ガールズ&パンツァー+ボーイズ&タイタン   作:ユウキ003

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遅くなりすみません。実は完成間近で一度データが吹っ飛びましてやる気を失っておりました。


第8話 顔合わせ

長い戦いの結果、引き分けという形で幕を下ろした大洗と聖グロの戦車&タイタンによる史上初の戦い。

 

そして、戦いが終わった事で、試合で攻撃を受けて動けなくなった戦車が回収され、タイタン達は再起動し各自で移動していた。

 

そして、戦い終わったパイロット達はパイロットスーツを脱いで制服に着替えると、それぞれの仲間と合流した。

 

ちなみに、戦いは引き分けで終わったので、みほ達があんこう踊りをする事は回避されていた。

 

そしてその後、みほ達は近くのモールへ行く事にした。麻子は1人『おばあに顔を見せてくる』と言って別行動になり、それに代るように和紀が彼女達と行動を共にする事に。

 

「いや~。にしても最後は凄かったね~和紀」

「ん?」

和紀のそう声を掛ける沙織。

「見てたよあれ。相手の最後の1人とこう、映画みたいにナイフで戦ってたの」

「あぁ、あれか」

ポツリと呟く和紀。

「何よ~。褒めてるんだからもっと嬉しそうにしたら~?」

ぷく~っと頬を膨らませる沙織。

 

「……悪いがあの結果じゃ喜べないよ」

「え?」

和紀の言葉にみほが首をかしげる。

 

「あれが実戦だったら敵味方双方全滅だぞ?模擬戦だから引き分けで終わった物の、パイロットとして『あれが実戦だったら?』。そう考えれば手放しでは喜べないんだよ。……俺もまだまだだな」

戦いが終わっても、やはりパイロットと彼女達では温度差があった。そのことを感じてしまうみほ。

 

そして、それを和紀も理解したのか……。

「まぁ、お前達が深く考える必要は無い。試合はとにかく終わったんだ。後は自由時間。折角陸のモールに来たんだろ?何かしたい事は無いのか?」

と、彼女達の気分を切り替えさせようとそう言って話題を変える和紀。

 

そして、この後どうするか?と話ながら歩いていた時。

『ん?』

和紀は前方で走る人力車を見つけた。

『人力車か。随分珍しい物が走ってるなぁ』

 

和紀はそれくらいの認識だったが、その人力車を引いていた男性が彼等、正確には華に気づくと彼等の方へやってきて、華を『お嬢』と呼んだ。

 

「華、知り合いか?」

「はい。私の家に奉公に来ている新三郎と言います」

『奉公って、随分古い言い回しだなぁ』

 

と、和紀が考えているとその新三郎が引いていた人力車から妙齢の女性が降りてきた。和紀は黙って見護っていたが、優花里が口を滑らせてしまって、華が戦車道をしていると知ると、その女性、華の母親である『五十鈴 百合』は何とその場で失神してしまったのだった。

 

その後、彼女を実家に運び、更に華と共にみほや和紀まで彼女の家にお邪魔していた。

 

「戦車道の事、親に言ってなかったのか?」

「……えぇ」

部屋の隅で立っている和紀からの問いかけに、静かに頷く華。

 

「……戦車道に、偏見があるからか?」

「分かり、ますか?」

「さっきの反応を見ればな」

 

と、そうこうしている内に、百合が目を覚まし新三郎が華を呼びに来た。そして2人が話をしているのを、廊下で聞いていたみほ達と和紀。

 

そして話を聞いていれば、『力強い花を生けてみたいたい』とする華の言葉に対して、百合は『素直で優しいあなたはどこへ行ってしまったの』、とまるで華が反抗期だと言わんばかりの言葉を投げかける。そして、その責任がまるで戦車道にあると言わんばかりに戦車道や戦車を侮辱する百合。

 

すると……。

 

「傲慢だな」

 

襖を開けて中に入る和紀。みほや沙織たちの制止を振り切り、中に入る。

「お客人、困ります勝手に!」

新三郎がそれを止めようとするが……。

 

『ギンッ!』

「うっ!?」

有無を言わさぬ和紀の鋭い視線に、何も言えなくなってしまった。

 

