五等分の障害   作:森盛銛

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21話 一花の決断

全員あの量の朝食、つまりは一人五枚のパンケーキを何とか食べきって、一花は部屋に戻り、リビングで五月以外は満腹で横になっていた。そして、泊めてくれたお礼として、風太郎とらいはが皿洗いをしている。

 

「食べた・・・お腹いっぱい」

 

「うっぷ、私も・・・」

 

「作りすぎたわね・・・」

 

リビングの絨毯の上で横になっている三玖と四葉のお腹は膨らんでいる、それほど彼女たちにとっては重かったのだろう。二乃も作りすぎてしまい、少し反省をしているようだったが、そんな状況とは裏腹に、まだテーブルでスフレパンケーキを食している人間がいた。

 

「五月!あんた食べ過ぎ!」

 

「え?十枚ですよ!?」

 

「普通の女子大生でパンケーキ十枚は食べすぎだよ」

 

そう言いながら部屋から出てきた一花、変装用のサングラスもかけてどこかに出かける格好だった。

 

「どこか行くのか?」

 

風太郎も皿洗いをしながら一花が出かける格好をしたのに気がついたので聞いてみた。すると、あまり触れてほしくなさそうに困った表情で言ってくれた。

 

「うん・・・事務所に呼ばれてね」

 

「そう・・・か」

 

彼女は事務所に内緒でオーディションを行き、監督と出演を交渉に愛人契約を交わしてしまったことであろう。風太郎たちの活躍によって、何とかなったのだが、そのようなことをしていたのを所属事務所が黙っているわけにもいかない。

 

「・・・わかった。俺も行く」

 

これに関しては風太郎にも責任がある。なのでついて行くことを提案した。

 

「ううん、私一人で大丈夫!・・・フータロー君に助けてもらって本当に良かった。あれだけのことしちゃったんだもん。これで事務所クビになっても・・・後悔はないよ」

 

彼女の覚悟をしたような眼。もしクビとなっても本気で受け入れる。そんな覚悟だった。確かに彼女はそれくらいのことをしてしまった。だが、風太郎にも責任がある。

 

「・・・一花」

 

「大丈夫だよ・・・嘘、一個だけ約束して・・・」

 

少し表情が崩れてしまい、風太郎の胸を借りるように近づく。そして本当に小声で風太郎以外には聞こえないように話す。

 

「もし、ダメだったら、一緒に探してほしい・・・私の新しい道」

 

決して、一花のクビが決まったわけではない。だが、不安なのだろう。自業自得と言ってしまえばそれまでだが、彼女の女優への執着心はそれほどだったのだろう。

 

「ああ、約束する」

 

その言葉を聞いた一花は安心したかのように笑顔に戻る。

 

「ありがとう、じゃあ行ってくるね!」

 

本当は不安で仕方ないのだろうが、みんなは彼女から良い報告を聞けるように祈るしかなかった・・・などと考えていると出て行ったはずの一花が戻ってきた。

 

「フ、フータロー君・・・大変言いにくいのですが・・・」

 

顔を赤らめて敬語になり、言葉通り言いにくそうだ。何かあったのか?

 

「なんだ?」

 

「社長から、フータロー君も来てって・・・たった今メールが・・・」

 

決意を固めて一人でも大丈夫と決心をし、いざ出発したら、どうやら風太郎もついてきてとのことだった。

 

「わかった・・・なんだその顔」

 

「・・・あんな決意を示した後でやっぱ来てよって言うの、なんかハズイじゃん」

 

一花が言うのにはそうらしいので、風太郎もそのことにあまり触れないようにした。すでに外で社長が待機してるらしく、一花は先に行ってもらい。風太郎も出る準備をした。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

そう言うと、五つ子全員が見送りに来る。しかし、表情は暗い。

 

「一花のこと、頼んだよわよ!」

 

「・・・出来る限りのことはやる」

 

二乃に喝を入れられ、風太郎もマンションを出る。

そして、マンションを出て、すぐ、目の前、社長の高級車が停まっていた。

 

「上杉君。おはよう」

 

「おはようございます。遅くなりました」

 

