「ごめん・・・フータローのためならって思ったけど・・・」
中野三玖。彼女は専門学校で勉強したいほど料理が好きで夢中なものだった。しかし、彼女の味覚は無くなった。その結果が、今のオムライスの途中である、チキンライス。塩と砂糖の判別もつかない。
だが、一生懸命作ってくれたチキンライスを風太郎はもぐもぐと食べ進めている。
「や、やめて!美味しくない・・・でしょ・・・」
「・・・あ!オムライスだったな。早く卵で包んでくれ」
そう言うが三玖は取り上げるようにチキンライスの皿を持ち出し、その後の調理工程に入ろうとはせず
「・・・!」
意を決したかのようにそれをシンクに捨てた。
「三玖!?」
「ごめん・・・でも、もう・・・」
三玖は限界だった。自分の熱中出来るもの、目指していたこと、それが急に奪われてしまった。そのショックは計り知れないものだろう。しかし、風太郎はあきらめなかった。三玖にはもっと料理を続けてほしい。夢を諦めないでほしい。そんな考えからのとっさの行動だった。
「・・・いただきます」
そう言うとシンクに捨てられて水でべちょべちょになったチキンライスを手づかみで食べだす。
「フータロー!やめてよ!」
泣きながら必死に止めようとするが、お構いなしに続けて行く。
「お願い!もうやめ・・・」
「止めてほしいか!だったら!もう一度俺にオムライスを作れ!!」
「・・・えっ?」
「不安なら俺が調理手順進める都度に味見してやるし、準備ができたら遠慮なく呼んでくれ」
「フー・・・タロー・・・」
そう言って風太郎は三玖の手を引いてキッチンに立たせる。そして三玖も涙を拭いてもう一度、先ほどの手順でチキンライスから作り始める。
「フータロー。塩取って」
「ん」
今度は調味料など風太郎に確認してもらうながら進めて行く。そして一口分小皿に盛りそれを風太郎に渡す。
「はい、味見よろしく」
「そういや・・・三玖が最初に作ってくれたのもオムライスだったよな」
味見をする前にそんなことを風太郎がつぶやいた。
「うん。二乃がまだ反抗期だった時だね」
「急に料理対決って言いだして、勉強できなかったっけ」
「・・・そう言えば、あの時かな」
「あむっ・・・何がだ?」
「・・・始めようって思ったの。それで味はどう?」
「美味い!さっきよりも!」
「・・・フータローって味音痴だよね?」
「そ、そんなことはないぞ!正直に美味いと思ったから・・・」
「あの時の二乃が作ったダッチベイビーと私のぐちゃぐちゃオムライス・・・誰がどう見たって、二乃のほうが美味しそう・・・ううん、美味しいって答えるよ。でも、フータローが私のオムライス美味しいって、全部食べてくれて・・・それが、嬉しくて・・・」
徐々に涙をすする音が聞こえてくる。
「フータローが・・・好みの女性で、りょ、料理上手って・・・いって、頑張って・・・失敗も・・・多かったけど・・・皆にも美味しいって言ってもらえるようになって・・・」
「三玖・・・」
「好きになって・・・得意になって・・・夢中になって・・・」
そして、浮かべていた涙が、ぽたぽたと垂れ始める。
「味覚がない人が・・・料理しても・・・いいの・・・かな?」
味が感じないから。そんな障害一つで可能性を潰すなど言語道断だ。
だが、こんなことを考えるは正直きれいごとではあるし、偽善者の様な考えだ。だが、否定しただけでは何も始まらない。彼女の人生だ。進むも止まるも彼女が決める。
「三玖。そんなの誰も止める権利はない。俺もサポートするぞ。それに・・・」
以前彼女にも伝えた言葉。当時はコンプレックスのようにも考えていた彼女の好きなもののこと。
「自分の好きなものを信じろよ」
「・・・ありがとう。」
そうして最後の仕上げ、卵に入る。二個の卵に牛乳、塩コショウを加え、気泡が残らないように混ぜる。
「フータロー、卵の焼き加減は?」
「そんなのも出来るのか?じゃあ半熟のとろとろのやつ」
「わかった」
そう言って卵を多めの油を敷いたフライパンにいれかき混ぜながら形を整える。
そして、ある程度火が通って来たら、半分に寄せて、三つ折りにする。そしてそれを皿に盛りつけたチキンライスに乗っける。
「はい。フータロー・・・お待たせしました」
そう言って出来上がったオムライスをテーブルに運び、最後にケチャップをかけるだけだが、
「フータロー、食べる前に洗面所で手を洗ってきて、入念に、三回くらい」
「お、おう」
そういって風太郎の姿が見えなくなったのを確認すると、オムライスにケチャップで絵を書き始めた。
相合い傘、そこに、風太郎と・・・私、三玖の名前を書き、それを眺める。
「・・・///」
恥ずかしそうにスマホで写真をとり、しっかりとお気に入りフォルダに入れる。それと同時に三玖は再認識した。
「(やっぱり・・・まだ・・・)」
「洗ってきたぞ、三回」
「ひゃっ」
風太郎に見られる前に、スプーンでケチャップを塗るように広げて、先程のものの形跡は残らないようにする。
「お、かけてくれたのか、サンキュー」
そういって席につき、一口食べる。ドキドキしながら三玖が見てくるが、そんなに緊張しないでもいい。
「うん、旨い」
「よかった」
フータロー。私、料理続けるよ。美味しいっていって貰えることが嬉しいのを教えてくれたのはあなただから。
きっかけをくれたあなたが一緒なら、頑張ってみようって思う。それに・・・
「やっぱり、好き」
誰に聞こえないように、独り言を呟いた。