東方〜もう一人の巫女〜   作:ルミナス

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第百七十話

鬼灯とツクヨミがいる部屋には、緊張の糸が張り巡らされてるかのように重い空気だった。

 

それもそうだろう。笑顔のツクヨミに対して、鬼灯は睨んでいるのだから。

 

しかし、その眼に、雰囲気に、怒りはない。

 

「……一応聞こうか。どうしてそう思った?ツクヨミ」

 

「ああ、『気持ち悪い』と思った理由ね」

 

ツクヨミはそう言うと笑顔を崩し、奥にいる誰かに紅茶を二つ分頼んでから話し始めた。

 

「『気持ち悪い』は言い過ぎたよ。まあ、それもあるけど、一番は『怖い』かな?」

 

「……」

 

「そう睨まないでくれよ、ほーちゃん。僕だって別に最初に彼女を見た時から思ってたわけじゃないよ?そう思うようになった理由はちゃんとある」

 

そう言うと、月の民が淹れてくれた紅茶を貰い、一口飲んだから言った。

 

「ほーちゃんの現在の状態を見たくて見た時に、僕は彼女の存在を知った。その時の第一印象は『優しい子』だ。それはまあ、今も変わってないよ。優しく、純粋で、気持ち悪いとか恐怖とか、そんなものは見てて一度たりとも感じなかった……ある『可能性』を見るまでは、ね」

 

「ある『可能性』……か」

 

「……ほーちゃん。僕としては、出来れば見て欲しくない。君まで僕と同じものを抱く可能性がある以上、見るのはオススメしないよ」

 

ツクヨミは心配そうな顔で鬼灯にそう言うが、鬼灯は首を横に振った。

 

「心配は有難いが、見せてくれ。お前が見たという『可能性』を」

 

「……分かったよ」

 

ツクヨミは了承すると、先程の鏡を出した。

 

「……その鏡で見てたのか?私を」

 

「うん、そうだよ。これは僕が見たいと思ったものを映してくれる鏡だからね。……で、僕がその『可能性』を見た経緯はね、単純に僕の好奇心さ」

 

「……」

 

「見る前はこんな風に感じるとは思わなかったけどね。まあ、ほーちゃんが見るって言ったんだ。覚悟はしておいてね?」

 

ツクヨミはそう言うと、鏡に目を向けた。

 

すると、鏡に映ったシーンは……血みどろの部屋、其処に横たわっている葵と同じ髪色で同じ服装の女性、その近くにいる返り血を浴びてその女性を冷たく見ているルカ。

 

「……葵の母親がルカに殺された所か」

 

「そうだよ。で、この後、ほーちゃん達が来るんだけど……」

 

すると、ツクヨミの言った通りに葵達が部屋に入り、部屋の惨状を見て、鬼灯は驚き、葵は泣き始めた。

 

そして、少しした後、葵は涙を流しながらルカに近寄り、その服を掴んだ。

 

『何で……何でお母さんを殺したの‼︎』

 

『……此奴が葵を虐待していたからだ』

 

『だから殺したの⁉︎私、そんな事一つも頼んでない‼︎』

 

『……』

 

『……許さない』

 

『……』

 

『私は絶対にルカを許さない‼︎』

 

『……葵』

 

『出て行って』

 

『葵、落ちつ……』

 

『出て行け‼︎』

 

『ッ……』

 

『許さない……私は絶対に……ルカを許さない‼︎』

 

其処でその映像は消えた。

 

「……これが僕が好奇心から見た『可能性』さ」

 

「……」

 

「……ほーちゃん。僕はね、これを見るまでは巫女ちゃんは『正常』だと思ってた。でもね、これを見てからはどうしようもなく『異常』に見えてしまうんだ。だって、普通はそうじゃないかな?自分の大事な親を殺されたんだ。普通、親を殺した相手を怒ったり、酷ければ憎んだりする。でも、巫女ちゃんはどうだった?今見た可能性の巫女ちゃんじゃなく、ほーちゃんの所の巫女ちゃんはどうだった?彼女は自分の親を殺した相手を憎んでる様子が無い」

 

「……」

 

「別にそれが悪いと言う訳じゃないよ?でも、他にもおかしいところはあるんだ。普通、理由が分かっていたとしても、差別されてたら怒るんじゃないかな?自分の友達の家をふざけた理由で壊されたら、その後も許せないものじゃないかな?」

 

「……」

 

「……彼女はもしかしたら、『憎しみ』という感情を分かってないかもしれないよ」

 

「……かもな」

 

其処で漸く鬼灯は一言言った。

 

「ただ、葵は分かってないわけじゃないと思う……ただ、その感情は薄いんだろう」

 

「……負の感情が出にくいって事かい?」

 

ツクヨミは首を傾げると、鬼灯は頷いた。

 

「……ほーちゃん。一つ問い掛けていいかい?」

 

「何だ?ツクヨミ」

 

其処でツクヨミは真面目な顔で問い掛けた。

 

「今見た映像で、君はどう思った?もし、僕と同じ様なものを抱いたなら……離れないかい?あの神社から。ここに住まないかい?ほーちゃん」

 

その問い掛けに対して鬼灯は答え、その少し後から部屋を出て行った。

 

***

 

ギルと月兎の勝負はやはり、ギルが優勢だった。

 

それもそうだろう。勝負の始めから月兎は逃げ腰だったのだから。

 

そんな震える様子の月兎を見て溜息を吐くも、一つのスペルを宣言する。

 

「心空『フォトンクロウド』」

 

すると、ギルはその場から動き始めたが、その動きはとても奇妙で、月兎は目で追いかけているが追い付けれていない。

 

ギルはそんな月兎を見ながら、その月兎の死角から攻撃をした。

 

「ッ⁉︎」

 

月兎は其方に銃口を向けるが、しかしもう其処には誰もいない。

 

「ど、どこ⁉︎」

 

そうやって目で追い掛けようとするもやはり分からず、そのまま何度も攻撃を与えられ、遂には月兎は目を回しながら倒れてしまった。

 

「初めての割にはよく頑張りました……的な?」

 

ギルは月兎のそんな状態を見ながらそう言葉にし、戻って行く。

 

すると、シファが近付いて来た。

 

「‼︎シファ……」

 

「お兄さん‼︎流石ですね‼︎」

 

「ふっ、当たり前だろ?お前の兄貴だぞ?」

 

ギルはシファにそう言って笑うのだった。

 

***

 

葵が月兎達の怪我を治している間、魔理沙は依姫と何かの相談をし、他はその光景を見ていた。

 

そんな所に鬼灯は帰って来た。

 

「……帰って来たのか、鬼灯」

 

「ああ」

 

「話は終わったの?」

 

「ああ、終わった。……というか、彼奴にモフモフされるのだけは嫌だ」

 

「も、モフモフされたんだね……」

 

想起は鬼灯のゲッソリした顔を見てそう言った。

 

それから依姫達の方を向くと、どうやら今度は依姫と咲夜が戦う事になったようだ。

 

「……これ、もしかして僕達も戦う事に?」

 

「なるかもな」

 

「……はぁ、雪華じゃないが、面倒臭い」

 

三人して溜息を吐いていると、咲夜の声が聞こえてきた。

 

「さあ、始めましょう。私の美しいナイフ捌き。残念ながら誰にも見えないかもしれないけど」

 

その言葉に依姫はニッと笑う。

 

「……そう。それでは私も月の使者のリーダーとして、最大限、美しく……」

 

そして、依姫と咲夜の戦闘が始まった。

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