そして、静かに華達の方へ歩み寄る和紀。

「自分の娘が、自分の敷いたレールから外れる事がそんなに我慢ならないか?」

「何ですって?」

「今のアンタの言葉が正にそうだ。自分が望んだ通りに娘が動けば喜び、外れればまるで反抗期と言わんばかりの態度。……娘だから自分の言う事を何でも聞くと思ってるのなら、そいつは親の傲慢、思い上がりだ」

「ッ!何ですかあなたはっ!他所の家の事情に口を出してっ!」

「他人だからこそ指摘出来る事もある。何より、俺はアンタの娘さんの友人のつもりだ。だから彼女の好きなようにさせてやりたい。それだけだ」

 

「華さんの友人、ですって?あなたは一体……」

「申し遅れたが、大洗学園。パイロット育成科2年。大代和紀だ」

と、和紀が名乗ると百合は驚愕し、更に和紀を睨み付けた。

 

「未来の殺人鬼が、我が家のしきたりに口を出すなど100年早い事ですっ!」

「ッ!お母様今のは言い過ぎで」

「華さんはお黙りっ!」

そう言って華を遮る百合。

 

「私は鉄と油の臭いよりも、更に血の臭いが嫌いです。そんな場所で好き勝手に暴れるだけの兵士など……。即刻我が家から出て行きなさい!ここはあなたのような殺人鬼がいて良い場所ではありませんよ!」

「ふんっ、俺も言いたいことは言わせて貰った。そうさせて貰う」

 

そう言うと、和紀は1人華の家を後にした。そしてその後、華本人も百合より勘当されてしまうのだった。

 

そして夜。みほ達が学園艦に戻ると1年生チームが謝りに来たり、ダージリンから紅茶が送られてきたりしていた。そんな中、帰路に就く華。

 

しかし、彼女が歩いていると前方に和紀を見つけた。

「ッ、和紀さん」

「よぉ」

そう言って声を掛ける和紀。すると、華はすぐに頭を下げた。

 

「すみません和紀さん。私の母が、失礼な物言いをしてしまって」

「いや、良いんだ華。気にするな。……パイロットが未来の殺人鬼という表現は可笑しくはない。俺達は時が来れば戦場へ行き、殺し合いをする。分かりきっている事だ。だから顔を上げてくれ」

 

そう言って華に頭を上げさせる和紀。

「むしろ、こっちこそ悪かったな。2人の問題に首を突っ込んであ~だこ~だと」

「いえ。それは良いのですが、どうしてあの時、あんな事を?」

華の質問を前に、和紀は近くの電柱に背中を預けた。

 

「俺達パイロット候補生は、自分の意思でこの道を選んだ。死ぬ事も覚悟の上でな。俺もそうだ。自分の意思で、この道を選んだ。……だから、かもな」

「え?」

「……誰かに何かを強要するって言うのが、俺は許せないんだよ。あの時の、お前の母親はお前に道を強要しようとした。それが俺は許せなかったんだ」

 

そう言って夜空を見上げる和紀の横顔を華は静かに見つめていた。

「それより、みほ達からメールで聞いたよ。勘当、されたらしいな」

「……はい」

「すまない。俺が余計な事をしたばっかりに」

「いえ。これは和紀さんのせいではありません。多分、和紀さんがあの時前に出なかったとしても、私はきっと勘当されていたでしょう」

 

「……今後の宛はあるのか?」

「お金のことをご心配でしたら、大丈夫です。今すぐどうこうと言う事はありませんので」

「そうか。……まぁ、何かあったら頼ってくれ。俺もアルバイトとかはしてないし、親からの仕送り生活だが、パイロット候補生は災害派遣とかがあると、かり出されて国から少ないが給料も出てる。だから、華1人くらいなら何とか出来ると思うから。本当にヤバくなったら遠慮無く頼ってくれ」

 

その言葉に、華は少しばかり顔を赤くした。

「本当に、よろしいのですか?」

「あぁ。俺に出来る事ならな」

そう言って笑みを浮かべる和紀。

 

「実を言うと、俺。学園に入ってから友人が出来なくて困ってたんだ」

「え?」

「周りは殆ど女子。男の同級生は居らず、上級生の央樹先輩とラスティモーサ教官くらいしか男の知り合いはいない状況で、結局女子とどう接して良いか分からず気がつけばボッチのまま2年生になって。そんな時、お前達に声を掛けて貰えて、内心嬉しかった。……だからその、初めて出来た友人の悩み。聞いてやらないとな」

そう言って、和紀は最後に顔を赤くした。それを見て華は少しばかりキョトンとした後。

 

