鬼灯は愛刀『小狐丸』を構え、相手を見据えていると、相手の方から襲い掛かってきた。
そのキョンシーは弾幕を適当に打ちながら飛び掛かり、鬼灯を殴ろうとする。
といっても、関節が曲がらないようで、腕を伸ばしたままの威力が無さそうなぱんちだが、弾幕はそんななんの計算もされずに撃たれたようで、鬼灯は最小限の動きで裁き、キョンシーからの攻撃も右に避けるとそのまま右足を軸にして一度周り、左足で腹部にカウンターを入れる。
その威力は誰が見ても手を抜いていると分かる。
鬼灯が手を抜く理由として、単純に相手の力量を図るため、最初だけそうする事が多い。
初見の相手には特にそうしており、それでどれだけの実力があるのかをある程度予測するのである。
その蹴られたキョンシーはそのまま2、30m程飛ばされると、地面に勢いよくダイブした。
が、直ぐに其処から立ち直り、また同じ方法で襲い掛かってきた。
(キョンシーだから考える脳が無いのか?)
鬼灯はそんな風に考えながらもキョンシーが何かしてこないか観察していると、そのキョンシーが口を開けて近づいて来た。
「ッ!?」
鬼灯はその攻撃の意味を直ぐに理解し、素早くジャンプし避けると、其処を狙ったかのようにスペルを宣言するキョンシー。
「毒爪『ポイズンマーダー』!」
その墓場に紫と青のクナイ型の弾幕が、まるで爪で引っ掻かれた傷跡の様な軌道で撃たれ始める。
それを飛んでいる鬼灯は避けられない、なんて事は無い。
「……私が飛べないと思ったら大違いだ」
鬼灯はそのまま飛び始め、弾幕の隙間を掻い潜り、時間一杯まで避け続けた。
その後、キョンシーのスペルが終わると同時に今度は鬼灯がスペルを宣言する。
「災害『豊穣神の怒り』!」
すると、今度は葉の形をした緑の弾幕が周りに飛ばされた。
それはキョンシーを狙う物と適当に撃たれた弾幕に分かれて飛び交うが、しかしキョンシーはそれを避けずに突進してきた。
といっても、関節が曲がらないので両足ジャンプのような感じで突進していてる。
「おい、弾幕ごっこの意味を考えろ……」
鬼灯はそう言うが相手には関係ないようで突進は止まらない。
しかし、次には大量の葉の弾幕に被弾する事となる。
この葉の弾幕はホーミング性能がついており、しかも地面や墓石などの物体に当たれば三つに分裂している。
よく見ればその三つのうちの一つには追尾性能まで付いているのが分かる。
「……あのスペル、やっぱり鬼畜だろ」
「弾幕の量も多いからね……確か、この前何個って言ってましたっけ?想起さん」
「えっと……ごめん、覚えてないや。でも、結構沢山あるって言ってたのは覚えてるよ」
「量の問題はやっぱり改善すべきだろ。三回分裂したら一個減るからって……本当に彼奴は神か?」
「ま、まあまあ……」
神無月組はそんな会話をしていながらも弾幕ごっこを見ていた。
因みに、この弾幕を見て霊夢が独り言のように呟いた一言がある。
「こんなの、『夢想天生』使ったら終わるじゃない」
この一言にツッコミを入れる者は、残念ながらいなかった。
そのスペルも少しすると時間となり、弾幕そのものが消えた。
「ふむ、やっぱりキョンシーというのは身体が丈夫なんだな……」
鬼灯は砂煙りが晴れた所に立っているキョンシーを見て言うが、相手は既にフラフラしており、真面に話せそうにない。
元から真面には話せないが。
キョンシーは鬼灯の話など耳に入らない様で、一つのカードを取り出すと、宣言した。
「回復『ビールバイデザイア』」
「「!?」」
そのスペルを聞き、驚きの表情を浮かべるのはルカと想起。
それもそうだろう。葵と人生経験豊富な鬼灯は兎も角、この二人は葵以外に回復出来るスペル持ちがいるなど、予想出来ていなかったのだから。
