ホテルの十二階。目的の部屋の目の前に立つ、一息ついて覚悟を決めて、部屋に入る。
「お待たせしました」
「やぁ、一花ちゃん・・・待ってたよ」
顔をニヤつかせながらバスローブで待っていた、出演の代わりに買った監督。お酒を飲み、もうすでに準備は万端と言ったところだろう・・・私は今夜・・・抱かれる。
そして、服のボタンに手をかけ、彼女も準備を始める。
「・・・はぁ」
ひとりでにそうため息。やっぱり私・・・怖い。
彼女は今の自分の状況がもう逃げられないこと理解した、あれだけ、取り消せるチャンスもあった。でも、風太郎。もし、彼女がこの契約を受け入れなければ、彼の人生の何か影響があると脅されている。でも、怖い・・・
「・・・・・・」
「じゃあ、始めよう」
そう言うと監督は服を脱ぎだし彼女に覆いかぶさる。
「やっぱ、やだ・・・嫌だ!!」
必死に抵抗すると、扉のからコンコンと誰かがノックの音がする。
「すみませーん。清掃のものです。先ほどのお客様が、忘れ物をなさったので、開けていただけますか?」
「んだよ、タイミング悪い。一花ちゃん、顔見られないようにね」
これからって時に、という表情で、めんどくさそうな顔で扉を開ける。そこに白いシーツで隠されているリネンセットのカートを持った金髪の筋肉隆々のマスクをした男性清掃員が立っていた。
「では・・・失礼します!」
彼がなにか、意を決したかのように、まるで気合を入れるかの様に声を発する。その瞬間、リネンカートを監督に向かって投げ飛ばした。
「痛った!何すんじゃ貴様!!」
急にどでかいカートを投げつけられて、状況が混乱している。一花も大きな音に、様子を見に行った。
「今だ!金太郎!」
「親父!ありがとな!」
筋肉隆々男性が声をあげた時にリネンカートの白い布が捲られ中から、こちらもひょろひょろとした体であるが、金髪の青年が現れた。
「フータロー・・・君?」
「風太郎は会えないらしいからな、俺は親戚の金太郎だ」
「なん・・・で・・・」
「・・・行くぞ!」
黒髪は金髪になり、髪もあのマッシュルームみたいな真面目ヘアースタイルではなく長い前髪で顔が隠れている。そう言って、金太郎は彼女に手を伸ばし、手を無理やりつかんで、扉の前の混戦している場所を抜ける。第一ミッションクリア。後は、もう一つ。
先ほどの1202号室では動きを止めていたのは風太郎の父、勇成だ。一花を逃がすことに成功したので、抑えるのをやめようとした、その油断だった。
「死ねぇえ!!」
監督がどこから取り出したかわからないが、黒い端末、その先端に電気が走っている。スタンガンだ。それを受けてしまった勇成はその場に崩れ落ちた。それを確認すると服を着て、すぐさま飛び出す!
