五等分の障害   作:森盛銛

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23話 焦り

昼食中の甘々な時間を見せられたのは置いておき、再び一花の手話のレッスンに入る。その間休憩を挟みながらもみっちりと夕方まで勉強をして結構な手話が出来るようになった。

 

「こうでこう?」

 

「ああ、じゃあ、復習な。とりあえず、子供の好きな動物、メジャーなものを出すぞ」

 

なのでここから一問一答形式で、風太郎が出すお題を一花が答えるというものにした。

 

「犬」

 

「ワン!」

 

「猫」

 

「にゃおん」

 

「・・・待った」

 

そう言って一花は頭の手のひらを相手側にし頭に乗っけて、指をぴょこんと曲げる。これで【犬】。招き猫の様にグーでほほの撫でて【猫】。

 

「な、鳴く必要はないだろ///」

 

手話なのだが、全体的にそんな可愛らしいポーズに少し風太郎がにやけてしまった。

 

「その方が覚えやすいじゃん。あれ?フータロー君ドキドキしちゃった?」

 

少し挑発してきてしたので、仕返しのつもりで風太郎もからかうことにした。

 

「タマコ」

 

「ケーキが食べたいのです~ってこれ違うじゃん!」

 

「でもやるんだな」

 

頭二つ結びのしぐさをして【タマコ】らしい。演技は意外と忘れていないものだとも思った。

 

引き続き手話の勉強をしていると、玄関のほうからガチャッと扉が開く。

 

「ただいま・・・いるのか」

 

「・・・お邪魔してます」

 

仕事を終えてきたマルオが家に帰ってきたようだった。一花の救出作戦後も仕事に戻っていたが、ようやく戻ってきた。

 

「お帰りパパ」

 

「おかえりなさい」

 

「お帰りお父さん!」

 

「おかえりなさいお父さん」

 

「ああ、ただいま・・・やっとそろったね、みんな」

 

リビングにいる五つ子。それを見て無表情ではあるものの、すごくうれしそうだと思った。風太郎には若干嫌悪感を示しているようだが、それよりも一花に目を向けていた。

 

「さて、一花君」

 

「!!」

 

そう彼女を呼ぶと怒りをあらわにしてるようだった。それは昨日の件だろう。

 

「・・・昨日のこと、わかってるね」

 

「・・・はい」

 

一旦手話のレッスンを中断し、一花がマルオと一対一で話すことになった。

 

「無事に何事もなかったけど、君の行動は・・・お母さんも悲しむ」

 

「・・・はい」

 

「言っていただろう?五人一緒なのが大切だって、それを離れようとしたんだ。何かあったら相談をして欲しい」

 

「ごめん・・・なさい・・・」

 

こうやって、マルオから説教とは少し違うが、指摘されている。しかし、とても安心できる。

 

「僕は君の父親だ。それに、娘が頼ってくれるのは、意外と嬉しいものだよ」

 

そう言って、俯いている彼女の頭に手を置く。

 

「・・・無事でよかった。お帰り」

 

「うん。ありがとう、お父さん」

 

その俯いていた表情が上がり、ニコッと微笑んだ。

 

「それで、補聴器はどうだい?」

 

「ちゃんと聞こえるよ・・・いろいろ気にしないといけないこともあるけど、みんなの声聞けたのうれしかった」

 

「そうか、もし不備があれば行ってくれ、また探すから」

 

そう言うと一花へのお説教は終えて、風太郎に目をやる。

 

「さて、上杉君。見ている限り、今更の確認だが、アルバイトは受けるということでいいのかい?」

 

「はい、そのつもりです」

 

そう言うと五つ子皆が書いてくれた承認票を渡し、不備がないかの確認をする。

 

「・・・わかった」

 

そう言って、承認票をしまい、今後のすることを提示してきた。

 

「私が勤務中は彼女たちをよろしく頼む。そして、今日何をやったかのメールでもいいから報告をしてくれればいい」

 

そう言ってマルオの仕事用のメールアドレスを渡されたので急いで登録をした。するとマルオは思いもよらぬことを言いだした。

 

「上杉君、今日はありがとう、そして、これが今日の給料だ」

 

そう言って以前の家庭教師よりも多い給料、それに言っていた額よりも加算されているようだった。

 

「え?まだいただけませんよ!」

 

「これは採用時の祝い金みたいなものだ。受け取ってくれ」

 

そう言うとマルオは無理矢理、風太郎にそれをポケットに突っ込む。

 

