季節が夏へと変わったこの日、魔理沙は拝殿の中で探し物をしていた。
外では葵が幸多と掃除をし、それを近くから鬼灯が見ており、賽銭箱の前には光の三妖精がいるのにも気付いていたが、それでも探し物を止める様子がない。
すると、霊夢が葵と話す声が聞こてきた。
「あら、葵。いつも有難う」
「いえ、仕事ですから」
「あ、そうだ。ねえ?歩が今どうしてるとか、聞いて無い?」
「歩さんですか?……そういえば、この前、鈴仙さんから雷羅さんと戦って歩さんが勝ったという話を聞きましたよ?」
「あ、そうなの?順調みたいね」
「そうみたいですね……」
其処で話が途切れると、今度は三妖精と話す声が魔理沙の耳に入ってきた。
「妖精が参拝なんて、どういう風の吹き回しかしら」
「神社で祈ればなんでも願いが叶うって聞いて」
「涼しい夜が欲しい」
「涼しい昼が欲しい」
「あ、あはは……」
三人の妖精の答えに葵が苦笑した声が聞こえてきた。
そんな三妖精に霊夢と鬼灯が溜息を吐くと、鬼灯が話しだした。
「神様はそんな無尽蔵に願いを叶えないぞ。同じ神様である私からの言葉だ。あと、ここに神様は宿っていない」
「一言余計よ。でも、鬼灯の言う通り、ただ祈ってるだけで願いが叶うなんて、そんな虫のいい話があるわけ無いし」
鬼灯の言葉に続いて霊夢が言うと、三人はお互いに顔を見合わせた。
そして、蝉の声が鳴いている中、代表して金髪縦ロールで帽子を被った妖精『ルナチャイルド』が質問した。
「そういえば、その箱って何か意味があるのですか?」
これには幸多と魔理沙以外の三人がまるで芸人の様に転けた。
「え、えっとですね?その箱は神様とお話しするための大切なものなんです」
「え?狐さんも神様だよ?」
「確かに日常会話程度なら話す事もするが、大事な話に関しては賽銭箱に賽銭を入れないと聞かないさ」
「そうなんだ〜」
幸多がそれに納得していると、今度はルナの隣にいた『サニーミルク』が質問した。
「神様って、神社に住んでいるんですよね?」
「一応そうね。あんた達には見えないだろうけど」
「あの、見えてますよ?」
「鬼灯は姿を見せてんのよ」
其処で魔理沙は探し物を止め、扉を開けて出様とすると、三妖精が気づき、警戒心を剥き出しにした。
そんな三妖精の様子に気付き、霊夢、葵、鬼灯、幸多が拝殿の方に顔を向ける。
そんな様子を全く気にせず、魔理沙は扉を開けて、元気に挨拶をした。
「よっ!」
そんな魔理沙に、霊夢、葵、鬼灯が再度ズッコケたのは言うまでも無い。
***
その日の夜、魔理沙は集めれるだけのメンバーを博麗神社に集め、肝試しに参加する人達を眺める。
「さて、こんなもんか?暇な奴は」
「こんなもんだろ、暇な奴は」
魔理沙の問いに雪華が楽しそうな顔で答えると、妖夢が周りの全員の様子に気付き、疑問の声を上げる。
「?皆さん、その荷物は……?」
「肝試しやるんだろ?」
「よね?」
「ええ、そう聞いたのですが……もしかして、皆んなお化け役をやるつもりですか?」
それに対して笑顔で返す魔理沙。
「ああ、肝試しと言ったら脅かす側だろ?」
そんな魔理沙に冷静に指摘するのは夢幸。
「魔理沙、全員が脅かす側だったら、誰が驚かされる側になるんだ?」
その指摘を受けて、もう一度周りを見てから唸るように考えると、ある名案を思い付いた。
「お前がいるじゃん々
その答えに嫌そうな顔をする妖夢。
「やっぱりそうですか。そんな気もしてたんですよー」
「大丈夫だって!永久も一緒でいいから!」
「あの、私も良いですか?」
魔理沙と妖夢の会話に葵が手を上げながら提案すると、魔理沙は頷くが、心配そうな顔をする。
「だけど、大丈夫なのか?此処はまだ月明かりがあって明るいが、中に入ると真っ暗闇だぞ?」
「……」
葵はそれを聞いてビクリと震えると、其処に幸多が葵の手を取った。
「大丈夫だよ!お姉ちゃん!僕もついてるから!」
「幸多君……うん、そうだね。有難う」
幸多の言葉に勇気をもらった葵は幸多の頭を撫でると、幸多は嬉しそうに笑う。
