スキマを潜り、白玉楼へと辿り着いた如月は、先ず妖夢と永久、幽々子を探し始めた。
この三人が居なければお題をクリア出来なくなってしまう。
妖夢がよく居る庭の方へと来てみると、妖夢と永久が修行をしていた。
「はあぁぁぁ‼︎」
妖夢は上段斬りをしようとするが、それは永久の剣で止められ、押し返され、態勢を崩されてしまった。
例え半人半霊だろうと性別は女性。相手は性別は男性で、しかも上位の半人半霊だ。
何方の力が強いか、分かり切っている。
妖夢はそのまま尻餅を着いてしまい、永久はそんな妖夢の首に剣を向けた。
「……これで俺の勝ちだな」
「そうですね。まだ私は、永久に勝てませんね」
「だが、それでも強くなっていっている」
「鬼灯様には勝てたことは無いですがね」
「……今まではあの人も修行していなかった所為で腕が訛っていたらしいが、修行しだした今の実力、知りたいものだ」
「そう言えば、最近戦っていませんでしたね」
「まあな。……それで、何時まで其処にいる気だ?如月」
と、永久は如月の方へと顔を向けた。
別段、如月は気配を消していなかったので、気付かれるのは当然である。
「なあ?鬼灯は修行してなかったのか?」
如月が素朴な疑問を永久にぶつけてみた。
そして、その質問には妖夢が答えた。
「はい、そうですね。修行しなくても強い方というわけでは無いのですが、随分昔は剣士としての実力は上位……というか、最強クラスでしたから」
「唯、あの人は妖夢のお爺さんから妖夢の修行を頼まれ、それが修行の一環になっていたらしい。だが、それでも剣士としての炎は消えたままだったらしいが」
「それが最近になって、如月さん、龍さん、永久に岩槻さん、その上、竜希さんという自分よりも強い剣士達と出会って、それで火が着いたようで、修行をしだしたんです」
「『修行をしていなかった分、私の実力も落ちてしまった。だから、修行をして力を戻し、あの時以上に強くなってみせる‼︎如月達と肩を並べ、最終的には追い抜いてみせる‼︎』鬼灯はそう言っていたぞ」
「鬼灯が……」
「それにしても、その竜希とか言う剣士の事はレティシアからしか聞いていないが、決闘してみたいな」
永久はそれを考えただけで闘志を湧き上がらせている。
「おいおい、永久。今の相手は俺じゃないのか?俺はガン無視か?」
如月の言葉を聞くと、永久は如月に顔を向けた。
「いや?お前とも戦ってみたかったんだ。俺からのお題は『決闘』‼︎純粋な剣だけでの勝負だ。弾幕もスペルも一切無しの真剣勝負。勿論、受けてくれるよな?」
永久からのその言葉を聞いた如月は、笑みを浮かべた。
「ああ、勿論だ‼︎」
其処で如月は剣を構えた。
「ふっ」
対して永久もまた笑みを浮かべ、剣を構える。
……まあ、剣と言っても木刀なのだが。
***
木刀を構えてる二人の中心に、妖夢は手を掲げた状態で立っていた。
「両者、構え……始め‼︎」
その合図により、始まる決闘。先ず最初に攻撃したのは如月だった。
如月は足に力を入れ、一気に永久との距離を詰めた。
永久は如月からの攻撃を自分が持つ木刀で防いだ。
そして、そのまま木刀の押し合い、お互い後ろへと下がった。
今度は永久が如月に近付き、上段斬りをするが、如月はそれを左に避け、永久の首に突き付け様とするが、永久はそのまま振り向き、如月の木刀を飛ばした。
「くっ‼︎」
如月は急ぎ木刀を取り、もう一度構えた。
今度は、そう簡単に落とさぬ様に力を入れてだ。
「そう簡単に落とせなくなったな」
「そんな事したら、永久が楽しめなくなる。そして、何より俺も楽しめなくなる」
「ふっ、そうだな‼︎」
そして、永久のその言葉が合図にでもなったのか、二人は同時に跳躍し、距離を詰め、お互いの木刀をぶつけ合った。
互いに一歩も引かないこの現状。
しかし、其処で如月は何故か力を抜く。
「なっ⁉︎」
それは不意の行動で、永久も急には対処出来ず、そのまま態勢が崩れてしまう。
