みほ達の尽力によって合計4輌の戦車を
発見する事に成功した。
そして翌日。
戦車道の時間となり、集められた女子達と
それをフォローするために集められた
パイロットに教官、4機のタイタンたち。
そして教官の到着を待っていた時。
『接近反応あり。上空より航空機が
接近中』
BTが何かに気づいて視線を空に向けた。
『機体を識別。……完了。航空自衛隊
所属、輸送機C―2改と断定』
「ほう?空自の輸送機か。……確か、
教官は陸自から来るんだったな?」
ラスティモーサはBTの報告を聞くと
杏に問いかけた。
「そうですよ~」
と、そうこう話している内に、輸送機は
後部ランプを展開しながら高度を下げ、
そしてそこからパレットに固定された
戦車を学園の駐車場に空挺投下した。
火花を散らしながら駐車場の上を滑る
パレット。そしてパレットは止められていた
赤い高級車に衝突、横転させてしまった。
更に、バックするときに履帯で車を
ぺしゃんこにしてしまった。
誰もが呆然となる中、戦車、『10式戦車』が
彼女達の近くで止まるとハッチが開いて、
中から制服を着た黒髪の女性が姿を見せた。
それが、彼女達の教官だった。
整列した少女達の前に、その女性が立つ。
「特別講師の戦車教導隊、『蝶野 亜美』
一尉だ」
「よろしくね」
そう言って挨拶をし、彼女達を見回す蝶野
「一尉、大尉クラスか」
そんな彼女を遠巻きに見ている和紀達。
すると……。
「あれ?西住師範のお嬢様じゃありません?」
蝶野がみほに気づいて声を掛けた。
皆の視線がみほに集まる。
「師範にはお世話になってるんです。お姉様
も元気?」
そう言って声を掛ける蝶野。しかしみほは
返事に困っていた。
そして、蝶野がみほの家の事を、彼女が
『西住流』という戦車道の中でも最も由緒
ある流派である事を喋ってしまう。
しかし、肝心のみほの表情はどこか暗い。
その時。
「蝶野一尉」
ラスティモーサが声を掛けた。
「悪いが世間話は後だ。こいつらは戦車の
動かし方さえ知らない素人だ。
こいつらを一日でも早く立派な戦車乗りに
するためにも、今は時間が惜しい。
早速講義をお願いしたいんだが?」
「分かりました。では早速、本格戦闘の
練習試合を始めましょう!」
「何?話を聞いていたのか一尉。こいつらは
戦車を動かした事すら無いんだぞ?
予備知識も0に近い。それを……」
「大丈夫ですよ。何事も実戦ですっ!
戦車なんてバーッと動かしてダーッと
操作してドーンッと撃てば良いんだから!」
ラスティモーサの言葉にも、笑みを
浮かべながらそう語る蝶野。
すると……。
「ハァ。……和紀、央樹、明弘」
「「「はっ!!」」」
「お前達の作ったあれ、渡してやれ」
「「「了解ですっ!」」」
ラスティモーサの指示を受け、3人は
みほたち全員に、ホチキスで留められた
資料を渡していった。
「え?こ、これって?」
「各戦車の操縦などをまとめた資料だ。
1人一部ずつある。参考にしてくれ」
沙織の言葉に応えながら和紀はⅣ号の
資料をみほ達に。更に八九式の資料を
バレー部の『磯辺 典子』たちに渡していく。
各自受け取った資料を見ている。中身は
目次付きで操縦や射撃方法などが記載
されていた。
「凄っ!分かりやすいっ!」
「これ、手書きだけと明弘君たちが創ったの!?」
1年の眼鏡を掛けた女子、『大野 あや』は
読みやすさに驚き、梓は傍にいるパイロット達
の方に目を向けた。
「まぁね。いや~訓練で疲れて帰ってから
先輩達と分担して人数分書いたんだけど、
おかげで朝から寝不足でさ~」
「出来るだけ専門用語を入れないようにした
