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体育館でのオリエンテーションの後、和紀
たちパイロット候補生3人は、パイロット
育成科の教室に集まっていた。と言っても
机は3つしかないし、人も教官の
ラスティモーサを入れて4人しかいない。
そして今は授業をしていないので、明弘
など頭の後ろで手を組んでいる。
ちなみに、今は全員メットを取っていた。
「んで?何なんですか教官。あの
おふざけは?俺等が女子の面倒
見るんすか?」
「あぁ、一応そう言う事になってる。
この学校の生徒の経歴を調べたが、
リアルな戦車道の経験者はたった
1人だけ。残りは全部ド素人だ。
戦車のせの字も知らないだろう」
明弘の問いに答えるラスティモーサ。
ちなみに今の彼も、軍人時代から愛用
しているパイロットスーツを纏っていた。
「では何故俺達が戦車道の奴らの
面倒を見るんです?確かに俺達は
軍事関係の教練を受けてます。
1年の明弘だってもう銃器の扱い
や格闘技、知識なども軍人レベル
です。ですがそれはパイロット
としてだ。戦車兵としての知識は
専門職の連中より落ちますよ?」
「それでも、だろう。お前達以外に
戦車に関する知識を持っていると
したら、たった1人の経験者以外
に無い。それに、お前達は戦闘の
危険性というものを理解している
からな」
「何か、体よく広告塔にされた気が
するんですけどね~」
そう呟きながらも笑みを浮かべる明弘。
「そう言ってやるな。それに、これも人に
教えると言う事の良い経験だと
思え。覚えて置いて損な経験や
知識は無いと言う事だ。
さて、おしゃべりはここまでだ
ヒヨッコ共。今日は格闘術の
訓練だ。気を抜いてると打撲
程度じゃ済まないぞ」
「「「はいっ!」」」
彼等はこの話題を打ち切り、場所を
移して訓練を開始した。
そして夜。すっかり暗くなった夜道を
歩いている和紀。
だったのだが……。
「ん?」
「あっ」
歩いていた先、街灯に照らされた自販機の前
で、パジャマ姿のみほと和紀が鉢合わせた。
そして、和紀はみほの顔色が悪いことを
一瞬で見抜いた。
「……眠れないのか?」
そう静かに問いかける和紀。
「……うん」
みほもまた、消えそうな声で頷く。
「……愚痴くらいなら聞くぞ?」
「え?」
突然の和紀の言葉にみほは戸惑い、
俯いていた視線を上げて彼の方に
向き直った。
「……今のみほは、何て言うか、
今にも折れてしまいそうに見えた。
それを見捨てておけるほど、俺は
ハードボイルドじゃない、って事だ」
「和紀君。……ありがとう」
みほはどこか顔を赤くしながら笑みを
浮かべていた。
そして、場所を近くの公園に移した2人。
みほの家はすぐそこだが、流石に男の
和紀をいきなり入れるわけにもいかない
し和紀自身も入るのを躊躇ったので、
公園のベンチに座っていた。
そこで和紀は聞いた。みほにとって
戦車道はトラウマである事と、
華と沙織の2人が戦車道を受けるつもり
である事を。2人から一緒にやろうと
誘われている事を。
それを聞いて和紀は……。
「やりたくないのなら、やらなきゃ良い」
「え?」
「おかしな事か?みほは戦車道を
やりたくないんだろ?だったら
やらなきゃ良い」
「え、で、でも、2人は……」
「お前がやりたくないんだろ?