一方、力を抜いた如月は、既に永久の後ろに回っており、永久へと攻撃しようとした。が、
「其処まで‼︎」
妖夢のそんな声が聞こえ、攻撃を中断したのだった。
***
「如月のあのやり方……鬼灯と似たやり方だな」
「ほら、この前、鬼灯と剣での試合をしただろ?あの時に盗んでおいたんだ」
如月のその言葉を聞くと、永久は更に笑みを浮かべた。
「成る程……鬼灯がお前に勝ちたいと思う気持ちが分かるな」
「鬼灯って、俺のことライバル視してるのか?」
「ああ、鬼灯はお前の方が自分よりも強いと思ってるぞ」
如月はそれを聞くと、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「妖夢〜?永久〜?ご飯にしましょ〜……あら?貴方、レティシアが言ってた挑戦者かしら?」
と、そんな時に幽々子がやって来て、如月の顔を見てそう言った。
「ああ。まあ最初は強制的だったけど、今はそう思ってない挑戦者だ」
「ふふ♪さて、貴方も入って頂戴。其処で私からのお題と妖夢からのお題をこなしましょ」
幽々子からのその言葉を聞くと、そう言えばと思い出し、妖夢を見た。
「なあ?妖夢のお題って……」
「如月さん、私からのお題はですね……」
其処で妖夢は申し訳なさそうな顔で言うのだった。
「『大量の料理を作る事』です」
***
結果として、如月は本当に大量の料理を作らされた。
その時の如月は若干窶れていたとかいないとか。
しかし、如月を更に窶れさせる発言を幽々子はした。
「は〜い!それじゃあ、私からのお題ね♪私からのお題は〜、『大食い競争で私に勝つ事』よ‼︎」
「……駄目だ、勝てない」
如月は幽々子の食べる速さを知っている。
幾ら普通の人とは違った能力を持っているとはいえ、食べるスピードは普通だ。つまり、如月では幽々子に勝てる道理はない。
なら、如月以外に任せれば良いのだ。
「……凛華」
如月のそんな呼び掛けに答え,如月の中から出て来た凛華。
その凛華は目の前に置かれている大量の料理を目にし、嬉しそうな顔をした。
「如月、これら全てを食べても良いのか⁉︎」
「いや、全てじゃないからな⁉︎今から始めるのは幽々子との大食い競争。先に食べ終わった方の勝ちだ。凛華にはこの勝負、勝ってもらわないといけないんだ‼︎頑張ってくれ‼︎」
「ふっ、如月、妾を誰だと思っておるのじゃ?妾は『喰龍』‼︎そのぐらい簡単な事なのじゃ‼︎」
凛華はそう言うと、幽々子の隣に座った。
「凛華、貴女とは良い友人になれると思うわ。けれど、今はライバル同士。お互い悔いの無い様に頑張りましょう」
「お主も、妾に負けぬ様に頑張るのじゃな‼︎」
「それでは!始め‼︎」
妖夢からの始めの合図を聞くと、二人の暴食王は自分の目の前に置かれている料理を一気に食べ切った‼︎
「なっ⁉︎あの幽々子様に負けず劣らずに一瞬で食べ切るだと⁉︎あの凛華とか言う者、只者ではない‼︎」
「永久⁉︎なんかキャラが崩れてるぞ⁉︎」
如月のツッコミは唯のBGMとでも言う様に気にせず食べ続ける二人。
もはや、この二人に見えてるのは目の前の料理だけの様だ。
「ああ、食費が……」
「妖夢‼︎しっかりしろ‼︎」
「葵さんにも分けてもらって浮かして来た食べ物達が、一気に失われていく……」
「妖夢‼︎頼むからしっかりしてくれ‼︎」
如月が若干現実逃避し始めた妖夢の肩を揺する。
しかし、やはり気にしない。
現在、沢山の料理が乗せられていた机の上には、もう料理が殆どなく、数を数えればお互い三つしか残っていなかった。
しかし、その三つ目もあっという間にお腹の中に入れる二人。
それはさながらブラックホールである。
「‼︎もう残り一つしかない‼︎」
如月のその言葉が聞こえた永久と妖夢は、机の上を見た。
すると、互いに最後の料理に手を付けようとしていた。
「……凛華。もうお互い、これが最後の料理。なら、同時に食べて決着を付けましょう」
