妖夢、永久と布都、屠自古の弾幕ごっこは均衡していた。
お互いがお互いの弾幕に当てては撃ち落とし、撃ち落とせなかった弾幕には剣でぶった斬ったり、避けたりをしていた。
それを繰り返していると、まず最初にスペルを宣言したのは妖夢だった。
「幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』!」
その宣言後、妖夢が右に移動しながら斬撃を飛ばし、その剣閃から楔の弾幕を放射状に撃ち出し、攻撃する。
それを布都も屠自古も簡単そうに避けた。
布都に関してはスペルが終わると笑顔でピースをしながらアピールまでした。
「なんでしょう?無性にムカつきます」
「……煽られてるな」
妖夢が剣を握る力を強くし、永久は冷静に答えた。
その布都事態には煽ったつもりは無かったようで、首を傾げていた。
「む?お主、どうして怒っておるのだ?」
「いえ……気にしなくて良いですよ。とにかく、続けましょう」
「そ、そうじゃの。それじゃあ、次は我だ!天符『雨の磐船』!」
すると、何処から来たのか船が現れ、その船の上に乗ると、そこから白と黄色の小さな弾幕を飛ばし始めた。
それはとてもとても避けやすく、永久と妖夢は余裕を持って避ける。
そのスペルが終わり、布都が船から降りるとほぼ同時に、永久がスペルを宣言する。
「蒼燕『車軸の雨』」
刀を構え、刃を伸ばし、正面へと突く。
その正面にいたのは……布都。
「!?ぎゃっ!」
そのまま布都は壁に激突するまで刃を伸ばされ、壁に激突すると、そのまま気絶した。
「布都!……このっ!」
屠自古は布都がやられたのを見て自分のスペルも宣言した。
「雷矢『ガゴウジサイクロン』!」
その宣言後、自分を中心に雷の矢を作ると、落雷の様な形で妖夢達を襲う。
「きゃぁぁあ!」
……が、被害が一番大きかったのは妖夢でも永久でもなく、外野の葵だった。
「……葵、大丈夫か?」
ミコトは急に叫んで耳と目を塞いで蹲る葵に心配そうな顔をしながら聞く。。
その命からも感じ取ることが出来る恐怖に怖がっているのだと分かったからだ。
「うぅ……ぐすっ……ぅぅ……」
「……」
葵はミコトの声が聞こえてはいるが、やはり怖いのか泣き止まず、蹲ったまま泣いている。
その葵の状態を見て、ミコトは優しく抱き締め、頭を撫でる。
(あら……霖之助が見たら焼くわね……)
そんな光景を冷静に見ていた霊夢がそんな事を考えている間に屠自古のスペルは終わっており、今度は能力で妖夢達に雷を落とそうとしていた。
それを妖夢は冷静な目で見て、剣を構え、目を瞑る。
思い返すのは、鬼灯との修行の事ーーー。
***
数年前……永久とまだ会ってなかった頃の事。
「妖夢……お前はどうして剣を握る?」
「……え?」
妖夢が剣の素振りをしている時、鬼灯はそんな事を聞いた。
それに少しだけキョトンとしたが、妖夢はそれに答える。
「それは……強く、なりたいからです」
「どうして強くなりたい?」
「どうして……」
「剣や刀は、所詮は人斬りの道具……命を傷付ける道具だ。それは、お前が今持っている迷いを斬る剣とて同じ事……どうしてだ?」
「……鬼灯様はどうして、ですか?」
妖夢がそう聞くと、鬼灯は空を見上げて答える。
「……私も同様に、強くなりたいからだな。弱いままでは、護りたいものも守れない」
「……人斬りの道具なのに……ですか?」
「……妖夢。一つ課題を出そうか。期限はそうだな……私かお前が消えるまで」
鬼灯はそう言うと、小狐丸を向けた。
「妖夢……どうして、私が守りたいにも関わらず剣を使うか……所詮は人斬りの道具なのに、どうして強くなりたいのか。どうしてなのか……私とお前の違いを、考えてみろ」
鬼灯はそのまま空を見上げる。
その空は曇天で、雷の音までし始めていた。
そして、少し光ると、そのまま雷が落ちる。
妖夢は思わず目を細めるが、鬼灯は刀を構えると、その雷を真っ二つにした。
「!?」
それに驚いた妖夢がその場に固まっていると、鬼灯はその目を見つめながら言う。
「……お前は何処か私に似ている……だから、いつか分かるだろう。なぜ、人斬りの道具なのにも関わらず、私がこれを使い続けるのかをーーー」
***
(……何と無くですが、分かった気がします)
妖夢は目を少し開けると、剣を握る自分の手が見えた。
(貴女が剣を握り、戦う理由。どうして剣なのか……)
次に天を見れば雷が生成され始めていた。
(所詮は人斬りの道具。しかし、誰かを守るには、誰かを傷付けるしかない)
妖夢は息を一つ吐くと、肩の力を抜いた。
(私には……そんな覚悟は無かった。どこか、甘えていたんだ……この弾幕ごっこが制定されてから。……鬼灯様がいたから)
妖夢は刀を振り上げる。それと同時に雷も落ちる。
そのスピードは、しかし妖夢からはゆっくりに見えた。
(誰かを守る為には誰かを傷つける……その覚悟を決めなくては……幽々子様を、永久を、大切な人達を……守る為にも!)