だったら、お前自身で決めれば良い。
やるのかやらないのか。
……選択を決めるのはいつだって
自分だ」
「決めるのは、自分」
「そうだ。周りがやろうって言うから、
なんて理由でやりたくない事やって、
成果が出るか?流されて、惰性でやってる
ようなら成果なんて出ないしスキルも
身につかない。……みほ、俺達
パイロット候補生は育成科への入学時、
遺書を書かされる。だが大体の奴はそこに
躊躇いは無い。逆に遺書を書くことを躊躇う
奴は、大体死ぬか訓練から逃げ出すらしい。
なんでだか分かるか?」
「え?い、いきなりそんな事言われても。
……わ、分からない。どうして遺書を
書くのを躊躇わないの?」
「それは、全員自分の意思でパイロットを
目指したからだ」
「え?」
「パイロットとなるフルコンバット認証を
受ける訓練は命がけだ。一歩間違えば
簡単に死ぬ。……だがな、今言った
躊躇わない奴って言うのは、それを
分かった上で、覚悟の上で育成科に
入ってきた。危険を覚悟の上で、
パイロットになろうとしてるから、
遺書を書くことなんかに躊躇わない。
その程度でビビってたら、訓練
なんかビビりまくりだからな」
そう言うと、和紀は先ほど自販機で
買った缶コーヒーに口をつけた。
「結局、自分の意思で、心の底から
やりたい、やらなきゃ。って思って
ない奴の心なんて脆い。そんなん
じゃ成果も出ないしスキルも身につかない。
だからこそ、やりたくないなら、
やらなきゃ良い。無理してやって、
そのトラウマを悪化したら元も子もない
だろう?」
「……良いのかな。それで」
やりたくないなら、やらなきゃ良い。
その言葉を、逃げのように感じてしまうみほ。
すると……。
「日本国憲法第3章第18条」
不意に和紀がそんな事を言い出したのに
驚いて首をかしげながらも彼の方を向くみほ。
「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。
又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、
その意に反する苦役に服されない。
更に憲法第23条。学問の自由は
これを保障する」
そう言うと、和紀はみほの方に視線を向けた。
「誰しもが、自分の好きなように生き、
好きなように選択する権利がある。
それが人権ってもんだろ?
……俺も自分の意思でパイロットに
なった。だからみほも、自分の進みたい
方向に進めば良いと思う。周囲が
何と言おうがな」
そう言うと、和紀は缶コーヒーを飲み干し
立ち上がった。
「決めるのは何時だって自分だ。だから
こそ、逃げたって良い。自分自身が
逃げたいのなら。……でも、いや、
逃げても良いからこそ、後悔しない
選択をするようにすべきだと思う。
俺は」
「……すごいね、和紀君は」
「ん?」
「そんな風には、私思った事も無かった。
逃げても良いなんて、誰にも
教わらなかったから。家では、勝利こそ
が全てみたいに教わってたから」
「そうか。けど、人生ってのは何が起るか
分からない。人生設計とかも
所詮は空想の産物だ。その通りに
進んだ事があるかってんだ。
それは戦闘も同じ。どこで何か、
予定には無い事だって起こりえる。
その事に臨機応変に対応出来てこそ
パイロットだ。人生だって、
結局は臨機応変に対応するしか
無いんだよ」
そう言うと、和紀は無くなった空き缶
をスローイングで離れた所にある
ゴミ箱に投げ入れるとみほの方に
振り返った。
「まぁ、結局の所自分のやりたいように
行けって所だ。何と言っても、お前の
人生を歩むのは、お前自身なんだからな」
「うん。ありがとう和紀君」
「じゃあな。俺はもう帰る」
「うん。さようなら」
それだけ交わすと和紀は公園を後にし、
みほも飲み物を飲み干すと空き缶を
ゴミ箱に捨て、家に戻った。
その夜。
みほはベッドの中で眠りに付こうとしていた。
そんな彼女の脳裏に蘇るのは、ついさっき
まで一緒だった和紀の事だった。
朝、自転車と事故りそうになった自分を
助け、昼には友人となり、夜には
