葵達がロケットに乗り込んで早五日目。漸く、下段のロケットが切り離された。
「いや〜、光冥が空間を広くしてくれてるから下段と同じくらい広いな」
魔理沙は笑顔を浮かべて、光冥にそう言うと、光冥はアルカに奉仕した後に少し頭を下げた。
「それにしても……今日で五日目だ。宇宙旅行って言ってもずっと同じ景色でつまらんな」
「ずっと青い空のままですからねぇ」
「でも、少しずつは色が薄くなってるみたいだよ?ねぇ、シファ」
「そ、そうですね、ユニ」
魔理沙の言葉の後、咲夜も感じてた事は同じだった様でそう言い、ユニはシファに同調してもらっていた。
「……」
「?鬼灯?どうしたの?」
葵は外が見える窓の近くで、鬼灯が頭を抱えて溜息を吐いてるのが目に入り、何かあったのかと思い近付いた。
それに対して鬼灯は首を振ると、答えた。
「いや、私は平気だ。……今は、ただ後悔中だ」
「⁇」
葵は鬼灯が言ってることの意味が分からずに首を傾げていると、近くから咲夜の困ったような声が聞こえてきた。
「どうしました?咲夜さん」
「あら、葵。実は、下段のロケットに油のストックを残したまま切り離してしまったみたいなのよ」
「え……」
それを聞いた葵も困った様な顔をすると、ユニがやって来た。
「油が無いの?なら、戻そうか?」
「え、出来るのですか?」
「あったりまえだよ‼︎私の能力を忘れたの?『願い事』を叶えれるのが私の能力だよ‼︎」
ユニはそう言うと台所に近付き、其処で掌を床に向けると、油が現れた。
「おお!凄いな!」
「ユニ、ありがとう。貴女は休んでて良いわよ」
咲夜はそう言ってユニに視線を移すと、其処には床に座り込んでいるユニがいた。
「あの、ユニさん。大丈夫ですか?」
「あ〜、大丈夫だよ〜。ただ、ちょっと疲れただけだからね〜」
「ユニ、お饅頭なのですっ」
「あ!有難う‼︎シファ‼︎」
シファは手作りのお饅頭をユニに持ってくると、ユニはとても嬉しそうな顔で喜んでいた。
もし疲れていなかったのなら、嬉しさのあまりに抱き着いていただろう。
「……さて、ユニの分は私が頑張りましょう」
「俺も手伝う」
「あら、有難う。ギル」
ユニとシファのやり取りを微笑ましく見ていたペスとギルは、ユニが抜けた分までお互いに支え合いながら埋める事にしたのだった。
***
月旅行十二日目。
遂に上段しかなくなったロケットは、まだ月に向かっている状態であった。
そして、そんな中、レミリアは遂にストレスが爆発した様で、蝙蝠の羽をばたつかせ始めた。
「うわっ⁉︎レミリア、危ないって‼︎」
歩の言葉など聞こえていないようで、羽を未だにバッサバッサと羽ばたかせている。
そんな妹にアルカは近付き、優しく頭を撫でた。
「‼︎アルカお兄様……」
「レミィ、少し落ち着け。もう直ぐで着くはずだ」
「どうしてそう思えるのですか?」
「葵に少し未来を見てもらった」
それを聞いたレミリアは葵を見ると、葵はペコッと頭を下げた。
と、その時に光冥は明るくなったことに気付き、外を見てみた。
「⁉︎レミリア様‼︎アルカ様‼︎外を‼︎」
その言葉に従い、外を見てみると、下には月があった。
「……はぁ、着いてしまったか」
全員が喜んでいる中、ただ一人、鬼灯だけは喜ばずにまた溜息を吐いていた。
と、そんな全員に向けて、霊夢は勢い良く立ち上がると、叫んだ。
「さあ、最後の仕上げよ‼︎」
「最後の仕上げ?」
「何かが起こるわ!」
ルカの質問に答えずに霊夢はそう叫ぶと、ロケットがガクンと飛ぶ勢いを無くし、そのまま下にあった海に落ち、難破してしまったのだった。