「一花ちゃぁああん!!」
狂人の様に叫びながら彼は部屋を出て行く。金太郎と一花を追う気だ。そして、エレベーターに乗った一花の姿を確認するが、エレベーターがしまって、そのまま降りて行く。
彼は階段を降り、外に出る。そして、急いで、逃げようとしている一花の姿があった。そして、金太郎はいない。はぐれてしまったのかわからないが監督にとっては絶好のチャンスだった。
「待てよ!!!」
外ということを全く気に押していない様子だったが、彼女の肩をつかむ、そして、彼女の顔を確認し表情が自然と笑みがこぼれる。
「さぁ、戻ろう!君と・・・あの男の子のためにぃい!」
この後にすることが楽しみで楽しみで仕方がないのだろう。そして、彼女の手を引いてホテルに戻ろうとする。しかし、また一人の男性がその光景を見て、怒りをあらわにしていた。
「僕の大事な娘に何をしている」
「はぁ?」
そこに現れたのは五つ子の父。マルオだった。そして、今の状況を親としては見過ごすわけにはいかないだろう。
「・・・ええ、一花さんとの大事な仕事についてのお話を今から、しかし、彼女が抜け出してしまったので、連れ戻しにまいりました。お父様」
急遽、人が変わったかのように冷静に対応しだす監督。確かに、父親にこのことを知られるのはまずいだろう。
「そうでしたか、ご苦労様です。では行こうか」
彼も同じように大人の対応をしたにも関わらず、彼女を連れて行こうとする。その反応に、監督も一瞬迷ったが、そのまま話し続ける。
「一花ちゃん!いいのかい?このお仕事は君やほかの人の人生に今後大きく関わってくる。来るんだ!」
そう言って、一花の弱みをいうが、彼女は動じない。そして、口を開いたのはマルオだった。
「あともう一つ、君にお父様なんていわれる筋合いはない・・・・」
彼を睨みつける。そしてそのタイミングでパトカーが通りかかった。
「ここですか?通報があったのは」
そう言って、なぜか来た警察があたりを見渡し、マルオが手を振る。それを見つけて、警察が駆け寄る。
「何かあったんですか?」
「この男が私を追いかけまわしてくるんです。お父さんにも協力してもらってるんですが、しつこいので!」
彼女がそう言うと、監督は一瞬焦ったように見えたが、冷静に判断する。
「追いかけまわすって、君は今からお仕事でしょ?今後の役者人生に関わってくるし、そう言う契約だ。契約書もあるし、それを破ったら・・・ね?」
わかるでしょと言わんばかりに、警察も説得していく、そして警察も、言われた女性が、中野一花だと気づき始める。そして、彼女の手をつかもうとする。
場面は変わり、先ほど乱闘をしていた1202号室、スタンガンの影響でしびれて動けない勇成だったが、何とか、電話をすることが出来た。
「金太郎・・・もうあいつは出て行った」
「大丈夫か?」
「だが、俺は動けそうにない。来てくれ」
「わかった」
そして、金太郎が現在、一花と一緒に隣の部屋1201号室にいる。そしてもう一人。
「金太郎君。なんだって?」
「一花追って、部屋を出てったって、行くぞ」
「あの・・・二乃?」
二乃もイメチェンをしていて、金太郎とおそろいの金髪ウィッグにカラーコンタクト等でギャルの様な感じは、二乃からはかけ離れたものとなっている。
「二乃?あたしはー六海ー。五つ子のー、隠されたー、六人目だよー」
ギャルをイメージしてるのか、語尾が伸びていて明らか無理しているが、そう言って一花を置いて二人は先ほどの部屋に向かった。
「悪いな。金太郎」
倒れこんでいる勇成を引きずりながら、先ほどの一花がいる部屋に運ぼうとする、重いが気合で何とか運ぶ。
「ああ、ひとまず、隣の部屋に移動させる六海はその間に・・・」
「わかってる」
そう言って、彼女はまずは、事前に仕掛けた監視カメラを回収する。そこにはしっかりと映像が残されていた。
「うん。次」
今度は監督のカバンを漁りだす。懸命にファイルの資料や、USBデータを持ち込み、それを確かめる。
「どうだ?」
「私はこれを見るわ。フー君はパソコンをお願い」
「今は金太郎だ。了解」
そう言ってホテルに付属されているパソコンにUSBを差し込みデータを見てみる。
「・・・マジかよ」