んだが、大丈夫か?」
「これなら分かりやすいっ!」
和紀の言葉に頷く沙織。他の生徒達からも
概ね好評のようだ。
その後、試合のために彼女達は戦車を
指定された場所に動かさなければ
いけなかった。蝶野の指示で、砲手や
車長、操縦手などを決めた後、彼女達は
パイロット達から貰った資料片手に、
四苦八苦しながらも戦車を起動し、
倉庫から出発した。
それを見送るパイロットたち。
「よし、じゃあお前達は山中に分散して
各戦車を監視しつつ、万が一の時は
それを停止させろ。山中には川や橋、崖
もある。万が一転落事故でも起こせば
目も当てられん。いざと言う時は
力尽くでも良いから止めろ。俺は位置的に
Ⅲ号突撃砲と八九式を監視する。和紀は
Ⅳ号。明弘はM3リー。央樹は38(t)だ。
良いな?」
「「「了解っ!」」」
「よし行けっ」
ラスティモーサが指示を出すと、3人の
パイロットは駆け出した。
一番に飛び出たのは和紀だ。彼は腕に
装備されたグラップリングフックを
木に目がけて発射。巻き取る勢いで
宙に舞い、木々の枝を蹴って、ニンジャの
ように飛び回りながら先に進んで居る
Ⅳ号に追いついた。
更に明弘と央樹も、同じようにジャンプキット
から青白い炎を吐き出しながら森林の中を
駆け回っていた。
枝から枝へ飛び移り、樹の幹を蹴って
加速。時に着地しながらスライディングし
更に加速。和紀と同じように木々の上を
飛び回りながら、それぞれの監視目標を
追っていた。
途中、各々操作に馴れていない事から
トラブルもあったが、5輌とも目標地点に
到着。
そして蝶野の指示の元、試合開始となった。
「ん?」
そして、監視を行っていたラスティモーサは
八九式とⅢ号突撃砲の監視を行っていたが……。
「ほう?早速動き出したか。……お手並み
拝見と行くか」
そう言って2輌のちょうど中間地点辺りを
追うように木々の上を駆け抜けるラスティモーサ。
そしてそうこうしている内に、八九式と
Ⅲ号は協力してみほ達のⅣ号を攻撃。
彼女達はたまらず逃げだし、その後を追う
和紀。
そして、林を抜けてカントリーへと出た時。
「ッ!?」
和紀はⅣ号の進行方向上に寝そべる1人の
少女を確認した。
「ちっ!」
彼は小さく舌打ちをすると、グラップルを
木の枝に発射し、スイングバイの要領で
加速。
「危ないっ!あっ!」
車体のハッチから体を出していたみほも、
少女に気づく。とほぼ同時にⅣ号の脇を
パイロットスーツ姿の和紀が追い越していく
のに気づいた。
そして和紀は加速したまま、スライディング
しながら着地。
「ん?」
そして僅かに動いた少女を問答無用で
お姫様抱っこした。
「えっ?ちょっ……!?」
「黙っていろ!舌を噛むぞ!」
そう叫んだ時、既にⅣ号はすぐそばまで来ていた。
『仕方無いっ!』
『バッ!』
和紀は少女を抱えたままⅣ号に飛び移った。
ダンッと音を立てて着地する和紀。
「大丈夫か?」
彼はすぐさま腕の中に抱いていた少女を
気遣った。
「あっ!」
その少女を見た時、みほは思いだした。
彼女は今朝、みほが寝坊して家を出るのが
遅くなった時に出会った相手だったからだ。
「今朝の」
ポツリと呟くみほ。その時車長用のハッチ
が開いて沙織が顔を覗かせた。
「あれ?麻子じゃん」
「沙織か」
「ん?何だ知り合いか?」
「あぁうん。幼馴染みなの」
首をかしげる和紀に説明する沙織。
「ってかアンタこんな所で何してんの?
授業中だよ?」
「知ってる」
ポツリと呟く麻子に沙織はため息をつくが、
直後、後方に着弾し爆音が響いた。
「あのっ!危ないから中に入って下さい!