***
葵達は月に辿り着くと、先ずは海から上がり、その後は自由行動となったが、霊夢、魔理沙、葵、ルカ、鬼灯、夢幸はその場に留まり、海を見ていた。
レミリア達と歩と想起は直ぐ近くにあった桃が成っている木へと向かって行ってしまった。
「……海だな」
「……海だねぇ」
「海だな」
「これが海ねぇ」
「その様ですね……ですが」
葵はそう言いながら立ち上がると、海の中に少し入り、水を掬った。
「……魚がいる感じがしない。それどころか、棲んでる感じが……しない」
そう言って海の向こうまで見ると、後ろを振り向き……剣を持ったポニテの少女が目に入った。
鬼灯と夢幸もその者の気配に気付き、後ろを向くと、それと同時に剣が向けられた。
「残念ね。豊かの海には何も棲んでいないわ。……いえ、豊かの海だけではない。月の海には生き物は棲んでいない。生命の海は穢れの海なのです」
そう言いながら未だに剣を向けている少女に、夢幸は睨み付けた。
しかし、相手はそれに竦んだ様子はなく、チラッと魔理沙、夢幸、ルカを見た後、鬼灯を見て驚きを少し見せ、霊夢と海から上がってきた葵を見ると、其方の方に剣を向けた。
「……住吉三神を呼び出していたのは、お前達」
「……ええ。正確には私よ」
ポニテ少女の問い掛けに霊夢はそう答えた後、座り込んだ。
それに対してポニテ少女はふっと笑うと、持っていた剣を地面に突き刺した。
すると、霊夢達の周りを地面から生えた剣が取り囲んだ。
『⁉︎』
「……祇園の神の力か」
「正解です。流石、豊穣神様ですね」
鬼灯は自身も剣に囲まれた状態でいるのに、焦った様子もなく正解を言い当てる。
そしてポニテ少女は鬼灯の解答を聞いた後、腕を組んで霊夢達を見る。
「女神を閉じ込める祇園様の力。人間相手に祇園様の力を借りるまでもなかったか。住吉様を呼び出せるというからどれ程のものかと思ったけど……」
「依姫様‼︎」
依姫と呼ばれたポニテ少女の言葉の途中に、月の兎がやって来て、何かを報告すると依姫は驚いた表情を浮かばせる。
「なっ‼︎なんですって‼︎あんな小娘と小僧相手に貴女達は何をやってい「誰が小娘よ(小僧だ)」……」
その言葉が聞こえた方に依姫は顔を向けると、少し殺気を出している歩と想起以外の全員がいた。
「「ーーー殺されたいのか?」」
「……月の兎達はどうしたのかしら?」
依姫は少し警戒しながら聞くと、レミリアは少し自慢げに答える。
「全部のしてきたよ。後はお前だけだ」
その言葉にユニはシファの耳に顔を寄せて、小声で聞く。
「ねえ?アレって、のしたって事で良いのかな?」
「違うと思うのです」
シファも小声で答えてる他所で、依姫も月の兎から真相を聞き、レミリアの方に掌を向けた。
しかし、次の瞬間には咲夜に捕らえられていた。
「……ぐっ!いつの間に⁉︎」
「貴方、手癖が悪そうだったから」
咲夜はそう言うと、後ろで地面に刺さっている刀を足で抜く。
すると、霊夢達を捉えていた剣は全て地面の中へと消え、霊夢達は晴れて自由の身となった。
「霊夢!大丈夫か⁉︎」
「魔理沙、平気か?」
「葵!ルカ!鬼灯!大丈夫⁉︎」
「想起さん、私は大丈夫です!それよりも、皆さん、大丈夫ですか⁉︎」
歩は霊夢を心配し、夢幸は魔理沙を心配し、想起は葵達を心配し、葵は他の全員が心配した。
それにより全員怪我一つ無いことが分かると、ホッとした様子を見せた。
「貴方達の目的は何かしら?」
依姫の質問に全員、目的は何だったのかと頭を捻る。
その様子を見てレミリアは笑い出し、言う。
「咲夜、忘れたの?私達の目的は月の都の乗っ取りだ‼︎」
その宣言を聞いた依姫は、少し笑顔を浮かべた。
「……八意様の言っていたとおりね。増長した幼い妖怪が海に落ちてくると」
