そこから、買い物を終えた勇也と二乃はデートではないものの男女二人で散歩をしていた。先ほど、付き合ってくれと言われた二乃。変な意味の関係ではないだろうが、ニコニコした少年の顔から急に大人びた表情になったのが気になったのもある。
「・・・ここって」
二乃がどこへ向かうかを確認する前に目的の場所に到着したようだった。そこは墓地。二乃の母親もここにいる。そこで、花や、線香を購入した。
「久しぶりだな。悪い二乃ちゃん、ちょっと待っててくれ」
とある墓石の前に勇也と二乃は立ち、そこには上杉家之墓と書かれている。
「あんまり会えなくて悪かった」
そう言うと花を取り換えて、手桶の水を柄杓で懸けて、布で掃除を始める。二乃はだまったまま見ていたが、お線香を渡される。
「あげてくれないか?」
「はい」
そう言って、二乃はお線香をあげると同時にこの墓に眠っているのは誰なのだろうと考えてもいた。少し疑問の表情を浮かべると勇也が察したように、答える。
「ここには俺の嫁さん。風太郎とらいはの母親が眠っている・・・」
「・・・そうなんですね」
二乃は上杉家に母親がいないことを今知った。確かに、教えてもらってもいなかったし、会わないとは思っていたが、亡くなっていたとは・・・しかし、考えてみれば、らいはちゃんがいえのことをやっていたり、風太郎が高校生ながらも家計を気にしているのはそういうことだったのだろう。
「紹介する。二乃ちゃんだ」
彼女を紹介すると二乃もぺこりと墓石に挨拶をした。
「あの零奈先生の娘さんだ。世の中狭いよな・・・」
にこっと少年の様に笑い出す勇也だが、ここで本題に入る。
「長くなるが、聞いてほしい・・・」
そう言うと自らの過去、そして二乃に頼みたいことを語りだした。
「ライスで」
「はいよ」
上杉勇也17歳。彼女に初めて会ったのは高校二年生の時か、俗に言う不良だった勇也だが、学校は単純に楽しくて好きだったし、行動を共にする仲間もいた。そんなとき連れがサボりでいないとき、一人学食で空席を探していた時だ。学食で最安値のライスだけのプレートを持ちようやく見つけた。
「あそこでいいか」
そう呟きながら、その空席に一直線に向かい座ろうとプレートをおく、その時に横からガシャンと弁当箱が出てきてそれが衝突した。
「わ、ビックリ」
「・・・・・・」
その女生徒、なぜか室内にもかかわらず、サングラスをおでこにかけている。勇也の金髪を見て若干怯えている様子でもあったが、勇也はすかさずその場に座る。そして諦めたかと思ったが、対面の席に座りだした。
「すみません、おじゃましまーす」
謝罪を入れながら自分の弁当をそのテーブルで広げ始めた。二段弁当で一つはふりかけご飯。もう一つはおかず類・・・がさらにカバンからもう二セット出てきた。
「・・・いただきます」
「・・・いただきます(めっちゃ食うな、この子)」
彼女が礼儀正しく、手を合わせてい言ったので、勇也もつられて普段言わないのだが、言った。その後、会話があるわけでもなく、二人で食べ進めている。
「・・・・・・」
「・・・あの!」
「うお!?なんだ急にでかい声だして!?」
それよりも勇也のほうが驚きで大きな声を出してしまっていた。
「ご飯だけじゃ、足りないかなって・・・食べます?」
「お、くれんの?ラッキー!」
どうやらライスだけを食べている勇也に彼女が気を使ってくれたのか、フォークで卵焼きを差し出してくれた。そして、それをそのまま食べる。端から見たらあーんをされているような状態だ。その行動に驚き、びくっとなってしまった。
「うん、美味い!」
人生で一番おいしい卵焼きだった。これは是非とも上杉家に教えてもらい、子供ができたら教えてあげたいレベルに勇也の口に合っていた。
「なぁ!もう一個くれよ!」
これが俺とあいつの出会いだった。
「なぁ!好きな人に告白するのってどうすりゃいい?」
「僕に聞くな。業務の邪魔だ」
知り合ってから月日がたち、勇也は完全に惚れこんだ彼女に告白をしようと考えたものの、乗りと勢いで何とかなると思ったが、意外と緊張する。確実にしたいため現生徒会長、そして生徒会の業務中の中野マルオにアドバイスをもらいに来た。
「なんだよ!頼むからさ!」
そう言った瞬間、マルオはあきれた表情を浮かべる。すると邪魔と言ってきたのも関わらず、めんどくさそうではあるが、話しだした。
