時刻は風太郎が事務所の社長と話すために外に出たころ。一花の部屋で一人、毛布にくるまりながら、部屋の主が無の表情でいる。
「・・・・・・」
聴覚障害をきっかけに、私のお芝居の仕事は無くなった。頑張って合格したオーディションも、推薦された役も、一番楽しみにしてたハリウッドも・・・全部なくなっちゃった。事務所の意向としてはモデル関係を増やしていくらしい。モデルも嫌いじゃないけど・・・もっとお芝居がしたい。
「・・・だよね」
渡されたメモ帳のことを思い出す。
オーディション会場。と言っても、一つのレッススタジオで行われたものだ。そこに今回の監督と一花の二人でいる。そして、一花の演技が始まった。どれをとっても完璧なものだ。
「すごいね!やっぱ流石一花ちゃん!」
「・・・ありがとうございます」
監督の口の動きが終わったのでお礼を言う。監督にも褒められ何回もやってきたのでこの反応は合格のパターンが多かったので一花も行けると思っていた。しかし、結果はこうだった。
「・・・もう一つ演技を見せてもらおかな」
そう言って彼が出してきたのはアタッシュケース。そこに大量の札束が入っていた。
「これは契約金。そして別で月五十万の契約・・・どう?」
そして、メモ帳に書いてあるものを渡される。日時とホテルの場所。これを見て一花自身、今までの行動も見て察したが、こんなものくだらない。
「お断りします」
そう言って一花は荷物をまとめてオーディション会場を出て行ってしまう。しかし、すぐさまメールが届く。それに驚かされた。
「・・・なん・・・で?」
焦って、手が震える。なんでこんなのを持ってるの・・・これは二人だけの・・・思い出の・・・
貼り付けられた画像には、文化祭後、公園での風太郎と一花のキス写真が添付されていた。そしてスクロールをしてみる
【これを公表すれば、君は終わりだ。彼もね】
さらに追加メールで、上杉風太郎の個人情報をつづりだす、君の所属事務所も一目置いている。教育系の大学に通っていて教師志望。実家は貧乏。君の妹が彼女にいる。
【それをすべて壊せるよ。君の態度次第で】
一花は逃げ道を封じられてしまった。監督と契約するしか・・・自身の女優人生と・・・風太郎を守れない。
そう言って、彼女は先ほどのオーディション会場へもどり、残されたメモ帳を持って帰った。
今彼女は怒りに満ちている。風太郎との大切な思い出をこんな風に使うなんて・・・あれは私とフータロー君の二人の特別な・・・でも、もし、私が断ったら・・・風太郎君はどうなっちゃうの・・・
「助けて・・・フータロー君・・・」
私が助けないといけないのに・・・助けを求めてる。私はこんなに弱くなってしまったのだろか・・・・一つ、あることをしよう。もし風太郎君が受け入れてくれるならこの話は諦める・・・・
「彼女にして・・・」
場面は変わり風太郎に一花が涙ながらに告白をしたシーンだ。その時に考えてしまった。もし断られたら・・・私は・・・あんな男と・・・嘘・・・・
「二番目でも・・・いいからぁ」
嫌だ・・・そんなのは絶対に嫌!お願いフータロー君!あなたがいてくれるなら私はお芝居だって諦められる。だから・・・わかったって・・・言って・・・
「・・・悪い。それはできない」
そんな申し訳ない表情・・・わかっていた。そんなことはでも、引き下がりたくない。今じゃなきゃ・・・だって、このまま枕営業みたいなこと、私は・・・そんなの・・・
そのがオーデションの結果を聞いたり、メモ帳について話す。
彼が電話をしながら、部屋を出ようとしている・・・待って!!行かないで!!