その言葉にレミリアは頭にハテナマークを浮かばせる。
依姫はそれを気にせず、今度は自分を捕まえている咲夜に話し掛ける。
「貴方、さっき私の手癖が悪いと言ったわね?」
その言葉のすぐ後、依姫の腕がイキナリ炎の塊へと変わった。
それに驚いた咲夜は依姫を離し、直ぐに距離を取る。
「気がつくと桃に手を伸ばしているお姉様ほどじゃないと思うけどね」
「咲夜、大丈夫かい⁉︎」
「ええ、大丈夫よ、光冥」
光冥は直ぐに咲夜の側に寄り心配からそう聞く。
対して、咲夜は光冥にそう言いながらも冷や汗を流している。
「……その火、愛宕の神の火か」
「そうです。よくお分かりで」
「殆どの神とは知り合いだ。神無月の日には、出雲に赴いてるからな」
霊夢と葵はその会話に出てきた神様の名前に驚いた様子を浮かべる。
「え……愛宕様の火ですか⁉︎」
「さっきは祇園様の剣って……もしかして、あんたも私達と同じ‼︎」
「そう、私は神々をその身に降ろして力を借りる事が出来る」
そう言い終わると、依姫は剣を拾い、持ち直した。
「奇遇ね。私達も最近、その力の修行をし直したばかりなの」
「分かっているわ。住吉三神が貴女に呼び出されていたんだから。貴女達が色々な神様を呼ぶと私が疑われるのよね。謀反を企んでるんじゃないかって」
「そんなの知らないわよ。稽古はやらさてたんだもん」
「いえ、私達にも非はありますよ?霊夢」
葵が霊夢の言葉に苦笑を漏らしていると、依姫がまた剣を地面に突き刺し、今度は鬼灯以外の全員が閉じ込められた。
「でも、その疑いも今日晴れる」
依姫はとても嬉しそうな顔でそう言うと、同時に月の兎達が霊夢達を取り囲んだ。
「……なあ?なんで私は自由なんだ?」
鬼灯は自身の身のみ自由な理由を、気付いていながらあえて聞くと、依姫は溜息を吐いた。
「……『ツクヨミ』様が豊穣神様に会いたがっているのです」
「……お前も大変だな。穢れを持ってる私を月の都内に入れろとでも言われたのか?」
「いえ、流石にそれについてはツクヨミ様も考えていました。ちゃんと月の都内には入らず、話し合える場所を設けております」
「……道を教えてくれ」
鬼灯はその後、依姫から場所を聞き、葵達を少し心配そうに見てから向かって行った。
そして数分の沈黙の後、魔理沙が口を開いた。
「こ、降参だ。降参!今のままじゃこっちに勝ち目がないし、お互い大きな被害を被るだろうし……」
「あら、あっけない」
「ただな、幻想郷には知的で美しい決闘ルールがあるんだ。力の強い妖怪が多い幻想郷だからこそ生まれたルールだ。それで少しの間、楽しまないか?」
「……何かしら?」
依姫は警戒心を解かずに魔理沙に問い返すと、魔理沙は言う。
「人間も妖怪もオケラも皆、平等に楽しめるこの世で最も無駄なゲーム……スペルカード戦だ‼︎」
「スペルカード戦?」
それに首を傾げて聞き返すと、魔理沙は少し説明をしたあと、実践を見る方が良いと言い、一度自由の身にさせてもらった後、兎三匹と、紅魔館組の誰か三人で戦うこととなった。
「ーーーと、言うことだから、頼む‼︎ユニ‼︎」
「え〜……」
ユニも聞いていたとはいえ、自主的にやりたいと思っていない。
他の誰かに任せようかという時に魔理沙からのこの頼みである。
ユニはその頼みに少し逡巡すると……溜息を吐いた。
「分かったよ。良いよ、やるよ」
「ゆ、ユニ‼︎頑張って下さいっ‼︎」
「うん‼︎頑張ってくるよ‼︎シファ‼︎」
そう言いながら、兎の前まで移動すると、少し笑みを浮かばせる。
「さて、じゃあ始めようか、月の兎さん。お話を知っていなければ貴女はきっと、私に勝てないけどね」
ユニはそう言って、月の兎を挑発したのだった。