「ふふっ。では、何かあった時はお願いしますね、和紀さん」

「あ、あぁ。俺に出来る事なら協力する」

こうして、二人は密かに仲を深めたりしていた。

 

 

一方、夜の学校の倉庫。そこを訪れて居た者がいた。それは1年生チームのリーダーでもある梓。昼間の試合で情けなくM3から逃げ出したことを先ほどみほ達に謝ったばかりだが、やはり負い目を感じていたのか1人ここを訪れたのだ。

しかし……。

 

「あれ?明かりが」

梓は倉庫から光が漏れている事に気づいて、恐る恐る中に入った。そして周囲を見回すと、奥の方で起立していたタイタンの足下に人影があった。

「ん?」

梓が中に入ると、人影、明弘は彼女に気づいて振り返った。

「何だ梓か。どうしたんこんな時間に」

「あ、えっと、その、戦車を見に来たんだけど、明弘君は何を?」

「何って、相棒の整備」

明弘はそう言って後ろのストライダーを指さす。

「整備って、こんな時間まで?」

「あぁ、かれこれ数時間はな」

そう言って、明弘は工具を持つと足回りの点検を始めた。

 

「整備って言うけど、実際は簡易的な物だけどね。流石にパイロットと言えど、専門のメカニックほどの知識と経験は無いからな」

「そうなんだ。でも、だったらどうして?こういうのを専門にしてる人達って居るんでしょ?」

「あぁ。まぁ居るに居るけど。……けど、だからって俺達が整備を怠って良い理由にはならないからな」

 

「そう言う物、なのかな?」

「……じゃあ逆に聞くけど、戦車道の皆は違うの?」

「え?」

明弘の言葉に疑問符を浮かべる梓。明弘はストライダーを見上げる。

 

「俺達にとってタイタンって言うのは戦場で一緒に戦うパートナーみたいな存在だ。戦場の甘いも酸いも一緒に経験し、いざって時は、『一緒に死ぬ』存在だ」

「ッ!」

普段の飄々とした様子からは離れた、どこか冷たい明弘の言葉に梓は息を呑んだ。

 

「戦場で一番傍に居る相棒。それがパイロットにとってのタイタンだ。けど、じゃあ戦車道をやってる梓たちにとって戦車って何?ただの鉄の塊?乗り物?」

「それ、は……」

梓は何も言い返すことは出来なかった。戦車道を始めたばかりの彼女達にとって、戦車は所詮戦車。道具か何かでしかない。だがパイロットである明弘たちは違う。

 

彼等にとってタイタンは戦友、相棒、パートナー、苦楽をともにする存在。言うなれば、戦場という舞台を共に舞う伴侶のようなもの。時には共に死する可能性さえあるのだ。

「……少し前から思ってたんだ。西住さん以外の戦車に対する対応って言うか、距離感?考え方って言った方が良いか?……そう言うのもまた、俺達パイロットとは差があるんだよ」

「差?」

「そう。差。……俺達にとってこいつらは自分の命を預ける唯一無二の戦友。でもさ、戦車を自分達のカラーで染め上げたりしてたあの時の皆を見て思ったんだよ。皆は戦車を相棒として見ていないって」

「……」

梓は明弘の言葉に何も言えない。

 

「……俺が戦車道に口出しする気はあんまり無いんだけどさ。もうちょっと相棒の事を考えてやったら?これから先、戦車って言う相棒に乗って戦うんだからさ」

「戦車が、相棒」

「そっ。相棒は大事にしないとね」

 

それだけ言うと、明弘はストライダーの整備に戻っていった。残された梓は、しばしM3リーを見つめると、その車体に触れ『逃げて、ごめんね』と小さく謝り、その場を後にしたのだった。

 

 

それから数日後。みほ達は戦車道の全国大会の抽選会場へと来ていた。そして、事前に予想されていた通り、今回は特別ルールとしてタイタン及びパイロットの参加が認められる事になった。各校は、学校法人を同じとする兄弟校などからタイタンとパイロットに参加を要請することが可能となっていた。これで、大洗のように共学校では無くともタイタンとパイロット達が参加出来る事になった。

 

そして、抽選の結果、大洗は最初から強豪の一角と言われる『サンダース大付属校』と戦う事が決定してしまった。

 

 

