「お、お待ちください!名付けとは本来に大変な危険を伴うものなのですよ!?」
「そうです!それこそ高位の魔物への名付けは、時に死を迎えてしまう事もあるのですよ!」
桃髪と淡藤髪の2人が、俺達が名をあげると告げた瞬間、鬼気迫る表情で説得してきた。
多分、2人が言っているのは、前の名付けの時に俺とリムルがぶっ倒れた状態の事を言っているのだろう。
確かにこの8人は当時のリグルド達より圧倒的に強いので、1人で8人に名付けをすれば危険だろうが、俺とリムルはそれぞれ4人ずつに名をあげるから大丈夫だと伝える。
それでも尚、反対しようとした2人だが、赤髪がそれを止めた。
「異論などありません。ありがたく、頂戴致します」
依然して不安そうな表情だが、彼の言葉を受け、2人は納得してくれたので、俺達は名付けを始めた。
「・・・・・ね。」
「しか・・・・・大丈・・・・か。」
なんか・・・・声が聞こえるな。なんだ?俺、いつの間に寝ていたんだ?
「あれから一晩経ったけれど・・・」
「大丈夫でござる!ジン様とリムル様ならすぐにお目覚めになられると思うでござる!」
眼を覚ますと、2人の美人が俺の顔を覗いていた。
・・・・なんだろう。こんな事、前にもあったような・・・たしか、リムルがいた世界ではこういうのをデジャブと言うんだったか?
「あ!ジン様!お目覚めになられたでござるか!」
「ジン様、おはようございます」
「あ、ああ・・・おはよう」
体を起こして周りを見ると、そこには更に2人の美人がリムルを抱えている。
え・・・誰だ?いや、たしかオーガに名付けをしようとした所の辺りは記憶に残っているのだが・・・・まさか。
「お目覚めになられたか。ジン様、リムル様。」
声が掛かってきた方を見ると、赤髪の男がこちらに歩み寄り、俺達の前で膝をついた。
「・・・・お前、オーガの若様だよな?」
「はい。今は
リムルからの問いにベニマルが答えたところで思い出した。
俺とリムルで4人ずつ名付けを終えた途端、いきなり
《告。上位の魔物に名付けを行った場合、それに見合う量の魔素を消費します》
つまり、俺達はそれぞれたった4人に魔素のほとんどを持っていかれたという事か。
そうなるならもっと早く言って・・・・いや、そういえば、エンカに名付けをした時も、ゴブリン達に名付けをした時より、魔素を持っていかれた感覚があったな。
それにしても、鬼人ねぇ・・・・・名付けをする前と比べて、だいぶ若々しくなっている。
ベニマルは太く白かった二本の角は漆黒に染まり、洗練されたかのように鋭くなっている。
大柄だった体格が一回りほど小さくなっているが、身体は以前より引き締まっており、内に秘めた
これはあれだな。リグルドショック(リムル命名)か。
「リムル様、
「ジン様!拙者は
桃髪の少女のシュナはオーガの姫様で、ベニマルの妹の1人。二本ある角の色はかわっていないが、名付け前よりも細く鋭くなっている。
そして緋色髪の少女のヒヨはベニマルのもう1人の妹で、シュナの妹でもある。ベニマルと同じように二本の角は漆黒に染まっており、長い緋色髪は艶に満ち、その瞳はどこか、武人としての気質とまだ好奇心旺盛な子供のようなものの両方を感じる。
「
「私は
紫髪の女性はシオン。名付け前より野性味が薄れて知的な雰囲気がなり、額に生えた黒い一本角が髪を左右対称に分けている。
淡藤髪の女性はアワナミ。シオンの妹だそうだ。シュナ達と違い、髪を束ねずに後ろに流していて、落ち着いた雰囲気で優しい瞳をしており、額には、黒く鋭い一本角が生えている。
因みにシオンとアワナミは、名付けをする前から角が黒かった。何か違いがあるのだろうか。
「ベニマルの後ろに控えているのは、ジンが名付けをした、俺の腕を斬り飛ばしてくれた爺さん」
「
「ほっほっほ。いじめてくださいますな。不意打ちを悟られたどころか、一瞬で再生され、焦ったのはこちらでしたぞ」
ハクロウはかなり若返っているように見える。足腰もしっかりしていて、眼力はより鋭くなっている。伸びた髪は総髪にしており、額からは二本の小さな角が生えている。戦った時よりも、ソードマスター達のような雰囲気を感じる。
若くなったのも、進化の影響かな?リグルドがそうだったし。
「鬼人ねぇ・・・・」
