五等分の障害   作:森盛銛

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2話 一花と三玖

二乃曰く、五つ子は全員ここにいるらしい、のでそれぞれの部屋に入ろうとするが、二乃に真剣な表情をされる。

 

「フー君。少し辛いものを見ることになるかも・・・ホントにごめん」

 

そう言って、最初は長女の一花の部屋に入る。部屋は前のようにものすごく散らかっているわけではないが、びりびりに破かれた紙の束があった。そして布団にくるまっているのが一花だろう。

 

「一花。俺だ。上杉だ」

 

そう言うが反応はない。眠っているのか、聞こえていない様だ。

 

「二乃すまん・・・代わりに起こしてやってくれ。もしかしたらまた服着てないかもしれな・・・」

 

一花は全裸で寝るタイプだったことを思い出し流石に見るわけにもいかないので、二乃に任せようとする。しかし、意外な答えが返ってきた。

 

「仮にそうだとしても、フォローする。だから、早く顔見せてあげて・・・」

 

真剣な表情で言うので覚悟を決める。風太郎もなるべく体を見ないように、布団をめくりあげる。

 

「止めてよ!!」

 

怒鳴るような声。今まで一花からそんな声をあげられるとは思っても見なかった。しかし、彼女は風太郎を認識した瞬間だった。

 

「あ・・・」

 

自分の今の格好もお構いなしに風太郎に勢いよく抱き着いてきた。

 

「フータロー君・・・なんで・・・」

 

「い、一花!その・・・服を着ろ!」

 

そう言うのだが、彼女は行動に集中して聞こえてないのか、抱きしめる力がどんどん強くなっている。

 

「ちょ・・・一花!!」

 

風太郎も大きな声で制止しようとするが、一花は止めない。

 

「・・・・・・」

 

それを見ていた二乃は黙って一花と風太郎を引き離すし一枚の紙を見せつける。それを見た一花は少し申し訳なさそうな表情と同時に

 

「・・・あ」

 

自分の格好気づき、掛け布団で体を隠し始めた。

 

二乃の行動を不思議に風太郎は何を見せたのかを確認する。そこにはこう書いてあった。

 

 

 

フー君困ってるから止めて。

あと、あなた今裸よ。

 

 

 

 

と書かれていた、わざわざこんなことをしないでも・・・

 

「まさか・・・」

 

風太郎の考えに該当したもの、できれば嘘であってほしい。だが、そういうわけにはいかない様だ。

 

「うん。一花の耳は・・・もう聞こえない」

 

「・・・・・・」

 

その発言に動揺を隠せない。一花のほうを見るが、やつれた表情がある。一晩中泣いていたのか疲れ切っている。彼女の女優業にどこまで響いているのか・・・彼女が心配でたまらなかった。

 

「ごめん。服着たよ」

 

一花と顔を合わせる。久々の一花の顔を見たが、完全な作り笑いだ。無理しているのが見え透いている。初めて会ったときの適当の表情のようだ。

 

「二乃・・・フータロー君と二人で話していいかな?」

 

そう言うと二乃はオーケーマークを作り、部屋を出て行った。

 

そしてふたりで座りこみ、一花が細々と話しだした。

 

「実はさ・・・私はハリウッド映画出ることになったんだ。でもさっきね・・・」

 

そう言って事務所メールの文面を見せられる。長ったらしい社会人のお手本メールがかかれているが言いたいことはこうだった。

 

「降板・・・だってさ・・・理由は耳が聞こえなくなったから」

 

映画監督は賞を取るほどの有名監督。キャストも名の知れた者が多く非常に豪華。その中に一花も食い込めるほどの力があることがわかる。しかし彼女は実力を発揮できたわけでもなく、別の形で役を下ろされてしまった。

 

「イライラしちゃってさ、台本もビリビリに破いちゃった・・・貴重なものなのに」

 

当たりに散らばっている紙はそういうことか、拾い上げてみると、細かく演技の方法は注意された個所などが書いてあり、一花の努力がうかがえる。

 

「フータロー君の声も聴けないのも・・・すごい悔しい」

 

そうして、一花の目が潤んできたが必死にこらえたのかまた作り笑いを始める。

 

「ごめん・・・話せて少し安心した。ありがとう。他の子の様子も見てあげて」

 

会話という会話はしていない、一花が一方的に話しかけてきただけであったが、どう答えてやるべきかもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一花の現状を聞いた風太郎はリビングで頭を抱えていた。いや、自分よりも一花のほうが苦しいはず。

 

「・・・フー君」

 

「他の姉妹も・・・なんだよな」

 

「うん・・・」

 

そう言うと上から勢いよくガチャッと扉が開く音がした。

 

その方向へ顔を向けると、また懐かしい顔があった。

 

「・・・久しぶり」

 

落ち着きながらも意気揚々と階段を駆け下りて行くのは三女の三玖。

 

「三玖!」

 

久々に会った三玖は風太郎に近づき、手を握る。

 

「いらっしゃい」

 

「ああ、三玖・・・」

 

見た感じ、彼女は特に異常はなさそうだ。ただ単純に部屋に閉じこもっていただけらしい。

 

グゥー

 

そんな三玖をみて安心した風太郎はおなかの音を鳴らせた。

 

「そういや、腹減ったな・・・なぁ三玖・・・」

 

「はいはい!あたしが作るわ」

 

せっかく専門学校で習っているのだ。三玖の料理を食べてみたいと思ったが発言を遮るように二乃が準備を始める。

 

「二乃。私が作る。風太郎は私をご指名」

 

「・・・大丈夫なのね」

 

「うん。フータローがいるから・・・がんばる」

 

そう言って三玖がキッチンに入ると、メニューはオムライスとのこと、三玖が初めて作ってくれた料理なのを思い出す。その時は見た目はぐちゃぐちゃのお好み焼きの様なものだったが、どれほど成長したか楽しみでもあった。

 

バターで鶏肉、刻んだ玉ねぎ、キノコの香りをフライパンから漂わせる。香ばしい匂いだ。

 

「いい匂いだ・・・」

 

そう言って香りを堪能している横で、二乃は若干そわそわと三玖を心配そうな目で見つめてくる。しかしその心配とは裏腹に、手際のよい作業。ご飯とトマトソース入れ、チキンライスの完成。以前と比べて動きが断然よくもなっている。

 

「・・・よし」

 

何か決したように、三玖がチキンライスの味見をする。見ている限り大丈夫そうであったが、味付けに何か問題でもあったのだろうか?落ち込んだ表情をしてる。

 

「フー君。味見してあげて・・・私部屋に戻るわ」

 

二乃がそう言うのでキッチンへ行き出来上がったチキンライスを一口食べる。

 

「普通にうまい・・・だが、甘いな若干」

 

味音痴である風太郎は別に気にはしてないのだが、普段オムライスを口にする際には感じない甘さだった。

 

「・・・ねぇフータロー」

 

「なんだ三玖?」

 

「私・・・もう料理しない」

 

「・・・は?」

 

いきなりであった。専門学校にまで通って料理の勉強をしたいと言っていた三玖がもうしないと言い出した。

 

「え?急に・・・いやいや、もったいないだろ!?料理作れるようになって・・・」

 

「私・・・もう感じない」

 

「・・・え?」

 

「味がね・・・塩を舐めても砂糖を舐めても同じ味」

 

チキンライスが甘く感じたのは塩の代わりに砂糖を入れたかららしい。だが、決してわざとではない。調味料がわかりにくい二つのものを三玖は舐めて確認をした。しかし彼女は何も感じない。三玖には味覚がなくなってしまった。

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