「お前のすべてを見せればいいだろう。飾らない上杉勇也。これでいいんじゃないか?」
そう言うと、出て行けとジェスチャーをし、勇也もそのまま出て行った。
そして彼女を探しているとき校舎フラで彼女を見つけた。しかし、その状況を見て声をかけるのをやめた。
「ねぇ、勇也!」
「?」
放課後に彼女から誘われ、お互い公園のブランコに乗っていた勇也と、食堂の一件から仲良くなった彼女は元気に笑顔で勇也のほうに顔を向ける。
「私、恋愛とか・・・したいなーって・・・」
高校二年生の彼女。以前のあのおどおどとした人見知りは一切感じられず、いつの間にか皆に慕われている存在になっていた。一部からは高嶺の花とも言われているし、すごい家庭的なことも有名で異性共に人気だ。そんなのが、バリバリアウトローの俺なんかに関わってもらっている時点で奇跡だ。
「恋愛相談は下田か零奈先生に・・・」
「・・・なりたいなぁ!」
初めて会ったときはこんな元気じゃなくてもっとおしとやかな感じだったはずだ。だが、ある生徒は彼女を月の様にクールではかない、カリスマで皆を引っ張ってくれている高嶺の花のイメージがあると例えた。多くの生徒がそれに賛成したが、逆に勇也は太陽のような人だと感じだ。明るくパワフル。どんなことにも挑戦的でみんなの居場所の様な安心感はある。
「何に?」
「およ・・・パン屋!」
「いいな、夢があって。俺はどうしようか、昨日この前、零奈先生に進学危ういって言われたし」
「勇也が後輩!ふっふっふ、先輩と呼んでもいいのだぞ」
誇らしげにふんぞり返る彼女だったが、その先輩というワードを聞いた途端、勇也があることを思い出した。
「お前、そういや、三年の先輩にコクられてたな、校舎裏で・・・」
「あ、見てたんだ・・・はずいなぁ」
「いいのか断って、優良物件だぞ」
確か、サッカー部でエースやってる人。女子人気も非常に高いし、イケメン。性格も社交的で誰からも愛される人。たまたま居合わせてしまった勇也はなぜ彼女が断ったかわからなかった。
「聞いてたでしょ・・・私は好きな人がいるの。それに私は完璧だって、そんなことないけどね、私の本質が見えてないよ」
「・・・だよな」
彼女の発言はスルーをしたが、正直考えたくはなかった。彼女が誰かと付き合うようなことを、しかし、俺は不良。あいつは優等生。関わるべきではない。そのままブランコを強く漕ぎ、飛び降りる。そしてそのまま帰ろうとした。
「いーさなりぃ!!」
後ろから、ブランコの飛び降りの勢いをつけながらクロスチョップで勇也の後頭部に直撃させてそのまま二人は倒れこむ。そして、仰向けになった勇也の上に彼女が覆いかぶさっている。
「好きです。結婚してください」
そう上から覆いかぶされながら、真剣な表情で言われる。まさかプロポーズまでしてくるとは思ってもなかったが、彼女もすごく恥ずかしそうにしているのがわかるし、震えてもいた。勇也の答えが聞くのが怖いのだろう。
「結婚かよ!?」
「うん!後、パン屋のほかにもう一つの夢叶えてよ!」
「なんだよ?」
「お嫁さん!」
「上杉君、来ましたね」
「なんすか?零奈せんせー」
生徒指導室に呼び出されたう勇也、先客に彼女がいた。そして、ものすごく暗い表情だった。
「留年するから勉強会っすか?ま、俺は日常茶飯事っすけど、お前もとは珍し・・・」
場を和ませるつもりでもあった勇也だったが、零奈から衝撃の言葉を聞かされる。
「彼女、妊娠をしました」
「え・・・」
それを聞き、彼女を見ると恥ずかしさ、そして、どうしようもない表情を浮かべている。
「ご、ごめんね、勇也。高校生なのに・・・妊娠・・・なんて」
「マジか・・・」
「ごめん・・・」
「俺とお前の子供か!やった!」
「え・・・」
彼女にとっては予想外の反応であったので、少し驚いている。
「あ、悪い・・・お前もこれからの人生がやりたいこととか、パン屋とか・・・でも、俺はお前との子供を育てたい、もし、あれなら俺だけで育てる!お前はパン屋の夢を・・・」
高校生で妊娠をしたというのは世間から見て、良いものとは言えないのは確かだ。しかし、勇也は嬉しさのあまり叫んでしまうが、これは彼女のことを考えない発言だったのを反省し、問いかける。
「わ、私も・・・」
涙を流し始める彼女、本当は怖かった。もしこれで勇也が私を捨てるのが、もしかしたら堕ろせと言われるのが・・・でも彼は逆に喜んでくれた。それを聞くと安心してしまい涙を流した。
