いやはや、進化したベニマル達の力は凄まじいな。
エンカのあれとかナナ・テスカトリの炎だろ?いつのまに使えるようになったんだ?
≪解。あれは個体名:エンカが、名付けによる進化の際に会得したエクストラスキル『蒼炎』です。威力などを含め、『炎妃龍 ナナ・テスカトリ』のヘルフレアの劣化版と言えるスキルです≫
あいつのよりも劣化しているのに、あの威力か。『炎熱操作』だったか。スキルの組み合わせによっては、ここまで高火力になるんだな。
さて、いよいよオークロードが出て来たな。
黄色く濁った瞳を光らせ、放出されている妖気は付き従えている2体のオークジェネラルと比べても桁違いのものだ。
これ以上他の魔物を喰って強化されても面倒なだけだし、とっとと狩ってしまおうと思った時だった。
何かがこちらに向かって高速で飛来してきたのを感じた。
そいつはそのまま俺とリムルの近くを横切ると、両軍が対峙するど真ん中へと降り立った。
妙な仮面を付けてシルクハットを被った小柄なそいつからは、ベニマル達と比べれば劣るが、そこそこ強めの妖気を感じた。
「これは一体どういう事だ!?このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」
そう叫ぶと、そいつは俺達を睨みつけてきた。
ゲルミュッド・・・こいつがそうなのか・・・・・しかし、計画だと?
「お前の計画とは何の事だ?」
地上に降りた俺がそう尋ねると、ゲルミュッドは得意げに語り始めた。
「そんなもの!新しい魔王を生み出すことに決まってるだろうが!!もう少しで俺の手足となる、新しい魔王が誕生したと言うのに!!
だから名付けをしまくった!種を蒔きまくったんだ!最強の駒を生み出すためになぁ!!」
ベラベラと細かい事を喋り出したゲルミュッド。
何だこいつ。聞かれただけで敵に説明を始めるとは馬鹿か。
余程自分の計画と力に自信があるんだな・・・・・・・あぁ、そうか。なんかイラついて来ると思ったら、思考とかが似ているんだ。あの
「このノロマが!貴様がさっさと魔王に進化していれば、上位魔人であるこの俺様が出向く必要などなかったのだ!」
「魔王に進化・・とは、どういう事カ・・・?」
「チィッ!本当に愚鈍な奴よ・・・・・時間がない。手出しは厳禁だが、手柄を立てれば帳消しになるはず・・・・」
会話から察するに、どうやらオークロードは計画とやらを理解出来ていないようだ。
「ゲルミュッド様!」
そんな中、ゲルミュッドに気付いたガビルが駆け寄って来た。
「我輩たちを助けに来てくださったのですか!?申し訳ございません。ラプラス殿から警告は聞いていたというのに・・・・」
「ガビルか・・・・ちょうどいい所に来た。貴様もさっさとオークロードの糧となれ」
「――――――え?」
ガビルが呆然としていると、ゲルミュッドが練り上げた魔力弾が空中で円を描く様に無数に分裂する。
「死ね!
そして、一斉に放たれた魔力弾は、まるで意思を持つかのように、逃げ場のない広範囲に広がりながらガビルを襲った。
「ガビルよ!ようやく俺の役に立って死ねたんだ。光栄に思うがいいぞ!オークロード、あのトカゲを喰え。あれでも俺が名を与えた個体の一つだ。お前を魔王に進化させるだけの力はあるやもしれん」
「いい気分になっている所悪いんだけどな。この程度の力でどうやって殺す気だったんだ?」
「・・・はぁっ!?」
リムルの言葉を聞き、目の前の光景を目の当たりにしたゲルミッュドは、信じられないと言わんばかりに盛大に驚いていた。
何のことはない。単にリムルが攻撃が当たる前にガビルの前に割って入り、『捕食者』で魔力弾を全て捕食しただけなのだ。
一応、念の為にカバー出来る様に備えていたが、必要なかったようだな。
勿論、そんな事は知らないゲルミュッドは、自分が生み出した魔法の威力を過信していた。だからこその驚愕だったのだが。
助けた理由は簡単だ。行動こそ間違えてしまったが、ガビルは確かに、同族の未来のために戦っていた。そんなアイツの心意気が気に入ったからだ。