運転席に社長。助手席にすでに一花が座っており、風太郎は後部座席に乗るように指示された。心なしか、社長の表情は険しい。そして、乗ったのを確認すると、車は出発した。

 

車内の中、重たい空気が流れる。風太郎や一花から、そのことに触れてもいいのかがわからなかった。そんな中、社長が口を開く。

 

「・・・昨日のこと、全部話してちょうだい」

 

急に振られたので、少し焦ってしまったが、風太郎が冷静に昨日の出来事を話していく。

 

「俺の家族と、一花の家族で協力して・・・」

 

そして、昨日の出来事をすべて話した。一花は自身の女優人生と風太郎の将来を脅しの材料に使われていたこと、一花に承諾を取らずに、ホテルでの演技指導・・・基、愛人契約のを邪魔し、監督を逮捕まで追いやったこと。

 

「・・・なるほどね」

 

社長は運転中ということもあるが、黙って聞いてくれた。表情は変わっていないのでどう思って聞いているのかはわからないので非常に怖い。

 

「一花ちゃん。聞こえる?」

 

「はい、聞こえます」

 

「じゃあ、あなたは何があったの?」

 

女優人生と風太郎の将来を人質にされ、受けざる負えなかった・・・聴覚障害になってしまったので、今後お芝居の仕事ができなくなるのを恐れて、最終的には自分で決断をした。そして、肉体関係を持つギリギリで風太郎が助けてくれた。

 

「以上・・・です」

 

「・・・着いたわ」

 

社長は頷き、事務所に到着したことをふたりに伝える。三人が車を降りて、歩いていると風太郎は震えている一花を見て、肩をポンッと叩く。

 

「・・・大丈夫だ」

 

「うん・・・ありがとう。フータロー君もね」

 

元気づけようとしたのだが、自分も緊張している。その証拠に手汗が止まらない。そして、社長に案内されたのは応接室、イスとテーブルだけの外からは何も干渉できない部屋だ。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そのまま無言で二人は座る。そして社長も対面に座った。

 

「申し訳ありません!」

 

「・・・申し訳ありませんでした」

 

応接室でのの開口一番風太郎と一花は謝罪をした。一花も深々と頭を下げ、謝罪の言葉を述べる。その横で風太郎も一緒に頭を下げた。

 

「上杉君。一花ちゃんを助けたい気持ちはわかるけど、実行する前に相談をして欲しかった。もっと穏便にもできたし、あなたに協力してくれた人も危険にさらされることもなかったわ」

 

「はい、すみませんでした!」

 

そう言って頭を下げる。確かに、時間がなかったとはいえ、社長にも相談すべきだったことを悔やむ。

 

「・・・一花ちゃん。仕事のことは一度事務所を通す。これは所属契約書にも書いてあることよ。つまりは違反行為。勝手に仕事の話を進めて、こうなった。こうなるから事務所があるの・・・わかった?」

 

「はい・・・」

 

一花も反省しているようだが、社長に怯えてしまっているし、自分が今後どうなるのかが、不安なのだろう。そのせいかずっと俯きっぱなしだ。

 

「私も、ごめんなさい。貴方がここまで追い込まれていることに気がつかなかった・・・反省してる。一花ちゃん。貴方の現状をちゃんと事務所が把握できてなかったのも問題よ」

 

「しゃ、社長!頭を上げてください!」

 

まさか社長から謝罪の言葉が出るとは思ってみなかったので二人は焦りながらも頭を上げるように言う。

 

「・・・一花ちゃん。ここからが本題よ。貴方には三つの選択肢がある」

 

そう言って紙を用意して、そこに矢印を書く。

 

「一つは事務所を退所して、芸能界から足を洗う」

 

「!!」

 

一花が一番恐れていたこと、しかし選択の余地があることがわかった時点で風太郎は少し安心した。

 

「二つ目は事務所に残る・・・でも、聴覚障害を持つ一花ちゃんの仕事は難しいって思ったほうがいいわ。もちろん、会社でも、私個人としても営業はしてみるし、一花ちゃんを使いたいってお声がかかる可能性もある」

 

