。

 

そして、如月は後ろを向き、直ぐに左へと避けた。

 

如月が居た場所には、弾幕が通って行った。

 

「ああ!惜しい‼︎」

 

「椛、惜しかったよ」

 

「当たると思ったのですが……残念です」

 

「はは!鍛錬するしかないな‼︎」

 

そこには、妖怪の山入り口で会ったあの四人がいた。

 

如月はその四人を警戒しながら、後ろを少し見た。

 

後ろには雪が積もっていない石段。きっと、早苗が雪掻きをしたのだろう。その石段を普通に走れば、白狼天狗と鴉天狗の組み合わせのこの四人に追いつかれてしまうだろう。

 

如月はそれを考えると、スペルを使おうとした……しかし、

 

「如月さんがスペルを使おうとしている。気を付けて」

 

「分かったわ」

 

「⁉︎何で分かった」

 

如月のその問いに、楓は答えた。

 

「俺の能力は『心の目で見る程度の能力』。普通の目では見ることが出来ないものを見ることが出来る能力さ。例えば気の流れだったり、例えば人の心理だったりね」

 

「……成る程な。さとりの能力の上位版みたいなものか」

 

如月はそう言うと、そんな事は関係ないとばかりにスペルを宣言しようとした。

 

「させない‼︎」

 

しかし、心理を読み取った楓が如月に掴みかかろうとする。

 

その楓の後を続く様に、椛達も如月に襲いかかった。

 

しかし、如月はそれを後退して避け、そのまま木から落ちた。

 

その時にスペルを宣言した。

 

「肉体強化『神雷』‼︎」

 

「しまった⁉︎」

 

如月が落ちた地面は、凹んでしまった。

 

しかし、今の如月はそれを気にしない。

 

如月はそのままの勢いで石段を駆け上がり始めた。

 

椛達もその後を追い、如月を捕まえようと己が出せるトップスピードで飛ぶが、追い付けず、結局は如月は境内に到着してしまった。

 

「あやや!椛達に勝ちましたか」

 

「お〜、凄いな〜、如月君」

 

如月がスペルを解いている途中にそんな風に話し掛けてくる文と小唄。

 

如月がその場所で辺りを見渡してみれば、神奈子、諏訪子、早苗の守矢一家の他に、華扇とその隣に黒髪の長髪にアホ毛が一本跳ねている、ジャケットを着た男性がいた。

 

如月がその男性を見て首を傾げていると、その男性が気付いて近付いて来た。

 

「君が如月君だね。僕は『夜行 羅刹』。よろしくね」

 

羅刹はそう挨拶をすると、手を出した。

 

「あ、ああ、よろしく」

 

如月は少し戸惑いながらもその手を取り、握手をした。

 

「それじゃあ、先ずは誰からお題を出す?」

 

諏訪子がまるで進行役の様にそう言うと、文が手を挙げた。

 

「私からのお題。『小唄との弾幕ごっこで勝利すること』。それをやってもらいます‼︎」

 

「分かった」

 

「なら、僕も頑張らないとな〜」

 

小唄はそう言うと、刃が付いたギターを構えた。

 

***

 

如月と小唄の最初は、如月が押していた。

 

小唄が弾幕を使っていないからそう見えるだけなのかもしれない。

 

しかし、如月もこの持久走の中で成長しているのだ。例え弾幕の撃ち合いをしても、そう簡単に弾幕は撃ち落とされないだろう。

 

「なら、僕から行こか‼︎スペル‼︎」

 

小唄が先手必勝なのか、スペルを先に宣言した。

 

「振符『ディセイブ鎮魂歌』‼︎」

 

すると、小唄の足に妖力が凝縮され始め、その状態のまま飛翔した。

 

そして、そのまま如月に向かって飛び蹴りをした。

 

しかし、その飛び蹴りは空気を震わせながらであるが。

 

その震えに驚いた如月は避ける行動が遅くなってしまい、腕で防御の形をとった。

 

「ぐっ‼︎」

 

しかし、その威力が強過ぎた様で、如月の腕は痺れてしまった。

 

小唄はその後、空中で一回転して、そのまま体制を立て直し、空中に留まった。

 

「次行くで‼︎高揚『ロスタイム前奏曲』‼︎」

 

すると、小唄が持っているギターに付いたその刃に振動のエネルギーが凝縮し、小唄が地面に向けてそのまま放出した。

 

それが地面に当たったその瞬間、地震が起こった。

 

「なっ⁉︎」

 

「僕の勝ちや‼︎」

 

小唄がそう言いながら如月に攻撃を仕掛けた。

 

しかし、如月はニヤリと笑う。

 

「勝負の時に慢心するのは御法度だ‼︎偽装『グングニル』‼︎」

 