アドバイスを送ってくれた、初めての
異性の友人。
「パイロット、かぁ」
みほは僅かに顔を赤くしながら、あの時
の彼のパイロットスーツ姿を思い出すの
だった。
翌日。教室にて。
みほは沙織、華と机を挟んで向かい合い、
その机の上には例の履修科目の申請書が
あり、みほは『香道』の欄に丸をしていた。
3人の様子を少し離れた所で見守っている
和紀。
みほとしては、沙織や華の誘いを断る事に
抵抗があった。それでも、昨日の和紀の
言葉と、その胸の内にあるトラウマが、
彼女に戦車道を選ばせる事は無かった。
しかし、肝心の沙織と華はみほと同じが
良いと言って、戦車道の丸を斜線で消す
と同じように香道に丸をした。
自分達が戦車道を履修することで、みほ
の苦しい思い出を思い出させたくない、
と言う華たちの行動もあって、3人は
同じ科目を受ける事になった。
その様子に安堵している和紀。しかし……。
『まぁ、あの生徒会長がそう簡単にみほの
行動を許すとは思えないし』
静かに考えながら、和紀は鞄の中から
取り出した『それ』をポケットに
忍ばせるのだった。
やがてお昼休み。昨日のように4人が
揃って昼食を食べていたが、そのすぐ
傍では1年らしき生徒達が戦車道の
話をしており、3人とも気まずい雰囲気
だった。
何とか話題を創ろうと沙織が話題を振った。
だが、その直後に、校内放送でみほの
呼び出しがかかった。
『やっぱり、か』
和紀は『予想通りだな』と内心考えながら、
怯えるみほに、『一緒に行く』と言って
立ち上がった。
「か、和紀君」
「安心しろ。候補生とは言えパイロットだ。
威圧感くらい出せるぞ」
そう言って同行する和紀。そして彼は、
生徒会室に入る前に、ポケットの中に
手を入れ、『それ』を起動した。
そして、入るなり、桃がみほの書いた
申請書を突き付けてきた。
みほは戦車道をやらないと言う華、
沙織に対して、杏達は、彼女達の
退学をもチラつかせた。
それに対して反発する沙織と華。
だったが……。
「アンタは終わりだよ、生徒会長」
「……は?」
それまで黙っていた和紀を、杏が静かに
睨み付ける。
「刑法第222条、1、生命、身体、自由、名誉
又は財産に対し害を加える旨を告知して人
を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万
円以下の罰金に処する」
「か、和紀?何を……」
隣に居た沙織が驚いているが、和紀は
止まらずにしゃべり続ける。
「この刑法で守られるのは意思決定の自由だ。
当然、みほが何を選ぶかは彼女自身に決定
権がある。そして、脅迫罪の成立する
瞬間は、害悪を告知した後だ。そして
生徒会長、あんたは言った。
『学校にいられなくする』、と。
この時点で、みほ、沙織、華の3人は
脅迫罪の被害者であり、そして加害者は、
アンタだ。角谷生徒会長」
「へ~。言うじゃ無いパイロット。でもさ~。
仮にそれが本当だとして、証拠なんて
あるの?4人が周りの生徒達に、
脅迫罪がどうのなんて言って、信じる
とでも……」
「証拠ならある」
杏の声を遮った和紀は、ポケットに入れていた
それを取り出した。それを見て、杏の
表情が僅かに引きつる。
取り出されたそれは……。
「『ボイスレコーダー』!和紀さん、
あなたという人は!」
ボイスレコーダーを見て、華は驚いたような、
喜んでいるような表情を浮かべている。
そして、無言でボイスレコーダーを
再生する和紀。そこにはちゃんと、杏の
害悪の告知、と取れる発言。更に
桃の発言や、反発する華、沙織へ謝罪を
促す柚子の発言。そのどちらも、横暴を
肯定する物であったり、被害者が
加害者に謝れ、と言う類いの発言だ。
明らかに他の2人も問題発言である。
「そっちがその気なら、俺は今すぐ
この証拠を警察や文部科学省の役人の
所に届けるだけだ」
「ッ……!!!」
和紀の言葉に、杏は目に見えて表情を
歪ませた。
しかし彼女はすぐに不敵な笑みに切り替えた。
「でもさぁ、そんな事をして、そっちは
ただで済むの?それ、立派な盗聴だよね?」
「成程。それにも一理ある。……で?
