ノーネーム本拠地まで帰ってくると、子供達と十六夜達が出迎えてくれた。
子供達は黒ウサギが持っているテディベアに目ざとく気付き、それは何なのかと直ぐに聞いてきたので、黒ウサギはそれに答えることにした。
「この子はですね、此方の葵さんがギフトゲームで勝ってくれたので貰えた景品です。言葉は話せませんが、意思を持っており、感情も出ます。それに、皆の言葉も理解出来ます。だから、この子を虐めたり、嫌がる事をしないように。良いですね?」
『はーい‼︎』
それを聞いた十六夜は、葵に顔を向けた。
「へ〜、アレはお前が手に入れたのか……」
「え、あ、はい」
「おい、飛鳥。どんなギフトゲームだったんだ?」
「的当てが主体だったのだけれど、的は握り拳ぐらいの大きさ、ハズレの的も多くて、しかも動く。中々に難しいわよ……弓道経験者でなければ」
「つまり、お前は弓道経験者ってわけか。しかも、相当の実力者」
十六夜はそう言いながら、ニヤリと笑う。
それに対して、葵は少し困った顔をしていた。
「いえ、確かに弓道はしています。今も。けれど、そこまで実力がある訳では……。現に、人に当てようとしても、当たりませんから」
「……当たらない?」
その言葉に今度は顔を顰めた十六夜。
その理由を言おうとした葵だが、その説明をしだしたのは、何処から聞いていたのか分からない鬼灯だった。
「葵に攻撃の才能が無いのと、葵の『優しさ』の反動だ。生物に弓を放とうとしても当たらない。万が一にも当たってしまえば、手が震え、その先以降、当たらない。もしそれでも当たってしまえば、今度は弓自体が手から滑り落ちる。
だから、葵の弓は生物に当たらないんだ」
その説明に、十六夜は楽しくなさそうな顔をしながら、「……そうかよ」と言うだけだった。
「十六夜さん、もしかしてギフトゲームがしたかったの?」
そんな十六夜達の言葉が聞こえてきたようで、想起、ルカ、蜷局、お空、耀がやって来た。
「ああ……蜷局達の世界から来たっていうお前らの実力を見たかったからな」
十六夜は想起にそう言うと、それにルカは溜息を吐いた。
「成る程、お前は私達の世界のレティシアや、剣が関係した時の鬼灯と同じで戦闘狂か」
「ヤハハ‼︎褒め言葉をどうもアリガトウ、吸血鬼」
その単語に、ルカの耳が少し動いた。
「……何時から私が吸血鬼と分かった?想起は其処まで説明してないはずだが?」
「いや?お前らが案内されてる間に想起に聞いたぜ?」
それを聞くとルカは想起を睨み、想起は想起で顔を逸らした。
「……なら、私が半分しかその血が無いことも知ってるんだろ?なのに、何故吸血鬼何だ?」
「『半吸血鬼』っていうのが呼びにくいだけだ」
「……そうか」
其処でルカは問い質すのを止めた。
すると、今度は想起が口を開いた。
「それで、十六夜さんもギフトゲームがしたいらしいけど、僕もギフトゲームっていうのをしたいんだけど……駄目かな?」
その言葉に、葵は頷いた。
それを見ると、大いに喜ぶ想起だが、鬼灯は難しそうな顔をする。
「別にするのは良いが……なら、誰がギフトゲームを提案するんだ?」
「なら、私から一つ、案があります‼︎」
そんな風に話していた葵達に向かって、子供達と話していた黒ウサギがそう叫んだ。
そして、葵達に近寄り、皆んなの意思を確認して承諾を得ると、上からギフトゲームを開始する時特有の契約書類が落ちてきた。
「これが、十六夜さんが言ってた契約書類……確かに、僕達の名前が入ってるね」
「……ギフトゲームは『白黒合戦』か」
「ルール的にはオセロだな」
「オセロ?」
この場で唯一、オセロを知らない葵は首を傾げている。
そんな葵に、オセロでも何時もレティシアに全敗している鬼灯が説明をする。
「オセロというのはだな、白と黒の石を使って遊ぶゲームだ。そして、自分の石の色が多い方が勝ちというゲームだな」
「?どうやって色を増やすのですか?」
「相手の石を自分の石で挟むと、その石は自分の色の石に変わるんだ」
「まあ、このギフトゲームから察するに、その石は俺達自身らしいがな」
「え……」
葵はもう一度契約書類を見ると、確かに自分達が石代わりになる旨が書かれていた。