「・・・まさか、今の攻撃を防いだのか?馬鹿な!俺の最高の技だぞ!!有り得ん!!」
「そんな事より、自分の心配をしたらどうだ?」
俺がそう言うと、ゲルミュッドの表情が青ざめて行く。
「よう、ゲレ・・じゃなくって、ゲルミュッドだったか。オーガの里で全員に突っぱねられた名付けは、順調だったようだな」
「き、鬼人・・・・!!」
自分がベニマル達に囲まれていることに気付いて。
「我らの里をオーク共に襲わせたのは貴様だな?」
「違うのなら早めに弁明するで御座る」
「何時までも湧き出てくるオーク共の狩りにも飽きてきたところです」
「明確な仇がこれと分かれば、殺る気も出るというものぞ」
ベニマル達5人はゲルミュッドを取り囲むように位置取ると、各々武器を構えた。
その様子にゲルミュッドの顔色がさらに悪くなる。
「・・・・あぁ、そうだよ。それがどうしたぁ!上位魔人を舐めるなぁ!!」
そう言って、ゲルミュッドはベニマル達に向けて魔力弾を放った。
「お前の方こそ、
「え?ぎいやああああああああっ!?!?!?」
易々と攻撃を回避していたベニマルが、ゲルミュッドの左耳を切り裂いていた。
「耳っ・・耳がぁっ・・!!」
「そんなものじゃないぞ」
のたうち回るゲルミュッドに、ベニマルが近付く。
「親父は俺と
「そんな程度の痛みじゃなかったはずだ」
怒りの形相を浮かべて、ベニマルはゲルミュッドに迫る。
「ひぃっ!!!」
恐怖で震えるゲルミュッドは、絶望の表情を浮かべる。
「くっ、くそ・・・!お、俺を助けろ!オークロード!・・・いや、ゲルド!」
ゲルミュッドがオークロードの名を叫ぶと、それまで一切動かなかったオークロードが動き始めた。
「ふははははっ!やれ、ゲルド!この愚か者共に、俺様に歯向かった事を後か―――」
ドシュッ!!
ゲルミュッドの声が途切れた。
オークロードがその手に持つ
そして・・・・・
グチャッ、バリボリ、グチャバキッ。
音を立てて、オークロードはゲルミュッドの身体を喰い始めた。
予想だにしていなかったその光景を見て、俺達は固まっていた。
そして、オークロードの妖気が爆発的に増幅し、どこかから声が聞こえてきた。
《確認しました。個体名:ゲルドが魔王種への進化を開始します》
(ん?なぁ、『相棒』。今のお前の声と違うよな?)
《解。先程のは『世界の言葉』より発せられたものです。個体名:ゲルドがゲルミュッドの要望に応えるべく、進化を望んだものと推測されます》
『相棒』に問いかけていると、オークロードから妖気が溢れる。
《警告―――》
マズい。どうやらリムルも気づいたようだ。
「全員オークロードから離れろ!奴から溢れる妖気に触れるな!」
俺は装備をアーティアSシリーズに変え、ゴブタ達を下がらせる。
すると、妖気が触れたオークの死体が、白い煙を発しながらドロドロに溶け出した。
「ひえええ!と、溶けたっす!オークの死体が溶けたっすよ!!」
触れたものを『腐食』させる妖気か・・・・俺は装備のスキルがあるから問題ないが、地味に面倒だな。
俺は『屍套龍 ヴァルハザク』の翼を広げると、体から『瘴気』を出して操り、妖気とぶつける。
この前リムルと共にスキルの実験を行った際に気づいたこととして、俺が持つモンスターの力の中には、この世界に合わせてさらに進化した物がいくつか見受けられた。
その一つがこれだ。本来は肉食性の微生物の集合体である瘴気に魔力を込める事で、腐食の効果を付与できるのだ。
これをオークロードが放つ腐食の妖気とぶつけて相殺することで、妖気が後退する面々に届かないようにする。
そして、その間にも、事態は深刻な状況へと陥っていた。
ゲルミュッドの肉体を食べ終えたオークロードが、その巨体を起き上がらせた。
《・・・・・・・・・・成功しました。個体名:ゲルドは『
先程までとは比べ物にならない威圧感と妖気。なるほど。これが魔王か。
「我は
「・・・!我らが父王よ」
「王よ」
「魔王ゲルド様」
ゲルドが名乗りを上げると、オーク達が一斉に跪く。