それが何だと言うんだ?仮にだが、
俺がアンタ達を巻き込んで自滅する
覚悟も無く、ここに来たとでも
思って居るのか?」
「ッ!」
和紀の言葉に息を呑んだのは杏……。
ではなく、みほだった。
「横暴生徒会を消すのに俺が犠牲に
なるか。それともみほに苦しみを
強いるのか。……男だったら、
どっちを取るかなんて分かりきった
事だろ?」
そう言って、静かに笑みを浮かべる。
「よく聞け生徒会長。パイロットって
のは自分の命捨てる覚悟で訓練に
臨む。だってのに、高々退学程度が
怖くて尻込みしてるんなら、そいつに
パイロットを目指す資格は無い。
さぁ、選べ。みほに無理強いを
止めるか。この証拠を理由に今の
地位から引きずり下ろされるか」
「き、貴様っ!生徒の分際で会長に
刃向かい脅すつもりかっ!」
「最初に脅してきた連中が何を
偉そうに。それとも、アンタ等には
そこまでして彼女を戦車道に
引き込む理由があるってのか?」
「そ、それは……」
和紀の言葉に柚子が口ごもる。
「……アンタら、何の為にそこまで
戦車道に拘る?」
和紀の視線が3人を睨み付けていた。
だが……。
「あ、あのっ!」
それまで黙っていたみほが声を上げた。
その少し前。みほは考えていた。
和紀が自らを犠牲にする覚悟で自分を
助けようとしている真実を。
もちろん和紀は覚悟の上であり、彼にして
見れば死なないだけマシ、程度の物だ。
そもそもパイロットは生死を彷徨う
訓練をするのだから、和紀はみほ程
退学を重く考えてはいない。
だが、肝心のみほにしてみれば、自分を
守る為に和紀が自分自身を犠牲にしよう
としているように見えてしまうだろう。
そして、みほにはそれが嫌だった。
自分を励まし、助けてくれた友人の
1人を自分のせいで失いたく無い。
そんな彼女の思いが、みほに声を
出させた。
杏達の視線が彼女に集まり、一瞬
萎縮してしまうみほ。
だが……。
「戦車道、やりますっ!」
「「えぇぇぇぇっ!?」」
突然のみほの宣言に華と沙織が驚く。
「良かったぁっ!」
それを喜ぶ柚子。
「ただしっ!」
しかし、直後にみほの叫びが響いて
杏達は僅かに眉をひそめた。
「条件があります。私が戦車道を
やる代わりに、もう二度と、こんな
犯罪まがいの脅しは、止めて下さい。
それと和紀君の録音の件を水に流す事。
これが条件ですっ」
その言葉に桃と柚子は杏の方に視線を
向ける。
「良いよ。その条件飲むよ」
そうして、彼女達の話し合いは終わった。
みほは放課後に華や沙織と共にアイスを
食べに行き、そんな中で自分の心の内を
吐露した。
そして、夜。
みほは、昨日の夜に和紀と出会った
自販機の傍に立っていた。彼を待っていた
のだ。
やがて……。
「まだまだ夜は冷えるぞ」
しばらく待っていると、鞄を下げた和紀が
現れた。
そんな彼と向き合い、しばし、何と言おう
か悩むみほ。そして数秒の間を置き。
「ごめんなさい」
そう言って彼女は謝った。
「折角、私のために色々してくれたのに、
無駄にしちゃって。本当にごめんなさい」
「あぁ。そのことを言うためにここで
待ってたと言う訳、か。
……まぁ気にするな」
「え?」
「確かに俺はあの時みほを助けるつもり
だった。それが俺自身の選択だった。
でも、みほが自分で決めて選んで、
戦車道をするって言うのなら俺は別に
何も言わない。そうするだけの理由が
みほにあった、って事だろ?だったら
お前の好きにすれば良い。俺はそれを
精々友人として応援したり助けたりする
だけだ」
「和紀君。……ありがとう。優しいんだね、
和紀君って」
「ん?そ、そうか?」
突然の褒め言葉に和紀は顔を赤くした。
「ま、まぁ、兄貴の影響かもな」
「え?和紀君お兄さんいるの?」
「あぁ。陸自のタイタン部隊でパイロットを
してる。……兄貴は、熱血漢を絵に描いた
ような人でさ。困ってる人を助けたい
って言って、パイロットを目指したんだ。
……そんな兄貴の背中を見て育ったから、
かもな。俺もそんな兄貴に憧れて
パイロットになろうって思ったんだ」
「そうだったんだ」
「って、こんな事みほに話しても
しかたないか」
「ううん。そんな事無いよ。和紀君の
事、少し知れて、良かった」
そう言って笑みを浮かべるみほに和紀は、
若干顔を赤くした。
「そ、そうか。まぁその、俺はそろそろ
行くよ。おやすみ」
「うん。おやすみ、和紀君」
そう言って、2人は別れた。
ちなみに、みほは家に戻ってベッドに入った後。
『って、私すっごい恥ずかしい事を言ってた!?』
