東方〜もう一人の巫女〜   作:ルミナス

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第百七十一話

依姫と咲夜の戦いは、依姫が咲夜に剣を向けてから一向に動いていなかった。

 

「どうしました?貴方から掛かってこなければ無限に待ちますよ?」

 

「……本当に出来そうで怖いな、彼奴」

 

「いや、彼奴が無限に待ってたら私達が帰還するのも無限になるんだが……」

 

ふっと笑みを浮かべている咲夜の言葉に、ルカと鬼灯が其々そんな事をその背中越しに言っていた。

 

しかし、二人の葵以外への対応はいつもこんなものであり、別に誰一人として気にしていなかった。

 

そして、咲夜と相対している依姫は剣を右手だけで持ち、もう片方は上に翳した。

 

「貴女、さっき私のことを手癖が悪いと言ったわよね」

 

その言葉と同時に急に降り出した雨。それも、雷雨である。

 

そして、雷が落ちた後に現れたのは、七本の尻尾を持った、龍にも似た炎の塊だった。

 

「……『火雷神』か」

 

鬼灯は呟くように神の名を当てる。

 

「『火雷神』よ。七柱の兄弟を従え、この地に来たことを後悔させよ!」

 

依姫の言葉が合図となり、火雷神は咲夜を炎の渦の中へと閉じ込めた。

 

しかし、依姫はその時には後ろに気配を感じた。

 

それに驚いきもせずに、依姫は後ろで自分にナイフを向けている咲夜を見た。

 

「……貴女は不思議な術を使うのね」

 

依姫はそう言いながら、視線だけを咲夜の方に向けた。

 

「さっきも見せたでしょ。瞬間移動のイリュージョン。……あと、おまけ」

 

咲夜のその言葉のすぐ後に、上からナイフの雨が降り注いできた。

 

それに驚く外野の月兎達。

 

そんな兎達の様子など気にする様子もなく、咲夜はナイフをもう一本持った。

 

「も一つおまけの『ルミネスリコシェ』」

 

そう宣言すると同時にその雨の中にナイフを投じた。

 

そのナイフは数個のナイフに当たり、当たったナイフは向きを変え、幾つかが依姫へと向かっていく。

 

「『金山彦命』よ。私の周りを飛ぶうるさい蝿を砂に返せ!」

 

しかし、依姫がまた神をその身に下ろしたことにより、ナイフは当たるどころか砂へと変わってしまった。

 

「なっ⁉︎」

 

「……鉄が砂に」

 

魔理沙と想起がその光景に驚いた表情を見せた。

 

咲夜もまた、その光景に少し焦りを覚えた。

 

そんな咲夜にまた剣を向けると、依姫は続けた。

 

「そして、持ち主の元へ返しなさい」

 

すると、剣先に砂が集まりだし、砂が元のナイフへと戻っていった。

 

「咲夜‼︎」

 

「……っ‼︎」

 

それには流石に驚いた咲夜。

 

「ま、まさか、自分のナイフを避ける羽目になるとはね!」

 

そう言いながら右に行ったり、左に行ったり、飛び跳ねたりしながら返ってくるナイフを避け続ける。

 

「避けにくいのは当然ね。しょうがない……」

 

依姫はその言葉で何かを感じ取り、また雨を降らした。

 

「っ‼︎……いざ‼︎『私の世界』へ!」

 

そして、時を止めた咲夜は前を見て、左右を見て、少し考えると、脳内で白旗を揚げたのだった。

 

***

 

「咲夜、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫よ、光冥。それに、葵も治療をしてくれてるから……」

 

「有難ございます、葵さん」

 

「いえ、大したことはしてませんから」

 

葵は光冥の感謝の言葉に、いつも通りの返答をした。

 

「…………」

 

「……鬼灯、どうした?」

 

「……少し気になることがあっただけだ」

 

遠くから葵達を見ていた鬼灯だが、ルカからの問いに、嘘は吐かずに答えた。

 

(……本当に、どうしたものか)

 

鬼灯の頭に浮かぶのは、話の後のツクヨミの言葉。

 

『あの子をどうにかしないと、彼女は一生『異常』のままだよ?ほーちゃん』

 

(……)

 

そう考えながらまた葵がいる方に顔を向ければ、レミリアが咲夜に何かを言ったようで、周りにいたアルカ、咲夜、光冥、葵が微笑ましいものを見るように笑顔を浮かべていた。

 

その葵達から少し離れた場所では、依姫の周りに月兎達が集まっていた。

 

「流石です依姫様!」

 

依姫にそう言ったのは、他の月兎達と比べて特徴的な垂れ耳の月兎。

 

その月兎は以前、博麗神社に倒れていた兎である。

 

そんな兎達に笑みを浮かべる依姫。

 

「私には八百万の技があるからね」

 

「……ところで、何故あの人間は最後、雷に囲まれた時に移動しなかったのでしょう?」

 

垂れ耳兎は依姫にそう問うと、依姫は咲夜を少し見てから答えた。

 

「あの者は瞬間移動など出来ないってことよ。移動したい場所までに身体を通せる隙間がある場合のみ移動できる。私は最初の火雷神の時に気付いたわ。スカートの裾が焦げてるって……」

 

そう、依姫が咲夜を視線だけで見たとき、気付いたのだ。

 

咲夜が時を止め、炎の攻撃から逃げた時に焦げてしまったスカートの裾に。

 

それにより、依姫は『瞬間移動』という答えを頭の中から消したのだ。

 

(……でも、あの時は焦げてたから分かったけど、それが無かったら……)

 

依姫は月兎達には余裕そうな顔を向ける裏で、心の中ではそんな風に考えていたのだった。

 

***

 

そこからほんのすこし時間が経ち、全員が落ち着いたところを見て、依姫が先を進める様に言った。

 

「さあ、次は誰かしら?」

 

その言葉にレミリアは自分の横にいる者達を見た。

 

霊夢は寝ており、葵は一人では戦えないから論外。

 

ルカと鬼灯、想起は『絶対にやらない』と言うように視線を合わさない。

 

そして魔理沙を見ると、レミリアが顔を向けた事に気付きすぐ様顔を背ける魔理沙を見て、ニヤッと笑った。

 

「そうだねぇ……魔理沙、次頑張って」

 

「えぇ〜⁉︎」

 

「ほら、夢幸に自分の力を見せるチャンスだよ‼︎」

 

レミリアのその言葉に魔理沙の耳がピクッと動いた。

 

そして数分後、服を叩きながら立ち上がる。

 

「ふふ、次は言い出しっぺの貴女ね」

 

「ああ、そうだ。……まあ、いくら力の差があろうと、スペルカード戦なら負ける気がしないがな」

 

魔理沙は依姫に対して、笑顔でそう言うのだった。

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