そして、鬼灯は密かに目を細めた。
相手のキョンシーは自分の左右に幽霊を発生させ、青と赤の丸弾を撃ちながら『神霊』を食べているのだ。
別にそれに対して怒っているのではないが、鬼灯は少し疑問に思うことがあった。
そして、それは後ろの想起以外の全員が感じたことでもある。
「……おかしい」
「……そうだな。おかしい」
「え、何が?」
全員思っている疑問を想起は分かっていないので、ミコトが説明をする役目を請け負った。
「相手はキョンシーだ。そのキョンシーは何方かというと『神』とは真逆の位置にいる妖怪だ。それが例え『神霊』でも、食べたなら普通は何かしらの障害か何か出るはずなんだが……それがない」
「え……み、見える範囲以外に出てるんじゃ……」
「いや、『命』からも痛みを感じてる様子は見られない。となると、本当になんの障害も出ていないことになる」
「……もしかして、それが相手の能力?」
「そういうことになるだろうな」
その会話の間にも鬼灯は弾幕を避けていたが、その間ずっとキョンシーは回復をし続けていた。
(……さて、どうしたものか)
鬼灯は今の状況に困っていた。勿論、表情にはおくびにも出していない。
(別にこの状況をなんとかするスペルは一つある……が、もう美しさの欠片もないスペルなんだがな……)
鬼灯が使うかどうか迷っている間にもキョンシーは回復をし続ける。
それを見て、鬼灯は決断した。
「……回復され続けるのは厄介だ。だから、強制的に止めてもらう」
そうキョンシーに向かって言うと、あるスペルを宣言した。
「吸引『ブラックホール』」
すると、鬼灯の横に少し小さめな黒い入り口が出来た。
その入り口を見て少し傾げたキョンシーだったが、その周りにいた『神霊』達がその黒い入り口に吸い込まれ始め、自身も吸い込まれそうになる状態になると驚愕の表情へと変わった。
「悪いな。お前の能力とスペルの併用と同じで、これは私の能力とスペルの併用だ。……もっとも、お前との違いは、このスペルには『美しさ』が欠片もないことだが」
鬼灯はキョンシーを油断なく見据えながらそんな説明をするが、しかしそれはキョンシーに届いておらず、キョンシーの周りの神霊は全て黒い入り口へと吸い込まれてしまった。
そのままキョンシーと鬼灯のスペルはブレイクされ、その場には荒れに荒れてしまった墓石と地面、そして霊夢達とキョンシーだけとなった。
「さて、もう終わらせるとするか」
鬼灯はそう宣言すると、一度剣を収め、宣言した。
「災害『自然の反逆』」
すると、まず辺りが揺れ始め、全員が立つことが難しくなると飛んで地震から逃げた。
それはキョンシーも同じだが、しかしそれは地面から生え、急成長した木々に絡まれ、大木となった時にはその大木に捕まってしまった。
そして、其処からどんどんと力を吸収されていき、キョンシーはそのまま動かなくなってしまった。
鬼灯はそれを見るもスペルを止め、キョンシーを解放した。
***
弾幕ごっこの後、葵とミコトはキョンシーを治そうと直ぐに近づき始めたが、それを鬼灯が止めていた。
「どうして止めるの!?鬼灯!」
「簡単なことだ。お前やミコトが治さなくとも、別の奴が治してくれるからだ」
「別の人?」
葵と鬼灯の会話を聞いていた想起が首を傾げると、その説明を鬼灯に変わって始める夢幸。
「お前はあの『キョンシー』が自分の『力』だけで蘇ったと思っているのか?」
「……あ」
「ふん、遅すぎる理解だな」
その会話をしている間に永久と妖夢も鬼灯の手伝いをしていた。
「……そういう事だ。それは、お前達も分かっていることだろ」
永久の一言に反論出来ない二人。
確かに、二人とも理解は出来ている。しかし、『理解』はしていても、『優しさ』の塊の二人は『回復しない』という選択肢はそもそも無かった。