後から襲ってきた羞恥心で顔を真っ赤にして
いたのだった。
翌日。
グラウンドに集められた、戦車道履修者達。
そしてそれを遠目に見守っていた和紀達
3人のパイロット候補生達。
ちなみに3人と、更にお目付役の
ラスティモーサもパイロットスーツを
身に纏っていた。
しかし……。
「なんつ~か、寄せ集め感が凄く
ないっすか?」
パイロットたちを代表するに明弘が
思った事を口にした。
「まぁ、な」
改めて周囲を見回す和紀。
集まった女子はと言うと……。
明らかに興味本位から来ました、と
言わんばかりにはしゃいでる一年生。
過去の偉人のファンと思われ、そのため
に制服の上から軍服などを纏っている
2年の歴女。
明らかにバレー部の格好をしている
学年バラバラの女子達。
そしてみほと沙織、華。そしてその少し
後ろにいる1年の少女。
そこに更に生徒会チームが加わるのだが……。
「こりゃまぁ、癖の強そうな連中ばかり
だ事で」
明弘が呆れ半分面白半分と言わんばかりに
呟いた。
「しかし、本当にこれで戦車道が出来る
のか?」
そして和紀は、現実問題としてそこを
心配していた。
パイロット候補生である彼にしてみれば、
戦車だろうがパイロットだろうが、
経験とスキルが物を言う。つまり、経験
とスキルの無い者が戦場で勝てる訳無い
と、彼は分かりきっている。
しかも一部は、明らかにやる気が別方向
に向いていそうで、彼は静かにため息を
ついた。
そしてそれは他の2人とラスティモーサも
同じだ。
彼等3人も不安を覚えていた。
とは言え、始まったものは仕方無い。
だがまず彼女、彼等の前に問題として
立ち塞がったのが……。
現在学園が保有する戦車が、見た目が
ボロボロで錆びだらけの『Ⅳ号戦車』
が『1輌だけ』、と言う始末だった。
周りの生徒達の反応は悪いが、戦車道の
経験者であるみほはⅣ号の状態を軽く見た
だけで、運用には問題無い、とした。
「へ~~。ドイツ軍のⅣ号戦車か」
そして倉庫の入り口から中を覗いていた
明弘が戦車を見て呟いていた。
「あれ?明弘君知ってるの?」
そんな彼に声を掛けたのは、1年生の
1人、『澤 梓』。
ちなみに2人は同じクラスの友人だった。
「まぁね。あれは第2次大戦の始まりから
ずっとドイツ軍の主力戦車として
活躍していたⅣ号戦車。まぁ
メジャーと言えばメジャーな戦車かな」
「へ、へ~」
梓は彼の説明を聞きながらも、ちょっと
戸惑っている事もありそんな返事を
返してしまった。
「しかしどうする?」
そこに声を掛けたのは央樹だ。
「戦車は一台につき、最低でも3人。
多ければ5人以上で操縦する。
ここにいる生徒は21人。となると、
最低でも5輌は戦車が必要だ」
「……あと4輌か」
ポツリと、央樹の言葉に反応する和紀。
「どうするんだ会長。他の戦車の宛は
あるのか?」
「それなんだけどね~。河嶋~」
央樹に聞かれた杏は、話しを桃の方
へとパスした。
「はいっ。我が校は何年も前に戦車道を
廃止にしている。だが、当時使用して
いた戦車がどこかにあるはずだ。
いや、必ずある」
その言葉に、パイロット3人は呆れたように
ため息をついた。
「明日、戦車道の教官がお見えになる。
それまでに残り4輌見つけ出す事。なお、
パイロット候補生の3人にも探索を
手伝って貰う」
「了解した」
3人を代表するかのように頷く央樹。
と、そこへ。
「ちょっと待ってくれ」
教官でもあるラスティモーサが声を掛けた。
「先生、何か」
「戦車をこの広い学園艦の中から探すなら、
人手は多い方が良いだろ?」
桃の言葉にそう言って、3人の方を向く
ラスティモーサ。
「そういうわけだ。お前等と、あと
俺の相棒を呼んでこい」
「「「了解っ!」」」
彼の言葉を聞くと、3人は駆け足で
倉庫を出て行った。
「和紀たちの相棒、って?」
「さ、さぁ?」
首をかしげる沙織と華。
パイロットの、パの字も知らない彼女達が
彼等の相棒、と聞いても分からないのは
当然だ。
そして数分後。倉庫を出た彼女達の前に
現れたのが……。
『4体の巨人』だった。
「で、でっかぁ!」
「大きいですねぇ!」
沙織と華はその巨人達に驚き、他の
女子達も驚きながらその巨人達を
見上げていた。
「そういうわけだ。戦車の探索には
こいつらの『タイタン』も参加する。
タイタンにはレーダー類も搭載
されてるから、捜し物には役立つ
だろう」
そう言って4体の巨人を顎でしゃくって
示すラスティモーサ。
そして彼は4機の方に向き直る。
「そういうわけだ。タイタン各機!