リムルがそう呟くと、テントの入り口から、1人の男性が入室してきた。
「鬼人とは、オーガの中から稀に生まれるという上位種族のことです。一度に8人もの鬼人が誕生するなど、前代未聞の事です」
「お前は確か・・・・」
「リムル様より、
ソウエイはベニマルと同年代との事だ。浅黒い肌と青黒い髪、額の中心からは、白い一本角が生えている。
「・・・あれ?もう1人はどうした?」
人数が足りない事に気付いた俺がベニマルに聞くと、
「ああ、ヤツはカイジン殿の工房に入り浸っていて・・・お、来ました」
テントの入り口の向こうから、こちらに向かってくる人影が見えた。
「リムル様、ジン様。元気になって良かっただよ。分かっかな。オラ、
クロベエは、俺が名付けをしたオーガだ。あまり顔つきなどは変わっていないが、大柄な体格は、ベニマルと同じように一回りほど小さくなり、引き締まった体型になっている。
しかし、ベニマルだけかと思いきや、よく見たら全員の魔素量がAランクオーバーだった。そりゃあ、たった4人で魔素を全部持っていかれるわけだ。
一方、リムルとジンが、ベニマル達と交流を深めていた頃、ジュラの大森林に起こった異変は、確実に侵食を続けていた。
ジュラの大森林の中央に位置する湖、シス湖。このシス湖の周辺に広がる湿地帯は
湖周辺には無数の洞窟が存在し、それは天然の迷路と化しており、踏み入る者を惑わせる。そして、その迷路の奥深くにリザードマンの根城である地下大洞窟が存在した。
こうした地形の利に守られ、リザードマンは湖の支配者として君臨、繁栄していたのである。
だが、平和というものはいとも容易く壊れる物。
その日、リザードマンにもたらされた凶報が、彼等の今後を左右する重大な事変の幕開けとなったのである。
「どいてくれ!」
リザードマンの根城のとある部屋に、数人のリザードマンの戦士が、その部屋を守っている戦士を押し除けて、部屋に入る。
「ほ、報告します!」
「騒がしいな。一体どうしたと言うのだ。」
部屋の奥には玉座があり、そこには、リザードマンの首領が座っており、周囲には、側近である部族長達や、首領の娘でもある親衛隊長とその部下がいた。
「シス湖南方にて、オークの群勢を確認!我らリザードマンの領域への侵攻と思われます!」
「オークだと?」
オークが進軍して来るという報告を受けた首領だが、慌てる事なく告げる。
「戦の準備をせよ!豚如き、蹴散らしてくれるわ!」
彼には絶大な自信があった。凶暴なリザードマンは単体でもC+ランク。戦士長クラスならばB−相当であり、中にはBクラスにも相当する個体もいる。
そんなリザードマンの戦力である戦士団、その数1万。
部族の半数が戦士として参加した場合での数字であるが、その戦力は決して低くはない。むしろ、非常に高いのだ。
通常、この世界の一般的な小国の騎士が完全武装した状態の強さが、C+ランクに相当するのだが、各国の人口比率において、軍隊が占める割合は多くても5%以下、戦時下でもない限り1%程度に留めるのが普通である。
つまり、リザードマン特有の連携で一団となって戦う1万もの大軍は、人口百万にも満たない小国の国家戦力を軽く凌駕しており、しかも自分達に有利な土地での戦いだ。負けるはずがない。そう首領は確信する。
「それで、数はどのくらいなのだ?」
「・・・・・・・・・・」
親衛隊長が、報告してきた戦士に尋ねる。
この時の首領には気になる事があった。
元々オークは弱者には強く出るが、強者には決して歯向かわない種族の筈。リザードマンは決して弱者ではなく、このジュラの大森林において強者に位置する種族だ。
ゴブリンに対しての進軍ならば分かるが、何故、リザードマンを恐れずに攻めこんで来るのか。そうした疑問が首領にはあった。
豪胆な性格ではあるが慎重さも兼ね備え、そうした豪気と用心深さを併せ持っているからこそ、首領はリザードマンの群れを統率する事が出来ているのだ。
「どうした?オーク共の数はと、聞いている。」
親衛隊長からの問いに答えずに顔を俯かせている戦士に、親衛隊長が答えるようにもう一度問う。
「そ、それが・・・・・オークの群勢、その数およそ40万・・・」
その内容に場の空気が凍りつく。
「馬鹿な!我々の40倍もの群勢だと!?」