そして、その契約書類には、チームの人も書かれていた。
***
鬼灯の力で地面を隆起させてゲーム盤を作り、黒チームと白チームが準備し終えるのを見た黒ウサギは、参加しない蜷局とお空を見ると、片手を掲げた。
「それでは始めますね‼︎」
「始めるのは良いが……凄い偏りだな、これは」
「確かに。ランダムとは思えない程の偏りだよね、これ……」
鬼灯と想起は、逆の位置から黒ウサギをジト目で見る。
しかし、黒ウサギは困った顔をして返した。
「それは黒ウサギも思いますが、事実これはランダムですから……」
その顔で黒ウサギも予想してなかったのが分かると、溜息を吐いて相手を見る鬼灯と想起。
「それでは始めます‼︎ギフトゲーム、開始‼︎」
その合図と共に、十六夜が脚力だけで一気に鬼灯に近付き、殴ろうとした。
しかし、鬼灯は風を操り、避けるスピードを加速させ、何とか避けきった。
「イキナリ本気か、彼奴は」
「……十六夜はギフトゲームの時は何時も本気だよ」
鬼灯は耀の言葉を聞き、溜息を吐くと、ルカを見た。
ルカはそれに顔を顰めながらも頷き、幾つか氷柱を作ると、それを全て十六夜に放った。
「おっと‼︎」
それを十六夜は壊さず、避けた。
このゲームは、二度連続で攻撃に当たると自身の色が変わるのだ。
つまり、十六夜、飛鳥、想起達『白チーム』は、葵の様な補助役がいない限り、殆どの攻撃を避け続けるほか無いのだ。
「おい想起、葵は確か補助特化だったな?」
「うん、そうだよ」
「なら、厄介な葵をこっちに引き込むぞ‼︎お嬢様‼︎」
「分かったわ‼︎行きなさいディーン‼︎」
飛鳥はディーンに指示を出すと、ディーンは真っ直ぐ葵に向かっていく。
しかし、それを阻むのは、豊穣神である鬼灯。
「葵が居なくなると困るのは此方も同じだ‼︎」
鬼灯はまた風を操り、足止めしようとしたが、全く意味を成していなかった。
「……なら‼︎炎符『豪炎の渦』‼︎」
すると、ディーンの周りに炎が巻き起こり、それは激しく豪炎となると、渦となって立ち上り、ディーンを進ませなくさせた。
「ハッ‼︎流石は神サマだな‼︎コレぐらいはお手の物ってか‼︎」
そんな十六夜はそう叫ぶと、その場から後退した。
そして、十六夜が先程まで居た場所には、耀とルカがダブルかかと落としをした。
「ちっ、やはり当たらないか」
「ヤハハ‼︎お前らの狙いは俺って事か‼︎」
「……うん。十六夜は強いから」
「だが、当たらないと意味ないからな……悪いが手段を変えさせもらう‼︎」
そう言うと、ルカは宣言する。
「氷符『氷の牢獄』」
すると、十六夜の周りに弾幕が設置された。
「これで足止め出来ると思うなよ‼︎」
十六夜はそう言うと、自身の後ろの弾幕の一つを殴った。
すると、その拳圧だけで、その周りの弾幕までもが消えてしまった。
「……お前は化け物か」
その言葉を言うルカだが、しかし、直後にニヤリと笑う。
それに気付いた十六夜は顔を顰める。
『何故、笑っているのか?』
そう考え、思考する。そして、直ぐに飛鳥を見た。
「お嬢様‼︎其処から移動しろ‼︎」
「え?」
飛鳥は突然の事に流石に一瞬動けなかった。
しかし、その一瞬が仇となる。
「式神『二尾狐』‼︎」
その宣言とともに現れた二匹の白い二尾は、そのまま飛鳥へと攻撃するために近付き、鬼灯もその補助として弾幕を放った。
飛鳥はディーンを呼ぼうとしたが、しかし未だに豪炎の渦の中にいた。
時折、その渦が形を崩すが、しかし直ぐに元に戻るのを見るに、まだまだ脱出には時間が掛かりそうである。
ならばと飛鳥は二尾の狐二匹に向かって『威光』を使う。
「『止まりなさい‼︎』」
しかし、その二尾狐は止まらない。
それはそうだろう。この二匹は鬼灯に支えているような状態。
今の状態では、霊格は然程低くないのだ。
それが分かると、目を瞑る。
「破壊符『黒竜』‼︎黒符『黒焔』‼︎」
その宣言の後にソロモン(子竜)が現れ、二尾狐の周りには黒い焔が現れた。
その焔を避けようとジャンプしようとしたが、その二尾狐達の上から焔が降り注ぎ、それに当たった二尾狐はその場に倒れこんでしまった。
「二尾‼︎」
「有難う、助かったわ。想起君」
「どう致しまして」
そう言って互いに笑い合う。