コイツは・・・・この場で殺しとかないと、知恵がある分、あの暴食野郎よりも厄介な災害になるな。
「シオン!」
「承知しています!」
俺が動こうと思うと、ベニマル達が動いた。
「おい?」
「ここは俺たちにお任せを。どうやら舐めてかかれる相手じゃなさそうです」
妖気を纏わせ、大上段から振り下ろしたシオンの大太刀と、ゲルドの肉切包丁が激突する。
両者互角の鍔迫り合いとなるも、鬼人一のパワーを誇るシオンをゲルドが弾き飛ばす。
シオンは咄嗟に後方へ飛ぶことで威力を軽減させたようで、ダメージは無いようであった。
そこへゲルドが追撃を行おうとするが、背後に回ったアワナミが拳でゲルドの背骨を砕き、同時にハクロウが首を斬り落とし、ヒヨが槍で心臓を貫いた。
しかしゲルドは首を片手でキャッチすると同時に、肉切包丁を振り回して3人を牽制する。
「心臓を貫かれ、首を断たれてなお動きよるか!」
そして、頭を元の場所に戻すだけで元通りになり、問題なく動いている様子から、心臓と背骨も既に回復したようだ。
魔王ゲルドの最も面倒な能力は、リムルの『超速再生』にも匹敵する異常な回復力だな。
「操糸妖縛陣。これでもう逃げられん」
ハクロウの影から現れたソウエイが、ゲルドを『粘鋼糸』で捕縛する。
「やれ!ベニマル!」
「腹が減ってるなら、これでもくらってな!」
動きが封じられているゲルドを、ベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)が包み込む。
数秒後、黒炎獄が消失すると同時に、ランガとエンカがそれぞれ『黒稲妻』と『蒼炎』を一点に収束して放った。
攻撃がゲルドに直撃すると同時に、辺りに爆煙が巻き起こる。
すると、フラフラになったエンカが俺にすり寄ってきた。
「魔素切れか?エンカ」
「はい・・・申し訳ございません・・・・」
どうやらランガ共々。さっきの攻撃で余力を使い切ったようだ。
「後は俺たちで何とかする。今は休んでいろ」
「はっ・・・・!」
俺の言葉に安心したのか、エンカはそのまま俺の影に入っていった。
さてと、ベニマル達の攻撃は中々のものだったが・・・・・俺の予想では、このまま倒せるとは思えない。
案の定、ゲルドはゆっくりと起き上がると、自らの腕を引き千切り、喰っていた。
(あいつ、なんで自分の腕を千切って喰ってるんだ?)
《解。
ようするに喰えば喰う程回復し、より強くなるというわけか。
そんなゲルドの下に、一体のオークジェネラルが歩み寄り、跪く。
「王よ、どうかこの身を御身と共に」
「・・・・・・うむ」
ゲルドはオークジェネラルの首を一撃で引き千切って即死させると、無造作に喰らい始めた。
それを喰い終わる頃には、炭化していた肌は生え変わり、完全に回復するどころか、先程よりも妖気が膨れ上がっていた。
「足りヌ・・・もっとだ。もっと喰わせロ!」
・・・・・・・ここから先はベニマル達には厳しいな。
「リムル」
「あぁ。みんなは下がっていてくれ。後は・・・・」
「「俺たちに任せろ」」
2人の意思を汲み取ったベニマル達が後退し、ゲルドの前にリムルとジンが立ちはだかる。
「・・・・でかい牙狼はどうした?」
「ランガとエンカの事か?俺たちの影の中だよ」
何時の間にか姿が消えていた事に疑問を持ったゲルドの問いに、リムルが答える。
「・・・・・喰ったのか?」
「まさか。理由もなく仲間を喰ったりしないさ。お前じゃあるまいし」
ジンの挑発に、ゲルドが怒りを露わにするかのように、2人への攻撃を開始する。
「
ゲルミュッドを喰らう事で会得した技。ゲルミュッドのものとは比べ物にない量の魔力弾が降り注ぐ中、2人は行動を開始した。
「出番だぞ、相棒」
《了。『
リムルの身体の使用権限を一時的に与えられた『大賢者』が、魔力弾を『捕食者』で喰らいながら接近し、刀に黒炎を纏わせてゲルドの左腕を斬り飛ばした。
傷口を黒炎が消える事なく燃やされ続ける事で、腕の再生は始まらない。
この段階で、既にゲルドは2人を餌ではなく、敵と認識するようになっていた。
「ヌゥッ!?」
