「この野郎。カレー五杯も食べやがって・・・うちを破綻させるつもりか」
今は二人でコンビニにデザートを買いに行った帰り道。らいはへのお礼ということで、プリンを買った。その付き添いで風太郎も一緒にいる。
「義兄さん、口が悪いですよ・・・いいじゃないですか、久々でしたし、らいはちゃん、いっぱい作ってくれましたし・・・」
だからと言って。通常の二倍のあの大盛・・・単純計算で十人前は食ってるんじゃないかと思わせる。こいつの胃袋はフードファイター並みなんじゃないかと思わせる。
「んで、デザートも食うと」
「甘いものは別腹です!よく聞くでしょ?」
今日、午前中のケーキバイキング食べてたけどな。そう思ったが、これ以上言っても五月の食欲は止まらないと思い、風太郎は何も言わずに諦めた。
そして、上杉宅の前、急に五月が空を指さす。
「・・・月がきれいですね」
「お前はやっぱり勉強したほうが・・・」
そう言い終える前に、五月はうまくいったかのように子供のいたずらっぽく笑う。
「・・・やっぱ何でもない」
彼女がどういう意図で言ったか、又は、前回とは違い、意味を知っての発言かは不明だが、風太郎は少し赤くなったのが、ばれないように自宅へ戻った。
「はい、らいはちゃん!」
そう言ってコンビニの中で、結構良い値段をしたプリンを渡すと、らいはが目を輝かせて、掲げるように舞い喜ぶ。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
しっかりとお礼を言って、三人で今度はプリンを食す。
「おいしい!」
「やるな。コンビニスイーツ」
「ケーキ屋で働いてる二乃も、コンビニスイーツのレベルは高いと言ってますからね!」
プロも納得する味とのことらしい。確かに、百円よりもその数十円高いものを買うと格段に違う。貧乏性の上杉家はコンビニの商品は便利だが、高いのであまり利用しないので、知らなかった。
「お姉ちゃんお風呂入ろう!」
「うん。らいはちゃん、一緒に入りましょうか!」
「滑らないように気をつけろよ」
そう言って女子二人は風呂場へ向かった。その間風太郎は今日図書館で借りた本を読み。勉強を始めた。最初は手話の本。
「へぇ、聴覚障害の人でも、手話って三割くらいの人しか使えないんだ・・・」
コミュニケーションは基本的に読唇術。つまりは、口の動きで会話を予測しているらしい。こういった豆知識的なものを知れるのは楽しい。
「えっと、五十音・・・熟語・・・名詞・・・」
本に色々書いてあるが最初は自己紹介を覚えるとのこと。その通りにまずは自己紹介の動き。自分を人差し指で指す、これが私や自分。
「私の・・・な・・・ま・・・え・・・」
五十音の早見表があったので、それをもとにやってみる。
「【う】・・・??あ、コレは【と】?・・・表裏逆なだけか・・・」
いきなり、急に上達するわけもないので、熟語等の応用編は置いておき、五十音だけ覚えるのを専決した。
ちなみに手話の【う】はチョキの人差し指、中指を閉じ、それの手のひら側を相手に見せる。裏面にすると、【と】になる。
とりあえず、不恰好になりながら、手話での自己紹介を終えた。しかし、正直に思ったことを言う。
「・・・筆談でいいな、コレ」
外国語を一つ覚えるような感じである。勿論、慣れて覚えたら、こっちのほうがスムーズに感じるのだろう。しかし、今の時点で風太郎自身も一花もそっちのほうがスムーズにコミュニケーションが取れると思う。
「でも、やるか」
もし一花が教えてほしいと頼まれた時のために基礎のところだけは完璧にしておく。その次は五月の点字。四葉の歩行訓練の方法。三玖の味見役としての料理の基礎知識・・・覚えることが多い。
「勉強ですか?」
「早いな」
「そうでしょうか?」
風呂上がりの五月が時計を指さすと一時間近く立っているのがわかった。結構、熱中してたらしい。
「ああ、すまん。時間たってたな・・・てかお前!」
「急だったもので、義兄さんの服をお借りしてます」
くるんとその場で一回転する五月は以前のような抵抗は全くないらしい。だが、着られている本人は少し、抵抗を感じる。その理由としてはあまり大きな声で言えないが・・・