如月はそう言うと、グングニルを創り出し、そのまま小唄に投げ飛ばした。

 

当然、飛んでいる状態の小唄はそれを簡単に避けるが、如月が居た場所に視線を戻すと、その場には既に如月は居なかった。

 

「⁉︎一体何処に「『桜舞連斬』‼︎」うわぁ⁉︎」

 

小唄が如月を探そうとしたその時、その如月の声が小唄の上から聞こえ、スペルが発動された。

 

そのまま小唄は如月の連撃の攻撃を受け、地面へと倒れ伏した。

 

***

 

「いや〜、負けたわ‼︎」

 

「小唄、大丈夫?」

 

「大丈夫や、文。いや〜、それにしても如月君は強いんやな〜」

 

「いや、俺はまだまだ未熟さ」

 

「またまた〜、謙遜せんでもええて、ええて」

 

「いや、これ事実なんだけど……」

 

如月は小唄の言葉に苦笑しながら言葉にした。

 

「それでは、次は私からお題を出しましょう」

 

小唄がまだ話そうとするが、華扇がそれを強行手段で止めた。

 

「私からのお題。それは『動物の妖怪を一匹説明すること』です」

 

如月はそれを聞くと、妖怪の情報を頭にある辞書を捲り、説明する妖怪を決めた。

 

「それじゃあ、『野鉄砲』を説明するな」

 

「野鉄砲?」

 

早苗はそれに少し首を捻った。どうやら、聞いたことが無い妖怪だった様だ。

 

『野鉄砲』

 

この妖怪は年老いた『マミ』という動物が変化する妖怪である。

 

この野鉄砲は、出会った者に対して目つぶしをまるで鉄砲の様に発射して攻撃する。その時にやはり鉄砲で撃った時の様な音がする。その様子から、そんな妖怪名が付けられた。

 

「……これで良いか?」

 

「ええ、合格です」

 

華扇は微笑みながら如月に対して合格を与えた。

 

「それじゃあ、僕からのお題だ」

 

羅刹はタイミングを測ったかの様にお題を出した。

 

「『僕の使う槍と刀を十分間、受け切ったりせずに回避し続けること』。受け流しとかも駄目だ」

 

「受け流しも駄目なのか」

 

如月はそれを聞くと、集中する為に少し深呼吸をした。

 

「……よし、始めてくれ」

 

「分かった。じゃあ、行くぞ‼︎」

 

すると、羅刹は右手に赤色の刀を、左手に青色の槍を持った。そして、その腕も武器と同じ色に変わった。

 

「え?何で腕まで……」

 

「おいおい、集中しなくて良いのか?」

 

「⁉︎」

 

羅刹はそう言葉にすると同時に、槍で突きの攻撃をした。

 

如月は集中を乱していたが、持ち前の身体能力のお陰なのか、ギリギリではあるが当たることは無かった。

 

「あ、危なかった……」

 

「ほら、次の攻撃行くぞ‼︎」

 

次に羅刹は刀で攻撃を仕掛け始めたが、如月も剣士である。その攻撃を捌き切っていた。

 

それから十分後。如月は羅刹の攻撃を全て捌き切った。

 

「ふぅ、これで僕からのお題も合格だ」

 

「何とか捌き切れた」

 

如月は脱力するが、まだ終わらない。

 

「おいおい」

 

「まだ私達が居ること、忘れてないかい?」

 

「うげ」

 

如月はもう沢山という顔をするが、まだまだ終わらない。

 

「まあ、私達のお題は本当は弾幕ごっこにしようと思ったんだけど……」

 

「諏訪子様、流石に可哀想ですし、変えませんか?」

 

早苗のその言葉に諏訪子は頷き、神奈子も賛成した。

 

「それじゃあ……如月と言ったね、あんた」

 

「ああ、そうだ」

 

「私達からのお題は『人里で私達の宣伝をすること』。それに変えてあげよう。此処まで頑張ったからね。まあ、それは簡単だから先に鈴を渡してあげよう」

 

神奈子はそう言うと、如月に鈴を渡した。

 

「いや、でもな……」

 

「ほらほら!行って来てください!」

 

早苗に背中から押された如月は、複雑な思いを抱くも、一度人里へと戻るのだった。

 

***

 

レティシアは八雲屋敷で一部始終を見ていた。

 

如月がまだ終わってもいないお題があるのに鈴を渡された所をみたレティシアだが、如月を責める事はせず、寧ろ楽しんでいた。

 

「クスクス、こういう事があっても仕方ないわね♪」

 

その後、如月は人里に着き、慧音の元へと一度訪れ、その後、守矢神社の宣伝をすると、慧音が渡し忘れていた鈴を貰い、そのまま魔法の森へと向かって行ったのも見ると、また笑みを浮かべるのだった。

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