博麗神社内で蝉が鳴いている昼、霊夢、魔理沙、夢幸、歩は西瓜を食べながら賽銭箱の前で話していた。
葵はその直ぐ近くで幸多と一緒に虫取りに行く準備をしている。
「はぁ、相変わらず暇ね〜」
「暇は良い事じゃないか。暇も無くて何も出来ないよりは」
「そうだな。俺も暇な時は良いと思うよ」
歩も魔理沙の意見に賛成し、夢幸も魔理沙の隣で静かに頷いていた。
しかし、霊夢は不満気である。
「暇は確かに良いけど、流石にこれはね……」
霊夢はそう言いながら、参拝客のいない境内を見渡す。
歩もこれには流石に苦笑い気味である。
「……あ、そういえば」
と、ここで魔理沙は何かを思い出したような顔をして、霊夢の顔を見た。
「なあ?霊夢は里で繁盛しだした蕎麦屋を知ってるか?」
「蕎麦屋……あか、何やら評判が良いらしいわね。でも、行ったことはないわ。美味しいの?」
「いや、彼処はそんなに特筆する程じゃないけど美味しいよ。今度一緒に食べに行く?」
歩が霊夢をそう誘うと、霊夢も笑顔で頷いた。
「で、そこが何だって言うのよ」
霊夢は先を促す様にそう言うと、麦藁帽子を被り、虫取り網を持った幸多が笑顔で言った。
「僕、その話知ってるよ‼︎そのお蕎麦屋さんに福の神様がやって来たんだって‼︎」
「福の神?大黒様とかその類の?」
「いや、そっちじゃなくて実在する福の神だそうだ」
魔理沙は幸多の頭を麦藁帽子越しで撫でながらそう言うと、霊夢は溜息を吐いた。
「つまり、妖怪の仕業だろうから退治しろと?」
「何でそうなったの?」
霊夢のその言葉に麦藁帽子を被った葵が苦笑しながら言った。
「つまり、参拝客が来なくて暇なんだから、その福の神に来てもらって、泡よくば神様として祀って仕舞えば……」
「魔理沙」
魔理沙のその先の言葉を夢幸が止めた。
「何だ?夢幸」
「後ろを見ろ」
そう促され、後ろを見てみると……笑顔の華仙が居た。
その笑顔からは何やらプレッシャーを感じる。
「……じ、神社にいてもらえば商売繁盛出来ると思うぜ」
((言葉を変えた))
霊夢は歩と同じ事を心の中で呟くと、華仙を見た。
「あんた、いつの間に来ていたのよ」
「今、来たばかりですわ。それで?何の話をしていたの?」
「神社に誰も来ないから商売上がったりって話よ」
その後、華仙が来るまでの話を一部始終話すと、華仙は頭にハテナを浮かべた。
「福の神?」
「そ。と言っても、私もよく分からないけど」
霊夢はそう言うと、魔理沙に顔を向けた。
「ああ、最近、福の神が里を徘徊しているらしいんだ。そいつが訪れた店は必ず商売繁盛するらしいぜ」
「ふーん……」
華仙がそう返してから少し考えている後ろで、魔理沙は葵を見た。
「なあ?葵のとこにも福の神、来たことないのか?」
「う〜ん、来てないと思うよ。多分」
「多分?」
「うん。人はそんなにずっと過去を覚えていられからね。魔理沙も、一週間前、自分が何をしていたのかとか、覚えてる?」
「いや、それは流石に……」
「それと同じ。覚えてないって事」
葵はそう言うと、幸多と一緒に虫取りに行ってしまった。
「……まあ、葵の能力は阿求とは違うからね。仕方ないか」
霊夢はそう言うと、一度立ち上がり、家の中へと戻ると、今度は人数分の麦茶を持って出てきたのだった。
***
次の日。霊夢は水桶と竹箒を境内に準備していた。
「あれ?霊夢、何してるんだ?」
と、其処に歩がやって来てそう声を掛けると、霊夢は顔を上げて答えた。
「福の神捕獲作戦の為の準備中」
「え、本当に捕まえるつもりなの?それ、罰当たりじゃないか?」
歩がそう言うと、霊夢はそんなの気にしていないかのように準備を終え、歩の手を掴んだ。
「え?///」
「さ、隠れるわよ‼︎」
そう言葉にしてから、霊夢は歩を強引に引っ張り、一緒に隠れた。
「……本当にやるの?」
「やるわよ。絶対に捕まえるんだから」
霊夢のやる気に満ちた目を見た歩は苦笑するしかなかった。
と、其処に丁度、足音が聞こえ始めた。
「え、本当に来たの?」
「まだ分からないわ。覗き見ましょう」
その言葉て二人は隠れてる場所からそっと水桶などがある場所を見ると、早苗が竹箒で掃いていた。それも、ブツブツと何かを呟きながら。
「彼奴、何ブツブツ呟いてるのかしら」
「さあ?」
と、其処で竹箒を強く握りしめると、二人にも聞こえる声で言葉を発した。
「これは事件の匂いがするわ‼︎」
「「……」」
