一花のお願いとは風太郎と付き合うこと、じゃないと、アルバイトの承認票を書いてくれないらしい。しかし、風太郎の答えは決まっている。
「・・・悪い。それはできない」
そう難しい表情を浮かべると、断られたのがわかったにもかかわらず続ける。
「お願い、本当に、二番とか・・・ううん、なんだっていい・・・私を彼女に・・・してよぉ」
そう、泣き落としの様に言う一花だが、何があって、その結論が出てきたのかが、気になった。ついには順位まで付け始めたので、聞かないわけにはいかない。ただ、流れ的に先ほどの件だろう。
「オーディション・・・ダメだったのか?」
筆談でそれを渡し、それを確認すると、何か諦めたような表情を浮かべる・・・ダメだったのか・・・
「ううん。受かったよ・・・」
「は?」
オーディションが受かったのならもっと喜んで、報告すべきなのではないかとも思ったが、そうでもない反応をする一花に対して、風太郎は困惑するしかなかった。そして、さらに一花から一枚のメモ帳を渡される。
「二十二時、ホテル、1202号室・・・なんだこれ」
そう書いてあるメモ帳の意味がよくわからなかったが、一花は話をする。
「うん。監督が、ここで、演技をすれば、合格。役をやらせてもらえるよ」
「そうなのか・・・ホテルで演技ってよくあることなのか?」
「わかんない・・・私は初めてだし・・・でも・・・これをしないと、お芝居出来ない・・・」
正直、それならば行って演技をして合格を頂いて、一花、女優業復活、となるのが一番いいのだろうが、どうやら彼女はそれをしたくない様だ。そう思っていると、風太郎のポケットのスマホから着信が入る、相手は二乃だ。今彼女はリビングにいるので、そのまま呼べばいいのに。
「今すぐ、部屋来て」
そう言う言われたので、リビングへ向かおうとする。一花に断りを入れて、部屋を出ようとしたときだった。
「悪い、一花ちょっと二乃に呼ばれて・・・」
「待って!!!」
そう断って部屋を出ようとするが、とびかかるように止められる。そのまま二人で、床に滑り落ち、一花が風太郎の上に乗っている状態になった。
「ごめん、本当にごめん・・・・お願い・・・」
そう言ってなぜか、上に乗っている一花が上着を脱ぎ始める。
「は!?お、おい一花!?」
急な行動に、風太郎は驚きながらも、上半身下着になった一花を見ないように、その場から抜け出そうとする。
「だって・・・こんなで、私・・・枕って・・・でも、そうしないと・・・」
「バカ!離せ!」
所々、何を言っているかわからないが、おかしいのは確かだ。何とかして振りほどかないとならない。そう必死に抵抗しているときに。ガチャッと扉が開く。
「何やってんの!!」
その正体は先ほど、電話をかけてきた二乃だ。すぐ来なかったのを心配してきてくれたのか。
「離れなさいよ!」
そう言って上に乗っかっている一花を強引に引きはがそうとするが、しかし、一花も止まらない。
「だめ・・今じゃないと・・・わたしもう・・・」
まだぶつぶつと何か言っていた。そして、その騒ぎを聞きつけた他の姉妹も到着して、この現状を終わらせた。
「・・・ちょっと頭冷やしておきなさい」
「・・・・・・」
二乃に指さされるが、、一花はそれにかまっている余裕もないようだった。しかし、先ほどの状況を助けてくれたのは風太郎も感謝した。今は一花は部屋にいて、他の姉妹と風太郎はリビングで話し合っていた。
「さて、フー君。一花とのことなんだけど、どういうこと?」
「・・・急に覆いかぶさってきてだな」
「そこは見たわよ!その前よ前!気分いい感じで帰ってきたから、どうなのかと思ったけど・・・何話したの?」
姉妹に先ほどの出来事を話した。二番目の彼女でもいいから付き合うこと、出なければ承認はしないということ、オーディションは受かり、その次はホテルで演技指導とのこと、部屋を出ようとしたら必死に止められ、言いにくいが行為までに発展しそうだったこと。
「・・・枕」
「ん?」
二乃が枕つぶやいた。確かにそんなことを言っていた気もする。
「さっき、電話繋がった状態そんなこと言ったのは聞こえた」
確かに先ほど切る前に、一花に迫られてそのままにしていたので、二乃も音だけは聞いていたらしい。そして、三玖が可能性の一つを言う。
「・・・・・・枕営業」