和紀君は!」
「問題無いっ」
直後、和紀は走行中のⅣ号から飛び降り、
着地。すぐさまグラップルで木々の方へと
飛び移った。
そして監視を再開する。が、2輌に追われた
Ⅳ号は、川の上に差し掛かる橋へと到達
した。
「橋、か」
万が一を警戒して、橋の様子を見る和紀。
その橋は架けられて随分経つのか、所々
錆が目立つ。
『幅自体は問題無いが、戦車の重さに
橋が耐えられるかどうか』
そう考えている内に、下車したみほの誘導を
受けながらゆっくりと橋に侵入するⅣ号。
だが、揺れる橋と馴れない操作のせいで
履帯が橋を支えるケーブルに接触して
切断してしまった。
「ッ。報告っ、AチームⅣ号、履帯により
橋のケーブルを切断。橋の不安定化を
確認っ。このままではⅣ号及び搭乗者
落下の危険性有り、試合の即刻中止
或いは一時中断を推奨します」
彼は通信機に向かって報告する。しかし返事は
無い。
「教官っ」
『ドンッ!』
彼が叫んだ直後、追いついたⅢ号の砲撃
を喰らったⅣ号。幸いにして砲弾は装甲
に突き刺さり撃破は免れた。更に、砲弾に
押される形となって元に戻るⅣ号。
「Ⅳ号、何とか持ち直しました」
そう言って報告を終えた和紀は一旦通信を
切った。
『しかし……。後方にⅢ突と八九式。
逃げ場の無いⅣ号。更に先ほどの
攻撃の余波で華が失神したように
見えた。状況は最悪だが……』
と、観察していた和紀。だが、不意に
戦車が動き出し、華とは違い慣れた様子で
立て直した。
『動きが変わった?操縦手が変わった
のか?』
彼はⅣ号に注目しつつ周囲を警戒していた。
一度下がりつつも、一旦停止して前に出る
Ⅳ号。
和紀には知り得ない事だが、先ほど彼が
助けた『冷泉 麻子』が失神した華と
操縦を変わった結果動きがよくなったのだ。
と、その時橋の反対側に、生徒会チーム
の38(t)と1年生達のM3リーが
現れた。更に和紀はそれを監視していた
明弘と央樹に気づいた。
「ありゃ~。これじゃ正に、前門の虎、
後門の狼って奴ですね」
「どうかな?」
木々の上に立ちながら見守っていた
明弘の言葉に疑問符を示す央樹。
「数が多いからと言って有利になる
訳では無い。数を揃えようがスキル
が無ければ所詮は烏合の衆だ」
そんな央樹の言葉を証明するかのように、
Ⅳ号はまずⅢ号を撃破。さらに八九式も続けざま
に撃破。最後に、反対側から向かってきていた
38(t)を撃破する事に成功した。
それに恐れをなして逃げだそうとしたM3
だが、泥に足を取られ、無理に抜けだそう
とした結果履帯が切れて走行不能となった。
そして結果、みほ達のⅣ号、Aチームが
勝ち残る形となったのだった。
「やっぱりな」
予想通り、と言わんばかりの央樹と、
その近くで口笛を吹く明弘。
そして和紀は……。
「これが戦車道、か」
と、みほ達のⅣ号を見つめながらポツリと
呟くのだった。
その後、回収班が来る、と言う事なので
みほ達は、パイロットである和紀達に
先導されながら山を下りていった。
一方。学校敷地内に経つ監視塔から試合
を見守っていた蝶野。
『バシュッ』
するとスラスター音が響いて、彼女の
隣に先ほどまで山の中に居たはずの
ラスティモーサが現れた。
「終わったな」
「えぇ。現場での監視役、ありがとう
ございました。それにしても、あそこ
からここまでこの短時間で来る
なんて。流石は『大尉』」
蝶野の言葉に、ラスティモーサは一瞬
指をピクッと反応させた。
「そいつは俺の昔の階級だ。俺はもう
軍人じゃないぞ?」
「失礼しました。……それにしても、
どうしてあなたのような英雄が
こんな小さな学校に?あなたの
経歴からすれば、教官としても
あちこちから、それこそ世界中から
オファーがあったと思うのですが?」
「別に、大した事は無いさ。老後
は静かに暮そうと考え、平和なこの
国へとやってきた。だが、パイロット
としての性だろうな。どうにも
平和ってのに馴れない。そんなある日、
この国で出来た友人と話をしていたら、
彼女の卒業校でパイロット育成科の
話が持ち上がったそうだ。そこの
教官をしてみないかと言われ、そして、
OGしての彼女のツテもあって
俺はここにやってきた。ただ、それだけ
の事さ」
そう言ってラスティモーサは肩をすくめた。
「そうですか。……それで、如何ですか?
