東方〜もう一人の巫女〜   作:ルミナス

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第百八十一話

外が珍しく曇っているこの日、咲夜は光冥、マリア、狼、フランと共に地下へと続く階段を降りていた。

 

フランの部屋以上に地下深いわけではないが、その手前ほどにある部屋に向かっているのだ。

 

「マリア〜!早く早く〜!」

 

「ま、待って〜!」

 

「マリア、フラン様と仲が良いのは良いが、相手の方が地位的に上だからな?」

 

フランはマリアを急がせる為にそう声を掛け、マリアもそれに応えるようにそう早くもない足で廊下を走り、それを見た狼が呆れた様子で注意を促している。

 

「……狼の言う通り、フラン様と仲が良いのはいいけど、雇い主の妹様って忘れてないよね?マリアは」

 

「あの子は忘れてないと思うわよ……ただ、友達みたいな関係であるのは否定できないけれど」

 

そんな三人の後ろからその光景を見て、そんな事を話す咲夜と光冥。

 

そうして歩いている間にいつの間にやら目的地に到着していた。

 

代表して狼がその扉を開けると、その先にあったのは、薔薇園だった。

 

「……本当、いつも思うのだけど、よく此処まで育てられたわね、くおん」

 

「まあ、それでも大変ではあるが、その手間さえも愛おしい」

 

「その自然愛には感服するよ」

 

咲夜と光冥が先に来て薔薇の手入れをしていたくおんと話している横で、フランとマリアは既に薔薇の中へと入っていた。

 

「まあだが……光冥には礼を言うよ。空間を広くしてくれたからこそ、此処まで出来た。有難う」

 

「どう致しまして。他の草花達の様子はどうだい?」

 

「他も順調に元気に育ってる。咲夜から頼まれた薬草もな」

 

「本当に有難う、くおん」

 

「どう致しましてだが、アレは何に使うんだ?」

 

「お嬢様の紅茶」

 

「……それは止めてやれ」

 

くおんは咲夜の答えを聞き、それを飲んでるレミリアに少し哀れみの念を抱いてしまった。

 

そんな会話をしていると、遠くからフランがくおんを呼ぶ声が聞こえた為、その場に向かうと、フランとマリアがある薔薇の前に立っていた。

 

「ねえ、くおん。この薔薇の種類は何?」

 

そのフランが指差した薔薇は、青い薔薇だが、よく見る薔薇とは少し違う。

 

それを見ると、くおんは和かになる。

 

「それは『オンディーナ』という薔薇の一種です。とてもデリケートで、花が傷みやすい種類の薔薇ですよ」

 

「なら、これは?」

 

次に指差した薔薇は、淡いピンク色の薔薇。

 

「それは『桜貝』。名前の通り桜貝と同じ色をした薔薇です。この薔薇の特徴は、他の薔薇よりも棘の数が少ない事ですね」

 

「へ〜。なら、これは?」

 

次に指したのは薄紫色の薔薇。

 

「それは『ブルームーン』です」

 

「え、薄紫なのに?」

 

「はい。この薔薇は薄紫色ですが、青薔薇系特有のとても甘く、繊細な香りを有してるのです」

 

「へ〜」

 

「薔薇だけでもこんなに種類が……」

 

光冥が其処でブルームーンに近付き、花弁を優しく触る。

 

それを見てからくおんはフラン達の方に顔を向けて、注意する。

 

「……さて、それでは、フラン様達は好きなようにしていただけて構いません。ただし、折ったり、傷付けたりしてはいけませんよ?とても繊細ですからね?」

 

「はーい‼︎」

 

「う、うん‼︎あ、でも、くおん。ローズティーとかは駄目?」

 

「今回は私が既に作ってるから、また今度な」

 

「うん、分かった」

 

それだけを言うと、フランとマリアはそのまままた薔薇園探検に行き、狼もまたそれを追っていった。

 

「……さて、私達は其処で話そうか」

 

くおんがそう言って向かうのは、石造りの東屋。

 

今日の咲夜の目的は、過去を知らない最後の一人であるくおんの『過去』を聞くことである。

 