再び接近した『大賢者』と鍔迫り合いになるが、黒炎によって肉切包丁はドロドロに溶け出し、ゲルドの手からも離れて地面へと落ちる。
咄嗟の判断で『大賢者』を弾き飛ばしたゲルドだが、『大賢者』と交代するかのように大きな影がゲルドの目の前を飛び上がり、『何か』で体を切り裂かれる。
ゲルドが自身の周囲を見ると、金色の鱗のような物が地面に刺さっていた。
そして空を見上げると、そこには刃物のように鋭い金色の鱗に身を包み、翼を広げてホバリングする『千刃竜 セルレギオス』へと変身したジンの姿があった。
ジンは大きく吼えると、そのまま急降下しながら幾つもの飛刃をゲルドに向けて放ちながら、強靭な後脚で蹴り技を放つ。
ゲルドは何とか防ごうとするが、その全てを捌き切れずに飛刃が身体を切り裂き、蹴り飛ばされると同時に地面に着弾した飛刃が炸裂し、ダメージを負う。
そのままジンはゲルドの肩を後脚で掴むと、姿を『火竜 リオレウス』へと変え、ゲルドを持ち上げながら空中へ飛翔すると、縦に周回して地面に叩き落とした。
「ぜあああああああっ!!」
さらにそこへ、元の鎧の姿に戻りつつ、空中できりもみ回転をしながらショウグンギザミの双剣『ヤツザキ』で追撃をかける。
「小癪なっ・・・・!?」
ゲルドが反撃しようとするが、僅かに身動きするだけで全身に痛みが走り、一瞬動きが鈍る。
見ると、身体のあちこちに小さな傷が出来ており、傷口が再生することなく、そこから血が流れ出していた。
「いくら回復力が高くても、裂傷は無効化出来ないようだな」
裂傷とは、ジンの世界の一部のモンスターが扱う状態異常であり、発動したら何かしらの方法で解除しない限り、少し動くだけで延々とダメージを喰らい続けるというもの。
ゲルドは何度も飛刃などを受けたために裂傷が発動し、『自己回復』による再生能力を阻害する効果を受けていたのだ。
その隙を見逃さないジン。
構えるのは、金色に輝く豪華絢爛な装飾が施されたガンランス『ガイラバスター・水』。
砲塔にエネルギーが溜められていき、先端から吹き出た炎が、その色を次第に白を経由し青色へと変わる。
『それ』が何なのかがわからなくとも、危険であると察知したゲルドはそれを阻止しようと動くが、動き出すのが僅かに遅かった。
「吹っ飛びな」
溜めた高温を一気に前方へ解き放つと同時に爆発。飛竜のブレスの原理を応用したガンランスの必殺技『竜撃砲』が炸裂し、爆炎がゲルドを包み込んだ。
「グオオォオオッ!!!」
そのままジンは竜撃砲の反動を利用して、リムルの下まで下がる。
(さてと、痛手は負わせたが、この程度で死ぬのならベニマル達も苦労しない。『大賢者』と『相棒』の予測が正しければ・・・・)
ジンが油断なく爆煙に包まられたゲルドの方を見ていると、煙の向こうから『両腕』が伸びてきて、そのままリムルを鷲掴みにした。
「リムル様!」
「う、腕が再生してるっす!」
シオンが叫び、ゴブタが驚く中、煙が晴れるとそこには、腕を再生させてリムルを捕まえたゲルミュッドが立っていた。
黒炎ごと自らの腕を引き千切って喰らう事で、腕を再生させたのだ。
腐食のオーラに包まれ、リムルの身体が溶ける。
「ヌハハハハッ! このまま喰らってくれるわ!!」
「《・・・・否》」
だが、それは罠だった。
「《
その瞬間、ゲルドの足元に文様が浮かび、リムルごとゲルドを炎が包み込む。
捕まったのはあくまで作戦の一つ。溶かされたように部分的に人化を解き、油断したところを炎で焼き尽くすつもりだったのだ。
捕まるのはリムルだろうとジンだろうと関係ない。
ゲルドが炎に対する耐性を持っていないのに対して、2人は耐性を持っているが故の作戦だった。
しかし、2人にはある懸念があった。
それは、『大賢者』と『相棒』が極小確率切り捨てた可能性だった。
《確認しました。豚頭魔王ゲルドは、炎熱攻撃耐性を獲得しました》
(『世界の言葉』・・・・ベニマルの黒炎獄から俺の竜撃砲やリムルの炎化爆獄陣・・・ここまで4度も炎に類する攻撃を受けてるんだ。耐性を会得しない方がおかしい)