この国の原石たちは」
「まだまだ荒いところもあるが、やる気の
ある連中ばかりで退屈してないところだ。
と言うか、逆にどうなんだ?あの
お嬢ちゃん達は?」
「同じですよ。彼女達はまだまだ原石。
これから研磨されていくんです。
その後どうなるかは、彼女達次第です。
宝石になるのか、それとも石ころか」
「ふっ、そうだな」
と、会話をしていた2人。やがて数秒の間
を置いた後。
「そう言えば、例の噂は聞いてるか?」
「えぇ。私も戦車道の関係者ですから。
先生も?」
「あぁ。噂ではどこかの役人が、冗談
半分で提案したところ、面白がった
上の連中の肝いりでそうなったらしい」
「その結果が今度の、『異例の大会』ですか」
「そうらしい。……どうしてこうなったんだか」
そう言って、珍しくため息をつくラスティモーサ。
「……『古き陸の王者』と、『新しき陸の
王者』。それがタッグを組んで敵と戦う
試合。よく成立しましたね」
「現在この国の大半の学校がパイロット
育成に力を入れている。育成科の設置は、
国から莫大な補助金が出るからな。
更に育ったパイロットが活躍すれば、
母校は一躍有名だ。その結果、今全国で
戦車道をやってる学校には、大体兄弟校
があったり、ここみたいな共学校だと
戦車道とパイロット育成科が揃ったり
している。おかげで、『例のルール』が普通
に適応出来た訳だが。もっとも、パイロット
育成科が広まった結果多くの学校で
毎年死亡者が出る始末だがな」
「それでも国はパイロット育成に力を
入れる事を望んでいる。そのために
多くの若者が日々命を落としている。
やりきれませんね」
「そうでもないさ」
蝶野の言葉を否定するラスティモーサ。
「パイロットになろうとしたのは本人の
選択だ。周囲が止めようとも、それを
説得するか振り払ってパイロット育成科
に入ったのだとして、そして死んだの
ならそれはそいつの訓練不足や油断、
運の無さが原因だ。そこに同情なんて
必要無い。……俺はそう考えてるがな」
「……自らの選択の結果、命を落とす」
「そうだ。その程度の覚悟も無いんなら、
そいつにパイロットを目指す資格はない」
冷徹とも取れる言葉。
だが、その言葉こそが、パイロットになる
事への過酷さを現していた。
そして、蝶野にはそれが分かった。
しかし一方で、彼女は内心不安を
覚えて居た。
今度の全国大会は、異例中の異例。
そんな試合では、パイロット達と少女達が、
タッグを組む事になるのだが……。
『兵士として高みを目指し続ける男達と、
あくまでも『嗜み』として戦車にのる
女達。……それが上手くかみ合うの
かしら?』
彼女は、同じように兵器を扱いながらも
異なる目的を持つ彼、彼女らがどのように
なるのか、不安を募らせていたのだった。
その翌日。戦車道の時間になり、パイロット達
も集められたのだが……。
「あ~~。先輩方?俺目が変なんす
かね~。何か金ぴかだったりピンク
だったり、可笑しな戦車が見える
んですけど……。まさか寝不足で俺
寝てるのか?ここは夢の世界?」
「安心しろ明弘。お前は起きてる。
そして目も変じゃないぞ。俺も
同じ光景が見える」
明弘の言葉に応える和紀。
央樹も流石に絶句して固まっている。
そしてそのすぐ傍でため息をつく
ラスティモーサ。
4人の前に広がるのは、ピンク一色に
塗装されたM3。
金メッキコーティングをした38(t)。
バレー部復活と車体に書かれた八九式。
真っ赤なボディに新撰組などの旗を立て
ているⅢ号突撃砲。
唯一Ⅳ号だけは、外見は変わっていない。
しかし中には芳香剤やらぬいぐるみやら
クッションやらが置かれている。
「……過去、あれに乗って戦っていた
英霊が今のこの惨状を見たら、きっと
卒倒するだろうなぁ」
「あぁ、まず間違い無く発狂するだろうな」
明弘の言葉に頷く央樹。
リアルな軍人として訓練を積んでいる
男達からすれば、この状況は、一言で
『ふざけている』としか見えなかった。
金メッキの装甲は光を反射するから目立ち
安いし、兵器に可愛さを求めてピンクに
塗る意図が理解出来ない。同じ理由で
派手な色に塗っているⅢ突もだ。
あれでは敵に見つけて下さい、と言って