「いいえ、そんな悪いです!」

 

そう言って風太郎もひかずに帰そうとするが、マルオが先制攻撃を仕掛けた。

 

「じゃあ、四葉君との交際を認めないよ」

 

「ええ!?」

 

それを聞いた四葉も驚いているようだが、それを言われたら風太郎も引き下がるしかなかった。

 

「・・・その、ありがとうございます」

 

しぶしぶそれを受け取ったはいいものの、またらいはのために何か使おうか考えることにした。

 

「上杉君。今日はありがとう」

 

「その、まだやってもいいですか?」

 

考えてみれば今日は一花の手話しかやっていないので、何か別のことをすべきかとも考えていたが、そうでもないらしい。

 

「今日はみんなこの後、病院で検査がある。というわけだ、昨日からずっと娘たちの相手をしてくれていると聞く、君の体調管理も仕事の内だ」

 

マルオにそういわれ、風太郎が今できることはないようなので、帰宅をすることにした。

 

「一花、明日テストするからな。準備しておけよ」

 

「うん!任せてよ!」

 

「悪いなみんな。今日は一花に集中しちゃって」

 

「ううん!楽しかった!」

 

そういってもらえると嬉しく思う。若干の修羅場があったものの、風太郎自身も彼女たちと楽しく時間を共有できたのが懐かしくもあり、嬉しくもあった。しかし、風太郎には焦りがあった。もっと効率よくやらなければ夏休みなんてあっという間に終わってしまう。

 

「・・・・・・」

 

そんな風太郎のことを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

タワーマンションを降りて帰り道、夏ながらも日は落ちて、涼しい風を感じ非常に心地いい。歩きながら、今日、三玖から借りた本を読んでみる。

 

「・・・むっず」

 

味覚障害の三玖のために味見役をするにしたものの、実際こういうのは食べてみなければわからない。とりあえず、三玖におすすめされた、フレンチ料理の教本を読むが頭がパンクしそうだ。

 

「えっと、シュー、キャベツ。シャンピニョン、マッシュルーム・・・ショコラ、チョコレート。ショコラはケーキ屋のバイトでメニューであったな。フレンチの主な前菜はテリーヌ、スモークサーモン。ポトフ・・・煮込みのことか。肉は牛、豚に加え、鴨、鹿、鶉・・・魚は意外なことにウナギがポピュラーな食材・・・」

 

料理の本を見ながらブツブツと呪文の様にぼやく風太郎は完全に怪しい人であったが、時間をあまり無駄にもできない。これおわったら、明日の一花の手話テスト、五月の点字、白杖の使い方。四葉のリハビリスケジュール・・・

 

「フー君、怖いわよ」

 

「フータロー、不気味」

 

「うぉ!・・・二乃?三玖?」

 

後ろから急に声をかけてきたのは二乃と三玖だった。三玖の手にはスマホが握られている。どうやら、風太郎の忘れ物をとどけてくれたらしい。確かこの後検査だったはずだが、大丈夫なのか?

 

「ああ、すまん。ありがとう」

 

そう言ってスマホを受け取ろうとするが、三玖はそれを隠すようにひっこめた。

 

「・・・ねぇ、フータロー」

 

「なんだ?」

 

「お願い。今日はもう休んで」

 

「大丈夫だ。しっかりサポートできるよう勉強するから」

 

そう余裕な表情を見せる風太郎に三玖はむくーっと頬を膨らませる。

 

「フー君。あんたが無理して倒れたら元も子もないでしょ、パパも言ってたけど、自分の管理も仕事よ!」

 

「・・・フータローは無理して頑張りすぎちゃうから、心配なんだよ。昨日だけじゃない。ここ毎日、ずっと私たちの相手してくれて、感謝してる。でも、それで風太郎が追い込まれても、意味ないから」

 

そう言うと風太郎が持っている三玖が貸した教本も取り上げる。

 

「だから、今日はおしまい」

 

「これ食べて、疲れを取りなさい」

 

二乃がそう言うと、紙袋を渡される。なかに入っているのは切り分けられたパイだった。

 

「蜂蜜レモンパイ。蜂蜜レモンは疲労回復の効果あるから。一花の授業のときに作ってたの気にならないくらい集中してたもんね。じゃあ、フー君、今日はそれ食べてゆっくり休んでね」

 

そう言って三玖はスマホも忘れずに渡し、二人は待っている車に乗り込み、おそらく病院へ向かった。

 

「せっかくだし、食うか・・・ん?」

 