そう言うと私はいつの間にか彼を押し倒していた。彼も困惑している。でも、好きになって・・好きになってもらわなきゃ・・・
そう思い、おもむろに服を脱ぎだす。必死に抵抗してくる風太郎を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、ごめん・・・本当にごめん・・・・お願い・・・貴方がいれば、私頑張る・・・だって・・こんなで、私・・・枕って・・・でも、そうしないと・・・
そんなことがあり、今は頭を冷やすように、二乃に言われた。約束の時間まではまだある。でも、ここにいたくなかった・・・ここにいるとみんなが必死に夢を追いかけているのに、私だけ・・・こんなで、みじめになる・・・でも、フータロー君は私を選んでくれなかった・・・だから、私は女優として生きて行く。でもこんなことをする・・・もう、姉妹にも、フータロー君にも・・・会わない。でも、フータロー君を・・・ずっと好きな人を守りながら生きて行くってなんかロマンチック・・・似合わないな、私。
そんな独り言は胸にしまい、一花は家を出る準備をする。そして、部屋を出てリビングを通る。
「どっか行くの?・・・あ、そっか」
二乃がハッとしてメールで文章を書き、その内容を受け取る。
「うん。頭冷やすために散歩」
「じゃあ、私ついて行く・・・今のあなたじゃ、心配だし」
そう言って彼女も監視のために出かける、メールを送ってきたので一花はあることを提案する。
「じゃあ、四葉と一緒に行こうかな・・・いい?」
「うん!いいよ」
そう言いながら親指をグッと立てる。そして四葉の車いすをを一花が押しながら、二人はエレベーターを降りて行った。
そして、マンションを出てから、四葉は何か話そうと考えているようだったが、一花の表情の怖さに、なにも話せずにいた。そして、歩いてまだ一分もたってない時だった。
「四葉・・・フータロー君と幸せになってね」
「え?」
そう言うと、一花は車いすの四葉をその場に置いて行き、彼女は走り出した。
「一花・・・一花!!」
四葉が必死に車いすで置きかけるが、追いつくはずもない。そのまま一花は見えなくなってしまった。そして、石に躓いてしまい、四葉はそのまま転倒してしまった。
「い、痛い・・・一花!」
呼んでも決して、彼女は振り返るわけもなく戻ってくることはなかった。周りに人はいなく、四葉は危機感を覚えひとまず、半べそになりながら風太郎に電話した。
「風太郎!一花が・・・一花がぁ!!」
そして、私はフータロー君に別れを告げた。もう、彼にも、姉妹にも会わないと・・・やっぱりやめたほうが良かったかも、なんてすこし、後悔。でも、私は今日、お芝居のために自分を犠牲にする。それに、私の大好きなフータロー君、お姉さんが君を守るよ。
そして、約束の時間までは、なるべく周りの人に中野一花だとばれないように、変装をするが、一花には行っておきたい場所があった。
「久しぶりだなー」
なんとなく呟いてみる。そこは私が通っていた思い出の高校。二年の二学期から転校して来て、本当に色々なことがあった。彼とも出会えた。五つ子の絆も深まった。
「さよなら」
そう言って自らの思い出に別れを告げる。今度は公園。ここは急遽オーデイションが入って、みんなと花火を見る約束を破ったけど、みんなが私を・・・待っててくれた場所。後は、フータロー君をいいなって思った場所。
「さよなら」
次はただの脇道、でもここで・・・社長から逃げてる時にフータロー君と抱き合った場所。今思えばおいしいイベントだった。あの時、だっけ、私たちをパートナーだって言ってくれたの・・・
「さよなら」
最後に・・・遠くから我が家を見つめる。見える距離に来ているが、誰かに見つかったら私の決意が鈍る。だからぎりぎり見えるこの場所から・・・フータロー君が家庭教師をしてくれた場所。私の大切な家族がいる場所・・・
「さよなら」
これで、いい、私は・・・行くよ。約束の時間には今からこの場を離れないと間に合わない・・・
電車を乗り継ぎ、都内の目的の場所へ向かう。時間は十分前・・・このホテルの部屋は1202号室・・・
「さよなら・・・綺麗な私」
そして、意を決した彼女はホテルへ入っていった。