動画、画像の保存されているものを調べると、そこには様々な恥ずかしい女性の映像や画像があった。さらには明らか盗撮しているだろう物も存在し、明らか未成年女性の画像があった。
「・・・!」
資料の欄に、一花についての企画書が存在したのでそれを確認する。それは今後一花の女優人生に関するものだが、完全に落としにかかっている。読み進めてみるとアダルトのほうにもっていく予定だったらしい。
「クソ!!」
イライラが止まらないが、次の行動に移す、それら、追い詰められそうな証拠をすべて、待機してもらっているマルオに送る。合流したとの報告は受けた。
「だが、これで終わりだ」
それらの証拠を持っていき、金太郎はマルオの元へ向かった。
そして、場面は監督が一花の手をつかもうとしてるとき、一花からは想像もつかない言葉を発した。
「・・・やめて」
そう言って彼の手を思いっきりはたき、監督の目を睨み、堂々と言う。
「私とあなたにそんな契約なんてないでしょ?」
彼女は頭をかき、スポンとウィッグが取れる。そして、それを投げつけて、言い放つ。
「私は中野三玖。一花じゃない」
「それだけでは終わらないけどね」
そして、今度は父のマルオが、先ほどのホテルでの出来事、部屋を開けた状態で出て行った間に、何か追い詰められるものを探すと、わんさか出てきた。監督の荷物から、過去の女性との行為の映像や、写真、違反行為のデータ等を見せつける。二乃のアドレスから送られていて、それを彼と警察に見せる。さらに、そこに追撃が入る。
「はぁ・・・はぁ・・・これも、お願いします」
そう言って、先ほど部屋から物色した、USBデータ、あれだけのものが入っているんだ。役に立ってくれるだろう。
「・・・詳しくは署でお話を」
「な、き・・・貴様ぁあ!!」
そう捨て台詞を吐いて、監督を乗せ、パトカーを走らせる。証拠のためにマルオと三玖も同行した。
場面は一花のメールの内容を見てしまったリビングに戻る。
「これって・・・」
一花のスマホのロックを解除して、メールを覗いてみると、監督が一花の女優人生・・・そして、風太郎の今後を脅しに、彼女に迫ったようだった。
「クソ!」
こんなもの、感情的にもなる。風太郎はいつの間にか、狙われていて、いつのまにか一花に守られていた。・・こんなの・・・だから、あんな彼女にして欲しいとか・・・それが一花の最終防衛ラインだったそれを俺が・・・気付いていれば・・・
「風太郎・・・」
四葉も心配そうに慰める。しかし、風太郎は聞終えておらず、自分を責め立てる。何がサポートしてやるだ。自分が彼女追い詰めて、足手まといになってるじゃないか。
「一花・・・」
今すぐあいつをどうにかしてやりたい。しかし、居場所もわからず、携帯は家にあるので連絡も取れない。もう、どうしようもないのか・・・
「義兄さん!!」
パチィン!
乾いた音が響き、しょぼくれていた風太郎の両頬を挟むように叩く。すると、五月も悔しそうな表情を浮かべながらも諦めていなかった。
「あなたはどうしたいですか?」
「え?」
「一花の思いは聞きました。私たちから、逃げてまで女優業をすると、そんな勝手を押し付けられました・・・あなたはどうなんですか?」
「俺は・・・」
五月に言われ、思ったこと・・・そして、うじうじとしている風太郎に、五月は言い放った。
「私に言いましたよね!五つ子みんなと未来を歩きたいって!一花は、いないのですか?・・・私は助けに行きます」
「私も。四葉置いて行ったこと、本人に謝ってないし」
そう言って今度は、二乃が言う。
「勝手に、姉妹の縁を切るんじゃないわよ。あのバカ」
「そうだね。私も行こう」
今度は三玖が立ち上がる。
「修学旅行のとき、告白邪魔されたから、私も邪魔する」
「私も!・・・まぁ、私が出来ることって限られてるけど・・・」
今度は四葉もその趣を伝える。彼女たちはまだ、一花の勝手を認めていなかった。
「・・・俺も」
風太郎も守られている彼女の意思は無視をした。どんな困難でも風太郎はみながいれば大丈夫と言う根拠のない自信はある。
「勝手に守られてたんだ・・・俺も勝手に助ける」
彼女から女優業を奪うかもしれないこの行動は彼女の恩を仇で返すと言っても過言ではない。しかし、皆の決意はもう固まってた。各々が行動に入る。まずは、人員が欲しい。それに信頼できる人。