その後、みほ達は抽選会場からほど近い戦車喫茶に足を運んでいた。みほ達以外、杏たちは既に先に戻っている。ここに居るのはみほ達5人と和紀だけだ。そして周囲を見回せば、同じく会場にいた制服姿の女子達が大勢いる。そんな中で、肩身が狭いのか男達、恐らくパイロット育成科の男子生徒達が目立たないように俯きながら女子達と相席していた。

 

そして注文を頼み終えた後の事だ。

「そう言えば、先生ってここで合流だっけ?」

「あぁ。何でも昔なじみが近くに住んでるらしくて、顔を出してくるって言ってたぞ」

首をかしげる沙織に説明する和紀。

 

先生とはもちろんラスティモーサの事だ。

 

そして、頼んだケーキが届き食べ始める前だった。

「ごめんね。一回戦から強いところに当っちゃって」

そう言ってみほは他の面々に向かって謝った。

 

すると……。

「気にするな」

それを真っ先に和紀がフォローし、彼は頼んでいたコーヒーに口を付けた。

「くじ引きは運と確率だ。計算は出来てもそこに絶対ってのは存在しない。それに、決まった事を今更悔いても仕方無い。今考えるべきは、サンダースとどう戦い、どう勝つか。そうだろ?」

「和紀君。……うん、そうだね。ありがと」

みほは和紀の事を見つめ、少ししてから笑みを浮かべた。

 

「それにしても、サンダース大付属校というのは、そんなに強いのですか?」

「強い、と言うより凄くリッチな学校なんです。だから戦車の保有台数も全国一位なんです。チームも一軍から三軍まであるみたいですよ」

首をかしげる華に優花里が答える。

 

「でも、一回戦に出られる戦車の数は10輌までだから。タイタンの方も5機までだし」

「いやいや、10輌ってウチの倍じゃん。タイタンだって向こうの数の方が多いんだし、勝てるの?」

「……そこは戦術と戦略とチームワークでどうにかするしか無いだろ」

『最も、そのどれもが相手より劣っているのが現状かもしれないが』

沙織の言葉にそう返す和紀。

 

 

その後、沙織が話題を変えて、みほがケーキを食べようとしたその時。

「副隊長?」

 

彼女達に声を掛ける人間がいた。そこに居たのは、みほの『元チームメイト』である『逸見エリカ』と、みほの『姉』でありみほの古巣、『黒森峰女学園』の戦車道の隊長である『西住まほ』。そしてその後ろに控える2人の男子。

 

エリカは、みほの存在を侮辱するような言葉を投げかけた。

「無様な戦いをして、西住流の名前を汚さない事ね」、と。

 

それに華たちが反論するよりも早く。

 

「おいおい。人の可愛い教え子に随分な物言いじゃ無いか」

 

男の声が響いた。そして、その場に居た多くの男子達が、直後に目を見開き、声のした方へと視線を向ける。

 

「ら、ラスティモーサ先生」

みほの視線の先にいたのは、教官であるラスティモーサだった。

「はぁ?誰ですか?あなたは」

エリカは怪訝そうな表情で彼をにらみ返す。

 

「なに。俺は彼女達の教官みたいなものさ。ここで待ち合わせをしていたので来てみれば、礼儀を知らない小娘が、俺の教え子にいちゃもんを付けていたからな」

「ッ」

ラスティモーサの言葉に、エリカは密かに息を呑み、舌打ちをする。更に……。

 

「あらそうですか。なら彼女達の教官だというあなたに一言言っておきますけど、こんなド素人の集団が戦車道の試合に出ることこそ、失礼だとは思いませんか?」

そう言って、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらラスティモーサとみほ達に視線を向けるエリカ。しかしその後ろでは、男子の1人が顔色を真っ青にしていた。

 

「大体、なぜ戦車道の教官が男性なのですか?戦車道の教官を雇うお金も無いのですか?であれば、そこにいる彼女達の実力などたかがしれて……」

 

「あぁもうバカっ!!」

 

エリカが相手をこき下ろしていると、後ろにいた男子の1人が彼女の頭を掴んで強引に下げさせた。

「痛っ!?ちょ、何すんのよっ!?」

「それはこっちの台詞だよっ!?逸見さんも言葉を選んでっ!死にたいんですか!?」

「はぁっ!?だからどう言う意味よっ!?」

 

ワーギャーとやり取りをする2人。するともう1人の男子が2人の前に出て、ラスティモーサの眼前で敬礼をした。

 