「というか、よく幸多の親が許してくれたな?」
魔理沙が葵にそう言うと、葵は苦笑いで答える。
「いえ、実は結構反対されてたみたいで、私も危ないからと参加反対してたんですが……幸多君が泣きながら頼み込んでいて……」
「親が折れたか」
「そういうことです。私は幸多君の警護役です」
夢幸の言葉に葵は頷く。
それに納得すると、早速魔理沙は肝試しの最終準備を始めるために、全員に声を掛けたのだった。
***
全員が博麗神社からいなくなってから数分後、妖夢達は指定されたルートを歩き始めた。
「……」
「大丈夫?お姉ちゃん。怖い?」
「う、うん、大丈夫だよ、幸多君」
幸多が心配そうに葵を心配すると、葵はそれに作り笑いで返す。
実際は確かに怖がっている。この暗闇に。
月は雲隠れしており、光も無い状態。幸多の手の温度が無ければ泣き叫んでいただろう。
「ま、まあ、たかが肝試し。怖いことなんてないわよね」
そんな葵達の前で、妖夢が震える声で強がっており、永久はそんな妖夢を心配そうに見ている。
「……妖夢、大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ。それに、いざとなればこの楼観剣で……」
「それは流石にやめろ」
永久が注意するその瞬間、
「うらめしや〜」
恐ろしい声が聞こえた。
「ひゃ!」
その声で思わず妖夢は剣を落とし、葵は誰がその声を発したのか見当がついたのか、様子を見守ることにした。
その声の主は木からゆっくりと現れ始める。
「永らく生きてうらめしや……」
「死してなおうらめしい……」
「「いざ覚悟!」」
そんな風に脅かして現れたのは、お化け姿の霊夢と落ち武者の格好をした歩。
それを見た妖夢は大声で叫び、幸多は好奇心旺盛に歩の頭に刺さっていた剣を触っていた。
「あはは!落ち武者なのに矢じゃないー!変なのー!」
「あ、おい、触るなって……っていうか、幸多、怖くないのか?」
「怖くないよ!歩お兄ちゃん!」
「そ、そうか……」
幸多にあっさりと正体を見破られ、軽くショックを受ける歩を放ったらかし、葵は幸多を連れて妖夢達の後を追って行った。
すると、今度は泣き叫びながら魔女姿の魔理沙と人魂から逃げている妖夢が見えた。
その辺りは如何してか、霧となっていた。
「魔理沙が脅かしてるってことは……」
「……この人魂と霧は夢幸だ」
葵と永久が冷静に見ている間、幸多は魔理沙から帽子を奪って追いかけられていた。
***
冷静になれない妖夢を連れて次に進むと、如何してか永久が刀の柄に手を掛けた。
「?永久さん?」
葵の声を聞かずにその状態でいると、急に出てきたのは悪霊姿の光冥。
「うらめしや〜!」
「キャァァァァ!」
妖夢がまた泣きながら叫ぶと、光冥はそのまま妖夢を襲わず、永久を襲おうとしていた。
それに思わず驚く葵だが、そのまま二人は自身の獲物で受け止めあっていた。
「どうですか?腰が抜けるぐらい怖がってくれました?」
「お前に怖がるなんて、そんな日が来るわけないだろ?女顔」
「あっはっは、良いでしょう。望み通り、切り刻んであげましょう!」
「やれるものならやってみろ!」
永久と光冥はそう言うと、ナイフと剣で遂に戦い始めてしまった。
そんな騒ぎに咲夜も気付き、草陰からミイラ男ならぬミイラ女状態で出てきた。
「光冥!やめて!」
そんな咲夜の姿を見て、怖がりの妖夢が叫ばないわけもなく、大きな声で叫んでいた。
「お二人とも!やめて下さい!」
「お姉ちゃん……」
葵は止めるように叫び、幸多は怖がってそんな葵の服の裾を震える小さな手で強く握りしめている。
しかし、そんなのは今の二人に見えるはずもなく、戦闘は止まらなかった。
それに流石に葵も体が震え始め……。
「……良い加減に……してください!」
葵は怒りの声で叫ぶと、二人を結界の中に閉じ込める。
その二人は結界を壊そうとするが、そんな二人の頭に拳骨を入れる人物が一人。
最初ら変で妖夢達を脅かした歩である。
「お前ら!良い加減にしろ!」