「……望む所じゃ‼︎」
幽々子は一度、妖夢を見た。
妖夢にもう一度、開戦の合図をする様に促したのだ。
それを察した妖夢はもう一度「始め‼︎」と言った。
それと同時に最後の料理に手を付けた二人。
その結果は……。
「ふっ、妾の……勝ちじゃ‼︎」
凛華は最後の一口を口の中に入れ、勝利を宣言した。
そして、一足遅くではあるが幽々子も最後の一口を口の中に入れた。
「あら、負けちゃったわ〜」
幽々子はそう言いながらも、何処か嬉しそうである。
まあ、大量の料理を食べれたのだから嬉しいのだろう。
……しかし、まだ終わらない。
「妖夢〜、勝負は私の負けだけど、まだ私も凛華も満足してないわよ〜?」
「如月‼︎早く料理を持ってくるのじゃ‼︎」
その言葉に妖夢と如月はお互い、遠い目をするのだった。
勿論、この後、鈴は貰い受けた。
***
白玉楼でのこのやり取りを見ていたレティシアは、白玉楼に大量の食材を寄贈することを決めた。
幾らドSのレティシアでも、流石に可哀想になる気持ちはあるのだ。
「クスクス、さて、またスキマ探しを始めた様だけど、次は何処に……あら?」
如月は白玉楼の一つの部屋の襖を開け、其処に設置されていたスキマを潜って行った。
「クスクス、次は永遠亭の様ね。さて、どうなるかしら♪」
レティシアはそう言った後、大量の食材を『物を創造する程度の能力』を使って創造し、寄贈するのだった。
***
スキマを潜り抜け、やって来たのは迷いの竹林。
しかし、今の迷いの竹林はおかしいのである。
「……あれ?おかしいな……。白玉楼に行く前は昼だったのに、何でもう夜に……」
今のこの場所は何故か夜となっていた。
時間的にもまだ昼なのにである。
「これはあの吸血鬼がやったんだよ」
「あ、てゐ」
如月が頭を捻っていると、てゐが答えてくれた。
「というか、レティシアはもう何でもアリか……」
「何か不思議な事が起こってもそれがあの吸血鬼の仕業なら、『あの吸血鬼だから仕方ない』で終わるぐらいのチートだよね〜」
「今その言葉で納得してしまった」
彼女は最早、チートという名のバグである。
「まあ、これ唯の幻覚らしいけどね」
「へえ〜、そうなのか」
如月はその言葉に納得したように頷いていた。
「さって、私がここに居るのはこの説明と、後はお題を出す為に居るわけだけども……」
てゐのその言葉に、如月の雰囲気は変わった。
てゐもそれに気付き、楽しそうな笑みを浮かべて言った。
「まあ、そう身構えずにさ、気楽になりなよ。今から出すお題は姫様が過去に出した無理難題よりも簡単なんだからさ」
「……そうだな」
如月はその言葉を聞くと肩の力を抜き、てゐを見据えた。
「じゃあ、私からのお題ね。私からのお題は……『この迷いの竹林を抜ける』こと。只それだけ」
「……え?それで良いのか?」
「ああ、勿論良いよ。ま、精々私達の罠に引っかからない様に気を付けなよ〜」
てゐはそれだけを言うと、近くの竹に背中を預け、如月から目を離さないようにしていた。
「てゐの罠があるんだったな。まあ、引っかからない様に頑張るとするか」
如月はそう言うと、進んで行った。
如月が去ったその場には、残った因幡の兎が楽しそうな笑みを浮かべるだけだった。
***
迷いの竹林を歩いている如月だが、中々に難易度が高くなっている。
理由は二つ。
一つは、今現在、暗い所為で足元にある罠に直前まで気付かなかったりというような事が度々起こっていること。
そして、もう一つは……、
「何で何時もより罠の数が多いんだよ⁉︎しかも、物騒なものが多い……危なッ⁉︎」
迷いの竹林に設置されている罠の数である。
しかも、増えた分の罠には、クナイ、手裏剣、ブーメラン、カッター、投槍、短鎌etc……。
つまりは、殺傷能力抜群の武器ばかりなのである。
(てゐの罠はこんな人の命を刈り取る可能性のあるものは全くない。となると……別の『誰か』の罠?)