二人が一層視線を強めると、其処でようやく後ろを向いた早苗。
そして、誤魔化し笑いを浮かべた。
「あははは、いたのですか、お二人とも」
「はぁ、ほらあんた。そんな所に立っていないで……」
霊夢はそう言うと、歩の時と同様に早苗の手を引いた。
「何やってるんですか?こんなコソコソと……」
「しっ、アレは罠よ」
「え、罠?」
早苗は困惑した顔を浮かべると、霊夢は説明をし始めた。
「そ、福の神はね、竹箒を置いてあると勝手に庭を掃いたり、水桶を用意しておくと水を撒いたりしてくれるそうなの」
霊夢が披露したこの知識の元は、葵である。
葵が帰ってきた後に聞いたのだ。
因みに、葵は福の神を捕まえようとしている事を知らない。
「だから、ああして罠を張ってるのよ」
「福の神って言いました?」
「うん、言ったね」
「つまり?」
「福の神捕獲作戦よ‼︎」
「福の神を捕まえたいのですか?」
早苗がそう質問すると、霊夢はコクコクと頷く。
それに対して何とも残念な顔をする早苗。
「……もはや、巫女さんが神様を捕まえる時代なのね。なんと世知辛い……」
それに対してジト目で返す霊夢。
「あんたの所の祟り神に脅された人間が参拝する時代の方が世知辛い気がするけど?」
「祟り神は確かに脅して信仰を得るけど、それだけじゃないんだよ?霊夢」
と、三人の後ろから良く聞きなれた声が聞こえてきた。
三人同時に早苗の後ろを向くと、其処には葵がいた。
「え、違うの?」
「うん、違うよ。確かに信仰しないと祟られるけど、それと同時に強力な守護神もでもあるの。諏訪子さんの場合は多分、守護と豊穣が約束されてたんだと思うよ」
「ふ〜ん、でも、結局の所、彼奴は脅しで信仰を得ていた訳でしょ?」
「まあ、本質的には祟り神だから、ね」
葵はそういうと、今度は首を傾げた。
「それで、霊夢達は何をしてるの?」
「福の神捕獲作戦」
「……」
霊夢がそう言うと、葵は頭にハテナマークを浮かばせた。
そして、目を瞑り少し考えると、青褪めた顔を霊夢に向けた。
「あの、霊夢?福の神を捕まえるって、まさか本気で……」
「本気で捕まえるのよ」
「ええ⁉︎」
葵は大きな声で驚きの声を上げると、素早く霊夢がその口を手で塞いだ。
「むぐっ⁉︎」
「しーっ‼︎福の神に気付かれたら終わりなんだから‼︎」
と、そこに新たな足音が聞こえてきた。
「‼︎誰か来たわ」
全員がそっと境内の方を見ると……、
「よっ‼︎その様子だとまだ現れていないようだな」
魔理沙だった。
「はぁ〜、魔理沙か。で、そっちは何か掴めたわけ?」
「ああ、バッチリだぜ」
魔理沙はそう言うと、石段に座り込んだ。
「福の神を見たという人を探して聞いて回ってきた。……結論から言うと、今回の福の神というのは実は人間らしい」
「「人間?」」
魔理沙が言う福の神と言われた人間の特徴は、常に笑顔。しかし、非常に無口。
里を徘徊し、呼び込みには一切応じず、店を選んで回っており、気に入った店を見つけると勝手に掃除をしたりしてくれる、との事。
其処で葵が何かを思い出した顔をした。
「あ……そう言えば」
「?どうしたのよ、葵」
「いえ、以前、私の神社の方で、誰もまだ手に付けてなかった境内が綺麗だった時があって……」
「え、本当ですか?」
「はい」
「その後って、神社はどんな状況になったんだ?」
「参拝客の方々の人数がいつもより多かった気がします」
葵はそう言うと、「その時に現れてたのですか……」と、呟いた。
「お〜い、まだ一応特徴があるけど、聞くか?」
「勿論、聞くわよ」
「まあ、その福の神、神出鬼没で普段どこに住んでいるのか全くの不明。突如として現れたり消えたりする所を見ると……」
「外の人間……」
「その可能性が高いって事ね。目的があってやってきたのか、それとも迷い込んだのか。もしくわ……」
「もう人間ではなくて本当に神様となったか、だな。いやしかし、今の人間で神様になる事なんて……」
「え、早苗は現人神だった筈だろ?なら、その可能性は無きにしも非ずだろ」
歩のその言葉に頷く早苗。
しかし、その言葉はどうやら二人には届いていなかった。
「何にせよ、幻想郷の人間じゃ無さそうだから捕まえるのは難しいかもな」
「う〜む、人間だと拉致して……」
「拉致?」
其処で葵が柔かな笑顔を浮かべた。
しかし、それを見た霊夢は冷や汗を流し、一つ咳払いをしてから言い直した。