「やぁぁぁあ!」
妖夢が剣を振り下ろすと、その雷は真っ二つにぶった斬られた。
「な!?無茶苦茶な!」
屠自古が妖夢の無茶苦茶な行動に驚いている間に妖夢は剣を構え、スペルを宣言する。
「奥義『西行春風斬』!」
そのスペル宣言後、その場から高速で屠自古の元へと走ると、そのまま通り抜けた。
そのすれ違いざまに屠自古に斬撃を浴びせる。
それを二往復すると、屠自古は倒れた。
が、まだ起き上がる様子を見ると、妖夢はその近くまで歩き、首元に剣を当てる。
「動くな。この剣は迷いを斬る剣……例え尸解仙だろうと、亡霊であるのならそのまま成仏してしまうかもしれませんが……どうします?」
屠自古はその妖夢の目を見て、本気であると理解すると、降参したのだった。
***
葵復活後、直ぐに布都の治療をし始めたので、一行はその間に休憩を取ることとなった。
「しかし……妖夢、お前、遂に雷を斬れるようになったか」
「はい……それで、鬼灯様」
「ん?なんだ?」
妖夢は鬼灯を真剣な顔で見つめると、鬼灯もまたその顔を真剣な目で見た。
「……随分前に、貴女から出された課題。分かりました……私には足りなかったのです。覚悟が」
「……」
「刀は所詮は人斬りの道具。それを使って誰かを守るのならば、誰かを傷付けるしかない。……私は何処かで甘えがありました。しかし……それが分かっても、守る人がいます。守りたい人がいます……だから、今後は覚悟を持ちます。誰かを傷つけてしまう覚悟を」
「……その事で、その誰かから恨みを持たれる事もあるのだぞ?」
「分かっています……それらを全て、ちゃんと頭に入れた上で、今後も剣を握っていきます。……今後も、お願いいたします。師匠」
「……分かった」
鬼灯はそれだけ言うと、葵の近くに移動した。
(刀は所詮は人斬り道具……それで誰かを守るなら……その覚悟は必ずいるんだ。そして……誰かを殺してしまう覚悟も、な)
鬼灯は頭の中でそう考えながらも葵の様子を近くから見ていた。
……が、其処で誰かの殺気を感じ、周りを見渡し始める。
他の全員もまた周りを見渡していると、鬼灯が人の姿に変わり、小狐丸を出し、布都の前で構えた。
すると、その剣に同じく剣が当たり、その場に音が鳴り響いた。
「……貴様、何者だ?」
その問いの答えを言おうとした男は、しかしその場を飛んで離れた。
その男がいた場所には氷柱が飛ばされたので、ルカからのその攻撃に気付いた男が飛んで避けたようだ。
「……儂は『大伴 富彦』。物部家に復讐をする者ぜよ」
「復讐……な」
其処で鬼灯は同じく復讐を誓っているルカを見ると、ルカは頷いた。
それで確かであると理解すると、鬼灯は刀を富彦に向けた。
「……悪いが、それはさせてやれない。何時もならやるなら勝手にしろと言いたいところだが、生憎と葵がいるのでな……やらせるわけにはいかない」
鬼灯は其処まで言い、富彦と戦おうとしたが、それを想起が手で制した。
「鬼灯……此処は僕にやらせて?」
「……想起。やれるか?」
「……大丈夫。出来る……ソロモン」
「キュルル〜!」
想起は其処で他の人達より一歩前に出ると、富彦と顔を合わせた。
「ごめんけど、相手は鬼灯から僕に変更って事で……この弾幕ごっこに負けたら、素直に復讐を諦めてくれる?」
「……約束は出来んぜよ」
「う〜ん、弾幕ごっこはお互いに遺恨を残さないのが条件なんだけど……」
「ふむ……ならば、儂が勝ったら復讐をさせてもらうぜよ。負けた時にも素直に諦める……つまり、本気で行かせてもらうぜよ」
「うん……僕も、本気で行くよ!」
想起と富彦。二人の男の弾幕ごっこが、始まった。