だけど、今までみたいに保証はできない。今でなら、一花を使いたいという会社、企業、監督、プロデューサーは何人もいたし、実際、聴覚障害になる前はスケージュールがびっしり埋まっていて、休む暇もあまりなかった。だが、ほとんどの仕事は降板という形になり、今はできてもモデルと言ったところだ。

 

「そして、三つ目は・・・これよ」

 

そう言うと社長は一つのパンフレットを見せてくる。この事務所が直属運営している育成機関。俳優・女優養成所だ。

 

「ここで、演技指導の講師をする・・・女優をやめて講師専門にするもよし、もちろん女優を続けながらの臨時講師という形でも構わないわ。お金も必要でしょう?」

 

女優業でお金を稼いでいるとはいえ、一花は仕事を降板させられ、入るはずの給料が入らなくなったので、安定して働ける場所を提示してくれた。

 

「・・・・・・」

 

一花に与えられた三つの選択肢、彼女が一番恐れていたクビは免れたが、社長のいうことも確かだ。今後、所属をしているからと言って、仕事が来るのも難しい。それに、養成所の講師という仕事で安定した収入があるのも今の一花にとっては魅力的な相談だ。

 

「・・・考える時間を頂いてもいいですか?」

 

「ええ、急に言われてもそうなるわよね。もし、興味があるなら養成所を覗いてみて、一花ちゃんはスカウトだったから、すぐに女優になれたけど、一生懸命目指している子たちを見るのも面白いわよ」

 

せっかくなので、この事務所の隣にあるスタジオ。そこが養成所となっているらしいので、そこにお邪魔することにした。社長に二人は案内され、養成所のスタジオの前に立たされる。今ここでちょうどレッスンが行われているようだ。

 

「失礼します」

 

そう言ってスタジオに入り、レッスンを受けている生徒たちがいた。そして、一花が入ったとき生徒は信じられないような表情を浮かべた。

 

「あれ、中野さんじゃね!?」

 

「ホントだ!中野一花だ!!」

 

「うっわ、顔ちっちゃい!」

 

「スタイルいーなー。羨ましい・・・」

 

男性二人と女性二人の計四人の俳優、女優の卵だ。そして講師の方が一人。

 

「社長!お疲れ様です!」

 

「お疲れ様。ちょっとお願いがあるんだけど・・・」

 

 

 

そう言うと講師に事情を説明し、一花が見学という形で参加することになった。

 

「終わったら、また応接室に来てもらえる?」

 

「わかりました」

 

その間社長は風太郎と二人で話すことがあると言ってスタジオを出て行った。

 

そして、場所は事務所の喫煙所、事務所内ではあまり吸う人がいないらしいので、誰も来ない。そこに風太郎と社長の二人で入り、タバコを勧められるが、風太郎は吸わないので拒否をした。

 

「一花は・・・その、難しいですか?」

 

風太郎が一番気にしているのは彼女の今後だ、クビという形も回避したものの、女優業がどこまで出来るのかをしりたかった。

 

「私個人の意見は続けてほしい。あの子のおかげで事務所も大きくなって養成所まで設立して・・・何よりまだ、二十歳であれほどの逸材は他にいないわ。でも、一花ちゃんが望んでいること、さっきも言ったけど、映画、ドラマ、舞台・・・この辺は厳しいのが現状よ。それに、一花ちゃんのあの行動のせいで、世間にはばれてないものの、芸能界で噂になっているとかいないとか・・・なっちゃった時点で、使ってくれるのは少ないのよ。それに芸能界があんなに怖い思いをさせたんだのも、やめるって選択もなくはないわ」

 

「・・・無理を承知ですが、何とかなりませんか」

 

そう言って頭を下げたところで何も変わらないだろうというのはわかっているが、風太郎にはそれしかすることができない。

 

「ええ、だから、後進の育成。少しでも、そういうものに関われるようにね・・・」

 

社長自身も一花のことを考えての決断だったのだろう。本当に大切にしているようだった。なので、一回事務所が一花を売ったのだと思い込んでのを恥じる。今の一花をに色々な選択肢を与えているので、本気で彼女のことをを考えている。

 

「・・・ねぇ上杉君。一花ちゃんって手話出来る?」

 

「え?」

 