「親父!仕事中悪い・・・頼みがあるんだ」
「パパ!お願いがあるの・・・」
風太郎は勇成に、二乃はマルオに連絡をする。そして、今回の事情を説明する。
「風太郎・・・いい男になったな。今向かう!」
「父親として、説教をしないといけないね。今向かうよ」
時刻はすでに、夕方。着々と一花の救出作戦の準備を進める。
「はい。ホテルの1201号室を予約お願いします。・・・よし、隣の部屋も取った」
「後は・・・」
そう言って今度は二乃に電話をかける。
「そっちはどうだ?」
「うん。設置はオッケー。1202号室、カメラセットしたよ」
先に二乃はホテルへ行き、カメラの設置を開始する。後は清掃の人にばれないことを祈ろう・・・ホテルの部屋の盗撮ってばれたら普通に捕まるから、これはあくまで、最終手段。風太郎が全責任を取る。できれば、監督の荷物等からの弱みをつかめるものが出るといい。
「わかった。ありがとう二乃」
その後、二乃には一回出てもらい、先ほど予約した隣の部屋で待機して貰う。
「三玖。後で俺とホテル行くぞ」
「え・・・あ・・・うん//」
「親の前で娘をホテルに誘うのはやめたまえ」
「そういう意味ではなくて!・・・ってお義父さん!」
「来たぞ風太郎!」
「お兄ちゃん!来たよ!」
マルオ、勇成、らいはも合流して今回の作戦を伝える。
「まずは、1201室、部屋の隣で準備を行う。その間に、監視カメラの映像から別室でタイミングを見て入ります。そして、一花を隣の部屋に匿い、親父に監督を抑えて、その間、俺と二乃と三玖で何か脅す材料を探す。カバンとか持ってくるだろうし、その中を物色する。証拠をお義父さんに送ったら警察を呼んでおく・・・四葉と五月は自宅で待機させ、らいはに二人を頼みます」
「ごめんなさい風太郎。私、あんまり役に立てそうになくて・・・」
「私もです。義兄さん・・・あんな大見得張っておいて」
確かに、車いすでしか動けない四葉と視界が狭い五月ではできることは限られている。しかしそんなことはない。すでに力になってくれている。
「いいや、五月が俺を叱ってくれなきゃ、俺は動けなかった。四葉、お前にも役割はちゃんとある」
「・・・私は反対だ」
「・・・ですよね」
マルオから言われるのは覚悟していた、今の説明はどれもうまくいったときの話だ。
「こういう場合はプランを第二、第三と用意しておくべきだ。まず、一花君の救出のために扉を開けてくれない時の対処法は?」
「・・・隣の部屋から、ベランダを伝って、窓を破壊して侵入します。二乃から室内の状況を聞いたらベランダの距離は離れてないようですので」
「もし、君のお父さんが相手を抑えられなかった場合は?」
「おい、マルオ。俺がやられるってことは」
勇成はそう言うが、確かにずっと抑えられている保証はない。もしかしたら、何か武器などを使って抵抗してくる可能性も考えられる。
「無くはない。どうなんだ?」
考えは無くはない、だが、これは危険なものだ。時間は限られているのでその案を彼にはっきりと言う。
「二乃か三玖を・・・囮にします」
「・・・・・・」
彼が別で考えあげていた作戦。一花を救出したら、勇成も一緒に逃げて部屋に匿う。その間に、二乃か三玖。どちらかが一花に変装して、監督に姿を確認させ、追いかけてもらう。その間もぬけの殻になった部屋を漁る。できれば、外に追いやって、マルオと合流させる。
「・・・なるほど、一花君を助けるのならそっちのほうがいいし、二乃君、三玖君は一般女性だ。男性迫られているので、場合によっては現行犯で捕まえられる。だが、二乃君、三玖君はより危険なことをさらされることになるね」
できることなら、風太郎が追いかけられる危険な役をやりたい。しかし、風太郎が一花の変装が出来るはずもないので、二人のどちらかに頼むしか方法はない。
「私、やるよ。」
「三玖・・・本当にいいのか?」
「うん。私は一花を助けたい。それに、あの時は私に変装してたから、そのお返し」
そんな可愛らしい理由でやることではない気もするが、協力的なのはありがたい。しかし、マルオが許可を出すとも思えない。
「三玖君。君の言いたいことはわかった・・・だが、もう一つ、確認をする」