如月がそう考えていると、進行方向から一人の男性の姿を留めた。
髪が白髪で、何処かの世界で、周り全員から『バカ』と決定されている少年の様な顏をしている男性。
「お前は?」
「僕は『菅原 貴岳』。よろしくね、如月君」
「ああ、よろしく。それで、貴岳も出すのか?お題」
「勿論だよ」
貴岳はそう言うと、如月に向かって笑みを浮かべながらお題を出した。
「『僕を殺して』」
「……は?」
そんな言葉を言う貴岳は未だ笑みを消さない。
今の如月から見たら、何処か異常である。
「だから、『僕を殺して』。それがお題をだよ。こんなお題、クリアは簡単でしょ?」
「……」
如月は貴岳の真意を測りかねていた。
その為、彼は自身の意思に従う事を選んだ。
「……殺さない」
「……何で?」
「何でって……」
「僕と君は初対面だ。つまり、戸惑う理由がない。そうでしょ?」
「……俺は人殺しをするつもりはない」
「ふ〜ん。なら、君にとっての大切な人がどうなっても良いって事で良いのかな?」
「いや、お題一つで何故そうなる」
如月は少しゲッソリした様な顏を見せるが、しかし、目の前の異様な人物からは目を離さない。
「大体、さっきもお前が言ったように、俺とお前は初対面だ。なのに、俺にとっての大事な奴が分かるのか?」
「分からないよ?だから、幻想郷に住んでる人全員を殺せばその問題も晴れて無くなる。違う?」
「……」
如月はその言葉に一瞬目に動揺が浮かぶが、天羽々斬を出さない所を見るに、殺すつもりは無いようだ。
「で?どうするの?僕を殺す?それとも、殺さない?さあ、どっち?」
「……殺さない。そもそも殺せない。俺はそんな事を、したくはない」
「……そっか。なら、仕方ないね」
貴岳はそう言うと、自身の力を外に放出し始めた。
「さて、僕は自分の能力を何時でも使える準備に入るとするよ。止めるなら今しかない。止める方法はさっきも言ったように僕を殺す事だけだ。さあ、僕を殺せ‼︎」
貴岳のその脅しの言葉を聞いても、如月は頑として頭を縦に振らなかった。
「……どうして?」
「俺は自分の手を汚したくないし、それ以前に、そんな時が来たとしても、俺は自分の身に変えても守る。それだけだ」
「……ははっ」
と、急に貴岳は笑い始め、力も収めた。
「……え?」
「ははっ、如月君、君は本当に優しいね。でも、その思想は危険だよ」
「まあ、そうだな。けど、俺が傷付いただけで守れるなら安いものだろ?」
「守られた人からしたら安くないけどね」
「それに、今の幻想郷じゃあ、争い事は弾幕ごっこで決めるから、そんな時は当分来ない筈。違うか?」
「今、僕がしようとしたけどね」
「本当にするつもりなら、レティシアや葵に霊夢が来る筈だろ?なのに来てない。なら、そんな事をするつもりは無かったってことだろ」
「まあ、お題だからね」
貴岳は肩を竦めた。
「でも、俺にそう言う前にそれはお前にも言えることだろ?」
「ん?何が?」
「だから、俺がもし本気で殺そうとしたとして、それでお前が殺されたとして、お前はそれで終わりじゃないか。人の事言えないぞ」
如月が厳しい顔でそう言うが、貴岳は苦笑しながら答えた。
「それは無いよ。だって、僕は不老不死だからね」
「……え?マジで?」
「マジのマジだよ」
「……俺の心配は一体?」
「無意味にする様で御免けど、意味なかったね」
「キツイこと言ってきたなオイ⁉︎」