咲夜と光冥はその東屋にある石造りの椅子に座ると、くおんがローズティーを入れ、それを差し出してきた。

 

「折角来たんだ。おもてなしだ」

 

「そう。有難う、頂くわ」

 

咲夜はその紅茶を一口飲むと、少しだけ体の力が抜けた。

 

「……美味しいわね」

 

「ここの薔薇を使ったからな。これで美味しくないって言ったら、その薔薇に申し訳が立たない」

 

くおんはそう言いながら紅茶を一口飲むと、その顔に少し笑みを浮かばせた。

 

しかし、直ぐに笑みを消して、咲夜と光冥の目を真っ直ぐに見つめる。

 

「……さて、過去話だったな。言いにくい過去でもないし、話そうか」

 

そう一言を言うと、また紅茶を一口飲むのだった。

 

***

 

くおんが産まれたのは山だった。

 

その頃は一尾の妖狐として生きていたくおんだったが、時が経てば力は強くなり、尻尾の数も増える。

 

そうして三尾になった時、くおんは山に囲まれた村へと降り立った。

 

……しかし、その村でくおんは迫害を受けた。

 

『妖怪』だからという理由ではない。『狐』だからだ。

 

その村ではとても特殊な言い伝えあった。

 

『猫』は死を招き入れ、『狐』は地獄へと連れて行く死神の遣い。

 

その村ではそんな言い伝えがされていたのだ。

 

だからこそ、『狐』と『猫』と言うだけでその村で迫害を受ける。例え、人に対して無害でも、村へと降りれば石を投げられ、物を投げられ、人から逃げられ、畏れられていた。

 

その村でそんな言い伝えがされた理由は、その昔、その村である妖狐が『力』を手に入れるために人を殺し、その魂を食べていたのが始まりである。

 

猫はその狐の使いで、狙う獲物を決め、その狐を招き入れた。

 

それが、恐れられるようになった始まりの原因。

 

しかし、それをくおんが知る由も無く、『妖怪』だから迫害を受けたと思い込み、それ以降から村へと降りる事はなくなり、移住地も変え、最終的にはマリアの家で住むようになった。

 

その頃には朱鳥もマリアの家に居り、マリアの家は賑やかな家となっていた。

 

***

 

その話を終えると、くおんは紅茶のお代わりを自分のカップに入れた。

 

「……くおんは、その思い込みが間違いだったって、どうやって知ったのですか?」

 

くおんは光冥のその質問に対して、簡単に答えた。

 

「レティシア様からだ。能力で私の過去を知り、調べてきてくれたんだ。結果、本当の理由を知れたから良かったよ」

 

「……それは良かったと言えるの?理不尽と言うのよ、それは」

 

「……理不尽、ね」

 

くおんはカップの側面を撫でながらそう呟く。

 

「……その村は閉鎖的で外の情報は入りにくい。いや、そもそも入っていなかったのかもしれない。まあ、どんな理由であれ、言い伝えが理由なら、どうしようもない。私が『人』ならしていたかもしれないが、妖狐である私の意見を聞くとは思えない。その村でも狐が化かすのは普通に知ってたしな。

それに、そもそもその頃の私は『妖怪だから迫害された』と思い込んでいたんだ。そんな事情があるなんて思ってもいなかったんだ。何かを言えるわけもない」

 

「……それを訂正してくれる様な存在はいなかったの?」

 

「いなかった。そもそも、そんな事を知りたいというもの好きな妖怪はそういないだろう」

 

「……そうね」

 

咲夜はもう起こった事を変えられない。その思い込みを訂正してくれる存在がいなかったのなら、どうしようもない。

 

そう頭の中で納得すると、息を一つ吐いた。

 

「さて、過去話も終わったし……咲夜、ちょっと頼みたいんだが」

 

「?何かしら?」

 

「ローズティーを作ってくれないか?咲夜が作る紅茶を飲んでみたいんだ」

 

くおんはそう言ってティーポットの中身を見せると、その中には既にローズティーが無くなっていた。

 

それに少し笑みを浮かばせると、咲夜はローズティーを入れに立ち上がったのだった。

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