親衛隊長の叫びに、戦士は慌てて答える。
「ワタシにも信じられませんでした!ですから、『魔力感知』と『熱源感知』で何度も確認したのですが・・・・間違いありませんでした」
「・・・・事実なのか?」
「この命にかけて、真実であります!」
首領の問いに戦士が応じた。
「そうか・・・下がって休むが良い。」
「はっ」
戦士が退室すると、部屋は側近達の話で騒がしくなる。
「有り得ん・・・!40万だと・・・・・」
「そもそも奴らは勝手気ままで協調性のない連中だ」
「40万などという途方もない数を統率などできようはずもない!」
「食糧なんかは一体どうしていると言うのだ。それほどの数の群勢を支えるほどの食糧を、そう簡単に賄える筈がない!」
「・・・・噂ですが、オークの群勢がオーガの里を滅ぼしたとか」
「「なんだと!?」」
「与太話と思っていたのですが、力では劣っていても、数で圧倒したと言うのならあるいは・・・・・」
「信じられん・・・・一体何故、こうも急に力を・・・?」
40万もの群勢を統率し、オーガの里をも滅ぼせる存在に、首領は心当たりがあった。
「
「「「!!」」」
その呟きに、側近達や親衛隊長の視線が首領に集中する。
「40万もの群勢を纏め上げているオークがいるのならば、伝説の
「「「・・・・・・・・」」」
首領のその言葉の意味を正確に理解した者達が沈黙した事により、地下の大洞窟は静寂に包まれていった。
首領の側近達、リザードマンの各部族の代表を務める部族長達であるからこそ、その可能性を頭から否定は出来なかった。
伝説として語り継がれているオークロードならば、40万もの大軍を率いる事も可能だと考えれるからだ。
「・・・・・まだ、可能性の話だ。だが、打てる手は全て打つべきだな」
そう言うと、首領は椅子から立ち上がり、声を上げる。
「息子よ!我が息子はおるか!?」
「ここにおりますよ」
部屋の入り口から、1匹のリザードマンが入ってくる。
そのリザードマンの『名』はガビル。リザードマンの戦士長の1人であり、首領の息子であった。
「親父殿。その呼び方は些か無粋ではありませぬか。吾輩にはガビルというゲルミュッド様から頂いた名前があるのですから」
「呼び方などどうでもよかろう。それよりも、お前にやってもらいたい事がある」
「・・・・伺いましょう」
「オークロード?なんだそりゃ。」
俺は木刀を持って、迫りくる斬撃を避けながら、ベニマルに聞き返した。
「まぁ、簡単に言うと・・・・化け物です。」
「おい、簡単すぎだろ。って事は、今俺達の目の前にいるジンとハクロウもオークロードか?」
俺達の視線の先には、今し方、木刀で近くの木を斬り飛ばしたジンとハクロウがいる。
「ああ、あの2人も似たようなもんですね。」
「ホッホッ。言ってくれますな。稽古がしたいと望まれたのはリムル様でありますのに」
「それにお前も人の事は言えないと思うぞ、リムル。さて、次はどうするか・・・・」
「俺、ちょっと休憩」
「仕方ありませんのう。お主らはまだ続けるぞ」
「「「えーーーーっ!?」」」
「ジン様!早く続きをお願いするで御座る!」
「わかったよ。・・・ヒヨ、お前まだ余裕があるな。さっきより少し早く打つからな」
「!!わかり申したで御座る!いつでも来てくだされ!」
「よし!その意気だ!」
ハクロウはゴブタ達に、ジンはヒヨへと再び稽古を始める。
剣術とかを学びたいと言ったらこの有り様。まさに鬼コーチ。ジンも同じくらいのスパルタというか、実戦でした方が早く身につくと言い出したのにはびっくりした。
どうやったら木刀で斬撃を出したり出来るんだよ・・・・・
ハクロウ曰く、知恵さえ有れば魔物にも習得できる、
あ、ゴブタ達がハクロウに吹っ飛ばされた。後ろから不意打ちを仕掛けたりしているが、軽く迎撃されている。
ジンとヒヨの方はもっととんでもない。ジンの木刀は、アイツがよく使う太刀の大きさに合わせているが、それでもヒヨの持っている練習用の木製の槍の方がリーチ差があるにも関わらず、全ての攻撃を止め、受け流し、ヒヨの方が一方的にボコられている。
まぁ、倒れてもゴブタ達と違ってすぐに起き上がり、試合を続けている。というかめっちゃ目が輝いている。あれを楽しんでいるのか?