いるようなものだ。
八九式はまだマシな部類だが、それでも
バレー部復活をデカデカと主張している。
あれでは戦車道への熱意など感じられない。
更にⅣ号も同じ。兵器に快適性を
求める沙織たちに対して、男子3人は
理解することが出来なかったのだった。
更に、杏がこの勢いで試合をする、などと
言い出したのだが……。
流石に和紀や、他の2人もそれは聞き捨て
ならないものだった。
「ちょっと待ってよ先輩方」
連絡を入れるため、その場を離れようと
する桃を引き留める明弘。
「ん~?何~?」
「いや~、何って言うか。会長、ホントに
こんな戦車で試合する気ですか?」
「そうだけど?」
明弘の言葉に何の疑問も抱かずに、逆に
首をかしげる杏。
「いやいやいや~。それマジで言ってる
んすか先輩」
すると、そうこうしている内に2人の
やり取りが気になったのか、女子達が
そちらに視線を向けていたのだが……。
「だとしたら、パイロット候補として
の経験から言わせて貰うと、戦争
舐めすぎじゃね?」
「は?」
普段の飄々とした態度にも見える明弘。
だが付き合いの長い男3人からすれば、
その声色の中に怒りと呆れが混じっている
事が理解出来た。
舐めている、と言う言葉に杏は眉をひそめ、
周囲の女子達も何事か、と注視していた。
「だってさ~。こ~んな目立つカラーリング
で戦場に行ったら、悪目立ちするよね~。
これ、敵にどうぞ見つけて下さいって
言ってるようなもんだよ。迷彩ってのは
意味があるからされてるわけで、なのに
それ塗りつぶしてこんな派手で目立つ
カラーリングするってのは、やっぱ
命賭けて日々戦場に行く準備してる
俺等パイロットからしたら、
戦場を舐めてるとしか思えなくてね」
そう言うと、明弘はコツコツと38(t)
の装甲を叩いた。
「あぁもちろん責めてるわけじゃないっすよ?
だって先輩達のやってる事はあくまで
武道であって、戦争のスキルを学んでる
俺達とは根本的に違う訳ですからね。
……でもね、こんなおふざけみたいな
カラーの戦車で試合って。
まぁ俺は教官でも無いから口出しは
しませんけど、ただ一言、言わせて
もらえば……。『戦場を舐めてると
痛い目に遭います』よ?」
そう言うと、明弘は桃たちの傍を離れた。
「あはは~。ごめんね~変な事
言っちゃって」
と、彼はみほや他の女子達に、普段通り
の様子で謝るが、彼女達はどこか
戸惑った様子だった。
これこそが、蝶野が心配していた事だ。
パイロットにとって、戦場は命を賭けて
戦う場所。そこには甘さや油断、快適
等という物は存在しない。殺すか
殺されるか。極限状態の連続。油断が
死に繋がる場所。彼等は将来、そんな場所で
戦う為に死と隣り合わせの訓練をしている。
対して、戦車道の少女達にとって戦場は、
ゲームと何ら変わらない。ただ実機を
動かすだけで、撃破されたからと言って
死ぬわけではない。ゲームのように
試合が終われば、また次の試合に出られる。
ゲーム風に言えば、リスポーンが出来る
訳だ。
戦場というものに対する認識の違い。
パイロットにとってそこは命を賭けた
極限の環境だ。生きるか死ぬかの場所だ。
対して彼女達には、戦場=戦車が戦う場所
程度の認識しかない。
彼らと彼女達の間には、戦車やタイタン、
兵器や戦争、戦場に対する認識の齟齬があった。
それはとてつもなく巨大な齟齬だった。
そして……。
「あ、あの会長。やっぱり試合はまだやめた
方が良いんじゃ……」
柚子は、彼の指摘もあって試合には反対だった。
「な、何を言う!会長の決定は絶対だっ!」
それに反論したのは桃の方だ。
「で、でも戦闘のプロの清水君があぁ
言ってたんだよ?実際、彼等の方が
戦いを知ってる訳だし」
「む、むぅ」
柚子の言い分を認めざるを得ないのか、
口をつぐむ桃。
「大丈夫だって~」
その時、杏が2人の間に入って笑みを
浮かべながらそう言って宥めた。
「なんてたって、試合になったら、
『央樹達も』出るんだからさ~」
そんな彼女の言葉に、2人は一瞬
驚いてから口論を止めた。
現在の戦場において、タイタンとテロ組織
などが運用していた旧型の戦車の
キルレシオは1対20以上と言うレベルだ。