「あはは‼︎それじゃあ、妹紅の所に行こうか」
貴岳のその言葉に、如月は頷き付いていくのだった。
***
「……なあ?お題は?」
「無いよ?せめて言うなら焼き鳥食べろぐらいかな」
如月は、本人の目の前でいつも通り、焼き鳥を焼いている妹紅にそう話し掛けたが、返ってきた言葉はそれだった。
「つまりはお題が無いってことか?なら、嬉しいけど……」
「あ〜、無い無い。此処はあんたにとっては休憩所みたいな所さ。まあ、ゆっくり休んで行ったらいい」
「あ、それじゃあ遠慮なく……」
「お酒飲むかい?」
「俺が今何してるか分かってて言ってるよな?」
「あ、代金は後で頂戴するからね」
「此処で商売魂を出さなくても良いだろう‼︎」
「無理無理。だってこれ、商売だし」
そんな会話をしながらも、焼き鳥を食べる如月だった。
***
迷いの竹林で色々な罠が如月を襲うが、しかし如月はそれを避け(危なく当たりそうなのもあったが)、なんとか永遠亭にたどり着いた。
「な、何で竹林にカッターとかも仕掛けるんだよ……。挙句に投げナイフにトマホークって……殺す気満々じゃないか……」
如月が自分の身の危険に身震いしていると、その場所に二人ほど近付いてくる音が聞こえた。
如月は顔を上げ、それが誰なのかと確かめて見れば、鈴仙ともう一人、黒髪学ラン、しかし問題児そうな顔をした男が立っていた。
しかし、その男は鈴仙と同じ兎耳があるが……。
「……コスプレか?」
「違うからな」
真っ先に出た言葉にツッコむ兎耳男。
「俺は『雷羅・沈丁花式・カケル』だ。よろしくな‼︎」
「なんか、鈴仙みたいに長いな……よろしくな、雷羅」
如月は雷羅に手を差し出し、雷羅もその意味が分かると、握手を交わした。
「それじゃあ早速、俺からのお題だが……俺との弾幕ごっこだ」
「分かった」
そして、永遠亭での第一戦、雷羅との弾幕ごっこが始まった。
***
如月は弾幕ごっこが始まってからずっと撃ち続けているが、それを相手はブーメランを手に持ち、弾幕を消していた。
それを見て取ると、紫達がしていた様に自分の力を粗くではなく丁寧に練り、弾幕を作る。すると途端に弾幕を消す事が出来なくなり、それに雷羅は驚いていた。
「おいおい、マジかよ……だったらちょっと早いがスペルを一枚使う事にするか‼︎」
雷羅はそう言うと、スペルを宣言した。
「泰平『曲舞』‼︎」
その後、雷羅はブーメランを如月に向かって投げた。
勿論、如月はそれを避け、戻ってきたブーメランをまた避けた。
それで終わったと思ったが、それだとスペルにする意味が無いと考え、少し観察してみると……ブーメランは雷羅の元に戻らず、また自分の方に向かってきた。
「な⁉︎」
如月は体ごと左に避け、自分の右を通っていったブーメランを見た。
「おら‼︎俺も忘れるんじゃねえ‼︎」
「⁉︎ぐっ‼︎」
ブーメランに集中していた所為だろう。雷羅からの拳の一撃を諸に受けてしまった如月は、そのまま後ろにあった竹に背中を打つけてしまった。
「うっ……」
「それ!もう一丁‼︎」
雷羅は追加攻撃とばかりにそう言うと、ブーメランが如月を襲おうとした。
しかし、そこは流石に如月も避け、何とか免れた。
「……ブーメランを操るって……本当に常識が通じないよな、幻想郷って」
「今頃かよ。てか、気付いてたのか」
「まあな……驚きはしたが、よくよく考えればそれが一番納得いくしな」
如月はそう言いながら、天羽々斬を持ち、構えた。