ジンは内心でそう呟くと、内心で思考を巡らせ、燃え盛るゲルドを見据えた。
(炎で焼かれた事で、焼けた皮膚が再生したから裂傷も解けている。あの様子だと毒に耐性を持つのも時間の問題だな。確実に殺すとして、あとやれるとしたら他の耐性を持つ前に・・・・)
『ジン。聞こえるか?』
ジンにリムルの『思念伝達』が届く。
『コイツの倒し方がわかった。サポートを頼む』
『・・・・・なるほど、わかった』
ジンは笑みを浮かべると、その姿を変え始めた。
「オレに炎は通じぬようだゾ?」
「そうかよ。炎で焼け死んだ方が幸せだったかもしれないぜ」
リムルは身体の使用権限を『大賢者』から戻すと、リムルの身体が溶け出し、ゲルドに絡みつく。
「ぬぉっ!?こ、これは・・・!?」
「言ってなかったっけ?俺、スライムなんだよ。喰うのはお前の専売特許じゃないんだよ。あと、後ろに注意な」
「何、をっ!?」
突然、ゲルドは背中から何かに押されたような衝撃を受け、前のめりに倒れ伏す。そして次の瞬間、首に『ナニカ』が嚙みついて来た。
「ぐあああああああっ!!!」
ゲルドが慌てて振り向いた先に居たのは、ゲルドを上回る巨体。
濡れ光る暗緑色の鱗に覆われ、異様に太く強靭に発達した後脚と尻尾。
そして、何よりも特徴的なのは、あらゆるものを食い尽くさんとばかりに首元まで裂けた巨大な口と無数の棘・・・否、口外にまで発達した牙に覆われた顎。
ジンの世界では、『健啖の悪魔』。『貪食の恐王』とも呼ばれて恐れられた生態系の破壊者。
『恐暴竜 イビルジョー』である。
「この姿はお前と同じ悪食な奴の姿でな。厄介度ではお前の方が上だが、恐ろしさで言えばコイツの方が上だったよ」
ゲルドに首に嚙み付き、強靭な後脚で背中を踏みつけながら、そう語るジン。
嚙み付いている首からは、強酸性の唾液が分泌され、ゲルドの肌を焼いていく。
「ぐっ、貴様ぁっ!」
ゲルドは何とか抜け出そうと暴れようとするが、全身が異常に発達した筋肉の塊であるイビルジョーの巨体から抜け出せるはずがない。
「俺がお前を喰うのが先か、お前が俺たちを喰うのが先か。相手を先に喰った方が勝ちだ!」
先に相手を喰い尽くした方が勝利する、本能のまま相手を滅ぼす弱肉強食の理。
(喰われる前に、喰ってやる!!)
ゲルドは、自分の中の力を振り絞り、『自己再生』で捕食部を回復しながら『飢餓者』の力で2人を腐食で溶かして喰らおうとし、それをリムルは『超速再生』で、ジンは『狩人』で修復していく。
リムルが先に捕食する確率は・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
ふと気が付くと、俺は見知らぬ場所に立っていた。
「おーい!」
「リムル、お前もか」
「ああ・・・・・にしても、なんだ?この光景・・・・・」
周囲に広がるのは、見渡す限りの干上がった大地に枯れ果てた草木。そして、照りつける太陽。
まるで世界の終わりのような風景だった。
「ここはどこなんだろうな?」
「わからん。まあ、考えても仕方ないだろ。それよりも、まずはここが何処なのか調べないとな」
俺達は、そう結論付け、周囲を探索する事にした。
少し歩いていると、何処からか泣き声が聞こえてきた。
「オークの・・・・子供か?」
そこに居たのは、痩せこけて泣き喚く子供のオーク達。
そこに、何処か見覚えのある体の大きなオークが一人歩み寄る。
「腹が減ったのか・・・・少し待っていなさい」
そう言うと、そのオークは自らの腕を引き千切り、子供達に与える。
「さぁ、食べなさい。しっかり食べて、大きくなるのだぞ」
そう言って、左腕を差し出すと、子供達は一斉にその腕に群がり貪るように食べた。
「王よ、もうおやめください」
子供たちが去ると、大柄なオークの後ろに立っていたオークが、大柄なオークに跪き、懇願する。
「この大飢饉の中。王であるあなたまで失っては、我らオークには最早絶望しかありません」
「・・・・・・・一昨日産まれた子が今朝飢えて死んだ。昨日産まれた子は虫の息だ。
この身はいくら切り刻もうと再生するというのに・・・・・」