「連れが大変失礼しました、大尉。どうかご無礼をお許し下さい」

そう言って頭を下げる姿に、エリカが目をパチクリさせる。しかし戸惑っているのは、事の次第を見守っていたみほや、騒ぎに目が向いていた周囲の女子達だ。

 

しかし、そんな中で男子達だけは、先ほどまでの肩身の狭い思いなど、どこ吹く風と言わんばかりにラスティモーサに注視していた。

 

「このような場所で、まさか大戦の英雄であるラスティモーサ大尉に出会えるとは驚きです」

「大尉は止めてくれ。俺はもう軍を引退した身だ」

「そうはいきません。ナンバーズに名を連ねる大尉は俺達パイロット候補生にとって英雄であり目標。それを前にして礼節を欠く事は出来ません」

「ふっ。真面目だなお前は。……名を聞いておこう、パイロット」

 

「はっ!このたび、黒森峰女学園の援軍として兄弟校のパイロット育成科より出向が決定しました、『安達(あだち) 幸広(ゆきひろ)』と申しますっ!」

 

「安達幸広。聞いた事があるぞ。軽量級のノーススターを操り、自身も癖があるクレーバーを使った長距離狙撃を得意とする候補生。『鷹の目』、『ホークアイ』の異名を持つ2年生がいると。……お前の事か」

「はっ!大尉に名を覚えていただけるとは、光栄でありますっ!」

 

幸広はビシッと背筋を正す。

「ね、ねぇちょっと和紀っ。なんであの人先生にあんな感じなの?訳わかんないんだけど……っ!」

その時、状況が理解出来ない沙織が和紀に小声で声を掛けた。すると、和紀が答えるよりも早く……。

 

「たは~。やっぱり女性陣は知らないかぁ」

彼女達と和紀たちの近くに、見覚えの無い男子が立っていた。背丈や制服を着ている事から学生である事は誰もが分かるが……。

 

「だ、誰……!?」

突然現れた男子に戸惑う沙織。みほ達も半ばハテナマークを浮かべている。一方で……。

 

「ッ、その制服。まさか……」

「へへっ。ご明察♪」

相手に鋭い視線を向ける和紀と、対してその男子は笑みを浮かべながら右手でピースサインを形作る。

 

そして……。

 

「タイ・ラスティモーサ大尉。元ベテランパイロット」

男子が周囲にも聞こえるようにラスティモーサの事を話し始めた。そして、安達やまほ、更にエリカや周囲で様子を見ていた女子達やパイロット候補生達までもが彼に視線を集めた。

 

「今から10年以上前の、テロリズム壊滅を目的として行われた大規模な軍事行動であるオペレーション・フリーダム。この作戦は、あちこちで行われた。中東の砂漠。東南アジアや南米のジャングル。時には先進国の都市でも。パイロットとタイタン達はテロ殲滅のために世界中を駆け巡り、そして戦った。……パイロットの戦闘力は一般的な兵士と比べものにならない。それだけパイロットは強かった。……でも、この戦争の中で異彩を放つパイロット達の中で更に、抜きん出た戦果を残した10人の伝説級のパイロットたちが居る。後に人々は、その10人を指してナンバーズと呼ぶようになった。……そして今、俺達の前に居る大尉こそが、そのナンバーズの1人にして、第3位の実力者って事さ。つまり大尉は、百戦錬磨の英雄であり、世界で三番目に強いパイロットって事」

 

『『『『ざわざわ』』』』

彼の言葉に、周囲にいた女子達がざわめき出す。

「やれやれ。どうしてこいつと言いお前と言い。俺の過去を話したがるんだ?俺はもう引退したロートルだぞ?……と言うか、お前の名前は?」

「これは失礼しました大尉。私はサンダース大付属高校、パイロット育成科2年、『東洞(とうどう)隼斗(はやと)』と申します。以後、お見知りおきを」

「ッ!?サンダースって、確か私達の1回戦の相手じゃ……!?」

相手の素性を聞き、戸惑う沙織。

 

「そゆこと♪……まぁでも、こんな場所で大尉に会えるとは予想外でした。けど、正直良かった。……大尉の教え子となれば、旧型だろうが数が少なかろうが、油断なんて出来ませんからね」

 