おっと、そんな事よりオークロードについて聞かないと。
「まぁ、さっきのは冗談ですが。オークロードというのは、数百年に一度生まれるというオークのユニークモンスター。オーガで言う所の今の我々のようなものです。なんでも、味方の恐怖の感情すら喰らうため、異常に高い統率能力を持つんだとか」
「うへぇ・・・・」
感情も喰うって、どんな奴だよ。
「里を襲ったオーク共は仲間の死にまるで怯むことがなかったので、あるいは・・・と思いまして」
「なるほどな・・・・・」
「まぁ、可能性でいや非常に低い話です」
「ふーん・・・・里が襲われた理由に関しては、他に何かないのか?」
「・・・・そうですね。関係あるかはわかりませんが、襲撃の少し前にある魔人が里にやって来て、『名をやろう』だとか言って来たんです。まぁ、あまりにも胡散臭かったので、俺を含め、全員から突っぱねられて、結局、悪態を突きながら帰って行きましたがね」
「魔人ねぇ・・・・・もしかしたら、そいつから恨みを買っているかもしれないって事か」
「仕方ありませんよ。主に見合わなけりゃ、こっちだって御免だ。名を貰うのだって、誰でも良いという訳では無いのですから」
それを聞いて、俺は嬉しく思った。
「それで、そいつの名前はなんなんだ?」
「なんて名前だったかなぁ・・・たしか、ゲレ・・・ゲロ・・・ゲリュ・・・」
「ゲルミュッドだ」
「そう、それだ」
名前を上手く思い出せなかったベニマルの代わりに、ソウエイが近くの影から現れて答える。
影から現れたのは、ソウエイが進化した事により獲得したエクストラスキル『影移動』の効果だろう。
というか、ゲルミュッド・・・どこかで聞いたような・・・あ!そういえば、リグルの兄に名前を付けた魔人が同じ名前だったな。あちこちで手当たり次第に名付けをしているのか?
「報告がこざいます、リムル様」
「ん、ああ。なんだ?」
「この町から少し離れた所で、リザードマンの一行を目撃しました。湿地帯を拠点とする彼等がこんな所まで出向くのは異常ですので、取り急ぎ、ご報告をと」
「リザードマン?オークじゃなくてか?」
「はい。何やら、近くのゴブリン村で交渉に及んでいるようでした。ここにもいずれ来るやもしれません」
「ふーーん・・・・」
「リムル様ーーー!」
「お?」
こちらを呼ぶ声が聞こえたので、声のする方を向くと、シオンがこちらに向かって来ていた。
「お昼ごはんの用意が整いました。今日は私も手伝ったんですよ」
「おう。ありがとう、シオン」
もうそんな時間だったか。
「お前らも行かないか?」
「や、俺は今日は遠慮します」
ベニマルはそう断り、ソウエイもいつの間にか姿を消していた。
「あ、そう?あっ、ジンはどうする?」
「ん?あぁ、俺はもう少しヒヨと付き合うから、先に行っててくれ。」
「わかった。じゃあシオン、連れて行ってくれ」
「はい。リムル様」
そう言うとシオンは、スライムの姿に戻った俺を抱き抱え、食堂へと歩いて行く。
それにしても、リザードマンか・・・・この世界の奴等って、俺の生前のイメージと違ったりするからな。どんな奴か楽しみだ。
この時、ジンとの試合で夢中になっていたヒヨ以外のハクロウとベニマル、そして『影移動』でその場から去ったソウエイ達の心は、シオンに抱き抱えられて食堂へと向かうリムルを見ながら一つになっていた。
(((ご武運を、リムル様・・・)))
リムルはまだ知らない。この後、ある意味でオークロード以上の脅威?と対峙する事を。
どうも、邪神イリスです。
ようやくベニマル達の名付けが完了しました。これで編集中にジンとリムルが名付け前に普通に名前で呼ばないよう注意する必要がなくなるので少し楽になります。
名付けも、リムルだけ6人やらせるのはおかしいかなと思い、均等に分けることにしました。
オリキャラ2人の名前に関しては、これでよかったでしょうか?女性らしい名前になるよう作者と転スラ好きの友人と考えたのですが・・・・どうでしょうか?
そして、迫り来るオークの群勢。リムル達の方は原作より戦力が増えているので少しばかり量を増やしました。今後も戦力調整の為に敵の軍の数を増やしたりする事があると思います。
まぁ、ぶっちゃけ、多少増えたところでリムルとジンがいる時点で誤差の範囲なんですけどね。
それにしても、転スラアニメの方だと、いよいよワルプルギスですね。我が作品はいつになったらあそこまで辿り着けるのだろうか・・・・
受験などが待っておりますが、時間がある時にコツコツと書いていく所存でございますので、気長にお待ちいただけると嬉しいです。