しかし、その笑顔は直ぐに焦りへと変わった。
葵がスペルを宣言をした為に。
「呪術『鬼呪封印』‼︎」
その宣言の後、十六夜達は沢山のお札でその場に縛られた。
「ハッ‼︎しゃらくせぇ‼︎」
しかし、十六夜はそんな状態であるにも関わらず、腕に力を入れ縛りを解いた。
ただ、そんな事が出来ない飛鳥と想起。
想起はソロモンに助けてもらおうとしたが、そのソロモンも想起と同じ状態となっていた。
それを見逃さないのが鬼灯とルカ。
二人はそんな飛鳥と想起に大漁の弾幕で攻撃した。
その攻撃は飛鳥達に当たり、飛鳥と想起はもれなく『黒チーム』となった。
「よし、残りは十六夜……‼︎葵‼︎」
鬼灯が葵の方に顔を向けると、其処には葵に攻撃を入れようとしている十六夜がいた。
葵も其れには気付いていたようで、宣言をする。
「結界『六重結界』‼︎」
その攻撃を結界で防ぐが、その結界は直ぐに壊れた。
そして、十六夜は攻撃を入れるが、その場には葵は居らず、そのまま地面に打ち付けた。
その地面はそのまま陥没し、巨大なクレーターが出来ていた。
そして、攻撃を受けそうになっていた葵はというと、チーターの力を使った耀が葵をあの場からお姫様抱っこで助け出した。
「あ、有難う御座います‼︎耀さん!」
「……うん」
耀はお礼を言われて少し照れた様子を見せると、葵を降ろそうとした。
……しかし、そんな二人と他全員に十六夜は既に攻撃を仕掛けていた。
「オラァ‼︎」
十六夜は、自分が壊した盤上の欠片で他全員に投げ付けていた。
それも、一人に対して二つずつ当たるように。
葵は結界を張ろうとしたが間に合わず、葵と耀は黒から白チームへと変わった。
飛鳥と想起、ルカは鬼灯が操った風と炎、植物で豪速球を何とか止めた為に、当たる事は無かった。
と、その瞬間に、黒ウサギからゲーム終了の声が聞こえて来たのだった。
***
「あ〜‼︎悔しいぜ‼︎」
「悔しいってお前……自然を同時に私に操らせたお前が言うことか?普通の人間ならそんな事もさせれないぞ」
十六夜が本当に悔しそうに言うと、鬼灯は嘆息しながらそう言葉にした。
「けど、お前に『三つ』しか同時に操れさせれなかった。本当はまだまだ同時に操れるんだろ?豊穣神サマ?」
「……」
「黙りは肯定だぜ?」
鬼灯はその言葉の後に、ただ溜息を吐いた。
「はぁ……お前はまだ成長出来る。それを思うと、今度会った時は負ける気がするよ、お前に」
「ヤハハ‼︎次会う時は覚悟しとけよ?豊穣神サマ?」
それを聞いた鬼灯はまた溜息を吐いた。
その後ろでは、葵達が黒ウサギ達に別れる前の会話をしていた。
「黒ウサギさん、あの熊の人形を大切にしてあげて下さいね?」
「勿論です‼︎あの子も私達の仲間ですから‼︎」
「ルカ‼︎さとり様に宜しくね‼︎」
「俺からも宜しく頼む。主に元気にしていると」
「……元はこれはレティシアの頼みだから、それを伝えるのは多分、レティシアだ。
……まあ、私達だった場合は伝えておく」
「そうだね‼︎僕達から伝える事になったら伝えておくよ‼︎今日の事全て‼︎」
「ああ」
その言葉の後、直ぐ近くでスキマが開いた。
「……入れっと言ってるな、彼奴」
「みたいですね……」
葵はスキマを見た後、また顔を黒ウサギ達に戻した。
「それでは、これで……」
「また遊びに来てちょうだい。その時は歓迎するわ」
「……またね、葵」
「‼︎はい‼︎」
飛鳥と耀からのその言葉に葵は嬉しそうな顔を浮かばせると、ルカ達と一緒に帰って行った。
***
その後、そのスキマはそのまま地霊殿に繋がっていた為に、さとりにその事を伝えると、お礼を言われて帰っていった葵達。
「……コレは貴女のシナリオ通りですか?レティシア」
「クスクス、何のことかしら♪」
さとりは今、自分の目の前で優雅に紅茶を飲んでいるレティシアにそう聞くが、レティシアは只々楽しそうにそう言うだけ。
それに嘆息するが、その後、安心した様子を見せた。
「それにしても、蜷局達が楽しそうで何よりです」
「クスクス、これで貴女も暫くは安心出来るわね♪」
「……ふふっ、そうですね」
さとりはそう言って笑うと、紅茶を一口飲んで、また笑みを浮かばせるのだった。