「そうですよ!子供の前で見っともない喧嘩しないでください!それとも何ですか?子供を泣かせる趣味でもあるのですか!?」
歩と葵が説教をするが、歩の拳骨の威力が強かったのか、光冥は気絶していた。
しかし、永久はその説教を受けて幸多を見ると、幸多はビクリと震え、葵の後ろに震えながら隠れた。
そんな所に現れたのは二人。
吸血鬼の姿をした絶月と、化け猫姿の朱鳥である。
騒ぎに気付き、やって来てみれば光冥と永久が揃っており、何があったのかを察すると、絶月は光冥の襟首を掴んで黙って引きずって行った。
朱鳥は震える幸多の姿を見付けると、優しく幸多の頭を撫でてからその後を追って行った。
歩もそれを見てから去って行き、肝試しはそのまま再開となった。
***
肝試しを再開した妖夢達だったが、その妖夢が限界となり、降参という形で肝試しを終えることとなった。
最後に妖夢が見たお化けは、ゾンビ姿の必と死神姿の桔梗で、二人の驚かしで限界となった妖夢は全速力で博麗神社へと戻って来て終わった。
その降参であると聞き付けると、お化け役の全員が現れ、魔理沙から「良いものがある」と言われ全員が着替え終わり、皆んなでワイワイしていると、其処に妖精三人組が現れた。
「出た!」
三人の妖精は焦った様子で現れるが、魔理沙は全く気にせずにお酒を飲みながら喋り出す。
「あ、すまんすまん。もう肝試しは終わってたんだ。お前らが隠れていたのか知らなかったもんでな。悪い悪い」
「魔理沙、悪いと思ってませんよね?」
葵がジト目で魔理沙を見るが、それに気付かない魔理沙と妖精。
妖精三人の一人のルナが、焦ったような声で話し出した。
「そ、それより、出たんです!大量に!」
「で、出たって……何がです?」
妖夢が震えながら問い返すと、青ざめた顔で答えた妖精三人組。
「大量の幽霊が!」
その後の妖精の説明を簡単に言うと、妖夢を驚かすために隠れていると、雲隠れしていた
月が現れると同時に柳の下にあった石が光、その石を動かしてみると、その下から幽霊の大群が現れたのだという。
それに少しだけ眉を顰める咲夜。
「幽霊って言ったって、こっちも幽霊ですけどね」
「半分幽霊が四人いるけどね〜」
「でも、神社の近くで幽霊?」
雪華と織姫がそう話す横で、霊夢と歩が何かに気付いた顔をする。
「柳の下の石って、人里に向かう道の途中のよね?」
「ああ。俺も旅してるから何度も見てるし、それは間違いないだろ」
すると、幽々子が楽しそうな顔で幽霊らしい雰囲気を出しながら会話に混ざる。
「うふふ、幽霊が集まる石なんて決まってるわ。お墓でしょ?素敵なお・は・か」
それを聞いて霊夢も、歩も、そして葵までも首を傾げる。
普通は神社の近くに墓地は置かないのだ。
しかし、魔理沙は何かに気付いたのか、その三人妖精に質問した。
「ん?柳の木の下の墓石だって?お前ら、その石を蹴飛ばしてきたのか?」
「あ、はい」
「……何か知ってるのか?魔理沙」
ルカが聞くと、魔理沙はあっけらかんと答える。
「いや、その墓石は私が持ってきたものだ」
その言葉に、霊夢と葵が「え?」と驚いたような声を上げる。
それを気にせずに、魔理沙は説明を始めた。
「いやな?此処に来る前、幽霊が集まる墓石があったんでね。こりゃ都合がいいと思って神社の近くに置いたんだ」
「……罰当たりが」
魔理沙の説明を聞いて、鬼灯がそう小さく呟く。
普通は墓石を動かすなんて、恐ろしくて出来るものではない。
「『都合がいい』って何よ」
霊夢は魔理沙に質問すると、魔理沙は笑みを浮かべて答えた。
「いや、この後出すつもりだったんだがな。幽霊の冷たさを使って西瓜を冷やしていたんだよ。皆んなで食べようと思って……」
それを聞いて、皆んなが嬉しそうな顔をした。
「幽霊が集まる石の下を埋めておいたんだ。きっと冷えると思ってな」
「幽霊の有効活用ね」
「それを許していいのか……幽々子」
友人である幽々子の楽観さに、鬼灯は肩を項垂れた。
その後、肝試し参加者で西瓜を掘り出し、冷たい西瓜を幽霊が集まっている柳の下で食べたのだった。