「何それ?枕売るの?」
「・・・だと、いいんですけどね」
四葉が疑問の表情を浮かべるが、五月はわかっているようだ。そもそも、枕営業とは番組や、ドラマの出演の際、自分自身をプロデューサーや監督に売る。言ってしまえば、体の関係である。その出演権を勝ち取るなど、ざっくりだが、こんなところだ。だが、この考えは嘘であってほしいし、正直、現実感はない。フィクションのものだと考えるし、何より決めつけてしまうのは早すぎる。
「何よそれ・・・事務所が一花を売ったってこと!?」
「・・・事務所に電話しよう」
風太郎の案で、とりあえず、一花の所属事務所に電話をして、真実を確かめることにした。社長とは前々から連絡を取っていたので、すぐにつながることが出来た。
「はい。上杉です・・・お聞きしたいことが・・・」
そして、前々から連絡を取っていたのは、高校卒業前の一花の家庭教師の映像をどうするかについて、話し合っていた。しかし今回はそれの打ち合わせを装って、事務所に真意を確かめる。
「出来れば直接お会い出来れば・・・」
「・・・まぁ、私も聞きたいことはあるし、迎えに行くわ」
そう言うと、タワーマンションまで車で迎えに行くとのこと、今すぐ出るので到着までそう時間はかからなかった。
そして、風太郎だけが降りて、タワーマンションの外にある一台の高級車。そこに一花の事務所の社長が待っていた。
「あら、上杉くん!乗って!」
そう言って相変わらずオカマチックで陽気な社長は風太郎を助手席に乗せ、車を走らせる。そして本題のことだ。
「それで、一花ちゃんとの映画についてなんだけど・・・」
そう言って社長が企画書を取り出そうとする前に、風太郎が切り出した。
「一花・・・枕営業するんですか?」
「・・・面白くない質問ね」
社長のニコニコしていた表情が変わる。確かに、ただの勘違いで終わるならそれでいい。しかし、どうしても聞かなければならない。
「一花の今日のドラマオーディションについて・・・」
「・・・オーディション?そんな予定あったかしら?」
「・・・誤魔化さないでください!」
そう言うと運転中の車を止め、急いで一花のスケージュールを確認する。横から見たが、すごい量のメモだ。
「上杉君。まさか私が一花ちゃんを売ったなんて考えてないわよね」
上杉の考えすぎだったのか、わからないが、おそらく怒っている。確かにこんな勘違いを一花が普段お世話になっている社長に恐怖を覚えた。しかし、今度は冷静に話してくる。
「何があったのか、教えてちょうだい」
そう言って、一花の部屋であった現状を話す、部屋での発言。監督から渡されたメモ用紙の内容。そして、姉妹の推理によってこの結論が出てしまった。間違えなら、間違えでいい。
「なるほど・・・上杉君。私はそんなこともする気は今も未来もないわ。それに、事務所としてはそんなのリスクが大きすぎる」
社長が言うには、枕営業は事務所の背負うリスクが大きくて、やるだけ、無駄とのこと。ばれたら、たとえ相手側から持ち掛けた話でも、批判は事務所に集中する。なので、事務所はそんなことは一切しない・・・逆に考えられることはもう一つある。
「契約?」
「ええ、恋人契約、愛人契約。事務所は通さない、個人的な契約よ・・・まぁ、言い方は置いておいて、お金払うし、出演も有利にするから、男女関係を持ちましょうって・・・これは昔、うちの所属の子がね・・・」
そういって、過去にあった話を始める。所属の新人が、ある番組がきっかけで仲良くなったプロデューサーとそう言った契約をしてしまう。しかし、今は時代が時代。パパラッチも多くいるし、普通に人々はカメラ・・・もとい、スマホを持ち歩いている。さらにはそれを全世界に知らせることが出来る。それらのおかげで関係はばれてその新人は芸能人生を失ってしまった。
「もし、一花ちゃんが同じようことをしているのなら、全力で止めるわ!今から、そのオーディションについて何か情報はない?」
「・・・台本を読み合せました」
「なんて本?」
「タイトルは判りませんが・・・」
そう言って風太郎は読み合せた個所のシーンを説明する。恋人に他に好きな人が出来たと別れ話を引き出されたが、実は嘘で、本当は病気なので、お互いに忘れようという話。正直情報はこれしかないが、これでわかるものなのか?