急に話題は変わり、なぜか一花が手話ができるかどうかの確認をしだした。

 

「実は一花ちゃんの事情を知っている番組プロデューサーが、一花ちゃんを使いたいって言ってるのよ」

 

「え!だったら・・・」

 

しかし、これにはあるリスクが備わっていた。

 

「子供教育番組。【ことばであそぼう】って言うのなんだけど・・・」

 

その番組のワンコーナーで耳が聞こえない人はどうやって話すのかって言うのを一花が先生になり、子供たちに教えるというものらしい。

 

「一花ちゃんがどういう選択をするかわからないから保留にしてる。明後日までにお返事をしないといけない・・・どう?」

 

一花本人に聞かないとわからないだろうが、たぶん出来ない。一度、手話を彼女に見せたことがあったが、急にダンスをしたのだと勘違いされた。

 

「出来ない・・・です」

 

「そうよね・・・」

 

だが、それだけで終わらせなかった。

 

「だから、俺が教えます!」

 

風太郎はすでに五十音の手話はできるようになっている。せっかくのチャンスを逃すわけにもいかない。

 

「・・・わかったわ。上杉君、一花ちゃんの応接室覚えてる?そこで待ってて」

 

そう言うと社長は喫煙室を出て行き、風太郎は応接室へ戻った。そして、そこにはまだ一花の姿があった。

 

「あ、お帰り・・・」

 

「おう」

 

一花は養成所のパンフレットを眺めながら、考え込んでいた。

 

「・・・ねぇ。フータロー君」

 

「なんだ?」

 

「・・・どう思う?」

 

たぶん養成所で自分が講師をすべきなのかだろう。それも魅力的なものだが、一花がどうしたいかだ。

 

「・・・お前が後悔をしないような選択をしろ」

 

決して、先ほどの話は伝えなかった、この一花の選択で色々と変わってくる。

 

「後悔ない・・・そうだよね」

 

その考えを伝えると一花は少し困りながらも決めた様子だ。そして数分後、社長が戻ってきた。

 

「お待たせ・・・一花ちゃん、考えは決まった?」

 

彼女の選択肢は三つ。一つは事務所の退所。二つ目は続行。三つめは養成所の講師。これに関しては、女優業と兼業も可能となっている。だが、一花はもう答えを決めていた。

 

「女優一本で行きたいです」

 

講師のお話も魅力的だったが、見学中やってみて思った。私には向いていない。教えるよりも自分でやりたいという思いが強くなっていた。

 

「そう、わかったわ・・・紹介したいお仕事があるの」

 

そう言うと、一つの資料を取り出し、それの説明を始める。

 

「これ、一花ちゃんの台本」

 

「え?」

 

「明後日までに、これを覚えてきてほしい」

 

台本を確認すると、教育番組の台本。そこで手話を教える先生の役をするということだった。

 

「上杉君もよろしくね」

 

「はい!」

 

「え、あの・・・」

 

状況が呑み込めていない様だが、風太郎が説明をする。

 

「テレビの仕事だって、教育番組の」

 

「え、でも私、手話って・・・」

 

そう言うので風太郎が簡単に披露する。

 

「俺、が、教える」

 

口に出しながらそれを手話で話した。それを見るとこの前部屋で踊っていたと勘違いしていたものが手話だと気づいた。

 

「・・・フータロー君」

 

「お前にまた勉強を教えることになったってこと。よろしくな」

 

こうして風太郎のアルバイトの初仕事は一花へ手話を教えるということになった。こんな形だが、勉強した甲斐があったというものだ。だが、社長がこれに関して懸念していたことを彼女に伝える。

 

「これをやるっているのは一花ちゃんが聴覚障害って言うのを世間に伝わるってことにもなるの。それは・・・」

 

「大丈夫です」

 

一花の決意を示したようだ。じぶんの自状況が世間に広まったらどんなことが起こるのかはわからない。それにいずればれることでもある。だったら、今目の前にあるチャンスをつかんでいく。これがきっかけに別のお仕事も増えるかもしれない。それに・・・フータロー君。

 

「なんだよ?」

 

「・・・何でもない」

 

風太郎にまた勉強を教えてもらうのが、嬉しくもあった。

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