咲夜はメイドの仕事を一通り済ますと、他の担当の手伝いに行く事にした。
その歩いている最中、紅魔館の住人以外で何度も会うこととなってしまった客と顔合わせをした。
「……またアルカ様を弄りに来たの?雪華」
咲夜は溜息を吐いてから問いかけると、雪華は意外にも首を横に振って否定した。
「いや、違うよ。今回は遊びに来たんじゃなくて、相談」
「?相談?」
「そ。私とアルカ、そしてギルとシファの知り合いのな」
その言葉と共に雪華の後ろから現れたのは、雪華の世界の住人であるフィールだった。
***
咲夜は雪華達をアルカの元に連れて行き、雪華が相談をしたいと言うと、日の光が差さない所でお茶会となった。
咲夜は一緒にいるレミリアの斜め後ろに光冥と待機している。
「……で、雪華の相談はフィールに関係しているのか?」
アルカが確認の為にそう聞くと、雪華は頷いた。
「ああ。まあ、お前が書いた手紙が原因なんだけどね」
「?俺が?」
アルカは少し目を見開き、フィールを見ると、相変わらずの無表情で紅茶を一口飲んでから口を開いた。
「……カロード・ペインティークという人に会いたいの」
「カロード……お兄様、なんて手紙を返したのですか?」
レミリアがアルカに顔を向けて聞くと、アルカは少し考え、何かを思い出した顔をした。
「ああ、この前の手紙で『お前のお姉ちゃんに彼氏が出来てるぞ』って書いたな、そういえば」
「私はそのカロード・ペインティークに興味を持って、八雲紫に頼んで連れてきてもらったの。フィリアと一緒に」
フィールはそう言いながら、エメラルドグリーン色の服を着たフィリアを見せた。
「カロード……ということは、貴女の『お姉ちゃん』というのは……」
「咲夜の察している通り、アリスだ」
その言葉にフィールは頷くと、フィリアを抱き締めた。
「私、今日はそのカロード・ペインティークという人に会うまで、帰らない」
「帰らないって、向こうのアリスが心配するぞ?」
「大丈夫。お姉ちゃんには言ったから」
「でも、泊まるところはどうするの?」
「……アルカディア・スカーレット。会えなかった時はお願いします」
フィールはそう言うと、頭を下げた。
「……つまり、会うまで帰る気はないと……」
「原因お前だからそこは泊めてやれよ〜」
「博麗神社は?」
「そこまで養えない」
「それもそうか……」
アルカはそれに納得すると、咲夜と光冥に顔を向けた。
「咲夜、光冥。フィールをカロードに会わせてやってくれ」
「分かりました」
其処で咲夜と光冥にフィールは近付き、顔を見た。
「十六夜咲夜、それと……」
「黒漆光冥です。よろしくね、フィールちゃん」
「そう。黒漆光冥、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げ、また上げる。
その顔は相変わらずの無表情であった。
***
咲夜と光冥はフィールをカロードに会わせるために、魔法の森へとやって来ていた。
「……お姉ちゃんの彼氏はどんな人なの?十六夜咲夜」
「どんな人ね……とても素晴らしい絵を描く魔法使いね」
「お姉ちゃんと同族?」
「そうだね。彼の魔法は『色』だけど、そこは七色の魔法使いの異名を持つ彼女と相性が良いね」
「……そう。なら、とても楽しみだね、フィリア」
フィールはそう言うと、フィリアの顔を見た。
それを見ると、光冥は咲夜と小声で会話をし始めた。
「……咲夜」
「分かってる。あの子、会った当初から顔に表情が無いわね。……まるで、感情が無いみたいに」
「でも、言葉では『楽しい』って言っているから、そんな感情が無いわけじゃなさそうだね」
「……感情が出にくいタイプなのかしら?」
「そこはなんとも言えないね」
其処で話をやめてフィールを見ると、其処には未だに話すことが出来ない人形と無表情で会話をしているフィールがいた。
しかし、二人の視線に気付くと、フィールは2二人に近づき、首を傾げた。
「?どうしたの?十六夜咲夜。黒漆光冥」
「いえ、何でもないわ。さあ、行きましょう」
そうしてまた歩き始めると、辿り着いたのはアリスの家。
「……着いた。此処にカロード・ペインティークがいるの?」
「うん。出掛けてなかったらいるはずだよ」
そうして光冥が扉をノックすると、扉を開けて出て来たのはーーー。
「……珍しいな。お前達二人が来るとは……?その子は?」
「君に会いたいと遥々やって来た子だよ、『カロード』」
件のカロード・ペインティークであった。
***
カロードは三人を中へと入れると、今度はアリスがやって来た。
「あら、本当に珍しいお客さんね。どうしたのかしら?」
「この子がね……」
光冥はそう言ってフィールを見ると、フィールはアリスに近寄り、抱き着いた。
「⁉︎え、な、何?」
「……この世界のお姉ちゃんも、変わらない……良かった」
フィールはそう言葉にすると、すぐに離れた。
しかし、その言葉と表情を見ただけで、アリスもカロードも直ぐに気付く。
フィールに『表情』が無い事に。
(感情は持っているのに、表情に出ていない?)
(感情が出にくいのか?いや、それでもお姉ちゃんと言うほどに親しい気持ちを持っているアリス相手に、表情が出ない可能性は薄い……)
(なら、どうして?)
そんな疑問を持つも、答えは一向に出ない。
しかし、フィールが首を傾げている姿を見て、直ぐに考え事を止める二人。
「?お姉ちゃんも、カロード・ペインティークも、大丈夫?顔色が悪いけど……」
「大丈夫よ」
「俺もだ」
「なら、良かった。ね、フィリア」
そう言ってまたフィリアに安心した様子を浮かべないで話し掛けるフィール。
「それで、俺に会いたいと言ってくれたのは、フィールか?」
「そうだよ、カロード・ペインティーク」
アリスはその呼び方を聞き、カロードの顔をチラッと見てから、フィールに目線を合わせるようにしてしゃがみ、話し掛けた。
「……ねえ、フィール」
「?何?お姉ちゃん」
「彼の事を、私と同じ様に呼んであげて?」
「……良いの?」
フィールはカロードに顔を向けて問うと、カロードは頷いた。
「……分かった。『お兄ちゃん』」
その呼び名を聞くと、カロードの顔が緩み、嬉しそうな笑顔を浮かべたのた。
「さて、もうお昼だけど、貴方達はお昼を食べたのかしら?」
「私達は食べたけれど……」
「フィールが来たのはその後だったからね」
「そう。なら、食べる?フィール」
アリスはまた目を合わせて問うと、フィールは頷いた。
「なら、待っててね。直ぐに用意をするから」
そう言ってキッチンの方に去っていくアリスを見ると、フィールはカロードに近寄り、服の裾を引っ張る。
「?どうした?フィール」
今度はカロードがフィールの目線に合わせてしゃがむと、フィールは問い掛けた。
「黒漆光冥が言ってたの。お兄ちゃんは絵が上手いって。……その絵を見たい。ダメ?」
フィールはこてんっと擬音が付きそうな感じで首を傾げる。
それを見てカロードはまた少し笑みを浮かべると、フィールの頭を優しく撫でた。
「ああ、良いぞ」
「有難う、お兄ちゃん」
そう言って、ソファに一緒に座ると、カロードの絵を見始めた。
「……何だか、本当の家族みたいね」
「『みたい』じゃく、本当の家族だと自分は思います」
咲夜と光冥はそんな三人の様子を隅から見ていて、そんな感想を漏らすのだった。