五等分の障害   作:森盛銛

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30話 収録

「フータ・・・上杉さん。衣装確認をお願いします」

 

「・・・そうですね。清潔感があって歌のお姉さんって感じでいいと思います。これで行きましょう」

 

一花は番組スタッフとの衣装合わせをし、上杉マネージャーが確認をしているところだ。正直、一花なのでもう少し派手でもよいが、子供が主に見る番組なので、清楚なイメージとのこと。

 

「では、いち・・・中野さん。続いてのスケジュールですが」

 

「・・・フータロー君が他人行儀すぎる」

 

「ハハハ、何をおっしゃってるんですか中野さん!続いては共演者との読み合せです。大部屋行きますよ」

 

一花の言葉通り二人がなぜこんなにも他人行儀になってしまったかというと、理由は単純。今は仕事場だ。社長からの伝言で下の名前を呼び合うのはあまりよろしくないとのこと。その結果、一花は少し不貞腐れて、風太郎もやりにくそうに会話をしている。

 

そして、大部屋のロの字に置かれたテーブルの場所に案内する。そこに今回の共演者である子役の三人。アシスタント役の男性が一人、そしてディレクターを中心とした番組スタッフ代表者。一通り、出演者の自己紹介を行う。最初にアシスタント役の男性、その後に子役の三人、最後に中野一花。

 

「今回手話先生の役を担当します。中野一花です。周知済みかと思いますが、補聴器が無ければ耳が聞こえません。皆さまによりご迷惑をおかけするかと思いますがよろしくお願いします」

 

その自己紹介で少しざわついたが、ディレクターがそのまま今日の収録の流れを伝える。

 

「では、収録の流れです。オープニングの曲が始まり・・・」

 

その後は台本と照らし合わせ、全体の流れの確認を行う。その後はスタジオで機材関係をセッティングを行い、収録の準備を始める。ステージは森の教室の様なもの。

 

「じゃあ行ってくるね。これ預かって」

 

一花は風太郎に補聴器を預ける。これで今の一花は音が聞こえていない状況になった。なので、風太郎は音楽の終わりにGOサインを出すことになる。そして、それぞれのキャストが衣装を身に纏い登場する。その中で異彩を放っているのがアシスタント役の男性。

 

「じゃあ、シュワリーの頭のセリフから!」

 

おそらくだが、手話+フェアリーで【シュワリー】らしい。見た目も蝶のような羽に触覚が生え、RPGに出てきそうな妖精の衣装だった。彼がオープニング終了後に中野家で五つ子と読み合わせた部分だ。

 

「今日の言葉の先生は誰でしょう?」

 

そのアシスタントは子供たちにたいしてを意識しているので、既ににこやかで、教育番組には慣れているらしく、他も受け持っている。

 

「(OP終了三秒前・・・)」

 

そのまま順調に進んでいき、裏面に向けた両手で指を閉じながらをオープニングの曲終わりのカウントダウンを指で始める。いよいよ一花の登場シーンだ。

 

「はーい!皆さんこんにちは!」

 

にこにこと子供受けの良さそうな表情を浮かべている。彼女の演技を直接見るのは二回目だが、タマコの時同様、彼女を尊敬する。身近な存在だが、世間から見れば彼女は天才女優だ。あまり触ってこなかったタイプの役を既に完璧にこなしている。子供たちのセリフに対して、シュワリーが一花に伝えて、ドンドン収録が進んでいく。

 

「私は、手話の、先生です」

 

「カット!オッケーです」

 

そうして、最初の手話である動作は完璧にこなし、最初のシーンは難なく撮れた。少し休憩が入り次のコーナーの準備を行う。その間一花は風太郎の元へ行き、補聴器を要求すると、風太郎はそれを渡す。

 

「ありがと。それで、どうでしたか、う・え・す・ぎ・さん!」

 

名字を強調するので逆に怪しい。内容の方は、演技面においてはわからないが、手話はあっていたので問題はないだろう。しかし、良い意味で、風太郎は彼女に対して思うことがあった。

 

「・・・すごい人と関わってるんだと実感してますよ」

 