「それは流石にキツイが、まだスペルは続いてるからな。行くぜ‼︎」
雷羅はそう言いながらブーメランを操り、如月に攻撃を仕掛け始めた。
しかし、如月はそれを左右に避けたり、剣で弾いたり、軌道を変えたりとして、当たらないようにした。
しかし、そのブーメランだけの攻撃の所為で無意識にブーメランに集中し、雷羅が近付いて来ていたことに直前まで気付かなかった。
「滑走『月光』‼︎」
「⁉︎」
その声で漸く雷羅の存在を思い出すが、少し遅かった。
既に雷羅はスライディングの要領で如月に近付いており、如月の目の前で飛び上がり、延髄蹴りを仕掛けてきた。
だが、そこは今の今まで弾幕ごっこやお題で経験が付いたであろう如月。
如月はその場でしゃがんだのだった。
「?……⁉︎」
最初こそはその意味を理解できなかった雷羅だが、如月が退いたことにより、自分の視界に映ることとなった。
それは……自分が操っているブーメラン。
既にスペルの制限時間は過ぎており、そのブーメランは丁度返ってこようとしていた瞬間。
操る事も出来ず、かといって急な事であり硬直してしまう体。避けることはもう叶わない。
そのまま自分の武器であるブーメランに攻撃され、ダウンしてしまった。
***
雷羅が倒れたのを見た鈴仙はすぐ様駆け寄り、今現在、雷羅は鈴仙の膝枕を堪能している。
その本人はブーメランの勢いが強かったのか、気絶しているが。
「葵がいたら良かったんだが……」
「無い物ねだりはしたりしませんよ。この場合、『物』ではなく『者』ですが」
鈴仙はそう言葉にすると、雷羅の頭を優しい顔で撫で始めた。
「……(やばい……居ずらい)」
如月は空気を読み、鈴仙にお題の話を出さないようにしているが、しかし、この空気に耐え難いのか、早く立ち去りたい衝動に駆られていた。
「あ、如月さんにお題を出さなければいけませんでしたね」
と、そんな如月を察したわけでは無いようだが、それでも鈴仙からその言葉を聞けたことにより、一息吐く事が出来た如月。
しかし、心優しい如月は雷羅を心配そうに見ながら鈴仙に聞いてみた。
「雷羅の事もあるし、別に後でも良いんだぞ?」
「いえ、雷羅は少し休めば起きると思いますから大丈夫ですよ。それで、お題の話に戻りますが……」
鈴仙は如月の顔を見ながら、質問してきた。
「如月さんは『
如月はそれを聞くと一度記憶を辿り、頭を縦に振った。
『高草郡』というのは、因幡国に昔あったと言われる郡であるが、此処でのこれはそんな意味ではなく、因幡国風土記に書かれている生い茂った草や竹藪の事である。
そして、この高草郡が迷いの竹林が出来た理由なのだが、それでも、普通の竹林の方が多いだろう。
まあ、詰まる所……。
「俺に探して来いと。この罠だらけの竹林から、高草郡を……」
「そういう事よ。まあ、雷羅をこんな風にした訳だし、これぐらいの難易度が丁度良いでしょ?」
実際の所、永琳からの頼まれ事を丁度良く現れた如月にやらせようとしているだけなのだが、それを知っているのはこの場にただ一人、鈴仙本人だけなのだ。
つまり、彼女が『真実』さえ話さなければ、この事は誰にも暴露ない。
永琳からのお使いもこなす事が出来、雷羅を膝枕出来ているこの状況、一石二鳥である。
「まあ、頑張ってきてね」
鈴仙は良い笑顔で如月を送り出したのだった。