「生みたい・・・勇也との赤ちゃん」
彼女もそうしたかったらしい、彼女には苦労をより多くかけることになってしまうだろうが、その分勇也が一緒に支える。
「よかったですね・・・」
零奈も少し嬉しそうに微笑んで知る、美人だが、無表情ばかり目立っていたが、彼女はやはり先生なのだろう。
「ただ・・・不純異性行為の罰を執行します」
「痛ってぇ!」
そう言って無表情にもどり、ゴンッと零奈の代名詞でもある無表情の鉄拳を勇也に喰らわせた。その後にすごく優しそうな表情を浮かべる。
「逃げずに、一緒にいてあげてね。上杉君」
その後に、少し寂しそうな表情をしたのを覚えている。零奈先生は自身のカバンから、とあるノートを見せてきた。
「私がつけている妊娠記録ノートよ。貸してあげるから参考にしてください」
「え?妊娠って・・・」
「私も、いるのよ。赤ちゃん」
そう言うと、自分のお腹を優しく撫で始める。この事実をファンクラブの人が聞いたらどう思うのか・・・特にファンクラブ会長の現生徒会長はなんというか・・・
「もし、貴方の赤ちゃんも、私の赤ちゃんも無事に生まれたら、お友達になりましょう」
今後の予定、彼女は退学という選択になってしまったものの、零奈先生に相談はいつでも来てくれと言ってくれた。その後は、勇也も高校に通いながら、アルバイトの日々だ。勉強も赤点は取らないようにもし、留年すると言われていた成績も無事に回避できた。両親に挨拶するのが一番緊張したのを覚えている。勇也は自分の父親に殴られてしまったものの、自身の決意を認めてくれた。母親も認めてくれて、彼女のサポートまでしてくれていた。相手の両親も同じく、サポートをしてくれている。
その後、零奈先生は産休に入り、お互いに生まれる時期、彼女は4月、先生は5月ごろになることが決まった。しかし、零奈先生は容態の悪化、また、多胎児の出産ということで、二人の病院とは別の大きな病院へ移動された。
そして、時は4月。勇也も高校を卒業し、仕事先も決まった。まだ、実家にお世話になる。そして社会人と同時に父親になった。
「無事に生まれてよかった・・・大丈夫かな・・・」
ベッドに寝ている横のゆりかごにいる、生まれた新しい命。体重3024グラムの男の子だ。いまは、授乳を終えてすやすやと眠っている。
「相変わらず、自分に自信が持てないのか?」
不安そうな表情を浮かべる彼女だが、元気づけるようにする。勇也自身も本当は不安で仕方ないのだが、ネガティブなことは考えないようにしてほしいため、そう言う。
「そりゃね、私、この子のお母さんだよ・・・良いお母さんになれるかな?」
「男の子なら、お母さんにべったりって感じだろ?それに・・・」
そう言うのもあるだろうが、勇也はそのままの彼女のことを話す。
「周りからは完璧と思われながらも実はドジで、家庭的な料理上手でパン屋やりたくて、魅力があるのに自分に自信が持てなくて、いつも元気で周りを明るくさせて、不器用ながらも頑張り屋なお前だ。良いお母さんになれるよ」
「褒めてるそれ?・・・でも、ありがとう勇也。それで、この子の名前なんだけど・・・」
月日は流れ、五年後・・・
「フー君、いらっしゃい」
「お母さん!」
病院のベッドでギューッと抱き着く彼女の子供、上杉風太郎5歳。二人目を出産した彼女が病院のベッドで横になっていた。
「ほら、あなたの妹だよ」
そう言ってゆりかごにいる赤ん坊に目をやると風太郎は微笑みを隠せないくらい喜んでいる。
「風太郎。今日からお兄ちゃんだな」
「うん、俺頑張る!」
「流石俺の息子だ!ほらお母さんにプレゼントがあるんだろ!」
そういうと、ごそごそと、カバンから取り出したのは、ある絵だった。
「みんなそっくりね」
幼稚園で書いた家族の絵、子供らしくぐちゃぐちゃではあるものの、可愛らしい絵だ。髪の長い女性が一人と子供が一人、そして少年が一人、あとは何か黄色い物体があった。
「これがお母さんかな?これがこの子ね・・・この黄色は?」
「それお父さん!」
「俺最初プリンかと思った」
髪の毛のみならず肌から何まで黄色に染め上げられた勇也だったが、息子が書いてくれることに非常に感動してしまったのは覚えている。
これが俺の自慢の家族。この幸せな日々が続いてくれると思っていた。