食べようと取り出した時に何か別のものが入っている。どうやら二通のメッセージカードのようだ。

 

「フー君へ、あなたが来てくれて本当によかったわ。またみんなとこうして話せるなんて思ってなかったもの。だから私も前に進む。ケーキ屋にまたシフト入ることにした。嗅覚に問題がある今の私が、前みたいなパフォーマンスが出来るかわからないけど、頑張るから応援してね! 二乃」

 

「今は他を考えず一花のことに集中して、みんな個人的にフータローの力を借りずとも一歩一歩前に進めてる。私もパン屋のアルバイト復帰する予定だよ。四葉と五月はフータローを驚かせたいって、毎日リハビリ頑張ってる。みんなも信じてあげてね。 三玖」

 

「・・・わかったよ」

 

どうやら、彼女たちに心配をかけてしまっていたらしい。これではただの独りよがりだ。彼女たちの心配をさせるなどサポーター失格だ。

 

「うまっ・・・」

 

蜂蜜レモンパイを口にしながら、風太郎はある場所へ向かった。

 

普段は出向かないがデパートのとあるコーナーへ向かう。彼女たちはすでに持っているかもしれないが、実は縁起もいいしこれにしよう。幸いお金はあるし、あんな無理矢理渡された様なものだ。せっかくだからこういうことに使いたい。それに復帰のお祝いだ。

 

「名前を入れてください。こっちは二乃。こっちは三玖でお願いします」

 

数時間後、その作業が終わったようなので、それを受け取り、自宅へ戻った。

 

「お兄ちゃんおかえりー!・・・何それ?」

 

「お祝いだよ。二乃と三玖が蜂蜜レモンパイ作ってくれたぞ」

 

「食べる食べるー!お兄ちゃん何か嬉しそうだね!」

 

「・・・別に、ちょっと肩の荷が軽くなっただけだ」

 

自覚はなかったが、風太郎は五つ子たちのためと自ら追い込んでしまっていたようだった。そんな時に二人がわざわざ声をかけてくれたのはそんなに自分がやばかったのだろう。実際、蜂蜜レモンパイの効果もあるだろうが、前ほど、自分を追い込んでいない。それに一花救出作戦の危険な役をやらせたお礼もまだしていないし、二人がアルバイトに復帰できるというのはすごくうれしかった。

 

その後はらいはの夕食を食べて、一花の明日のテストを作成し終えて、就寝。する前に確認したいことがあった。なので、スマホで四葉に電話をする。

 

「もしもし、四葉」

 

「ふぁ、どうしたの?」

 

「悪い起こしたか?」

 

少し眠そうな声だったので、詫びをいれ、とりあえず確認したいことだけ聞く。

 

「明日の朝食当番は二乃と三玖だよな?」

 

「うん、明日はふたりだよぁ」

 

「悪かった。お休み」

 

「おやすみぃ・・・」

 

電源が切れる前に布団にどさっと倒れる音がしたのでもう寝たのだろう。なので、風太郎も寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、時刻は七時。昨日の朝、四葉が朝食を作る時間を教えてくれたので、二人が起きているのはわかっている。すでに風太郎はタワーマンションにいた。

 

「早いわね。ちゃんと疲れは取ってきた?」

 

「おはよう、フータロー。今日もありがとう」

 

「ああ、昨日のレモンパイ美味かった。ありがとな。それと・・・」

 

そうお礼をいって、風太郎がごそごそと何かを取り出した。そして、それを二人に包装されたあるものを差し出す。

 

「もし、持ってたら悪いんだが、皆には内緒な」

 

「え?」

 

「なにこれ?開けていい?」

 

二人が包装を解き中身を確認してみる。

 

「あ、包丁!」

 

「綺麗・・・」

 

二乃のイメージカラーの黒刀包丁。三玖のイメージカラーの青の霞包丁。それぞれに果物ナイフ、パン斬り包丁、三徳包丁、ベティナイフ。すべてに二人の名前が入っている。

 

「いいの?これってかなり高級な・・・」

 

確かに二つで昨日いただいたお金は結構飛んでしまったのは確かだが、昨日のお礼やバイト復帰祝いも兼ねている。

 

「すごく・・・嬉しい。大事に使うね。ありがとう、フータロー」

 

「ああ、二人が料理人になることを応援する。そして、俺も手伝うからな」

 

贈った包丁は縁起が悪いと言われているが、実は運命、未来を切り開くという意味がある。今の五つ子たち、そして、風太郎にはぴったりなものだった。

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