***
その後、数々のデストラップや落とし穴を潜り抜け、高草郡をなんとか見つけ、鈴仙に渡した後の今現在の如月は、その鈴仙の案内により永琳の元へと移動中である。
理由はやはり、お題を出してもらいにである。
「お師匠様、如月さんが到着しました」
鈴仙はある部屋で止まり、扉をノックし、中にいるであろう永琳にそう言った。
その後、許可の言葉が返ってきたため、如月は中へと入っていった。
すると、丁度永琳が薬を作っている所だった。
「それで、永琳。忙しい所悪いんだが……」
「お題でしょ?私からのお題は『姫様の相手』。姫様は姫様でちょっと退屈そうですから、貴方が来てくれて丁度良かったわ。姫様の部屋は分かる?」
「ああ、大丈夫だ」
「そう。なら、頑張って頂戴」
「⁇ああ、頑張るさ」
如月は永琳からのその声援の意味が何となく違う事を察しながらも、そう返した。
その後、輝夜を探して屋敷内を散策していると、丁度月が見える縁側に座っていた。
「……あら?いらっしゃい」
輝夜は後ろに気配を感じ、振り返った。
その一挙一動でも、元は絶世の美女と謳われた事だけはあり、芸術にも似た美しさを感じる。
満月の光さえ、彼女の美しさを際立たせる演出でしかない様に感じるのは何故なのだろうか?
「……」
「あら?どうしたの?そんな風にボーッとして」
輝夜は裾で口元を隠し、目を細め、笑みを湛えた。
「あ、いや……」
「ふふ、初心ね〜」
「今のその言葉で何か色々台無しだ」
「それは流石に酷いわよ」
輝夜は姫としてのカリスマを脱ぎ捨て、普段通りの雰囲気を醸し出した。
「それで?輝夜からのお題は何だ?」
「ふふっ、貴方は果たして、私の『お題』を叶えることは出来るかしら?」
「あ、用事思い出したから帰るな」
「こらこら、待ちなさい」
如月はなんとも言えない嫌な予感を感じ、すぐ様その場を去ろうとするが、輝夜は自身の能力を使った様で、それなりに合った距離など無かったかのように、一瞬で如月の襟首を掴んでいた。
「くっ、逃げきれなかった」
「そもそも逃げるという選択肢があると本気で思ってるわけ?」
「思ってるわけないだろ」
その回答を聞いた輝夜は呆れたとでも言うように溜息を吐き、襟首を離さずにお題を話始めた。
「私からのお題は、『私に月を献上する』ことよ」
「無理に決まってるだろ⁉︎」
如月の悲鳴にも似た避難など何処吹く風で受け流し、カリスマ性溢れる笑みを湛えた。
「あら?私からの無理難題を答えられないと?なら、貴方はこの持久走のクリアを諦め、罰ゲームを受け入れることね」
輝夜は楽しそうな声音でそう言った。
如月はその『罰ゲーム』が何なのかを知らないが、背中が何故かゾワゾワとし、自分の頭で赤いサイレンが鳴り響き始めた。
「……分かった。だが、考えさせてくれ」
「ええ、勿論良いわよ。昔、私に求婚してきた五人の貴族の男達の時の様に、何か切羽詰まった理由も無いもの。ゆっくり考えると良いわ」
如月はそれを聞くと、頭の中で考え始めた。
そもそも、月を献上すること自体が無理難題過ぎるのだ。
月は宇宙にあり、月そのものを献上するなら宇宙まで行き、取って来なければならない。
しかし、それでは自分が宇宙空間で死んでしまうし、第一ロケットでもない限り宇宙に行くなど無理である。
なら、別の方法をと考えるが、しかし思い付かない。
どうしたものかと考えている時、ふと、ある妖精を思い出した。
光を屈折させる事が出来る妖精を……、
(あ、もしかしたらいけるか?)