「まぁ、良いけど・・・(前の貸した服、胸元が伸びて緩くなったんだよなー)」
声に出さずに、心の中でそう思った。
「お兄ちゃん!お風呂空いたよ!」
今度はひょこんとらいはが出てきて、風呂に入っちゃってとのこと。
頭もリフレッシュするために風呂に入ることにした。
カポン。
「あぁぁ・・・気持ちいい」
そう呟く風太郎。そうすると、扉の前に人影があった。
「お兄ちゃん。おっさん臭い」
「らいはか。どうした?」
「ドライヤー取りに来た。女の子はお兄ちゃんみたいに自然乾燥じゃダメだからね」
それを持って洗面所から出て行こうとしたが、らいはが神妙につぶやいた。
「五月さん・・・どうして」
「なんか言ったか?」
「・・・別に、何でもないよ」
らいはが諦めたようにそう誤魔化す。さっきは姉さんと呼んでいたのに、五月さんに戻っている。らいははそれ以上言わずに、部屋のほうへ戻っていった。何かあったのか・・・話が大きくなる前に後で五月に聞こうと思った。
そして、風太郎が風呂を出るとすでに三人分の布団が並べられており、前回と同じように真ん中が、らいは、その両隣に風太郎と五月が寝るという形になった。
その後、食器を洗ったり、三人でトランプやお喋りなどを楽しんでいるとらいはがそろそろ限界のようだった。
「・・・あぅぅ」
「そろそろ寝るか」
らいはの目がうつろになってきたので、布団に寝かせる。その後二人も電気を消して、布団に入る。
そして数分後らいはが寝息を立てながらすやすやと眠っている。
「五月。起きてるか?」
「はい・・・なんです?」
「ちょっといいか?」
そう言って二人で外に出る。夏なのでそのままの格好でも大丈夫だと思ったが、少し肌寒さを感じる。
「なんですか?義兄さん?」
「・・・らいはと何かあったのか?」
「いいえ、別に・・・」
そう言うと若干、俯いた表情をしたのを見逃さなかった。
「いいだろ?俺はお前の未来の兄貴だ。義妹の相談くらい乗るぞ」
「・・・らいはちゃんのことは、義兄さんのほうがわかると思うので・・・ですが、これだけは約束してください。私からは何も聞いてないと!」
何か大きなことがあったのかを疑わせるように迫力がある。それほど、秘密にしておきたいらしい。
「実は・・・ですね・・・」
「ああ」
「らいはちゃん・・・」
「ああ」
正直これ以上聞くのが怖くもあった。仲の良い二人に何か亀裂の様なものがあったのかわからない。ただ、聞かないには何も解決しない。覚悟して聞く。
「・・・告白されたらしいですよ」
「・・・はぁ?」
「え?だから、男の子からラブレター貰って、告白されて、断るつもりらしいんですけど、どうしようかなーって感じらしいです。告白とか、私されたことないのでわかりませんが、義兄さんはあるじゃないですか・・・どう断るべきだと思います?」
「え?告白?」
先ほど、風呂の扉越しに何かあったように言ってたのは?
「ああ、そのワードが出て私がちょっと、動揺してしまったのをらいはちゃんが何か感じ取ったのでは?」
「・・・はぁ」
焦って損した。と言うより風太郎も気を張りすぎていたようだった。五月自身せっかく元気になったというのに、また何かマイナスなことが起きるのを恐れていたのだろう。
「で、どう思います?」
「知らん」
「今日断った人が良く言いますね・・・」
ぷくーっと頬を膨らませてこちらを睨んでくる。それを掘り出されると大変いいにくいが、実際風太郎が口出しをすることではない。
「らいは自身が決めることだし、らいはは五月を頼ったんだ。良ければこれからも相談事を聞いてあげてほしい」
「はい、わかってます。未来の義妹ですしね」
「頼むぜ。ねーちゃん!」
そう言ってなんとなくだが、拳をつきだしてみる。それに困惑するも、五月も拳をつきだし、グータッチをする。
「頼まれます、義兄さん!・・・あと、ねーちゃんってなんか・・・不気味ですね」
「変な感じとか言えよ、なんだよ不気味って。お前が俺を義兄さんと呼んでる時も似たような感じだぞ」
心配事無いようなので、そのまま二人で布団に戻り、楽しいお泊り会は幕を閉じた。