「急だし、今更だね・・・ま、フータロー君は特別扱いしないところがいいんだよ。それに聴覚障害者にスパルタ教育して、思いやりが足りないよ」

 

「愛の鞭だです。それと社長のいうことを・・・」

 

「語尾がごっちゃになってまーす。へー、愛してくれてるんだ」

 

「・・・屁理屈言うな。ほら、次のカット始まりますよ」

 

「はーい。お堅いマネさんだなー・・・」

 

そう一花は文句を言っているものの、すごく楽しそうだ。久々の仕事というのもあるが、風太郎と行っているというのが、本人をより魅力的にしている。

 

「じゃあ、頑張るね」

 

そう言うとまた補聴器を風太郎に預けようとしたその時だった。何やら、騒がしくスタッフが走り出す。

 

「氷と救急箱!」

 

スタッフがそう叫ぶと風太郎と一花はその方向へ向かった。そこにはシュワリーの男性キャストが右指を氷で冷やしてもらっている状況だった。

 

「すみません・・・段差に躓くなんて情けない」

 

どうやら段差に躓いた際に手をつけた際に指をひねってしまったらしい、確かに青痣にもなっていて痛そうだ。

 

「・・・指はどうですか?」

 

「・・・痛」

 

ディレクターが聞いてみると、曲げようとしても痛みのため曲げられないようだった。指の細かな動きが必要とされる手話ができなくなってしまっている。

 

「どうします?流石にアシスタント抜けたら、収録出来ないですよ・・・バラシますか?」

 

バラシ。つまりは中止だ。ディレクターの判断で一花の復帰はなくなる可能性が出てきてしまった。今の一花に取って数少ないチャンスが無くなってしまう。

 

「・・・・・・」

 

その状況に一花は悔しそうな表情を浮かべるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕暮れ、中野家タワーマンションでは各々リハビリを行っていた。

 

「1、2・・・1、2・・・」

 

「四葉。もう少しよ」

 

「はい!・・・あ~足が~」

 

二乃に手を引いてもらいながら歩行訓練をする四葉。歩行して手を放すとそのまま膝から崩れ落ち、疲れているようだ。そしてその横では五月がタブレットを使って勉強をしているようだ。資格に問題がある五月は紙や本よりタブレットのほうが文字の拡大やラインマーカーが引け便利だ。

 

「でも、日に日に歩数が増えてるじゃない。ほら、フー君が作ってくれたメニューはこなせてるみたいだし」

 

「うん!また、風太郎と一緒に歩きたいもん!」

 

「五月はどう?フー君がいろいろ調べて、弱視のやりやすい勉強法を調べてくれたみたいね」

 

「そうですね、拡大機能があるのはとても便利です。ただ、慣れるまでに時間は掛りそうですね」

 

「そう、わかったわ。一応伝えとくわね」

 

風太郎は一花の収録について行っている。そんな中メールで二乃に頼んでリハビリメニューを行ってくれていた。彼は申し訳なさそうにしていたが、彼が私たちを頼って、信用してくれたのは嬉しかった。

 

「さてと・・・三玖!そろそろ夕飯の準備するわよ!」

 

「うん。わかった」

 

部屋にいる三玖を呼び少し早いけど夕飯の準備を始めようとする。すると、インターホンが鳴った。

 

「上杉だ」

 

「今開けるわ」

 

どうやら風太郎が一花の同行から戻ってきたらしい。しかし、暗い雰囲気だったのが印象的だ。

 

「風太郎!・・・どうしたの?」

 

玄関で待っててくれた四葉が風太郎の表情を見て何かあったのかを察した。しかし、風太郎は何も答えずに入っていく。

 

「はぁ・・・」

 

そう大きくため息を吐き、神妙な表情だ。その雰囲気に皆声をかけられずにいた。

 

「・・・一花、何かあったのかな」

 

三玖がそう呟くと、風太郎が反応する。

 

「なぁ、お前ら、一花の今日の収録の件だが・・・」

 

重い空気の中、風太郎が彼女たちに話しかけようとすると、玄関からガチャッと扉が開く。

 

「たっだいま~!!」

 

その重い空気をぶち破るかのように一花が満面の笑みでリビングに戻ってくる。

 

