東方〜もう一人の巫女〜   作:ルミナス

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第百七十四話

霊夢達が依姫と戦闘を繰り広げている裏では、紫、藍、茜が、晴れた海の『晴れの海』、雨が降りしきる『雨の海』、風が吹き荒び、大波など当たり前の『嵐の大洋』、其れ等を越えた先にある『賢者の海』という所に辿り着いていた。

 

「……此処が月の賢者の住処、ですか」

 

「そうよ、茜。此処が賢者の住処」

 

紫はそう言うと、指を下から上になぞり、隙間を開けると、そこから中を覗いた。

 

「ちょうど留守みたい♪」

 

紫は上機嫌にそう言うが、今一紫の考えが分かっていない藍は、『賢者が帰ってくるまで待つ』という提案をする。

 

「千年前の雪辱なら、留守では……」

 

「藍姉、紫様の考えてる事は違うぞ」

 

「え?」

 

「そうよ、藍。何を言ってるの?絶好のチャンスじゃない」

 

「え?え?一体何を?」

 

藍は三人の中では置いてけぼり状態にされているが、しかし次の紫の言葉で、今から何をしようとしているのかを把握した。

 

「月の賢者の家に忍び込んで、めぼしいお宝を奪うのよ」

 

「空き巣ですか」

 

「ああ、空き巣だ」

 

そんな二人を他所に、紫は開けていた隙間に自分の長手袋を置いた。

 

「?それは「お宝を探しに行くのは貴女よ、藍」……え、ああ、はい。分かりました。でも、そんな留守の家を漁るだけで良いのですか?それで満足するのでしょうか?」

 

「うふふ、良いのよ。どうせ地上の者は一部を除いて月の民に敵わないもの。力では」

 

藍からの問いに、紫は笑いながら返すのだった。

 

***

 

依姫と霊夢の戦闘はもう決着が着く寸前であった。

 

何故なら、現在、霊夢はボロボロな状態で依姫の前に倒れているのだから。

 

「おいおい、おまえらしくないな、霊夢」

 

「仕方ないでしょ、妖怪とかならまだしも、相手が人間だから調子狂うのよ」

 

「確かに、霊夢は妖怪退治専門だからな……」

 

霊夢の言葉に、歩は心配そうな顔をしながらも納得したように頷いていた。

 

「貴女は力の使い方を間違っている。修行が足りない」

 

「……大体ねぇ、さっきも言ったように私は妖怪退治の専門家なの。相手が神様だとか、人間だとどうも勝手が違うのよね。もっとこう、倒して然るべき相手が……」

 

そう言いながらレミリアを見ると、アルカの膝に顔を乗せて寝ているレミリアが見えた。

 

そんな二人に陽が当たらないように傘を差している咲夜がそれに気付くと、笑顔で答える。

 

「もう飽きて寝ていますわ」

 

それに対して怒った霊夢。

 

「あーあ!もっと妖怪らしい妖怪を退治したいわねぇ!」

 

そう言いながら、八つ当たり気味に依姫に札を投げる。

 

しかし、その札からは、黒い靄のようなものが出ている。

 

依姫はそれを避ける事もせずに剣で切り裂くと、気付いた。

 

「……!これは」

 

「『大禍津日』。あんた達の弱点は分かってるわ。穢れなきこの浄土に穢れを持ち込まれるのを極端に嫌うこと」

 

「なんですって?じゃあ、さっき投げた物は……」

 

「大禍津日神がその身に溜めた厄災よ。放っておけば月に寿命をもたらすわ。弾を一つ一つ潰さないと、月は地上と変わらなくなる。

これであんたは私の弾を避けるわけにはいかないでしょ?」

 

これを聞いた葵は少し焦った顔をする。

 

流石に此処までしなくとも……と思っているのだ。

 

しかし、その隣にいたルカは少し笑みを浮かべながら霊夢に言う。

 

「凄いな。まるでお前が倒して然るべき妖怪みたいだな」

 

「あんたね〜」

 

そんなルカに、霊夢は頬を引きつらせた顔で見るのだった。

 

***

 

「紫様は賢者の家が留守だということを最初から知っていたようですね。もしかして……」

 

「そうよ。何のために霊夢と葵の稽古をつけさせ、レティシアに頼んでレミリア達を月に向かわせるように促したと思ってるのよ」

 