王と呼ばれているオークが『左腕』をさする。先程引き千切り、子供たちに与えた左腕は、僅かな間で完全に元通りになっていた。
「これが既に絶望でなくて、何だと言うのだ」
すると、王は何処かへと歩き出した。
「王よ、どちらに!?」
「森に入り、食糧を探す」
「しかしジュラの森は、かの暴風竜の加護を受けし場所!」
「その暴風竜は封印されて久しい。少しばかりの恵みを―――」
「王よ!!」
オークの制止を振り切り、王は森へと歩いて行く。
光景が変わる。
終わる気がしない枯れ果てた大地を一人、飢える同胞達の為、歩き続ける王。
(腹が減った・・・・何でもいい。飯が食い・・・たい・・・・・・)
だが、それも限界のようで、王・・・・否、ゲルドはその場に倒れる。
「・・・・飢えたオークの若者か。中々に強い力を秘めているようだ。これなら豚頭帝・・いや、豚頭魔王すら視野に入れてもいいな」
どうやら、ここでゲルミュッドと出会ったようだ。
「――――――あのお方はオレに食事と名を与え、そしてオークロードの持つ『飢餓者』について教えてくれた」
俺たちの背後に、魔王の姿のゲルドが現れていた。
「オークロードとなった俺が喰えば、『飢餓者』の支配下にある者は死なない。飢える仲間を救えるのだと。邪悪な企みの駒にされていたようだが、それに賭けるしかなかった」
「だからオレは喰わなけらればならない。お前達が何でも喰うスライムと俺をも上回る捕食者だとしても・・・・オレは喰われるわけにはいかない」
「・・・・腐食の過程が無い分、喰い合いはリムルに分がある。お前は負ける」
「同胞が飢えているのだ。オレは負けられぬ。
オレは他の魔物を喰い荒らした。ゲルミュッド様を喰った。
・・・・・同胞すら喰った」
「オレが死んだら同胞が罪を背負う。もはや退けぬのだ」
「皆が飢える事が無いように、オレがこの世の全ての飢えを引き受けてみせよう!!」
骨と筋肉のみとなって尚、執念で動くゲルド。
だが・・・・・・・
「それでも、お前の負けだ。お前は死ぬ」
「お前が『
「罪を喰う・・・だと?」
「そうだ。だから安心して眠れ」
「・・・オレは負ける訳には――――」
そう言って、ゲルドは崩れ落ちた。
そして、世界が変化する。
荒廃した大地は緑溢れる美しい森林や草原へと変わり、枯れた川には水が流れ、様々な色とりどりの花が咲き乱れる。
それを見たゲルドは涙を流し、魔王ではなく、一人の心優しきオークの長としての姿に変わる。
「ここは暖かい・・・・強欲な者よ。俺の罪を喰らう者達よ。
感謝する・・・・俺の飢えは今、満たされた・・・
その光景の中に、ゲルドは光となって消えていった。
そして、現実の世界ではそれと同時にリムルはスライムから人の姿になり、ジンもまた、イビルジョーへの変身を解いた。
「俺たちの勝ちだ」
「安らかに眠れ、ゲルド」
静寂に包まれた戦場で、リムルとジンが勝利を宣言する。
その瞬間、リザードマンやゴブリンの陣営からは歓声が、オーク達からは嘆きの声が上がった。
そこへ森の管理者であるトレイニーが現れ、事態の収束に向けた各種族の代表を集めての話し合いを翌日の早朝に、議長をリムル及びジンとして、行われることが決まったのだった。
そんな中、オークジェネラルの中でただ一人生き残った、ゲルドの腹心の瞳は悲しみに満ちていながらも、その顔はどこか晴れやかなものだった。
「・・・・・王よ。やっと・・・解放されたのですね・・・・・」
こうして、ジュラの大森林での戦争は終わりを迎えた。
どうも、邪神イリスです。
映画公開日までに何とか一話出したいと思いながら執筆しました。
ジンの戦闘シーンは一番頑張りました。モンスターの力も使いつつ、どうやって戦わせるか、何度も脳内シミュレーションをしては文字にするのを繰り返しました・・・・まぁ、ジン本人はまだ全然本気を出していないんですけどね!
次回でいよいよ森の争乱編も終わりです。サンブレイクのアップデートが来たりと、また投稿が遅れるかもしれませんが、今年中に出せたらいいなぁ~って思ってます。