マルオは一花、五月の診断を終えて、また、病院の業務に戻ると言われた。玄関で見送りを行っている中、風太郎だけ一緒に外に出るよう言われた。
「彼女たちは今はゆっくりさせておいてくれ。上杉君。今日はありがとう。長い時間を取らせてすまなかったね」
「いえ、そんな・・・もしよろしければ、泊まってでも・・・」
「・・・上杉君。もっと紳士的な対応をしろ。男性を娘の家に泊まらせるなんてことを親は快く思わないということを」
メンチを切るように威圧され、風太郎自身も自分の発言のまずさに気づき、委縮してしまっている。
「はい・・・すみません」
「・・・四葉君とはうまくやっているのかい?」
「はい、健全なお付き合いを・・・」
「もう二年たつのに、甲斐性無しか君は」
父親から娘との状況を聞かれることがここまで緊張するとは思っても見なかった。とりあえず、無難な答えを出したつもりだったが、お父さんからまさかの返しが来て内心言ううべきか悩んでいた。
「こういう発言は親として・・・いや、道徳的にはどうかと思うがね、四葉君と別れるという選択は君の中ではないのかね?」
「いいえ。それはあり得ません」
「そうか、だが、口で言うのは簡単だ。彼女は今、何もできないと言っても過言ではない。もし、二人が結婚をしたいと考えた時、彼女の仕事の選択肢は少なく、主に君の収入で生活していく。家事についても彼女の出来ることは限られている。それも君がフォローする。日常生活のことも介助していく。そんな状態を毎日続けるということだ。実際、患者の中では事故により身体障害を負ってしまった妻に疲れてしまい見捨てての離婚というのケースも見る。私は今の彼女になってしまったという理由で別れても、何も言わない・・・」
「・・・俺は四葉がいてくれる。それが今、何よりも支えとなっています」
「君は社会を知らなさすぎる・・・後悔のない選択を・・・」
そう言って彼はエレベーターに乗り、そのまま降りて行った。
マルオが言っていることに考えが行かなかった。四葉との将来・・・それを考えた時に、彼女はどう思うのだろうか・・・迷惑なので、とか考えそうだが、何とかして、彼女の考えを改めるように姉妹とも協力して・・・ああ、こう考えてる時点で・・・
「俺の答えは決まってる」
マルオの言っていることは医者の視点からの現実的な意見なのがわかる。それに、心配もしてくれているのだろう。実際に患者さんの中でそのようなことが起こり、心身疲れ切ってしまうのもわかる。実際ニュースで、介助に疲れてしまい、殺人を犯すなどのケースもある。
「おかえりなさーい!お父さんと何話してた・・・えぇ!?」
玄関前で出迎えてくれた車いすの少女。急に彼女を抱きしめたくなった。でもなぜか、彼女と一緒なら、今のことも、未来のことも頑張れる気がする。
「あ、あの風太郎・・・恥ずかしいんだけど・・・」
「悪い。なんとなくな・・・」
少し名残惜しそうに、風太郎が離れて、二人でリビングへ向かう。そして、事情を説明し、今日は帰らせてもらうことになった。
「出来れば、このまま残っててほしいけど、まぁ、あんたに迷惑かけるわけにもいかないしね」
「フータロー。次はいつ来れる?」
「明日にはまた顔を出す。この承認票に一花と五月のサインも貰わないといけないしな」
風太郎が自ら出してきた条件として、五つ子に風太郎がまたアルバイトをしてもよいかということを求めさせてもらうもの。そのためには彼女らとの交流は不可欠だ。
「わかった。また明日」
「ああ、最後に一花と五月にも・・・」
「あの二人ならもう寝ちゃってる。さっきお夕飯届けた時に様子見たら、もう寝ちゃってたみたい」
二乃にそう言われたので彼女たちには伝えておくように頼んだ。そして風太郎が荷物をまとめて彼女たちの部屋を出る。
「・・・またね。風太郎」
「ああ、また明日」
そう言って風太郎のハードな五つ子姉妹の出来事が終わり、今日は実家へ帰ることになっている。
メールも、らいはからメール着信が届いてきていた。
お兄ちゃん!今日はカレーうどんだよ!
早く帰ってきてね!
妹にもせかされているので少し速足で帰ることにした。
そして二年前までは住んでいた帰路にたどり着く。大学に通ってから、何回か帰ってはいるが、やはり懐かしさを感じる。相変わらず、ボロッちぃ。
「ただいまー」
「おかえりお兄ちゃん!」
そう言って久々に妹の笑顔を見て何も変わっていないとまた懐かしく思う。らいはももう中学生で、背も伸び女性らしい体つきにはなったものの、風太郎から見たら、ただの可愛い妹だ。
「親父は?」
「お仕事だって!」
「ったく、息子が帰ってくるというのに・・・」
オヤジは仕事で今日は帰ってこれないとのこと。とりあえず、夕飯であるカレーうどんを頂くことにする。
「いただきまーす」
夕飯前に二乃と三玖の料理対決の際の満腹感がまだ残ってはいたものの、らいはがつくるカレーうどんはうまい。そのおかげかするすると食べられた。
「誰かとこうやって夕飯食べるの久しぶりだな~」
「親父は仕事だもんな、悪いな。一人にさせちまって」
「ううん!大丈夫だよ!つい最近までは五月さんともよく食べてたし!」
「五月と?」
「うん!目が見えなくなっちゃったんだってね・・・」
「知ってたのか!?」
まさか、らいはにそのことが伝わっているとは思ってなかった。マルオから伝わったッとは思えない、ということは本人か?
「あ、お兄ちゃんも知ってたんだ・・・うん。お出かけとかの約束もしてたんだけどね・・・」
そう言って寂しそうに、そして、心配そうな表情を浮かべている。
「だって、左目は見えなくて、右目が五十円玉の穴から見る感じらしいよ。やってみたけど、すごく見えない」
「!?」
驚きを隠せなかった。五月が自身の状況をらいはにここまで話しているとは思ってもなかった。そして、彼女は問題ないとは言っていたが、思って居たものよりもひどい状況だとも思った。そして、風太郎も先ほどのらいはが言っていた状況をやってみる。左目をつむり、右目で五十円玉の穴を覗く。
「!!」
これが五月の見ている世界。彼女の視界をすべて理解したわけではないが、その、異常なほどの視界の狭さの中、彼女はあれだけ冷静さを保っていて他の心配もしている。いや、そうではない。
「あいつは・・・追い込まれている・・・」
らいはには笑顔でいてほしいと思っている彼女が、自ら心配させるようなことを言うとは思わない。らいはにすら、助けを求めている状態に風太郎は焦りだす。そう思っていると電話が鳴りだした、相手は四葉だ。
「もしもし、風太郎」
「ああ、四葉、実は」
「お願い。そのまま聞いて、明日、デートしよ。朝九時にマンションのエントランスに来てくれないかな?」
「いや、それよりも今は五月を・・・」
「うん。わかってる・・・あ、えっと、リフレッシュも必要!だよ!・・・お願い、信じてもらえるかな?」
「・・・わかった。明日迎えに行く」
「ううん。エントランスで待ってくれればいいから!じゃあ明日!」
何か四葉は考えがあるのか、わからないが、彼女を信じることにした。確かに自身のリフレッシュも必要だ。明日はこの前中断されたデートの続きを行うことにした。