自己紹介しておけ」
「え?じ、自己紹介?」
彼の言葉に戸惑う沙織。すると……。
『『『『了解しました』』』』
タイタン4機から電子音声による返答が
返ってきた。
「「「「「しゃ、喋ったぁぁっ!!?」」」」」
すると、タイタンを余り知らない彼女達は
驚き声を上げてしまった。
「お~お~驚いてるね~くくくっ!」
その驚きっぷりに笑みを浮かべている明弘。
「まぁ初めてタイタンを見ればあぁも
なるさ」
央樹もそれにうんうんと頷いている。
そして、自己紹介を、と言われたので
並んでいたタイタン4体がそれぞれ
自己紹介をはじめた。
『はじめまして。私はアトラス級タイタン、
シャーシ番号AT-0201。パイロット
大代和紀の搭乗タイタンです』
そう言ってまず挨拶をしたのは、3機
の中で一番ノーマルな機体、中量級の
アトラスだ。
『はじめまして。私はストライダー級
タイタン、シャーシ番号ST-0101。
パイロット高宮明弘の搭乗タイタンです』
次に挨拶をしたのは、3機の中でも細い。
それは速度などに特化した軽量級である
が故だ。
『はじめまして。私はオーガ級タイタン。
シャーシ番号OT-0301。パイロット
清水央樹の搭乗タイタンです』
最後の機体は、ストライダー級と真逆。
アトラス級よりも更に分厚い装甲で覆われた
体。それは防御力を求めた結果生まれた
重装甲の重量級タイタンだからだ。
そして、和紀達がそれぞれの相棒の傍に立つ。
更に……。
『はじめまして。私はバンガード級タイタン。
シャーシ番号BT―7274。
ラスティモーサの相棒です』
3機に続いて挨拶をしたのが、アトラスと
似た中量級のタイタン、バンガード級の
タイタン、『BT』だ。
みほ達は、未だに驚いた表情のままに
タイタンを見上げていた。
『パンッ』
その時ラスティモーサが手を叩いて彼女達を
正気に戻し、自分に注目させた。
「ほら。時間は有限だぞ。和紀はそこの
西住たちと。明弘は1年と。央樹は
バレー部たちと。俺は歴女達に
同行する。BTはとりあえずここに
残ってくれ」
「「「はっ!」」」
『『『『了解しました』』』』
こうして、少女達とパイロット達と
タイタン達の戦車探しが始まった。
『ズズンッ、ズズンッ』
みほ達3人に同行するアトラスと和紀。
そして、それに離れた所から付いてくる
女子が1人。
沙織の提案で駐車場に来たのだが、当然
有るわけも無く、裏の山林を探す事に
なった。
しかしみほは、後ろから付いてくる女子
が気になっていた彼女は……。
「あ、あのっ!」
「ふえっ!?」
声を掛けて振り返った。
相手はどこか萎縮している様子だが、
それを気にせず声を掛けた。
「良かったら、一緒に探さない?」
「い、良いんですか!?」
すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「あ、あの、普通2科、2年C組の
『秋山 優花里』です。えっと、
ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げる優花里。
「こちらこそお願いします。五十鈴華です」
「武部沙織!」
「あ、私は……」
「存じ上げております!」
みほが挨拶をしようとすると、優花里が
それを遮った。
「西住みほ殿ですよね?」
「え?は、はい」
「では、よろしくお願いします!」
その後、新に優花里を加えた女子4人、
パイロットの和紀とタイタン、アトラス
を加えた合計6人は山林を探していた
のだが……。
「う~~。足痛くなってきた~」
革靴で山林を歩くのは、些か無謀だった
のか沙織がそんな事を言い出した。
「そうか。なら、アトラス。
彼女を運んでやれ」
『了解です』
和紀の指示を受け、アトラスは地面に膝を
ついた態勢で左手を沙織の方へと差し出した。
『どうぞお乗り下さい』
「え!?良いの!ありがと~!」
差し出された左手に乗ると、ゆっくりと
立ち上がるアトラス。
『左腕固定。搭乗者の安全を優先』
「沙織、アトラスが気を配るが、
あまりはしゃいで落ちるなよ?