だが、それはデータでの計算でしかない。
実際にオペレーションフリーダムでの戦闘
では、中破したタイタンこそ何機かいたが、
大半は戦車との戦闘で優位に立っていた。
それもあって、戦車は古き陸の王者とされ、
タイタンこそが新しき陸の王者とされたのだ。
「大丈夫だって。パイロットとタイタンが
一緒なんだから。何とかなるって」
その言葉に、柚子はそれ以上何も言えなくなる
のだった。
一方、和紀はみほ達の傍で戦車たちを眺めていた。
その傍では、やっぱり色を塗ればよかったと
言う沙織。あんまりだと嘆く優花里。
そんな中でみほは、予想外過ぎるペイントに
『楽しい』と呟いていた。
だが……。
「認識の相違という奴だな」
そんな中でぽつりと呟く和紀。
「どう言う意味だ?」
それは傍に居た麻子にだけ聞こえており、
彼女が小さく聞き返した。
「お前達にとって戦車道、もっと言えば戦車
は嗜みの、趣味や学芸の範疇だ。
対して俺達は命がけ。戦場でのおふざけ
が地獄行きの場所だ。だからこそ合理性
や戦闘効率を第1に考える。実際、
戦場であんな目立つ格好をしていれば、
敵に『どうぞ見つけて攻撃して下さい』
と言っているようなものだ。それは、
『殺してくれ』と同義だ。……同じ
兵器を扱っているが、やる事が変われば
こうも変わるものか」
最後に、それだけ呟いた和紀はその場を
あとにした。
そして、生徒会室では今、桃が『対戦相手』
の学校に試合を申し込んでいた。
「あぁ、それから。そちらはお聞きになって
いますか?例の大会の噂」
『えぇ。正直半信半疑な所です』
「でしょうね。前例の無い話ですから。
……そこで一つ提案なのですが、
いかがでしょうか?」
『と言うと?』
「万が一噂が本当であった時のための
予行演習、と言う訳ではありませんが。
戦車とタイタンありの、異種混成
タッグマッチ、と言うのは如何でしょう?」
『それはつまり、タイタンと戦車で
チームを組み一緒に戦う、と?』
「えぇ。如何でしょうか?例の噂も
ある事ですし」
桃の言葉に、相手はしばし黙り込んだ。
やがて……。
『良いでしょう。そのお話、お受けします』
≪よしっ!≫
相手の言葉に、桃は内心笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます。それでは後日」
『えぇ、ではまた』
話し合いは終わり、桃は通話を終えた。
そして彼女は、笑みを浮かべていた。
「くくっ!勝てる!タイタンの前には
戦車など無力!これなら、万が一
我々戦車チームが全滅してもっ!
ふふふっ!」
この時、彼女は失念していた。と言うより、
『タイタンさえ一緒なら大丈夫だろう』と
高をくくっていた。
だがそうでは無かったことを、彼女は
試合で思い知るのだが、それはまだ先の
話だった。
一方、話し相手であり試合の相手でもある
『聖グロリアーナ女学院』の一室では、
3人の女生徒がお茶をしていた。
「よろしかったのですか?『ダージリン』
様。タイタンありきの試合など」
心配そうに呟いているのは、『オレンジペコ』。
この聖グロリアーナ女学院における
戦車道の部隊長を務める金髪の少女である
『ダージリン』の右腕的存在であり、
同じ戦車にのって戦う戦友だ。
「例の噂もある事だし、悪くは無いのでは
無いかしら?タイタンやパイロットとの
コンビネーションの練習など、前例が
ありませんし。練習相手にはちょうど
良いでしょう?」
「しかし。タイタンと戦車のタッグマッチ、
ですか。これは戦術を1から組み立てる
べきかもしれませんね」
そう語るのは、『アッサム』。彼女もまた
オレンジペコと同じ、この学院の
戦車道のエース的存在だ。
だが、そんな彼女達であったとしても
タイタンとの戦闘経験など無いし、共に
戦った経験も無い。
「えぇ。……ですが、楽しみですわ。
巨神の名を持つ巨人達。それと戦う
私達は言わば、ワルキューレと言った
所かしら」
そう呟くと、ダージリンは小さく笑みを
浮かべるのだった。
その後、みほ達は戦車道の練習をしていた。
隊形の組み方から移動、射撃。更には
戦車の運用など。いろいろな事を学んでいた。
