富彦と想起は互いに獲物を出して構えていた。
想起は模造刀を、富彦は剣から鏡に変えている。
「……ねえ?なんで鏡?」
想起が素朴な疑問を聞くと、富彦は律儀に答えてくれた。
「これが儂の依り代だからぜよ」
「よ、依り代?え?尸解仙って依り代がいるの?」
「そこからか……」
想起の言葉に鬼灯は痛む頭を抑えるように手を置くと、想起に聞こえるように説明する。
「尸解仙というのは、元々人間だったものが仙人になる為に死後、その死体を尸解し、肉体を消滅させ、仙人になったものを指す言葉だ。その際に何か別のものを依り代としなければ、尸解仙にはなれはしない。その男が鏡を使うなら、その男が依り代にしたのは『鏡』ということになる」
「そこの狐の説明通り、儂の依り代は鏡。だからこそ、武器も鏡ということぜよ」
「へ〜……じゃあ、屠自古さん達は?」
想起がつい気になって屠自古に聞くと、屠自古は目をつぶって答える。
「私は壺にしたわ……だけど、このアホの所為で私の壺が割れて、こんな風に亡霊になってしまったわけよ……」
「……御愁傷様、だな」
「まあ、別に良いのよ。人間の体よりもこっちの方が自由が利くしね。あと、このアホは皿よ」
「そ、そうなんだ……(布都さん気絶してるから言いたい放題なのかな?)」
想起は言葉の裏でそんな事を考えていると、相手が弾幕を撃ってきたことに気付き、転がるようにして避けると、立ち上がって膝の砂を払い落とし始めた。
「酷いな〜。不意打ちとか……」
「酷いも何もない。戦は常に不意打ち上等。真正面からくる馬鹿はおらんぜよ」
「あの、これ殺し合いじゃないからね?そこ分かってるよね!?」
「分かっておるから安心するぜよ。儂が殺したいのはそこの物部家の生き残りだけきに、他の犠牲は出したくないぜよ」
「……そっか。だけど、布都さんだって殺らせない。だから、僕は負けない!」
そうして互いに剣と鏡の打ち合い発展し始めると、富彦が一枚目を宣言した。
「呪法『レグリスピア』!」
その宣言後、鏡を想起に向けると、そこから光線が放たれる。
それを難なく回避するが、二度目が直ぐに向かってきた。
「!黒竜符『衝撃』!」
それを見て、想起はソロモンを近くに呼ぶと、その口からレーザーを放たせた。
鏡と竜のレーザーの押し合いは意外にも拮抗し、遂には爆発した。
「ッ!ソロモン!」
ソロモンに指示し、その爆風を退かしてもらおうとした瞬間、またレーザーが飛んできた。
それには反応出来ずに当たりそうになるが、それはソロモンが庇って難を逃れる。
しかし、ソロモンはそれを背中から食らったこともあり、倒れてしまった。
異変を起こした時のような大きさならまだしも、今の小さなサイズのソロモンでは衝撃が大き過ぎたようだ。
「ッ!癒符『想祈』」
想祈はそのスペルを宣言すると、まるで祈るように手を組むと、ソロモンの体が優しげな若葉色に包まれた。
すると、ソロモンの体から傷がなくなっていく。
葵と同じ、治癒のスペルである。
「……彼奴も、葵と同じような事が出来たのか」
「まあ、あの一枚だけらしいがな」
鬼灯は想起の戦いを見ながらルカの言葉に返すと、ルカは「……そうか」とだけ言って顔を戻す。
ソロモン復活後、想起と富彦は弾幕の撃ち合いに発展していた。
それを鬼灯は少しの間見ていたが、途中からルカに問い掛けた。
「……お前は、あの富彦という男を見て、どう思う?」
「……どうしてそれを聞く?」
「お前と同じ、復讐が全てとなった夜叉だからだ」
「……」
ルカはそれを聞くと、少しの間、目を瞑る。
そして振り返る。
今までの憎き相手を。
この前、幻想郷まで追いかけてきたヴァンパイアハンターの復讐シスターを。
そこでルカは、強く歯を噛み締めた。
そこから『ギリッ』と音が出る程に強く。
その所為で周りが冷気に包まれ、ルカの足元は凍り、今日は三日月で血の力的には人間の方が強い筈なのに、どうしてか口から吸血鬼の牙まで出る始末。
思い返しただけでこの状態、夜叉と呼ばれても仕方ない。
「……正直、私としては彼奴の復讐がどうなろうが関係ない。こういう事は安易に私が言うべき事でもない」
「……そうか」
鬼灯はそれに納得する様に頷いているのを見ると、後ろに下がった。
その間、ミコトはルカを見続ける。
なぜなら、命からも感じ取ることが出来たからだ。
その、ルカの中にある強い『憎しみ』を……。
(……ルカの過去を、俺は知らない。……だが、どうにか、してやりたい。どうにか、助けてやりたい。じゃないとルカは……)
ー本当に、独りになってしまうー
ミコトはそう考えるが、ミコトに出来ることはあまりにも少なすぎる。
そして、ルカも葵程には信用していない。何が出来ると言うのだろうか?