そんな会話をしている間に、後ろから別の二人分の足音が聞こえ始めた。
それが全員の耳に入り、鬼灯達の背後を見てみると、葵と同じ髪色の違う髪型、そしてその髪には簪がわりの鑿が挿してあり、服装も葵と同じように水色が特徴となっている半袖ワンピースを着ている青目の女性がいた。
その後ろからは黒色が特徴的な男がやって来た。
「あら〜。この子、負けちゃったのね〜」
青の女性は笑みを少し浮かべると、そのキョンシーの身体に触れた。
すると、そのキョンシーは直ぐに立ち上がり、元気になった姿をその場の全員に見せた。
「……やっぱり、操る奴がいたんだな」
「うわぁ……面倒」
「霊夢、雪華みたいになってるぞ」
後ろで、魔理沙、霊夢、歩がそんな会話をしていたが、しかしその会話は直ぐに止められる。
その青の女性から溢れ出した怒気によって。
「貴方達がこの子をいじめた人達ね……その事に関して私はとても怒ってるのよ〜」
青の女性はニコニコ笑顔で霊夢達の前に一歩出ると、可愛らしく首を傾げて続ける。
「そういうことだから〜、私の怨みを晴らす為に、付き合ってもらうわよ〜?」
「……上等よ」
霊夢もまた好戦的な笑みを浮かべると、青い女性の前に出た。
「いいわ。私と葵が相手してあげる。そっちもどうせ二人でするんでしょ?」
霊夢はそう言って女と男を見るが、男の方は
首を振った。
「……いや、私は弾幕ごっこは今回参加しない。君達の相手は『青ちゃん』達だよ」
「あ、この二人ね。分かったわ……そういうことだから、葵」
「うん、分かった」
葵は霊夢の言葉に頷き、一歩後ろに移動しようとしたが、その肩をミコトが掴んで止めた。
「?ミコトさん?どうしました?」
「いや、弾幕ごっこの前に、一言、激励をな。……頑張れ、葵。俺はお前がどう戦うのか、楽しみにしてる」
ミコトのその言葉に葵は少し目を見開くと、直ぐに嬉しそうな笑顔に変わった。
「……はい!楽しみにしててください!」
そう言って今度こそ移動しようとしたところを今度は魔理沙に捕まり、何かを耳元で囁かれると頬を赤らめた。
「え!?い、いやいや!だ、だって、それはミコトさんに迷惑……」
「良いから言ってみろよ〜。案外、嬉しがるかもだぜ?」
「う〜……」
其処で頭を抱え出す葵とニヤニヤ顏の魔理沙を首を傾げている状態で見るミコト。
そのミコトをチラッと見て、また恥ずかしがる様子を見せる葵。
その後ろから遂に霊夢が現れ、その葵を強引に立ち上がらせ、背中を押した。
「ほら、言うならさっさと言う。さっさと弾幕ごっこを始めて早く終わらせたいのよ」
「……わ、分かりました」
葵は霊夢と魔理沙にそう言うと、ミコトに近づく。
そのミコトはやはり話がみえていなかったようで首を傾げているが、葵はそれを気にせずに喋り始める。
「そ、その、い、嫌なら、後で言ってください……取り敢えず、これだけ。
……が、頑張るから、見ててね?ミコト『お兄ちゃん』」
「……!」
その言葉を聞いてミコトは少し固まる。
その間に葵はミコトから離れて霊夢の隣に移動し、弾幕ごっこを始める体制を取る。
「……よかったね、ミコト。『お兄ちゃん』って呼ばれて」
「どうだ?『妹』が出来た感想は」
「私からのサプライズだぜ?どうだ?嬉しかったか?」
固まっているミコトに想起、歩、魔理沙が近寄りそう感想を聞いてきた。
「……ああ、うん」
ミコトは感想を濁したが、その本当の感情は嬉しそうな表情から察することが出来た。
このタイミングで呼ばせた理由は、まあ神霊廟最後でも良かったのですが、それだと葵さんのやる気を倍にすることが難しそうだったので……。
それでは!さようなら〜!