しっかり指に掴まってるんだぞ?」
「は~い!」
そうして、再び山林を歩いていること
数分。不意に先頭を歩いていた華が足を
止めた。
「どうした?」
それに気づいて和紀が声を掛けた。
「いえ。あちらから花の香りに混じって
微かに鉄と油の匂いが」
「華道やってるとそんなに敏感になる
の!?」
「私だけかもしれませんけど」
と、驚く沙織に答える華。
「そうか。アトラス、周辺を探索出来るか?」
『了解。少々お待ち下さい。周辺を
サーモグラフィーで捜索中』
そう言ってアトラスは周囲を見回す。
「ねぇ和紀、さーもぐらふぃー、って何?」
「サーモグラフィーって言うのは物や人が
発する赤外線を分析する装置だ。
夏のテレビなんかで、街中の様子を
真っ赤な画像で見せる時があるだろ?
あれもサーモグラフィーの一種だ」
「へ~。でもそれで調べられるの?」
「物体によって放つ赤外線は異なる。
だからもしかすると……」
と、話していた時。
『発見しました。前方、約400メートル先、
戦車らしき機影を確認』
「こんな風に、探索に役立つんだよ」
「成程~」
和紀の言葉に頷く沙織。
「それじゃあとにかく、行ってみましょう」
「そうですね!それでは、
パンツァーフォー!」
「パンツのアホ~!?」
優花里の叫びに驚く沙織。まぁ、
軍事知識も無い彼女にその言葉を知るよし
も無かった。
「パンツァーフォー、戦車前進って
意味なの」
苦笑しながらも沙織に説明するみほ。
そして彼等が前進していると、森林の中に、
擱座していた戦車を発見した。
「38(t)」
ポツリと、みほは戦車を見ながら呟く。
「何かさっきのよりちっちゃい。ビス
だらけでポツポツしてるし」
沙織は、さっきのⅣ号よりも小さい38(t)を
前にして少々落胆気味だ。
「38(t)と言えば、ロンメル将軍の第7
機甲師団でも主力を務め、初期の
ドイツ電撃戦を支えた重要な戦車
なんです!」
一方の優花里は、その汚れた38(t)に
何やら頬ずりをしていた。
「ねぇ和紀はこの戦車知ってる?」
「まぁな。分類的には軽戦車。まぁ
つまり軽い戦車って事だな。
この戦車、LT-38。正式名称は、
生まれ故郷のチェコスロバキアでは
LTvz.38。さっきみほの言った38(t)
って言うのはドイツ軍での名称だ」
「……どういうことですか?なぜ、
そんなに名前が?」
「この戦車が開発され、正式に採用
されたのは1938年。だが同年、
祖国であるチェコスロバキアは
ミュンヘン会談の結果ドイツに
併合され、このLT―38もドイツ軍
の戦車となった。その時についた
名称が38(t)って訳さ。ちなみに、
このtってのはドイツ語のチェコ
スロバキアの頭文字に由来している」
と、和紀が説明を粗方終えると……。
「大代さんも戦車好きなんですか!?」
優花里が嬉々とした表情で問いかけてきた。
「あ、あぁ、いや、俺の場合は軍事教練
で色々習うからな。その過程で知った
だけだぞ?」
「あ、そうですか」
そんな和紀の言葉に、どこかしょんぼりと
してしまう優花里。
「まぁ何はともあれ、これで戦車2台目
は無事発見って事で」
「そうですね。確か、見つかったら生徒会の
方に連絡を、との事でしたが……」
沙織はそう言って笑みを浮かべ、華は
顎に指先を当てながら呟いていた。
「あぁ、それなら任せろ。アトラス」
そう言ってアトラスに声を掛ける和紀。
「BT―7274へ通信。校舎裏の山林にて
ドイツ軍軽戦車、38(t)1輌発見。
回収求む。復唱せよ」
『了解。アトラスよりBT―7274へ通信。
校舎裏山林にてドイツ軍戦車、38(t)
1輌発見。回収求む』
「よし。その通信文と現在地の座標を
BTに送れ」
『了解です』
一方、倉庫の前に残っていた生徒会の
メンバーと、その傍に立つBT。そして……。
『通信、校舎裏、山林よりアトラス級
タイタン、AT-0201より入電。
『校舎裏山林にて、ドイツ軍軽戦車
38(t)1輌発見。回収求む』。座標データを
受信中』