その発言に風太郎は考えが及ばなかったわけではない。この空気でそれは考えないようにしていたと言ってもいい。
「もし、一花君が上杉君の救出を拒んだら?」
確かに、一花は女優人生のすべてをかけてこの決断をした。そして、風太郎になにか危険が起こるのを守ってくれている。これを拒む可能性も十分ありうる。
「己を捨て、家族を捨て、それでも彼女は芝居の世界に残りたいといった・・・どうなんだ?」
「俺は・・・責任を取ります」
「そんな口約束で何が出来る。あの子の想いを切り離したのは君だろう?」
「でも!俺は!五つ子いない未来はいらない!!」
「・・・そうか」
そう言うと彼は出る準備を始める。どうやら彼には響かなかったようだった。確かに、こんな作戦は全部うまくいくなんて限らない。ましてや、一花の意見など無視して行おうとしていることだ。
「江端。車の準備を、あと、警察、弁護士の手配をしてくれ・・・出る者は早く準備をしろ」
「え?」
「僕の大切なものを奪うものだ。僕は二度と失いたくないのでね・・・僕もあの子たち、誰かがいない未来は想像したくない。僕はあの娘の親だ。娘の間違っていると思うことは全力で止めるさ」
「ありがとうございます!」
そう深々とお礼をする。そして去っていく背中に勇成が近づいて行く。
「素直じゃねーな。お前は」
「うるさい・・・僕と娘。そして、あの人のためだ」
そう言って、相変わらず冷静な表情であったが、彼の力も加わってくれた。そして、その後を追う風太郎に渡そうとカバンから何かを取り出す。
「これを、君から渡してあげてほしい・・・」
「はい!」
風太郎はそれをしっかりと受けとり、渡すことを約束した。
時刻は二十三時、風太郎、二乃、勇成、一花は1201号室で待機をしている。風太郎のスマホに着信が入る。相手は先ほど警察と同行した三玖だ。
「三玖?どうだった?」
証拠もあれだけ集めて警察の連行まで行った。後ろ盾として、マルオが弁護士を雇ったので、スキはないはずだ。
「・・・勝ったよ。ブイ」
可愛らしく、受話器の三玖から、監督の身柄拘束。ここからいろいろ捜査が入るが、現状の証拠品三玖への行為も現行犯に繋がったらしい。十分逮捕につながるとのこと。
「うん。弁護士さんがそういってたよ。私たちも今から戻るね」
「ああ、気をつけてな」
そう言って電話を切る。そして、それと同時に感情が込み上げてきた。
「よっしゃ!!」
思い切りガッツポーズを決めると、二乃が抱き着き喜びを分かち合っている。勇成も、にこやかにそれを眺めていた。しかし、膝を抱えて、ベッドでふさぎ込んでいる一花がいた。
「一花・・・」
そう言って彼女の肩に手を置くと風太郎を見上げる。そして、彼女の耳元に何かをつけてあげる、そして耳元で少し強い声で言う。
「守っててくれたんだよな。俺のこと」
「聞こえ・・・る」
今の彼女はこの距離でこの声量だと聞こえるようだ。これは先ほどマルオから預かっていたもの、改良した一花用の補聴器だ。
「ありがとう。一花」
「・・・うん」
「でも、俺はそんなわからない恐怖より、お前と会えなくなる方が怖い」
「・・・うん」
「あと、ごめんな。勝手に・・・こんなこと・・・」
そう言い終わる前に膝を抱えていた一花がぎゅっと抱き着いてくる。グスッと涙をすする音が聞こえた。
「怖・・・かった・・・わ、わたしぃ・・・」
本当は怖かった。直前までは何とかなるって思ってた考えが甘かった。だけど、覆いかぶされ、逃げ場をなくした時、ひどく後悔をした。現実を受け入れられないで、女優業にしがみつき、意中の男の子も振り向いてくれないで、自分をこんなにして、姉妹を傷つけて、こんな大掛かりなことをしてもらってみんなに迷惑かけて・・・
「ごめん・・・フータロー君。・・・二乃、三玖、四葉、五月・・・みんなに・・・会いたい・・・」
「ああ、みんなに会おう・・・お帰り、一花」
子供のように泣き出した彼女。一度、自分を、皆を捨てて、生きて行く決意をしたが、戻りたい気持ちは残ってくれていた。本当はつらかったのだろう。一人で全部抱え込んで、風太郎も知らず知らずに守ってくれていた。今後彼女の人生はどうなっていくかはわからないが、今は戻ってきてくれたことを嬉しく思おう。