「コホンッ、招いて神様に祀るのはちょっと抵抗があるわね」
「そもそも、人を祀るのもどうかと……」
葵は溜息を吐きながらそう言葉にした。
「でも、どんな人間なのかなぁ……」
「噂では福助人形みたいな人間だそうだぜ。お店の人は福助人形が歩いて店に来たみたいだって言ってたぜ」
「福助人形みたいな人間……確かに福を呼びそうだな」
「そうね。そんな客が来たら驚くわね。本当に福の神のような……」
三人がそう話している後ろでそわそわし始めた早苗。
しかし、その様子に気付いているのは葵だけである。
と、其処で早苗は恐る恐るながらも声を掛けた。
「あの〜、私、その人が誰なのか分かる気がするのですが……」
その声は聞こえたようで思いっきり顔を向ける三人。
「あ、いえ、違うかもしれないですけど……その福助に似ている人間ってもしかしたら仙台四郎じゃないかな〜って」
「「「「せんだいしろう?」」」」
「え、葵さんも知りませんか?」
「はい、ちょっと聞いたことがないです」
それを聞くと、早苗は『仙台四郎という人物は明治頃の人間で、東北地方で福の神と呼ばれた人間』と、こう説明した。
しかし、やはりピンときていない四人。
「その人は殆ど喋らなかったそうですが、気に入った店にしか立ち寄ることはなくて、立ち寄った店は必ず商売繁盛した、という話です」
「それって、魔理沙が話してくれた特徴とそっくりですね」
「でしょう?それからお店にはその仙台四郎を象った人形や写真、イラストなんかを飾る風習が始まりました。商売繁盛のお守りみたいに」
「へ〜。想起さんも知ってるのでしょうか……」
「外の世界だとよく知られてる話なので知ってると思いますよ。想起さんとは良く、外の世界のことで盛り上がったりしてますので」
「そのようですね。早苗さんの所へ行く時の想起さん、何時も楽しそうな、それでいて嬉しそうな笑顔を浮かべていますから」
「え、本当ですか⁉︎」
「はい‼︎」
葵からそれを聞いた早苗は、頬を紅くした。
「……はぁ、本当、どうしてコレだけ分かりやすいのに彼奴は分からないのかしら」
「鈍感だから仕方ないと思うよ。まあ、恋が成就するように、それとなく手助けしていこうよ、霊夢」
「勿論よ……って、話が逸れてる」
霊夢がそう言うと、早苗は深呼吸をして落ち着くと、仙台四郎と言う人がどう言う人なのか話し、本当の神様になっているという事もいうと、霊夢の目が輝いた。
「‼︎そんな偶像が作られる位の神様になっているのなら、勝手に神社に祀るのも……」
「それはどうかしら?」
と、其処に丁度良い時に帰って来た華仙。
霊夢にお土産の団子を渡すと、話し始めた。
「福の神は店を繁盛させる為に立ち寄ってる訳じゃないと思うの」
「ほえ?」
「そうなのか?」
霊夢と魔理沙のその言葉に頷く華仙。
「ええ。さっき里に行って福の神の本当の姿を見てきたわ」
「‼︎本当か⁉︎」
その反応をみた華仙は面白そうにクスクス笑う。
「ええ。でも、貴方の思っているような福の神ではないかも知れないけど」
「?」
それを聞いて霊夢は首を傾げた。
華仙はそれには反応をせず、続けた。
「福の神は最初から繁盛するような店にしか立ち寄らないのです。下心丸出しで福の神を呼ぼうとしたり、他店の繁盛を妬む余りに店の雰囲気を害するような所には立ち寄らないでしょう」
華仙はそういうと、霊夢に渡したお土産の団子を一つ掴み、口に持っていった。
「つまり、福の神は繁盛が約束された店の最後の後押しをするだけって事です」
それをいうと団子を口の中に放り込んだ華仙。
対して、その言葉に頷く早苗。
しかし、霊夢は不満そうである。
「つまり、結局はお店の努力じゃん」
「それが全てって事だよ、霊夢」
「……あのさぁ、努力なんて当たり前なの。うちだって精一杯努力してるのに今の現状よ?これ以上、努力なんて……」
「葵や私に掃除洗濯といった家事諸々を任せてる馬鹿は誰だっけ?」
と、霊夢の後ろから雪華そう声を掛けた。
「?あら?貴女は?」
「うん?あ〜、そうだったね。初めまして〜!別の幻想郷から引っ越してきた雪華だよ〜‼︎よろしくね〜‼︎」
そう言いながら雪華は華仙に近付き、その耳元で何かを呟いた。
しかし、霊夢にはその言葉は聞こえていない。
ただ、分かるのは華仙が驚愕した事だけである。
その後、早苗が仙台四郎の人形を探して持ってくると言ってくれて、それに嬉しそうな顔をして約束した霊夢だった。