そう言って隼斗は和紀を睨み付け、和紀もそれに応じてにらみ返す。すると……。

「そんな寄せ集めの連中が強いとでも?」

エリカが隼斗に声を掛けた。

 

「聞いてるわよ?大洗のタイタン部隊は、旧型機が3機だけ。戦車道のチームだって、素人同然だって」

そう言って、エリカはどこかみほ達を見下すような視線を向けるが……。

 

「分かって無いなぁお嬢さんは」

沙織達が反論するよりも先に、隼斗がやれやれと言わんばかりに苦笑しながらそう言った。

「ッ、どう言う意味よっ!」

 

「実は、大尉にはナンバーズ第3位である事と同じくらい、圧倒的な功績があるのさ」

「は?功績ですって?」

「そう。……ナンバーズ第1位。つまり世界最強のパイロットの名は、『ジャック・クーパー』。オペレーション・フリーダム中期から後期に掛けて活躍した、今やパイロットを目指す者ならば誰でも知っている最強のパイロット。俺達にとっての憧れのような存在。……でも、ここで重要なのは『誰が』彼を育てたのか、だ」

 

と、隼斗が口にしていると……。

「クーパーか。懐かしい名前だ。あいつは今頃何やってるのやら」

ラスティモーサがどこか懐かしむような表情を浮かべている。

 

そして、数秒してエリカは。そして周囲に居た女子達は理解した。

 

「おっ?みんな分かった感じ?なら、言わせて貰うけど……。今俺達の目の前に居る人は、世界で3番目に強い人であり、同時に世界最強のパイロットのお師匠、教官、先生って訳さ。分かる?」

 

そう言うと、隼斗はどこか凶暴な笑みを浮かべながら……。

 

「俺達の敵の先生は、文字通り世界最強の教官って事さ。油断なんかしてたら、寝首を掻かれるのはどっちかな?それに、『窮鼠猫を噛む』って諺がある。弱いと思ってると、『死ぬ』よ?」

「ッ!?」

 

最後の最後、隼斗の笑みと、そして一瞬の殺意と敵意を乗せた言葉にエリカは『ゾクリ』と背筋を震わせる。

 

数秒して、隼斗は安達に指鉄砲を作り、向ける。

「鷹の目、ホークアイ。更にプラウダに聖グロ。どこも兄弟校とかから俺や君と同じ『二つ名』を持つパイロットを引っ張ってきた。当然、知ってるでしょ?」

「当たり前だ。それくらい調査済みだ」

 

次第に、カフェの中にピリピリとした緊張感が満ちてきた。安達や隼斗は飄々としているが、エリカに頭を下げさせた1年の生徒や和紀、更にそれ以外のパイロット候補生達の男子達も、目を鋭くし警戒心を引き上げる。

 

そんな中で大半の女子達は、自分達の隣や傍で敵意と警戒心を剥き出しにする彼等に、半ば怯えていた。

 

しかし……。

 

「おい阿呆ども。ここで近接格闘術の訓練でもする気か?」

 

不意に、ラスティモーサが2人の間に立って仲裁をはじめた。

「いやいやまさか」

すると隼斗は笑いながら手を下ろし、安達もそれに呼応して敵意を下げた。

 

「いや~ごめんなさいね~。ちょ~っと悪ふざけが過ぎちゃいましたわ~。じゃあ、俺はこれで」

そう言って隼斗は踵を返して歩き出した。しかし、和紀の傍を通り過ぎた時。

 

「楽しみにしてるよ、君たちとの試合」

 

隼斗は和紀にだけ聞こえるように小さく呟くのだった。隼斗はそれだけ言うと、連れらしき女子達に一言言って店を出て行った。

 

 

そして結局、みほ達は呆然とした後、ラスティモーサに声を掛けられるまでずっと呆けてしまっていた。しかし、彼が一緒である事で注目を集めていた彼女達は、結局頼んだケーキを早めに食べ終えると和紀とラスティモーサを伴って店を出た。

 

 

だが、そんな中であの店に居た戦車道を嗜む少女達は、共通の思いを抱いた。

 

それは、『彼等が自分達との違いすぎる存在』と言う現実だった。そして少女達は更に思う。

 

『これから先、彼等と一緒に戦っていくのか』と。

 

 

始まる全国大会。それは、鋼鉄の巨神と鋼鉄の獣が入り乱れる乱戦になる事を、知る者はいない。今は、まだ。

 

     第8話 END

 




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