ミコトもそれが分かるからこそ、悲しそうな目でルカを見ると、視線を弾幕ごっこに戻した。
鬼灯達が話している間に状況は変わっており、何やら一面、蟲だらけとなっていた。
これは富彦のスペルの一つである「術式『蟲の毒災』」。
持っている鏡から蟲を出し、その蟲達に攻撃させる術である。
それを回避するために想起は空を飛ぶが、富彦もまた飛び、また剣と鏡の打ち合いとなった。
……が、それは直ぐに決着が付いた。
想起の剣に遂に罅が入ってしまったのだ。
「しまっ!?」
「これで獲物は……0ぜよ!」
富彦はそう言った瞬間、剣がついに折れてしまい、もう一度、鏡を振り上げ、攻撃する。
それは誰もが当たると思ったーーー鬼灯以外は。
その鏡が想起の頭まできた瞬間、別のものに阻まれてしまった。
「!?そ、それは何処から出した!?」
「これ?これは僕の腰にずっとあったよ……まあ、服で隠してたけど……さ!」
想起はその武器で鏡を力を入れて押し返し、左手を握り、富彦の腹に拳を一発入れた。
「ぐふっ!?」
富彦はそれを浴びせられ、そのまま後ずさる。
想起はそれを見て、また構え直す。
しかし、今持っているのは剣ではない為、その武器を使い易いように腰を低くし、逆手に握る。
その、『ダガーナイフ』を。
「さて、どっかのアニメキャラのを模範とした感じだから、構え毛方がこれで合ってるのかは知らないし、鬼灯に聞いてもちゃんとは知らないようだったから、僕は僕のやり方で、これで行かせてもらうよ!」
想起はそう言って一度近付くと、今度は蹴りを入れる。
それを富彦は腕を交差し、防御するが、想起は続けてスペルを宣言する。
「パチュリーから学んだ魔法の一つ、使わせてもらうよ!水符『波紋』!」
そこから想起は水の弾幕を撃ち、下に水が溜まるとそこから波を生み出し、富彦を攻撃する。
それを富彦は避け続けるが、どんどんとその服がびしょ濡れになっていく。
それを見ると、想起は申し訳なさそうな顔をしながら、最後のスペルを宣言する。
「……これで終わらせるよ。雷符『雷鳴』」
すると、頭上から雷の音がし始め、富彦が顔を上にあげた瞬間、蒼い雷が富彦の真上から落ちた。
「ギャァァア!」
勿論、水浸しの所為で雷の通りは良くなっており、例え尸解仙となり体が丈夫になったといえど、これは大ダメージだったようで、富彦はそのまま地面へと落ちてしまった。
想起は富彦の姿を見た後、外野の方に申し訳なさそうな視線を向ける。
その視線の先には、先程の雷の所為で耳を抑え、目を瞑り、涙目となってガタガタと震えて座り込んでいる葵の姿があった。
その隣では、ミコトが葵を慰めている。
「……だから、あんまり使いたくなかったんだけどな〜」
想起はそう一人呟くと、小さく溜息を吐くのだった。