「・・・マネージャーにも確認してもらったけど、この監督ね。うちから一人出したんだけど、落ちた作品。確かあの監督は一花ちゃんを気に入ってたわ・・・少し、厄介な人だけどね」
「厄介な人?」
「・・・一花ちゃん。監督に食事に誘われたの。そこは別にかまわないわ。監督と演者が食事をするのはおかしいことではないけど、去年、つまり一花ちゃんがまだ未成年の時、お酒を飲まされたって言ってたわ、だます形で。その後にやたら、ボディタッチが増えたって・・・」
「え?」
「もちろん、一花ちゃんの機転もあって大丈夫だったんだけど・・・」
社長も聞いただけだが、個室での食事で、監督が勧めたぶどうジュースが、明らかアルコールが入っていたワインらしい。その後、トイレに行くといって個室を離れ、店員に確認をしたところ、ワインだったことが判明した。その後はトイレでマネージャーに相談して、嘘の仕事を理由に帰らせてもらったとのこと。
「でも、狙うなら今ね、聴覚障害でお芝居は絶望的な中にまさに一本のクモの糸ってところ・・・厄介な人ね」
とりあえず、彼女に直接話を聞くことにした二人は一度、タワーマンションへ戻ることを決めた。しかし着信が入る。相手は四葉だ。
「四葉?」
「風太郎!一花が・・・一花がぁ!!」
何か泣きながら訴えている彼女から電話がかかる。ただことではない様だ。そして、耳を澄ませてみると、彼女は外にいるようだった
タワーマンション前に到着し エントランス前で蹲っている四葉を発見する。服の表面にすった後がある。どうやら、匍匐前進をし、マンションの前まで来たようだ。
「四葉!」
「風太郎!」
お互いに抱き合い、四葉にケガがないかを確認する。すると、マンションのエレベーターから、一花を除いた、他の姉妹も集まってきた。
「四葉!・・・一花は?」
「ごめん・・・」
その後、風太郎と一花を除く姉妹はへ戻り、社長はまだ仕事の途中なので事務所へ戻った。四葉の手当てから始める、少しすってしまっているので絆創膏を使って、傷を治す。
「ありがとう。風太郎」
「気にすんな・・・」
風太郎は正直、怒りを感じていた、この状態の四葉を置いていった、一花に対して何を考えてるんだと言ってやりたい。そして、リビングも暗い雰囲気になっており、一花の足取りがつかめない。一花のスマホに関しては家に置いてあった。
風太郎のスマホに着信が入る相手は非通知だった。恐る恐る電話に出てみる。
「やっほー。フータロー君?」
「一花!?」
その声に全員反応した。そして、そのまま続ける。
「聞こえないから、一方的に話すね。四葉には会えたよね?ごめんねって代わりに謝ってもらえると嬉しい。でね、私・・・女優として頑張るよ。だから今回ね、監督さんから、お仕事貰う代わりに、私を売ることにした・・・それで、もう私はみんなに・・・姉妹とフータロー君に会わないってっ決めた。こんなことしてるのがいるって言うのは・・・私も二十歳だから自由に家も借りられるし、お金はあるから安心して、でね、私の女優人生を応援してほしいな・・・もう会わないけど・・・姉妹のみんなと協力して頑張って・・・あと、承認票。書いといたから見といてね・・・えっと、後は・・・体に気をつけて・・・えっと・・・ごめん・・・」
某所の公衆電話。そこで涙を流しながら受話器を外している女性がいた。
「みんな・・・」
私はお芝居が好きだ、でも、耳が聞こえない人を使ってくれる人なんていない。これが最後のチャンスかもしれない・・・もう・・・みんなに、フータロー君にも会えない・・・
「ありがとう・・・大好きだったよ、フータロー君」
そう言って彼女は電話を切った。
「・・・お前を」
そう言って、切れたスマホを耳から離し
「そんなお前を・・・俺は応援できない・・・」
無情にもそう思ってしまった。確かに、そこまでしてでも彼女は女優として、芝居をしたいのだろう。だが、そんな後悔をしてまでやることなのか・・・そう考えていると、今度は別のスマホが鳴った。置いて行った一花のスマホだ。
「くそ・・・ロックかかってる」
「貸して」
それにもたもたしていたので電話に出れなかった。しかし、二乃は一花のロックパスを覚えていたらしく慣れた作業で解除する。
「!!」
「どうしましたか?二乃・・・これって!?」
五月も何か驚いた表情を浮かべた。そして、風太郎もそれを見て、怒りと、申し訳なさで気持ちがあふれるだ。彼女は・・・俺を・・・