如月は少し不安を持ちながらも、一度辺りを見渡した。
しかし、其処には求めたものはなかった。
「なあ?輝夜」
「?何よ」
「桶かなんか無いか?あと、水がある場所を教えて欲しいんだが……」
「桶?何処だったかしら……鈴仙か雷羅に聞けば分かるでしょうけど。あ、水は調理場よ」
「有難うな」
如月はお礼を言うと、行動を起こした。
「……何か思い付いた様ね。どんな内容かしら?楽しみね」
輝夜はそう言うと、幻の満月を見上げるのだった。
***
輝夜の部屋から出た如月は鈴仙と雷羅を探し始めた。
と、そんな途中に永琳とばったり会った。
「あ、なあ、永琳。鈴仙か雷羅を知らないか?」
「知ってるわよ。でも、あの二人に聞かずとも私が教えてあげるわよ」
「え?本当か?」
「ええ、勿論」
如月は永琳から場所を聞くと、風呂場の方へと向かった。
其処には丁度誰も居らず、お風呂に入っている人も居なかった。
「桶はっと……これか。うん、大きさも良いかな」
それはよく言う『風呂桶』で、如月はその後、庭に出て、その桶に水を入れ始めた。
そして、水を零さない様に移動し、輝夜が待ってる縁側まで来た。
「待ってたわよ、如月。さあ、私に月を献上出来るかしら?」
「ああ、出来るよ。ほら」
如月は水が入った桶を輝夜に出した。
「……え?」
この行動に輝夜は疑問を持ちながらもその桶を受け取った。
そして、視線を桶の中の水に移してみると……。
「あぁ、そういう事」
水面に十五夜の満月が映っていた。
「輝夜は別に『本物』を求めていた訳じゃない様だからな。何せ、お題の内容の中に『本物の』なんて言葉は何処にも入ってなかった訳だしな」
「それって揚げ足取りじゃない」
輝夜は如月の説明を聞くと、呆れた様な、それでいて何処か楽しそうな微笑を浮かべている。
「良いんだよ、揚げ足取りでも。『本物の月』なんて献上しようにも無理だしな」
凛華とかレティシアとかなら何か出来そうで怖いけど、とか内心考えている如月であった。
「それにしても、これ、どうやって映してるわけ?この場所だと映らないと思うけど?」
輝夜のそんな疑問に如月は答えた。
「俺の知ってる奴の中に光を屈折出来る妖精がいるんだが、其奴を参照に、満月の光を屈折させてみたんだ。普通の湖に満月が映るのは、光が反射してるからだろ?だから、光を桶の方に屈折させて、反射させてるわけさ」
「成る程ね〜」
輝夜は納得した風に相槌を打つと、水の中に人差し指を入れた。
勿論、そうすると水面が波打ち、満月の姿が歪んだが、暫くするとその波も収まり、満月は元の形に戻った。
「うん、まあ、今回はコレで許してあげるわ。けど、次回も許すとは思わないでね」
「次回とかあって欲しくないけどな」
如月のその言葉に、輝夜は笑うのだった。
***
レティシアはその光景を見たのち、迷いの竹林、及び永遠亭を覆っていた幻覚を見せる幕を取り払った。
すると、スキマに映る如月は久々の太陽の光に当たった為か目を細め、暫くして、輝夜から鈴を貰い、最後の場所である博麗神社へと向かって行った。
「クスクス、さて、彼女達はどんな戦いを見せてくれるのかしら?」
レティシアは博麗の巫女と喰龍の使い手の戦いを想像し、楽しそうな笑みを浮かべるのだった。