そんな中で、練習試合の事を皆に伝える杏たち。
時間は今度の日曜日。相手は聖グロリアーナ
女学院である事。
「うわぁいきなり強豪とかよ」
それに呆れている明弘。
「えぇっ!?もしかして相手強いの!?」
「強いも何も、全国大会で他の強豪校と
優勝を争うトップランカーの常連。
準優勝経験もある、文字通りの強豪。
とてもド素人集団が初陣で戦う相手じゃ
無いと思いますけど?」
「その点については無論想定済みだ。
そして、問題は無い。なぜなら
お前達も参加するからだ」
「「は?」」
桃の言葉に、和紀と明弘は首をかしげると、
すぐさま集まってひそひそ話をはじめた。
「やばいっすよ先輩。あの人頭おかしいん
じゃないっすか?俺等戦車道関係無い
っすよね?戦車も無いのにっ」
「……バカなのだろうか?」
と、2人は結構ガチで桃(の頭)を心配していた。
「そこっ!聞こえてるぞ!あとバカではない!」
そう言って怒った後、桃は咳払いをした。
「んんっ!……なぜパイロットであるお前達
が参加するのか、と言う話だが、この中で
知っている者も少ない、あるいは居ない
かもしれないので説明すると。現在、
ある噂が流れている」
「はいっ。どんな噂なのですか?」
桃の発言に挙手し、発言する優花里。
「その噂というのは、近々開催される
戦車道の全国大会では、タイタンと
パイロットをチームの一部に組み込み、
参加する事を許可される、と言う物だ」
彼女の発言に皆が驚いてざわめく。
「その許可がOKとなった理由は定かでは
無いが、噂として存在している以上、
全国大会で戦車とタイタンがタッグを
組んで戦う可能性は0ではない。
そのため、万が一この噂が本当で
あった事を想定し、今度の練習試合
ではパイロット育成科の3人にも
チームの一部として参加して貰う事に
なった。無論、相手方の許可は
取ってあるから問題無い」
「戦車とタイタンが戦うって、そんな事
出来るの?」
話を聞いていた沙織が傍に居た和紀に
問いかけた。
「まぁ無理ではない。現在俺達が使って居る
タイタンは訓練用にチューンが施されている。
戦闘でダメージを受け、現実における
撃破相当までダメージが蓄積した場合、
機能停止と共に撃破の判定となる白旗が
上がる装置を内蔵している。それらも
あって各校の育成科同士の模擬試合も
無い訳ではない。元々、この撃破判定
システムは戦車道の同じ物を導入している
から、扱う砲弾や銃弾、ミサイルの炸薬を
調整すれば問題は無いかもしれないが……」
和紀の答えを周りの生徒達が聞いていた。
「でもさぁ、それってつまり、相手もタイタン
を投入してくるって事だよね?」
「え?ですが、聖グロリアーナ女学院は
女学校ですよね?そちらにもパイロット
育成科があるのでしょうか?」
明弘の言葉に首をかしげる華。
「いや。グロリアーナ自体には育成科は
存在しない。だが、同じ学園艦の上に
兄弟校である男子校が存在する。
そこにはパイロット育成科もあった。
……俺も噂を聞いた程度だが、同じ学校
でなくても、母体を同じとする兄弟校
からパイロットとタイタンを招集する
のは問題無いらしい」
華の疑問に答える央樹。
「グロリアーナの兄弟校と言えば、
『聖ゲオルギウス学院』。そこの
パイロットとタイタンとなると……。
あぁクソ。最悪だ」
和紀は、すぐさま頭の中でグロリアーナの
兄弟校の事に思考を巡らせ、そこの
パイロット育成科の『主力タイタン』の事を
思いだし、悪態を付いた。
「え!?なになにっ?!どうしたの!?
なんか不味いの!?」
「あぁ、不味い。恐らくグロリアーナの
戦車に随伴するタイタンは、『イオン級
タイタン』だ」
「い、イオン級タイタンって?」
その名の意味が分からないながらも聞き返す
みほ。
すると和紀はこう答えた。
「タイタンの中でも、戦車の天敵と
言えるタイタンだ」、と。
第3話 END
劇中、和紀達が使うタイタンはアトラスやオーガ、ストライダーですが、
それ以外の学校の生徒達は基本、タイタンフォール2のイオンやトーン、
スコーチなどを使う予定です。
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