「あ、フータロー君。まさか、ごまかすつもりだった?」

 

「いや、まぁ・・・はぁ・・・」

 

そう言いまた溜息。どうにも状況が読み込めない。重苦しい雰囲気を持ってきた風太郎とそれとは真逆で満面の笑みをうかべてテンションが上がっている一花。そんな状況に困惑するしかない。

 

「・・・すまん、今日は疲れた」

 

「うん。お疲れ様。今日はホントにありがとね。江端さんに車出してもらおっか?」

 

「いや、いい・・・」

 

そう言うと疲れ切った表情の風太郎は今日のアルバイトを終え、自宅へ戻っていった。

 

「一花!フー君何があったの!?」

 

「何か思いつめた表情をしていました」

 

「・・・明日の朝、わかるよ」

 

そう言って、彼女はテレビの録画と予約の設定を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま・・・」

 

「おかえり~!昨日はごめんね!それでねお兄ちゃん!ビックニュースだよ!」

 

疲れ切った表情で自宅に戻る風太郎をいつもよりも笑顔のらいはが出迎えてくれる。その理由は普段自宅にはないものが設置されていた。正直いま風太郎が一番目にしたくないと言っても過言ではなかった。

 

「遂に我が家にもテレビがきましたー!」

 

「どうだ風太郎!薄型で画面でかいぞ!」

 

「・・・・・・寝る」

 

二人のテンションはさておき、今日は本当に疲れたのでそのまま就寝・・・しようとしたら電話がかかる。

 

「上杉くんお疲れ様。今日は一花くんの同行をしたらしいね。それで、放送日はいつだい?」

 

五つ子の父マルオから電話が入り今日の事を聞かれる。前々から一花の出ている番組はチェックしていたといっていたのを思い出す。

 

「お疲れ様です、お義父さん。あの・・・やっぱり見ます?」

 

「何を当たり前な。それで何時からだ?」

 

「・・・明日の朝の」

 

彼に放送日時を伝えて・・・なにも言われない事を願う風太郎だった。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、正直全然眠れなかった。それはもう察しているだろうが今日放送の一花の復帰番組のせいだ。そんな憂鬱の気持ちで今日も五つ子のタワーマンションへ向かった。

 

「ほらほらみんなテレビの前にしゅうごーう!!」

 

朝苦手のはずの一花が異様にテンションが高い。他の姉妹も少し心配になるレベルだ。

 

「はいはい、朝っぱらから一花の割に元気ね」

 

時刻は放送の五分前、五つ子は全員テレビの前に行き一花復帰を称えようというものだ。

 

「たぶんみんな驚くと思うよ」

 

「へぇ、そんなに良くできたの?それは楽しみね」

 

「でも、テレビで一花見るの久しぶり」

 

「うん!楽しみだなー!」

 

「そろそろですよ」

 

五月がそう言い終わると、子供教育番組「ことばであそぼう」とタイトルが出てきた。そしてそれと同時に思いもよらぬものが目に移った。

 

 

 

 

 

 

 

 

上杉家では夏休みのらいはと仕事が休みの勇成昨日購入したテレビを眺めていた。

 

「うーん。ニュースばっかだなー」

 

「テレビなんてこんなもんだろ。チャンネル回せば見つかるんじゃねーの?」

 

「チャンネル回すって・・・」

 

チャンネルを回すという用言は昭和くさいことはさておき、上杉家でテレビを購入したはいいものの朝のこの時間は基本ニュース番組ばかりだった。そして、勇也に言われた通りとりあえず番組を変えていると驚く人物が映り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて・・・」

 

場面は変わり、病院ではマルオが休憩時間で朝食のサンドイッチを食べながら昨日上杉から聞かされた時刻になったのを確認し、休憩室の備え付けのテレビをつける。

 

「・・・疲れているのか」

 

同様にテレビに見覚えのある人物がいたので再度見てみるが・・・見間違えじゃない様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、こんにちは!シュワリーだよ!今日の言葉の先生は誰でしょう?」

 

なぜか妖精の格好をした上杉風太郎がテレビに映りこんでいた。

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