「どうやら、早速1輌見つかったようですね」
「みたいだね~」
BTの話を聞いていた桃と杏が呟く。
その後も、彼女達とパイロット達の活躍。
更にはタイタン達のレーダー機能もあって
次々と戦車が発見されていった。
ある物は、どうやってそこに運んだのか
崖の亀裂の中から。
ある物は、何故沈めたのか沼の中から。
ある物は、どうしてそこに置かれたのか
ウサギ小屋の中から。
こうして、最初のⅣ号と合わせて、合計
5輌の戦車が揃った事になった。
その揃った5輌を前にする面々。
「89式中戦車甲型。38(t)軽戦車。M3
中戦車リー。Ⅲ号突撃砲F型。
それからⅣ号中戦車D型。
どう振り分けますか?」
「見つけた者が見つけた戦車に乗れば
良いんじゃ無い?」
桃の言葉にそう語る杏。
「だ、そうですが?教官としては
何かあります?」
そう言って明弘はラスティモーサに
問いかけた。
「誰もスキルも何も無いんだ。どれに
乗ったとして、対して変わらん
だろう。それにM3中戦車は
その構造から必要な人員も多い。
ちょうど1年が6人もいるんだ。
あとは大体、基本的に3~5人で
運用出来るタイプだ。……良いん
じゃないか?」
「では、会長のお言葉通り、発見した
戦車に乗る事。私達は38(t)を。
お前達はⅣ号だ」
「あ、はい」
桃の言葉によって、割り振りが決められていく。
「では、Ⅳ号、Aチーム。89式、Bチーム。
Ⅲ突、Cチーム。M3、Dチーム。
38(t)、Eチーム」
各々の割り振りが決められた後、彼女達は
パイロットの和紀、明弘、央樹に手伝って
貰いながら戦車を掃除。何とか夕暮れ時
には戦車を綺麗にする事が出来た。
それで、戦車自体の整備は自動車部が
やる事になり、彼女達は解散となった。
「んじゃ、俺等はどうします?まだまだ
体力有り余ってますけど?」
そう言って明弘がラスティモーサに声を
かけた。他の2人も、まだまだ行けますよ、
と言わんばかりだ。
「え~?あんなに動いたのに、和紀達
って疲れ知らずなの?」
純粋な疑問を口にする沙織。そして
周囲の女子達も彼女に同意見だった。
「あの程度で疲れた、なんて言ってたら
パイロットになれないしな。と言うか、
あの程度は準備運動みたいなものだな」
和紀の言葉に2人が頷く。
のだが……。
「そうだな。なら、俺達はこれから射撃
訓練だ。3人は各自思い思いの武装を
持って10分後に射撃練習場に集合。
行けっ」
「「「はっ!!」」」
そうして、彼等の射撃訓練は夜まで続き、
それが終わると彼等は解散し下校した。
暗くなった帰り道を歩く和紀。
そんな中で和紀は『戦車道』の事を考えていた。
『俺達があいつらの面倒を見る、か。しっかし、
これまで人に何かを教えたりなんて
経験が無いぞ。詳しい事も何も知らないし
戦車道も専門外だからなぁ』
そう考えながら歩く和紀。
と、その時。
『PLLLL!』
「ん?」
ポケットに入っていたスマホが震えた。
足を止めてそれを取り出す和紀。
画面にはL○NEの連絡通知があり、
開くと和紀、明弘、央樹の3人で作った
グループに明弘からのコメントがあった。
『ふと思ったんですけど、女子達って
戦車の動かし方何にもしらないですよね?』
『そりゃそうだろ。経験者ほぼ0なんだから』
明弘のコメントに返信する和紀。
『そこで思ったんですけど、折角だから
マニュアルでも作ってやろうかなって
思ったんですけど、どうですかね?』
「っ」
明弘のコメントに、和紀の眉が僅かに
ぴくついた。やがて……。
『良いんじゃないか?どうせなら、
きっちりサポートしてやろうじゃ
ないか』
そうコメントを返した和紀は……。
『もう一仕事するか』、と考えながら
帰路に就いたのだった。
第2話 END
やっと出せたタイタンたち。
ちなみに主人公達が乗るのはアトラスやストライダー、オーガなど
ですが、他の学校の生徒達は、イオンやスコーチに乗る予定です。
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