「でも、吸血鬼達の月ロケットは私達が指示した物ではないのでは?レティシア様も、ロケット造りの知恵は貸していないようでしたし……」

 

「あんなもん、その気になれば誰だって作れるのよ。人間だって作ったんだもの。私はレティシアに頼んでその気にさせてもらっただけ。表面だけが周りに影響されて動き回っただけよ」

 

藍への言葉を其処で区切ると、紫は藍から背を向けた。

 

「……それは、大気が海の表面を波立たせるようにってことですか?」

 

「賢者ではなく、言うなれば愚者の海」

 

そう言いながらまた指で下から上へと線を引くと、今度は人一人入るぐらいの大きさの隙間が開いた。

 

「さあ!藍。最後の命令よ。中に入って、私を満足させる素敵な物を盗んできなさい!」

 

「分かりました」

 

藍は紫の指示通り、隙間の中へと入って行く。

 

それを見届けると、隙間を背にして、紫は笑い始めた。

 

「クックックッ、プッ、あーはっはっはっは‼︎」

 

紫は笑い終えると、そのままもう片方の長手袋を取り、空中へと投げると、それが鴉の姿を取り、何処かへと飛んで行ってしまった。

 

と、その時、藍の叫び声が聞こえてきた為に気になって入ってみると、その先は竹林だった。

 

「あ!紫様!何か変なんです」

 

「だから、何が変なのかしら?」

 

紫はそう言いながら周りを見渡すと、気付いた。

 

ーーー建物らしき物が見当たらない暗い夜

 

ーーー月であまり見かけなかった竹林

 

ーーー穢れ多き、動物の咆哮

 

そして、一番の決定打となったのは……。

 

「満月……それも少し欠けた」

 

「此処って……幻想郷、ですよね?」

 

「ッ⁉︎いけない!満月が閉じてしまう」

 

その言葉とほぼ同時に閉じた境界。

 

そして、能力により茜は気付く。

 

自分達に近付いて来る存在に。

 

「ッ⁉︎紫様‼︎」

 

「そう、公転周期の僅かな乱れ。それは完全な数であるはずの二十八を僅かに欠いたトラップ」

 

その声のした方に顔を向けた紫、藍、茜。

 

その視線の先にいたのは、依姫と同じ様な服を着た女性。

 

その隣には以前、霊夢達が見た月兎もいる。

 

そして、その女性は紫を見て、少し笑う。

 

「もう貴女は月に戻れない。師匠が千年以上も前に仕掛けたトラップでね」

 

迷いの竹林には、月の民二人に敗北した三人の妖怪、月の民と月兎。そして、竹の枝に器用に座って、面白そうに静かに笑う影だけがその場にあった。

 

***

 

霊夢は空中で厄災の塊を掲げ、それを依姫の方に向けると、その塊から小型の弾幕を飛ばしたが、しかし、その全てを依姫は斬り裂き、消していく。

 

その為に、お互い体力・気力・精神力を消耗し続けていた。

 

「ああもう、キリがないわ。私が負けようかしら」

 

霊夢は口で息をしながらそう言うと、依姫もそれは同じだったようで、終わらす為に最後の神を呼んだ。

 

「『伊豆能売』よ、私に代わって穢れを祓え!」

 

すると、依姫の後ろには巫女姿の神様が現れた。

 

「巫女姿の神様⁉︎誰それ?聞いたことない神様だわ。葵は知ってる?」

 

「うん、知ってるよ。勉強したから」

 

「神・妖怪の種族当てで霊夢が葵に勝てるとは思えないな」

 

「彼奴は勉強しないから仕方ない」

 

「あんた達ね〜」

 

ルカと鬼灯の皮肉にまた頬を引き吊らせて言う霊夢。

 

その裏で、巫女姿の神様は霊夢が撃った厄弾幕を一つ一つ浄化していっていた。

 

それを見た霊夢は空中から地面へと降り立つと、直ぐに葵が近寄り、霊夢を癒し始めた。

 

「はぁ、あんな神様もいるのね。葵、地上に帰ったら教えてくれない?」

 

「うん!良いよ!」

 

そんな二人に対して、依姫は笑顔ながらに無慈悲なことを言う。

 

「残念ながら、貴方達二人とそこの釣竿を持った人は直ぐには帰れないわよ」

 

「……」

 

依姫のその言葉に、霊夢は嫌そうな顔をするのだった。

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